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緊急解説:人事が取り組む新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)対策 [2020.02.28]

第3回 持病を持つ従業員への対応を万全に


亀田高志 かめだ たかし
株式会社健康企業 代表・医師

持病があると重症化するリスクがある

 これまで、横浜港に停泊している大型クルーズ船にまつわる政府の対応ばかりに注目が集まっていた。しかし、国内各所での感染事例が確認され、感染経路が不確かなケースが出ている以上、散発的な流行に備える段階にあることを想定すべき状況になってきた。
 こうした状況にあることのコンセンサスができ、2月17日に厚生労働省から、国民や働く人が参照できるガイドが公表された。

 下段(※)のほうは、厚生労働省のWEBサイト『新型コロナウイルス感染症について』の「国民の皆さまへのメッセージ」という項目に、"政府の新型コロナウイルス感染症対策本部の新型コロナウイルス感染症専門家会議の議論を踏まえ、一般の方々に向けた新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安をとりまとめました"という説明とともに掲載されている。
 その中で、以下の場合は重症化しやすい可能性があり、風邪症状や37.5度以上の発熱が2日以上続く場合には帰国者・接触者相談センターに相談してほしい旨の説明がある。

・高齢者
・糖尿病、心不全、呼吸器疾患(COPD等)の基礎疾患(=持病)がある方
・透析を受けている方
・免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている方

 これらは「持病のある方」という表現で説明されることが多いが、この点をもう少し詳しく見てみたい。
 今回の新型コロナウイルスと同じコロナウイルスによる新興感染症として、重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome:SARSと中東呼吸器症候群(Middle East respiratory syndrome:MERS)が知られている。2002年に中国広東省で発生したSARSでは患者数8000人強で死亡率は10%弱、そして2012年にサウジアラビアで最初に確認されたMERSでは2015年の韓国での局地的な流行を経て患者数は2500名弱、死亡率は3割強とされている。
 重い呼吸不全や腎不全、肝不全も伴うような多臓器不全、合併した細菌感染症が死因となる。その他、糖尿病、B型慢性肝炎、COPDや心臓病がある場合にも経過が悪いとされている。ちなみにCOPDは耳慣れない言葉かもしれないが、慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstructive pulmonary disease)と呼ばれる慢性気管支炎や肺気腫等の総称で、主にはタバコによるものが多く、生活習慣病の一種とも考えられている。
 これらの病気に関して、人事労務担当者は一層の注意を払う必要がある。

一般定期健康診断後の事後措置は確かか?

 現在、新型コロナウイルス感染症であると確認された患者さんに対して抗HIV薬の投与が試みられている、との報道がある。しかしSARSとMERSに関しては安全で効果的な抗ウイルス薬はないとされてきた。
 今回の新型コロナウイルス感染症でも標準的には、いわゆる対症療法、つまり酸素吸入や呼吸不全が悪化した際の人工呼吸、補液(点滴)による水分や栄養の補給、二次性と呼ばれるウイルスではない、細菌による感染症への治療が行われる。
 事業所のある地域、従業員の居住している市町村では、そろそろ感染者が特定される、症状の出ている人が現れる事態が近く現実となる可能性がある。
 ここで、人事労務担当者として、自社や職場の上述の持病を持つ社員や職員が新型コロナウイルス感染症にかかった場合のことを考えておかなければならない。早くも2月下旬に向かうタイミングとなったが、人事担当者として次の質問に対する答えをお持ちであろうか?

◇貴方の職場の従業員数は何名?
◇うち、一般定期健康診断の対象は何名?
◇そのうち、受診率は100%?
◇要保健指導や要医療(精密検査や要受診)との判定は何名・何%?
◇就労区分の判定で就業制限や就業禁止となっているのは何名?
◇就業上の措置に関する産業医の意見が出され、具体的に実施しているのは何名?
◇肝炎やがんで治療中、透析中、脳卒中等で就業上の措置を行っているのは何名?
◇60歳以上の従業員数は何名?各々について、ここに列挙した情報はあるか?
◇以上の確認の結果、いわゆる持病を持つ人は何名・何%?

