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Point of view [2021.01.08]

第172回 今野晴貴

コロナ禍で再考を迫られる非正規雇用問題

今野晴貴 こんの はるき
NPO法人POSSE 代表

年間3000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。著書に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。2013年に「ブラック企業」で流行語大賞トップ10、大佛次郎論壇賞などを受賞。共同通信社「現論」、東京新聞社「新聞を読む」連載中。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。POSSEは若者の労働問題に加え、外国人やLGBT等の人権擁護に取り組んでいる。
NPO法人POSSE http://www.npoposse.jp/

コロナ禍で非正規雇用・女性の労働相談が増加

 私が代表を務めるNPO法人POSSEおよびその連携労組※1は、2020年11月末までに4000件を超えるコロナ関連相談を受け付けた※2。両団体の19年における年間総相談件数がおよそ3000件であるから、相当な件数である。相談の内容は、休業、解雇、出勤(「3密」対策や時差出勤、テレワークなど)に関するものが多いが、圧倒的多数は「休業」に関する相談である[図表1]※3

[図表1]労働相談の内訳

相 談 内 容 件 数 (割 合)
使用者側の事情による休業 1,953 (59.3%)
労働者側の事情による休業 257 (7.8%)
解雇、雇い止め、採用取り消し 476 (14.4%)
在宅勤務等の感染防止 556 (16.9%)
その他(不利益変更を含む) 335 (10.2%)

 さらに、労働相談を雇用形態別に見ると、正社員は639件(19.4%)に過ぎず、契約社員322件(10.1%)、派遣社員510件(15.5%)、パートタイマー582件(17.7%)、アルバイト703件(21.3%)、個人事業主131件(4.0%)である[図表2]※4。一見して非正規雇用の割合が極めて高いことが分かる。

[図表2]労働相談の雇用形態別件数

雇用形態 件 数 (割合)
正社員 639 19.4%
契約社員 332 10.1%
派遣社員 510 15.5%
パートタイマー 582 17.7%
アルバイト 703 21.3%
個人事業主 131 4.0%
その他 53 1.6%

 また、性別に関しては女性66.7%、男性33.3%と女性からの相談が多かった。女性相談者のうち、69.5%は非正規労働者である。総じて、コロナ禍においては「非正規・女性」の相談カテゴリーが非常に多く、「休業手当の支払い」が主要な争点であった。新型コロナは、女性・非正規雇用が典型的に多い外食、小売りなどの商業、観光、ケア・福祉などサービス業に、とりわけ大きな影響を与えたためだろう。

国の支援策を「無効化」する雇用形態差別

 そんな中で際だったのは非正規雇用への差別である。上記に見たように、休業手当の支払いはその最も中心的な部分を占める。
 政府は、段階的に雇用調整助成金の特例措置を拡大し、解雇等をせずに雇用を維持した中小企業に対しては、1人1日上限1万5000円として、労働者に支払った休業手当の全額を助成している。つまり、休業した労働者に対して従前と同じ賃金を支給した場合、上限額を超えない限り、その全額が助成されるということだ。大企業についても、労働者に支払った休業手当の最大で4分の3が助成されている。
 しかし、ここまで強力な政策が取られたにもかかわらず、助成金を申請せず、非正規労働者に休業手当を支払わない企業が少なくない。例えば、フィットネス業界ではインストラクターの9割が非正規雇用だが、大手のコナミスポーツでは、時給制の非正規雇用にだけ休業手当を一切支払っていなかった※5
 非正規雇用に対しては、そもそも「休業させている」という意識を使用者側が持っていない場合が一般的であるとさえいえる。シフトの削減という形で無給状態に置かれているケースも多い。
 雇用調整助成金が機能不全に陥っていることに批判が集まったことを踏まえ、労働者が自ら申請できる制度として創設された新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金制度の運用においても、非正規労働者が差別されるケースが少なくなかった。申請に当たっては、原則として企業による休業の事実の証明が必要となるが、協力を拒む企業が後を絶たなかったのである。
 このように、「企業任せ」の政策が採られた結果、職場で差別される非正規雇用に対しては、支援策の「無効化」が起こってしまった。とりわけ非正規労働者が支援策の恩恵を受けられなかったという事実は、現実社会における差別の根深さを如実に示している。

近年の「人手不足」の文脈とのギャップ

 ここまでの露骨な差別は、筆者にとって意外なものであった。というのも、コロナの影響が大きい飲食業やサービス業においては、非正規労働者が業務の中核を担っており、しかも人手不足の中で定着促進が図られてきた文脈があるからだ。
 従来の日本型雇用において、企業は、長期雇用を前提として企業内で人材育成を図り、高技能の労働者を育成することで企業間競争を勝ち抜こうとしてきたといわれている。しかし、近年急成長を遂げたサービス業などでは、労働過程のマニュアル化・画一化が進行し、人材を育成することが利益に結びつきにくい。こうした中、企業は、人材を育成することではなく、人件費を削減することによって利益を上げる戦略を取ってきた。そこで、学生アルバイトやフリーターが基幹的労働力として活用されてきたのである。いまや、事業運営の中核的業務を非正規労働者が担うまでになっている。非正規労働者は企業にとって重要な労働力になっていたはずだった。
 それにもかかわらず、コロナの影響が生じた途端、国の助成制度すら利用せず雇用を守ろうとしなかった現実は、上記に見た差別の深刻さをさらに印象づけている。私たちは、国を挙げて非正規労働者の待遇改善に取り組んでいるはずではなかったか。コロナは私たちの社会の本当の姿を浮き彫りにしたのかもしれない。

