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“心理的安全性が高い”チームのつくり方
~コロナ禍の状況下でもできる組織づくりのポイント~
[2020.07.31]

第3回 心理的安全性を高める方法①~組織開発プログラムを導入した事例を基に~

 

青島未佳氏 青島未佳
あおしま みか
一般社団法人チーム力開発研究所 理事
KPMGコンサルティング ディレクター
九州大学 人間環境学研究院 学術研究員
慶應義塾大学環境情報学部卒業・早稲田大学社会科学研究科修士課程修了。日本電信電話株式会社に入社。その後、アクセンチュア株式会社、デロイト トーマツ コンサルティング株式会社、九州大学TLO・障害者福祉施設わごころの立ち上げ等を経て、2019年3月より現職。人事制度改革、人事業務プロセス改革、コーポレートユニバーシティの立ち上げ支援、グローバル人事戦略など組織・人事領域全般のマネジメントコンサルティングを手掛ける。九州大学ではチームワーク研究や組織づくりを主軸とした共同研究、コンサルティング、研修・講演などを実施。主な著書に、『高業績チームはここが違う』(共著、労務行政)がある。

1. はじめに ~心理的安全性の必要性~

 あらためて、組織にとっての心理的安全性の必要性を伝えたい。

[1]トップの判断が必ずしも正しいとは限らないからこそ、心理的安全性が必要

 一つ目は、第1回で例に挙げたスペースシャトルや戦艦大和のように、心理的安全性は、古今東西、集団が大きな意思決定を迫られる場面で直面する重要な概念という点である。
 特に、現在のような不確実性が高く、多様性が強い時代には、その必要性が高まる。なぜならば、開発にしても、営業にしても、トップ・経営陣の意思決定が正しいという確率が低くなっているからだ。
 加えて、経営の意思決定も、よりスピードが求められる時代である。トップの判断をくみ取り、メンバーが主体的に判断・対応していくことが、企業の生命線ともいえる。しかし、心理的安全性がない組織では、自ら判断せず必ず指示を仰ごうとすることが多い。なぜならば、そこに根強く流れる空気は “トップの意思決定が絶対” であるからだ。このような組織では、競合他社に後れを取るだけでなく、失敗しても “上からの命令” だったという自己弁護が可能となり、現場の責任感もなくなっていく。

[2]共通の目的があるからこそ、心理的安全性が大切

 二つ目は、組織にとって達成すべき共通の目的があるからこそ、心理的安全性が重要であるという点だ。第1回で「心理的安全性がある組織」とは「厳しい組織」であると記した。なぜならば、目的の達成のためには、相手と違う意見を発言する必要があり、その発言には責任も生じる。また、意見を言わない・同調しているだけの人は、チームに不必要だと思われる可能性もあるからだ。
 一方で、横並び・同調志向の意識は、私たちが生きてきた経験や習慣から自然と培われてきたものであり、すぐに転換しようとしても難しいだろう。しかも、日本の社会において、立場が下の者の主張を受け入れたり、違った意見を受け止めたりするベースができている集団は少ない。同調志向が生活の中で大切なことは筆者も実感している。
 例えば、ママ友の集団では、筆者も基本的には「横並び・同調志向」だ。この集団では、達成すべき共通の目標があるわけではなく、円滑なコミュニケーションを通じて、お互いに子どもに関して必要な情報を得ている。仮に相手の考えが自分と違っていても、その場の空気を乱してまで相手を否定したり、違った考えを主張したりする必要はなく、“そうだよねぇ” といった共感的なコミュニケーションのほうが大事だ。
 もちろん、親しい友人のグループなどは相手の反応を気にせずに忌憚(きたん)なく発言するケースが多い。ただし、このような気の合った仲間で和気藹々(あいあい)と談笑するグループの多くは、心理的安全性はあるかもしれないが、多様性はないだろう。
 目的がない組織には、あえて心理的安全性という概念を持ち込まなくてもよい。しかし、企業等の法人格がある組織には、達成すべき共通の目的があるはずだ。また、性別、国籍、考えや価値観などさまざまな面で人材の多様性が進んでいる。このような組織において同調・共感するコミュニケーションばかりでは、間違った方向に進んでしまい、一向にゴールにたどり着けない。
 「Withコロナ」「Afterコロナ」といわれる現在、3~5年先ですら予測は難しい。先が見えない時代を組織人として生きていくならば、従来われわれが得意としてきた暗黙の協調や忖度(そんたく)といったコミュニケーションスタイルだけでなく、心理的安全性をベースとしたアサーティブなコミュニケーションスタイル(相手を尊重しつつ、自分の要求を率直に伝える自己主張の在り方)を身に付けるべきだろう。

