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緊急解説:人事が取り組む新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)対策 [2020.02.28]

第4回・完 事情を抱えた従業員への支援を丁寧に


亀田高志 かめだ たかし
株式会社健康企業 代表・医師

流行早期となった今、従業員の家族が発症したらどうするか?

「もしもし、朝からすみません。○○部●●課の△△です。実はこの週末から夫が発熱し、咳がひどくなってかかりつけ医に見てもらったんです。インフルエンザ検査は陰性でしたが、肺炎を起こしていて新型コロナウイルス感染症じゃないかというので…。とりあえず入院となるそうですが、私は出勤しないほうがよいですよね?」

 本稿を執筆中の2月24日午前の時点で、国内の患者数は100人を大きく超え、3週間前から指摘されていた散発的な流行が実態としてあらわになりつつある。厚生労働省からは「イベント開催に関する御協力のお願い」が出された。「イベント等の開催については、現時点で政府として一律の自粛要請を行うものではない」としているものの、自粛ムードが優勢になりつつある。今後、残念ながら国内の患者数は3月以降、一気に増加・倍増も予想され得る。
 そのような状況下で、家族が発熱等して出勤できない旨を従業員が電話等の手段で報告してきたら、自社ではどのように対応することになっているだろうか?
 従業員の配偶者、子どもや老親に症状が現れ、さらに新型コロナウイルス感染症と診断された場合には、その人はいわゆる「濃厚接触者」となる。

「濃厚接触者」とは、「患者(確定例)」が発病した日以降に接触した者のうち、次の範囲に該当する者である。

・新型コロナウイルス感染症が疑われる者と同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があった者

・適切な感染防護なしに新型コロナウイルス感染症が疑われる患者を診察、看護もしくは介護していた者

・新型コロナウイルス感染症が疑われる者の気道分泌液もしくは体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い者

・上記のほか、手で触れることまたは対面で会話することが可能な距離(目安として2メートル)で、必要な感染予防策なしで、「患者(確定例)」と接触があった者

 もしもそうなると、「濃厚接触者」としてご本人には次の行動が求められることになる。

◇最終曝露から14日間、健康状態に注意を払い、もしも発熱や呼吸器症状が現れた場合、医療機関受診前に、保健所へ連絡する

◇発熱や呼吸器症状が現れた場合、(新型コロナウイルスの)検査対象者として扱われる

◇濃厚接触者自身が重症化リスクが高いと想定されても、無症状の場合は(新型コロナウイルスの)検査を実施せず、感染伝播のリスクを低減させる対策を取りつつ健康観察を行う。ただし、体調の変化には十分注意を払う

◇咳エチケットと手洗いを徹底し、常に健康状態に注意を払う

◇同居している他の家族は、サージカルマスクの着用および手指衛生を遵守する

◇廃棄物処理(ごみ捨て)、リネン類、衣類等の洗濯は通常どおりに行う

 濃厚接触が認められた場合、2週間の健康観察期間は自宅待機とせざるを得ない。ちなみに「同居している家族や周囲の同僚等は、外出制限は不要である。」とされてはいるが、上司や同僚に少なからぬ動揺を生じるかもしれない。あらかじめ、これらの事態を想定し、対応の手順を決め、後述する産業医等の専門家との連携を強化し、心配にとらわれた従業員への説明や相談対応を行ってもらうことも選択肢に入れておく。

【この項の参照資料】
国立感染症研究所 感染症疫学センター「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(2020年2月6日暫定版)」 ⇒公表資料はこちら

他に想定される事態は?