 これらは一般定期健康診断後の事後措置で入手できているはずのデータであるが、単に受診させ、結果を配る・通知するだけで終わっていると把握できていないことが判明するだろう。
 昨年4月に施行された改正労働安全衛生法はいわゆる過重労働対策とともに「産業医・産業保健の機能(権能)の強化」を主眼としていた。つまり、過労死・過労自殺への対策に加えて、産業医の下に社員や職員の労働時間等の情報を集めて、"そのまま働かせてよいか"を確認することが求められるようになった。当然、高年齢労働者が増加すると病気や労災のリスクが高まることも考慮すべき点である。
 "そのまま働かせてよいか"を確認するというのは、一般定期健康診断における「就労区分」のことである。つまり通常勤務以外に就業制限や就業禁止の措置を講じるかどうかの判断を産業医等の医師の意見を基に行い、それを実行することである。
 もしも、これらが不確かであれば、至急自社の産業医、保健師、看護師等あるいは一般定期健康診断を委託している健診機関や医療機関の関係者と対話を行って、各人数や割合(%)を割り出し、情報管理に気を付けながら、いわゆる「持病を持つ」ことに相当すると考えられる社員や職員を特定したい。

持病を持つ従業員に案内すべきこと

 さて、そうした情報が把握できたら、できれば2月中に、該当する社員や職員に以下の情報を知らせ、しかるべく対応を求めていく必要がある。

早めに一度、かかりつけ医、主治医に相談する
 ・十分な内服薬の処方を受けておく
 ・万が一、発熱や咳等の症状が出た場合の対応について相談する
 ・日常生活と共に仕事や職場での注意点を聞いておく
上司や人事労務担当者と相談・確認する
 ・産業医等がいれば、必要な情報に加工してもらう
 ・流行時期における通勤や勤務における注意点を共有する
 ・もしも症状が出た場合の対応
 ・発病し休業する場合の仕事上の代替手段の対応

 マスコミでも言われていることだが、持病を持つレベルの人が発熱、咳などの症状が出たまま丸2日間、自宅待機を続けることは、至難の業であろう。また、そのことで持病が悪化したり、肺炎から重篤な呼吸不全につながったりしては元も子もない。
 2月中に、と強調したのは3月に入り、各地での流行が確認されていくと、かかりつけ医なり主治医なりが働いている医療機関が、さまざまな状況によって受診しにくくなる可能性があるからである。また持病を持つ方々の初期対応の遅れが経過を悪くすることがないよう、ここに挙げた点を事前に主治医に相談し、準備しておくことが望ましい。
 また、地域的な流行が盛んな時期には、症状がなくとも主治医から休業を勧められる可能性もある。症状が出た、あるいは将来的に確定診断を受けた場合には、一定期間の休業の措置が必要になるだろう。
 もちろん、その人が担当していた業務をどうするのか、という相談は持病のある人に限った話ではない。しかし、持病を持つ人の場合は休業が長期化する可能性があるので、3月に入るタイミングまでに、該当する社員や職員との協議を完了し、一定の方針や方向性を上司に当たる方々と共有できるようにしておきたい。

これまでの"治療と仕事の両立支援"の実践はどうか?

 今回の新型コロナウイルス感染症の流行に前後して、時差出勤やテレワークの推進が注目されているが、それと同じように働き方改革で力点を置かれてきたのが、「治療と仕事の両立支援」である。
 両立支援に関する情報はどちらかと言えば、医学的な評価やテクニカルなところに力点が置かれている印象がある。しかし、こうした感染症に伴う危機管理の側面からは、以下の二つが人事労務部門に問われる。

 ◇持病を抱えた従業員を保護し、これを活用する意思があるか?
 ◇治療や受診が可能となる柔軟な勤務制度、休暇制度があるか?