2. 心理的安全性はプロセスを通じて醸成する

 第2回では “心理的安全性” の定義をあらためて確認した上で、組織開発(OD)の観点から心理的安全性の高い組織をつくるステップを解説した。一方で、心理的安全性をベースとしたチームづくりは、その方法もチームの数だけ存在する。
 なぜならば、チームづくりは「人と人の間の関係性=プロセス」そのものにあり、このプロセスから学び、そのプロセス自体を変えていくことに主眼があるからだ。
 組織開発における日本の第一人者ともいえる南山大学の中村和彦教授は、組織開発について「組織内の当事者が、組織の中で起こっているプロセスを理解し、その変革に取り組む過程を通して、組織に起こっているプロセスに気づいて変革に取り組むことができる力を高めていくことをODは目指している」と言っている。
 われわれは、社会生活を営んできた過程において、この「人と人との関係性=プロセス」をいろいろな機会を通じて学んできた。幼稚園・保育園、小学校、中学校、高校、大学と成長するにつれて、さまざまなコミュニティーや人から影響を受け、主体性・自律性・社会性・協調性といった個人の性質を形成してきた。そして、友達づくり、コミュニティーでの適切な振る舞い方を身に付けてきた。この過程がまさにプロセスから学ぶということだ。
 第3回では、このような人と人の関わりというプロセスの視点から企業事例を紹介する。構成するメンバーやその関係性、チームとして醸し出される雰囲気などが影響するため、チームのつくり方はチームの数だけある。事例をそのまま当てはめればうまくいくものではないが、読者の皆さんの組織づくりに参考となる部分があれば幸いである。

3. 心理的安全性のつくり方――事例を通じて

図表1 チーム力を上げる要因 まず、組織づくりの前提となるチームパフォーマンスを高める主な要因は、①コミュニケーション、②相互協力、③目標共有、④チーム学習の四つである[図表1](詳細な分析結果は、WEB連載「心理的安全がもたらすチームパフォーマンスへの効果」の第2回を参照)。

[1]プログラム全体像とコンセプト

 今回は、心理的安全性や人と人との関係性づくりを目的に組織開発プログラムを導入したA社の例を紹介する。
 実施期間は6カ月で、第2回で紹介した六つのポイントを踏まえたプログラム[図表2]を導入し、知識の付与・実践・振り返りを行った。
 A社は、かつてトップクラスの技術力を基に商品開発を行ってきたが、近年は経営環境も厳しく、タイトな開発スケジュールが求められる中で、社員のマインドも内向きとなり、協力する意識や後工程・前工程のことを考えて仕事をする意識が希薄となっていた。
 A社は、もともと上意下達の文化が強く、部下は上司が決定したことに愚直に従う傾向が強かった。また、開発スケジュールが遅れたり、問題が起きたりしても意見が言えない風土があった。
 上記のような背景から、経営陣とも擦り合わせを行い、6カ月間のプログラムは「社員が主体的に考え、お互いに協力するチームをつくる」ために、対話と気づきの場を醸成することをコンセプトとした。

図表2 A社のプログラムの全体像

[2]プログラム導入における心理的安全性の変化

 プログラムにはA社の15チームが参加し、プログラムの最初と最後にチーム力診断を行った結果、ほぼすべてのチームで改善が見られた。
 心理的安全性が大きく向上したチーム(X、Y)には、どのようなプロセスの変化が生じたのだろうか。今回は、“何” をしたかではなく、“どう” したかが重要であるため、この点に焦点を当てて解説する。

⑴Xチーム

 Xチームは、プログラム参加の前後で心理的安全性が4.07から4.42へとチーム全体の中で最も高くなった[図表3]。このチームでの一番の変化ポイントは、ある若手社員の行動だ。
 プログラムの序盤に行われた各チームの進捗(しんちょく)報告において、専務から「コミュニケーションにフォーカスしたほうがよい」とアドバイスがあった。部長とリーダーは、そのアドバイスを真摯(しんし)に受け止め、チームの議論を “コミュニケーション” を軸とした課題と対策に誘導していた。
 一方で、チーム内の問題はコミュニケーションではなく、別にあると考えていた若手社員は、明らかに納得していない態度を示していたが、チームのメンバーの誰もそのことに触れなかった。チーム内のミーティングでは、人間同士の関係性、お互いの影響度、メンバーの参加度合い・やる気など、人の意識や感情に関係する “メンテナンス・プロセス” という言葉が独り歩きしていた。しかし、メンテナンス・プロセスをテーマとしているにもかかわらず、誰も “メンテナンス・プロセス” を気にしていないという不可解な場がつくられていた。
 ミーティング終了後、最後に退席しようとした若手社員に筆者は声を掛けた。コンサルタントに自分の浮かない表情の意図を聞かれ、彼は自分が納得できていない思いを少しずつ話し出した。2時間程度話し合った末に、その若手社員は自分はどう思っているのか、どうしたいのかを、あらためてチームのメンバーに共有する決心をし、次の日のミーティングで自分の想いを伝えた。他のメンバーも、彼の想いに理解を示した。
 上意下達が強い組織において、この若手社員の行動は勇気のいることだった。なぜならば、この組織では “上司が決めた方向に異を唱えても大丈夫” という規範はなく、多少疑問があったとしても受け入れることが当たり前になっていたからだ。
 彼の行動は、Xチームで「自分の本音を伝える」ことを共有できた貴重なきっかけとなった。