 さて、冒頭のケースは配偶者の発病という事態であったが、その他に次のような場合があり得る。

◇子どもの保育所で保育士が感染し、子どもを預けられなくなった

◇同居している持病を抱えた老親が発熱し、付き添わなくてはならない

◇老親のいる介護施設で感染した職員が特定されて、他にも感染した疑いがある

◇単身赴任者が発熱し、自宅待機となったもの、水・食料の備蓄がない

◇単身者が重症化し、呼吸が苦しくなすすべがないと連絡してきた

◇60歳代の従業員が持病を診てもらっている主治医に自宅待機を勧められた

 これらの育児、親の介護によって、あるいは前回触れた持病等があって、就労に差し支える状況は、平時でも場合によっては上司を巻き込んで人事労務管理部門が対応するケースとなるはずだ。
 さらには、単身赴任あるいは独身で一人暮らしの場合、発熱等の症状を生じた際の受診や入院の際の手続きですら困難を生じる。自宅療養となると外出もままならず、食料に事欠く場合もあり得る。
 一方で、高度成長期、バブル期、その崩壊とそれ以降、本質的には自己責任として対応すべき、と捉えられてきたのではないか、と思う。今回の新型コロナウイルス感染症を契機として、これらの個人の事情が就労に差し支える事態を再考することを強くお勧めしたい。
 加えて70歳までの就労確保努力義務化が既成事実化している今、60歳以上の高齢者に該当する従業員は、新型コロナウイルス感染症の重症化のハイリスクとなってくる可能性も考慮しなければならない。

流行時の従業員の休業・欠勤の見込みを立てること

 BCP(事業継続計画)として既に語られてきた事項であるが、事業所の所在地や従業員の居住地で流行が進展するにつれて、個人の事情ごとに休業・欠勤する従業員の割合を想定していかなければならない。
  内閣官房のホームページで公表されている「新型インフルエンザ等対策ガイドライン(平成30年6月21日一部改定)」では、「Ⅷ 事業者・職場における新型インフルエンザ等対策ガイドライン」の章が設けられている。その中で、「3.新型インフルエンザ等に備えた事業継続の検討・実行」として、国内で感染が拡大した想定と準備が強調されている(以下、要約・抜粋)。

●新型インフルエンザ等の流行時は、各職場においても、従業員本人の発症や発症した家族の看病等で、一時的には、多くの従業員が欠勤することが予想される

・新型インフルエンザの場合は、従業員本人の発症はピーク時に多く見積もっても約5%と想定される

・その他の理由で欠勤することを踏まえ、従業員が最大で40%欠勤した場合を仮定して、人員計画を立案する

・「その他の理由」としては、まん延防止対策として地域全体での学校・保育施設等の臨時休業が実施される場合、乳幼児・児童等については、基本的には、保護者が自宅で付き添うことが想定される

●欠勤者が出た場合に備えた、代替要員の確保

家族の状況(年少の子どもや要介護の家族の有無等)による欠勤可能性増大の検討

 もちろん、新型コロナウイルスや新型肺炎に関する研究調査は始まったばかりで、単純に5%や40%という数字を当てはめることはできないだろう。
 しかし、新型コロナウイルスの流行が拡大する前に、"発症した家族の看病等で、一時的にでも多くの従業員が欠勤することを予想"することは、すぐにでも実施可能であろう。既に実施している企業等は少なくないと思うが、今一度、BCPの内容を関係部署の方々とよく検証していただきたい。
 新型インフルエンザパンデミックから10年以上が経過し、多くの企業等では従業員の高齢化が進んでいる。かつては"独身貴族"、昨今は"お一人様"と呼ばれる、個人向けのビジネスの対象となる人たちも年を重ねてきている。普段の生活を取り巻く病気のリスクだけでなく感染症を含む危機までの到来では、単身者は頼るべき社会的支援が乏しいため脆弱である。
 今後の新型コロナウイルス感染症の時間的・空間的濃淡を伴う流行の広がり、従業員の年齢層や持病の有無、地域の医療資源等の違いによって、個人の事情による影響も増減し得ると考える。

【この項の参照資料】
内閣官房「新型インフルエンザ等対策政府行動計画等」⇒公表資料はこちら

持病を持つ従業員の特定と案内

 以上を認識した上で、3月初めのうちに、前回触れた持病を持つ人以外に、自社で以下に該当する人数や名簿等を確認することをお勧めしたい。

◇保育所等を利用して子育て中の従業員
◇配偶者等の家族と同居している従業員
◇老親と同居している従業員
◇老親が介護施設にいる従業員
◇単身赴任中の従業員
◇単身・独身の従業員
◇60歳以上の高齢従業員 等

 そして、もしもデータ・情報があるならば、可能な範囲で上記のような従業員が、万一感染した際に頼ることができる家族・親族の情報や連絡先等について、本人たちへ利用目的を説明し、同意を取った上で取得し、保管しておきたい。
 ここに挙げた個人の事情は自己責任と片付けるのではなく、冒頭のケースに類似した状況を想定し、自社の産業医等の専門家も加わってもらい、できる支援策を検討しておきたい。
 そして、これらの対象となる従業員に対しては、自宅待機や自宅療養中に備えて、できるだけ水・食料などを備蓄しておくことを丁寧に勧めておくのも大切であろう。