盛んになる「ジョブ型」論

 一方で、労働契約法20条を論点とした非正規雇用の待遇格差の合理性を争う最高裁の判決がこの間相次いで出されている。また、経団連は雇用改革の方向性として「ジョブ型」改革を提案している。果たしてこれらは、コロナ禍で浮き彫りとなった非正規雇用差別を解消する解決策となるのだろうか。
 今年10月、最高裁は、正社員と非正規労働者との待遇格差をめぐる五つの判決を言い渡した。注目された賞与・退職金における格差については、「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図る」目的から、非正規労働者に支給しないことが不合理であるとまではいえないとされた。
 労働条件の相違が不合理であるか否かは、具体的な労働条件ごとに、職務内容、配置の変更範囲、その他の事情を考慮して判断される。今回の判決では、正社員人材を確保する目的という「その他の事情」が重視され、格差の不合理性が否定された。しかも、仕事の内容や実際の配置転換などの「客観的な実態」だけでなく、有能な人材に定着してほしいという企業側の「主観的な意図」までも格差を正当化する「事情」になり得ると認めてしまったのだ(高裁段階の判決分析から、このような考え方は「有意人材論」と呼ばれる)。職務・職業の要素を低く評価し、属人的な要素を重視する日本型評価制度に親和性の高い判断であったといえる。
 これは、政府や財界がこぞって推し進めようとしている「ジョブ型」雇用の拡大とは逆行する考え方に見える。欧米では、企業を超えて組織された労働組合と業界団体との交渉により、産業や職業ごとに賃金が決定されている。「ある仕事のこの程度のスキルであれば、このくらいの賃金」というのが企業横断的に設定されている。職務・職業という共通の基準を設けることにより、労働者間の競争によって賃金が下落するのを抑止するとともに、雇用形態を超えた同一労働同一賃金を実現することができる。本当の意味で格差を是正するためには、職務・職業を基準とする賃金制度を実現しなければならない。あるいは、少なくとも、賃金を決定する上で職務・職業が考慮される比重を大きくすることが必須である。

ジョブ型議論に「業績評価」を持ち込むことの問題

 実は、現在進んでいる「ジョブ型」雇用推進議論も、「職業そのものの評価」に対して問題意識が薄いという点においては今回の最高裁判決と共通している。これらの議論において「ジョブ型」は、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)によって具体的な職務内容や目標、責任、権限を明確化し、それに基づいて成果を評価するものだと理解されている。
 これは職務評価そのものに基礎をおき、むしろ労働者間競争を抑制する欧米のジョブ型とは大きく異なる。理論的には、欧米の職務給は「労働市場における労使交渉による決定賃金」であると評価される。すなわち、企業の業績とは連動せず、むしろそこから切り離されて決定される賃金制度なのである。その際に、労働市場での取り扱いを平等にする「共通規則」が成立している。逆に「業績評価」は企業への貢献にしたがって賃金が決定される日本的な賃金決定方式に親和的だ。「業績」の評価のされ方には、多分に属人的な要素が入り込む余地が大きい。例えば、正社員は企業のさまざまな業務に暗黙に責任を負っていたことで業績に貢献していたが、非正規はそうした役割をはたしていなかった、といった具合だ。
 したがって、ジョブ型の議論に「業績評価」を持ち込むのは雇用形態格差の是正論としては誤りである。このような「業績評価=貢献度の評価」を重視する「ジョブ型」改革論は、最高裁の「有意人材論」とそのまま接合してしまうだろう。さらにいえば、経団連の「ジョブ型」改革論からは、労働者を競わせ、あるいは賃金を下げようとする論理も透けて見える。
 公正な賃金を実現するための本質は「職業・職務の評価」にある。この点で重要であるのは、「ジョブ型」改革論が見落としており、「同一労働同一賃金」からも発展し区別される「同一『価値』労働同一賃金」の地平である。
 今回のコロナ禍でも明らかになったように、ケアワーカーなどの職業・職務では、労働に対する評価そのものが低すぎることの問題であり、こうした賃金の低さについては、業績評価が問題になっているわけではない。同時に正規・非正規が共通して低賃金に置かれている場合もある。そのため、コロナ禍を経た現在、同一労働同一賃金に加え、ケアワークを中心として、労働の内容自体を労働市場において評価する「同一『価値』労働・同一賃金」を実現する必要性が高まっていると考えられるのだ。

※1 総合サポートユニオンを母体とし、支部に介護・保育ユニオン、私学教員ユニオン、ブラックバイトユニオンなど。

※2 労働相談3295件(11月まで集計)、外国人労働相談411件(10月まで集計)、生活相談434(12月22日まで集計)。

※3 なお、「使用者側の事情による休業」には休校や売り上げの減少などが含まれ、「労働者側の事情による休業」には子どもの休校に伴う休業などが含まれる。もともと賃金の非正規雇用労働者は、この金額では到底生活を維持することはできない。

※4 労働相談件数から雇用形態について「不明」であるものを除いて割合を集計している。

※5 2020年5月12日に同社ホームページを通じて、20年3~5月休業分の休業手当(100%)を支給することを公表している。

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