図表3 心理的安全性の変化

⑵Yチーム

 Yチームは、A社の中で、部長の信頼が厚いリーダーが率いる優秀なチームである。マネジメントスタイルは、優秀なリーダーにメンバーが従っていくという側面が強く、チーム内の会議では活発な議論はない状態だった。また、言いたいことをはっきりと言う先輩と遠慮しがちな後輩といった構図が出来上がっていた。
 このチームが変化したきっかけは、対話の中で若手社員が漏らした「そもそも会議で発言する必要があるとは思っていない」という発言だった。
 しかし、この発言をリーダーや先輩社員は頭ごなしに否定することなく、話し合いを深めていった。対話の中で、若手社員は自分が発言しなくともリーダーや先輩が会議を進めてくれており、長らくそうした状態に疑問を持たずに組織のルールを遵守していった結果、無自覚に上からの指示を「受け入れる」ことが当たり前になっていたという結論に至った。自分の態度が受け身であり、指示を「受け入れている」状態になっていること、少なくとも他人からそう見えていることに、本人も気付いていなかったようだ。

4. 心理的安全性のつくり方――ポイント

 大きく変化した二つのチームは、どちらも “対話” の中で気づきがあった。ここには、発言する側の勇気とそれを受け入れるメンバーの双方の相互作用がある。
 対話の状態をレベル化した概念[図表4]で補足をすると、これまで筆者が見てきたチームの議論はレベル2が多い。一方で、上記の二つの対話ではレベル3の状態だった。
 「内省的に話し、共感し・受け入れる」対話の場をつくるためには、リーダーの態度、会話におけるルールづくり、プログラムをサポートする外部コンサルタントの支援など、さまざまな要素が必要だろう。
 Yチームでは、リーダーが、できるだけ話すことを我慢して “聴くこと” に徹した。また、「間違いを恐れず、自分の考えを発言します」「人の話をきちんと聴きます」「他の人の発言を、最初から否定しません」といったルールを決めることで対話が進みやすい基盤もつくった。
 Xチームは、外部者(コンサルタント)が若手社員の小さな変化を見逃さずに対話をしたこと、若手社員の気持ちを伝える際に、人事部や事務局の担当者が立ち会ってサポートをしてくれたことなどが挙げられる。また、専務からの指示(※本当は指示ではないが、A社のような風土の会社ではアドバイス=指示と解釈する傾向がある)にもかかわらず、若手社員の意見を聞き入れた部長やリーダーの寛容な態度も関係しているだろう。
 A社では、Xチーム、Yチームを含め、多くのチームで心理的安全性を含む要素が向上した。
 今回の企業事例における共通の成功(失敗)要因としては、次の3点が挙げられる(具体的なプログラムは、WEB連載「心理的安全がもたらすチームパフォーマンスへの効果」の第4回を参照)。

図表4 対話のレベル

[要因その1] 最初が肝心~意識づけ・適切な知識の付与~

 最初に大切なのは、このプログラムの必要性・重要性のインストールだ。そして、チームの概念や心理的安全性とはどういうことかを、正しく理解してもらい、活動にスムーズに入れる状態をつくること、いわば下地づくりといえる。
 今回のプログラムは、社長・専務の強いコミットメントの下に推進したプログラムであり、部長やリーダーも前向きに捉えて取り組みが開始できたことが成功要因の一つだった(これはA社のトップダウンの文化が功を奏したともいえる)。
 また、A社のチームメンバーは研究開発職ということもあり、普段から理屈で考えることが多い傾向がある。そのため、最初の意識づけにおいては、心理的安全性やチーム力向上に必要な要素をデータや研究成果といった科学的根拠とともに伝えることに重点を置いた(営業やクリエイティブ系のチームなどは、データで説明されても腹落ちしづらく、身近な例で説明したほうが分かりやすいということもあるだろう)。