 もしも、これらが不十分であるなら、これを機会に再度、自社の治療と仕事と両立支援の方針や該当する就業規則の条文、付随する社内規程の見直しを行い、新型コロナウイルス感染症対策とともに社員や職員にアナウンスしてはいかがだろうか。
 また、両立支援は持病を抱えた人だけでなく、育児中の方、あるいは親の介護を抱えた方も同様の対応が必要であろう。
 幸い、今回の新型コロナウイルス感染症でも18歳未満では重症化する確率が小さいようであるが、育児中の子供に症状が出た社員や職員の対応は既にお決まりであろうか? あるいは介護している、ないし同居している老親に症状が出た場合の対応はいかがあろうか?
 各々保育園や幼稚園、小中学校の閉鎖もあり得るかもしれないし、デイケア等が利用できなくなる介護施設が出てくることも考えておいたほうがよいかもしれない。そうした状況において、社員や職員に無理を強いたり、差別的な取り扱いを行ったりしてはならない。
 新型コロナウイルス感染症に対する対応は、治療、育児、介護といった事情を抱えた社員や職員がこれらと仕事を両立しやすい状態を検討する好機と捉えることをお勧めしたい。

適切な健康情報管理の実践を!

 さて、海外に限らず、日本でも感染した人、接触した人あるいは関係者への差別的な扱いの事象が後を絶たない。見えないものほど強くストレスに反応するヒトとしての特性が分かる現象である。しかし万が一、これから社員やその家族が感染または発症した場合、自社内でその社員へのハラスメント等が起きたりはしないだろうか? そうなってしまうと、新型コロナウイルス感染症による直接的な影響のみならず、流行終息後にも社員や職員のモチベーションや信頼関係の毀損といった間接的な影響の大きさは計り知れないものがある。
 人事労務担当者として考えるべきは、個人の健康状態や病気に関する情報の取り扱いの実践、つまり健康情報管理が適正であるのか、ということである。
 健康情報管理は、個人情報保護の進展に加えて、先述した改正労働安全衛生法の施行と相前後して厚生労働省によって、強化されてきた事項である。個人情報保護の観点では持病や新型コロナウイルス感染症にかかったこと等の情報は要配慮個人情報に該当し、一段厳しい管理が求められる。
 また、健康情報管理の示すところは、適正な取得や管理のみならず、健康管理に関する情報は健康への配慮のためにのみ使用されるべき、ということである。、産業医等の意見を確認せず、また本人に対する説明や同意もないままに一方的に人事労務管理上の措置を強要するような「不利益な取り扱いを行ってはならない」ということである。

 現状を見る限り、時間的・空間的濃淡があることを想定すると、早ければ3月から4月に、いわゆる流行期に突入する国内の地域が出てくるかもしれない。
 今回は「持病を持つ人は重症化しやすい」という医学的な事実を起点に、主治医との連携、就業区分や就業上の措置、両立支援や健康情報管理の在り方を解説した。新型コロナウイルス感染症への対策を契機として、人事労務担当者として、ぜひこれらを見直し、流行の影響を小さくするべく力を注いでいただきたい。

《参考情報》

 厚生労働省「新型コロナウイルス感染症について」

亀田高志 かめだ たかし
株式会社健康企業 代表・医師
大手外資系企業の産業医、産業医科大学講師(産業医養成機関)、産業医科大学が設立したベンチャー企業の創業社長兼専門コンサルタントを歴任。現職でも、SARSや新型インフルエンザ、東日本大震災後の惨事ストレスへの対策等に関する講演、研修、コンサルティングや執筆を手掛ける。本サイトでは連載解説「人事労務から考える危機管理対策のススメ」を執筆。著書に、『改訂版 人事担当者のためのメンタルヘルス復職支援』(労務行政)、『社労士がすぐに使える!メンタルヘルス実務対応の知識とスキル』(日本法令)、『[図解]新型インフルエンザ対策Q&A』(エクスナレッジ)など多数。

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