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各界の識者に学ぶ―「人生100年時代」のビジネスパーソンの生き方・働き方 [2020.01.24]

第4回・完 松本 晃 氏(下)

日本には、まず「学び方改革」が急務、「働き方改革」は当然。さらに余暇をいかにエンジョイするか――つまり「余暇改革」も必要

松本 晃 まつもと あきら
元カルビー代表取締役会長兼CEO
1947年生まれ。1972年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。伊藤忠商事、ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル(現ジョンソン・エンド・ジョンソン)代表取締役社長、カルビー代表取締役会長兼CEO、RIZAPグループ取締役構造改革担当を経て、2019年2月にラディクールジャパン代表取締役会長CEOに就任。

インタビュアー: 佐藤文男(佐藤人材・サーチ株式会社 代表取締役)

 

労働時間にとらわれるのではなく、徹底的な成果主義


[1]「学び方改革」「働き方改革」「余暇改革」を同時並行で進めなければならない

「人生100年」時代を迎え、ビジネスパーソンは生き方や働き方を再検討しなければならない時期に来ていると言われています。

松本 「人生80年」という言葉が出てきた当時、平均寿命はまだ70歳くらいでした。本当に平均寿命が80歳に延びるとは、まだ誰も思っていない状況だったのです。ところが本当に「人生80年」が実現し、さらに平均寿命が延びていきました。これでは社会保障が破綻します。それで突然「人生100年」という言葉が出てきました。
 「人生100年」となると、最初の約20年間は勉強し、40年間働いて、残りの人生は国が面倒を見る――というこれまでのモデルは成り立ちません。国が後半生の40年間の面倒を見ることはどだい無理ですから、働き方を含めて、生き方そのものを変えていかなければいけません。
 日本人の7~8割は、大学入試を済ませた18歳で学びを終えてしまっています。大学の4年間に、本当に勉強した人は少ないでしょう。しかし本当は、学びは終わりません。実際に、最近は「一生、学ぶ」といったブームが起きています。ただ、「生涯教育」という方向性は正しいのですが、中身を変えることが必要です。
 「働き方改革」が間違っているとは思いませんが、「学び方改革」「働き方改革」「余暇改革」の三つを同時並行で進めていかないとダメです。それなのに、「働き方改革」ばかり言っているから、結果的にはおかしなことになります。少なくとも日本の場合は、まず「学び方改革」が必要で、「働き方改革」はそれからです。さらに、余暇をいかにエンジョイするか――つまり「余暇改革」も急務です。そういう環境や制度をつくるために、僕はカルビーでダイバーシティを推進する一方で、働き方改革も同時に進めました。

実際にカルビーでは、社員の働き方、学び方はどう変わったのでしょうか。

松本 頭の固い人もいますから、今でも完全には変わっていません。ただ、僕は日本の多くの会社にある、労働時間にとらわれている制度のほとんどを全否定しています。朝は何時までに出勤する、夕方は何時に退社するなんて決め事は必要ありません。アウトプットが出せればそもそも会社に来なくてもいいのです。もちろん、生産設備が必要な工場の場合は別です。カルビーであれば、ポテトチップスを自宅でつくるわけにはいきませんから。
 僕自身、昔から考えは何も変わっていません。ジョンソン・エンド・ジョンソンの時だって、1カ月に2~3回ぐらいしか出社しませんでした。ただし、出社しないことと仕事をしていないことはまったく別問題です。つまり、徹底的な成果主義なのです。

松本さんは昔から時代の先を行っていたと思います。一方で、時代の流れによって、会社に何時間いたから評価するという風潮は、現在徐々に消えつつあります。

松本 その「徐々に」がダメなんです。徐々にやっているから、この国はいつまでたっても良くならない。一気に変えようと思わないと、なぜできないのか、原因を真剣に考えません。
 原因は明確です。日本は戦後、第二次産業を中心に成長してきた工業国です。現在も残るいろいろな制度は、第二次産業の工場を基準につくられてきました。オフィスに通勤するサラリーマンたちが朝9時出社というのは、工場が8時半に操業を開始するからです。メーカーでは製造部門が主役なので、残りの部門はそれに従っていただけのことです。
 ところが、第二次産業そのものが変化してきた。工場が自動化・省力化され、人が少なくなる代わりに、オフィスで働く人が増えていった。そんな中で、昔の工場を基準とした制度をいまだに使っているから、うまくいくはずがないのです。
 日本という国は、こんなに変なことを、みんな変ではないと思っているところが変なんです。この国の変な制度を変えなければいけません。

[2]自分自身の"アセット"を増やしていかないと、退職後に世の中から求められない

現在50代のビジネスパーソンの多くは、65歳で退職したとして、その後15~20年をどうすればよいのか――という悩みを持っているように思います。ずっと1社だけに勤めてきた人であれば、特に悩みが大きいのではないでしょうか。