[要因その2] リーダーを独りにしない

 このプログラムのキーマンはリーダーであった。重要なポイントは “リーダーを孤独にしないこと” かつ “新しい視点や気づきを与えること” だ。
 そのために、リーダー同士で話し合う場をつくったり、リーダーが他のチームのミーティングを観察したり、リーダーとコンサルタントの1 on 1を実施したりする機会も導入した。また、各リーダーの上司に当たる部長も活動のサポーターとして定例ミーティングに同席し、アドバイスをしてくれた。
 一方で、このように書くと、手厚い支援が必要になるのかと思うかもしれないが、実際にはサポートは “量” ではなく “質” が鍵(かぎ)を握る。A社では、1週間に1回の上司との会話よりも、3カ月に1回のコーチとの対話のほうが有益だと感じていた場合もあった。
 リーダーが実際に相談したかどうかは別として、自分には “いつでも相談できる場や人がいる” と思える状態をつくっておくことが、良いチームづくりのための成功要因になる。

[要因その3]「腐ったリンゴ」を出さない “努力”

 三つ目は「腐ったリンゴ」を出さない努力をすることだ。「腐ったリンゴ」とは「集団の中に悪影響を及ぼす人間が1人でもいる場合、その集団全体に悪い影響が伝染し、集団全体がダメになっていく」という現象だ。
 われわれの研究でも、チームの中に1人でもネガティブな人がいるとチーム力が低下することが分かっている。一方で、ポジティブな人が1人いても、チーム全体の成果には影響はなかった(拙著『高業績チームはここが違う』[労務行政]128ページ参照)。
 チームにとってマイナスの影響を与える行動は、プラスの影響を与える行動よりも他人に与える影響は大きく、伝染しやすい。“心理的安全性” といった対人関係の問題を扱う場合は特にそうだ。1人の否定的な態度が、一気に全体の心理的安全性を低下させてしまう。
 今回のチームにも同じことがいえた。実際に、ネガティブなメンバーがポジティブに変わったチームは、チーム力が向上したが、終始ネガティブな態度を示したメンバーがいたチームは、チーム力に変化がなかった。この点は、われわれコンサルタントの反省点でもあり、あらためて学びのポイントでもあった。

①ネガティブなメンバーの巻き込み

 変化があったメンバー・なかったメンバーの違いの一つは、リーダーやチームメンバーが、ネガティブな態度を示すメンバーを、チームの一員として巻き込んでいたかどうかだ。
 よくあるのは「あの人は放っておこう…、仕方ない」という諦めや割り切り、線引きといった対応をすることだ。これではネガティブなメンバーはミーティングにおいて、ますます発言量が少なくなり、否定的な態度もさらに加速する。
 一方で、ネガティブなメンバーがいても心理的安全性が高まったチームは、「臭い物に蓋(ふた)をする」のではなく、そうしたメンバーもチームの一員として存在を認め、公平に相手の意見を聴き、その意見についても話し合う時間を持ち、正面から対峙(たいじ)していた。

②チームとしての「境界線」のフィードバック

 もう一つは、リーダーの率直なフィードバックによる「境界線」づくりだ。たった1人でも、望ましくない態度・行動を放置しておくと、こういう態度でも許されるという規範が出来上がってしまう。チームとして何が良くて何が悪いのか、その「境界線」を提示することはとても大切である。
 変化があったチームのリーダーは、メンバーのネガティブな態度(否定的な発言をする、全く発言しないなど)が変わらないときに、1 on 1などで、メンバーの態度がどれほどチームに影響を与えているか、「何が良くて何が良くないのか」を率直に伝え、その態度を改めるフィードバックを毅然(きぜん)とした態度で行っていた。
 ネガティブな人や態度に対応することは、想像以上にエネルギーが要る。リーダーが心理的負担を伴う行動を責任を持って行えるかが大切である。だからこそ、上記[要因その2]で記したリーダーを独りにしない支援が重要になる。

 冒頭で記載したように、チームのつくり方はチームの数だけあるため、そのまま当てはめればうまくいくような単純なものではない。しかし、読者の皆さんの組織づくりに適用できる部分があれば、ぜひ試してほしい。
 実は、この “試す” というアクションが大切で、「心理的安全性のつくり方」は、理論と実践の間に大きなギャップがあるテーマであり、教科書どおりに実践してもうまくいかないことも多い。試行錯誤を通じて失敗と学習を繰り返しながら、その溝を埋めていってほしい。


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