ちぐはぐな健康管理やメンタルヘルス対策の是正の機会に

 筆者は職場の健康管理の実務を四半世紀以上手掛けてきたが、課題によってその対策がちぐはぐだったり、アンバランスが目立ったりすることを痛感してきた。
 例えば、日本の健康管理の中心は動脈硬化性疾患に置かれて久しい。確かに働く人の高年齢化に関連する一つの課題ではあるが、もう一つの課題である感染症に対する対策はいかがであろうか?
 インフルエンザの予防接種が望ましいことは誰もが知っていることだと思う。では、自社の従業員で接種しているのは何%だっただろうか? そもそも、それを把握されているだろうか?
 インフルエンザの予防接種の効果は、季節性のインフルエンザにかからないことではなく、重症化を防ぐことにある。一定の割合で受けた人が職場にいれば、そのシーズンの病気欠勤を従業員全体の平均で1日減らすとする知見もある。季節性インフルエンザに対する予防接種が実施できていたかどうかは、この新型コロナウイルス感染症の流行が懸念される今、発熱し重症化する一つの要因をあらかじめ抑えておけるかという、大きな違いを生む。
 また筆者は、日本ではメンタルヘルス相談機関の一つとして紹介されるEmployee Assistance Program(EAP 従業員支援プログラム)をその本場アメリカで学ぶ機会を得た。そして現在は国際EAP協会日本支部の理事を務め、専門家養成を支援している。
 日本では職場ストレスとうつ病等の不調に対して、メンタルヘルス対策の実行を!とうたわれている。けれども、アメリカのEAPでは、そのような取り上げ方をしない。根本的な問題は「従業員の生産性の低下」であると捉える。
 そして企業等と契約したEAPのコンサルタントが本人、上司、人事労務部門の担当者からの相談を受け付け、その解決の支援を行う。生産性の低下の理由には、育児、介護、夫婦間の問題等、今回取り上げている個人の事情そのものがオーバーラップしてくる。EAPのコンサルタントは守秘義務を守りつつ、カウンセリングではなく、情報収集と多面的評価を行い、専門家や専門機関に紹介し、本人の同意を前提に助言を行う。
 大切なことは個人の事情であっても生産性の低下があれば、これを解消しようと考えること。そして、専門家につなぐ支援を行うという点である。こうした合理的で効率的な考え方は、日本の職場にはまずない。日米を比較してどちらが合理的かと言えば明白であろうし、それが今回の新型コロナウイルス感染症への対応で明らかになるのではないだろうか。

 さて、2月初めから毎週1回のペースで、人事労務部門として考えるべき新型コロナウイルス感染症対策のポイントやヒントと、共に検討することが望ましい課題もご紹介してきた。
 ぜひ、これを機会に自社の産業医や看護職の方々とざっくばらんに具体的な対策を相談することをお勧めしたい。また、4月以降に一般定期健康診断やストレスチェックを委託・実施する機関との対話も早急に始めるとよいと思う。
 でき得る限り対策を行っていただき、今回の新型コロナウイルス感染症という従業員の健康危機による影響を乗り越えていっていただきたいと考える。

《参考情報》

 厚生労働省「新型コロナウイルス感染症について」

亀田高志 かめだ たかし
株式会社健康企業 代表・医師
大手外資系企業の産業医、産業医科大学講師(産業医養成機関)、産業医科大学が設立したベンチャー企業の創業社長兼専門コンサルタントを歴任。現職でも、SARSや新型インフルエンザ、東日本大震災後の惨事ストレスへの対策等に関する講演、研修、コンサルティングや執筆を手掛ける。本サイトでは連載解説「人事労務から考える危機管理対策のススメ」を執筆。著書に、『改訂版 人事担当者のためのメンタルヘルス復職支援』(労務行政)、『社労士がすぐに使える!メンタルヘルス実務対応の知識とスキル』(日本法令)、『[図解]新型インフルエンザ対策Q&A』(エクスナレッジ)など多数。

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