松本 そういう悩みを持つ人たちは、ある意味で不幸ですが、半面まったく努力してこなかったからだとも言えます。大きな組織に入って、その中でただ生きてきただけで、自分の"お金ではないアセット"(資産、財産)を一つも増やしてこなかったのですから。
 どんな会社にいても、自分自身のアセットを増やしていれば、絶対に誰かが"買い"に来ます。社内での評価なんて、良くても悪くてもよいのです。会社では、優秀な人ほど評価されず、やっかみ半分の嫉妬を受けるだけです。しかし、優秀な人は必ず社外で役に立ちます。いつも自分が高く売れるような人生を送っていかないといけません。

自分の社外価値を意識すべきだということでしょうか。

松本 人生というのはゼロから始まって、自分のアセットを増やしていくものです。もちろんお金を残すという人もいるでしょう。しかし、人間としてのアセットというものは、お金よりも価値のあるものです。特に大事なのは知的なアセット、もしくは実績です。こうしたものを持っている人を、世の中は必要とします。僕は72歳ですが、いまだにいろいろな会社から声が掛かるのは、あいつを採ったら自分の会社の役に立つと思われているからでしょう。
 お金ではない資産を、いかに増やしていくか、これが人生の醍醐味だいごみです。結局、生きていて一番面白いのはそこではないでしょうか。ところが、そんな簡単なことを日本では誰も教えてくれません。結局、個人のリスクですから、会社を離れたら誰も何も面倒を見てくれない。それに文句を言っても始まりません。
 40~50代の人に言いたいのは、"Not too late"、遅すぎるということはないということです。今からでも、自分の生き方を変えていく。学び方、働き方、余暇の過ごし方、すべてを変えなければいけません。だから働き方改革ではなく、生き方改革なのです。

では、若手世代に必要なことは何でしょうか。

松本 若手世代は、しっかりした人生のインフラをつくらなければいけません。特に20代の間に最低限の教養を身に付けておかないと将来何もできません。そして、自分の人生のアルティメットゴール(究極のゴール)を決めることが重要です。自分は「何を」「どこまで」やりたいのか、ゴールを見定める。ゴールを決めない限り、中途半端で終わります。20代の時に定めたゴールを、その後の人生で本当に達成できるかどうかは、また別の問題です。しかし、人生に筋を通すという意味で、ゴールのセッティング自体は必要です。
 カルビー時代、昇進・昇格で新しいポジションに就いた社員には、「この仕事は2年で達成しなさい」と言ってきました。そうしないと、ただダラダラと仕事してしまうからです。1年間の延長は認めていたので「最長3年」ではありましたが、あらかじめ「この仕事は2年でここまで仕上げる」という目標を持たないといけません。

仕事とは正解がないゲーム。正解があるかないか分からない、いくつの正解があるのか見当もつかない――だからこそ、仕事は面白い


[3]仕事以上に面白いことがあればいいが、自分自身は生きていて仕事が一番楽しい

「人生100年」時代を迎え、ビジネスパーソンにとっては退職後のキャリアも見通した生き方が求められるようになっています。

松本 戦後の経済成長を支えたワンパターンな成長モデルは、確かに国を豊かにしましたが、これは個人の犠牲の下に実現した成長です。しかし、もうそんな時代ではありません。パラダイムは180度変わりました。
 戦争に負けた日本は、東西冷戦下で西側について経済成長を遂げました。僕は冷戦時代の日本の経済成長や政治体制を批判したことは一度もありません。ただし、賢い官僚の方々が決めたとおりに生きていく時代はもう終わったと思います。最近になって、官僚や政治家が「人生100年」と言い始めたのは、社会保障が危機的な状況に陥ったからで、もう国は面倒を見きれないからもっと長く働いてくれ――と言っているだけです。健康で長く働くこと自体は悪いとは言いませんが、現在の政府の論調の真の動機は極めて不純です。

2019年には「100年安心」をうたっていたはずの年金給付だけでは老後の生活が困難であり、2000万円の資産積み立てが必要だ――とする金融庁の資料が話題になりました。

松本 仮に2000万円を持っていても、その2000万円は"虎の子"のお金ですから、使うことはできません。人生があと何年で終わると分かっていれば計算して使えますが人生がいつ終わるかは分かりませんから。
 虎の子に手をつけずに、収入と支出のバランスをとらないといけない。そうすると、健康であるのなら、収入が高かろうが低かろうが、働いたほうがいいのです。人手不足と言いますが、実は人手は決して不足していません。60歳を超えて、会社を辞めてブラブラしている人たちの多くは元気です。この人たちを使わない手はありません。大学の同窓生の名簿を見ていると、現役で働いている人はほとんどいませんが、みんな元気です。
 しかし、働いて収入を得たら、年金の支給額が減額されるような制度では、働くわけがありません。

今後、確実に平均寿命が延びていく中で、長く仕事をしていく人が増えていくと思います。松本さんは"生涯現役"というスローガンについてはどう考えですか。

松本 僕自身は多分生涯現役です。仕事以上に面白いことがあればいいのですが、生きていて、仕事が一番楽しいです。趣味であれば自分が楽しいだけですが、仕事は世のため人のためになる。さらに、仕事は頭を使います。体を使うこともいいものですが、頭を使うというのは一番楽しいことです。
 仕事は正解が分からないゲームです。学校の勉強には必ず正解があり、しかも正解は一つです。これは僕には向いていません。正解があるかないか分からない、たとえあるとして、いくつの正解があるか見当もつかないというものが仕事です。そういう意味でも、やはり仕事は面白いですね。

[4]30歳までに徹底的に基礎を身に付け、45歳までは徹底的に結果を求めると決めていた

松本さんは、15年単位でキャリアを変えてこられました。ジョンソン・エンド・ジョンソンに移られた時は、一般的に脂が乗りきっている年代です。それまで勤めてきた伊藤忠商事を辞める決断をすることに不安はありませんでしたか。

松本 これは自分の中での"決め"の問題で、不安かどうかといった問題ではありません。最初から決めておけばいいのです。30歳ぐらいまでに徹底的に基礎を身に付けて、30歳から45歳までは徹底的に結果を求めて成果を出すと決めていましたから。成果を出していれば、きっと誰かが自分を買いに来ます。

松本さんは、学びのために心掛けてきたことはありますか。

松本 一番は本を読むことです。まず本は安いですし、自分のペースで学べます。学校での勉強は実は難しいのです。教えている人のペースと自分のペースが合えば面白いのですが、ペースが速かったら付いていけませんし、遅ければ退屈してしまいます。
 1冊の本の中で一つでも二つでもいいことが書いていれば、値段以上の価値があります。僕は基本的に、読んだ本は全部捨てます。ただ置いていても役に立ちませんから。それに、本は読んだら捨てると最初から決めておかないと、真剣に読むことができません。本を読んでいるといっても、100%集中せずにほかのことを考えているなら、何も残らないでしょう。

松本さんにとって学びになった失敗体験を披露していただけませんでしょうか。

松本 例えば、伊藤忠商事時代の入社3年目の頃、中古船を販売する事業をしていましたが、その中で詐欺まがいの商売に遭ったことがありました。また、カルビー時代の海外事業も、うまくいったものとうまくいかなかったものがあります。ビジネスとはそういうものです。大相撲で言えば、横綱の白鵬でも負けるんです。本当に強い時の白鵬でも、毎場所全勝していたかというと、そんなことはありません。
 僕はいつも言うのですが、ビジネスの世界で一番優秀な人間の勝率は、いいところ「11勝4敗」です。それぐらいがビジネスマンとしては理想的です。11勝4敗を続ければ、間違いなく大関になれます。ただし横綱にはなれません。よほど天性の資質や運に恵まれないと15戦全勝ということはありません。

[5]人事は会社の中で一番難しく大事な仕事をしているが、十分に評価されていない

松本さんは、カルビー時代に人事が大事だと何度も強調されていました。人事として働くビジネスパーソンに対して、どのように感じていますか。

松本 人事は会社の中で一番難しく大事な仕事をしています。人事が間違えたら、絶対に会社はうまくいきません。ただし、そのわりには会社において十分に評価されていないと思います。
 人事の仕事として、まず採用があります。採用を間違うと、話になりません。ところが、どんな人を採るのか、どのような人がよいのかをきちんと決めていない。なおかつ採用を若い人にやらすと、人を見抜くための目利きなんかできるはずがありません。履歴書ばかりを見ていて、応募者の顔も見ない。どこの大学を出たなんて、何の役にも立ちません。いわゆる有名大学を卒業したからといって、仕事ができるかどうかは別の問題です。
 次に、優秀な人材を採ったら、徹底的に鍛えないといけない。教育制度をしっかりつくることも人事の仕事です。その次には、現場で活躍したら、それに報いる制度をつくる。優秀な人を辞めさせない。一方で、その会社で活躍できない人には辞めてもらわないといけない。このように、極めて難しい仕事をするのが人事です。本当に優秀な人事は、それだけ評価されなければいけません。ところが、意外と人事は評価されていないのです。
 プロ野球の場合だと、球団のスカウト担当が、真夏の暑い中、地方の球場に足を運んで予選から選手を選りすぐるのに、結局、高校卒の選手は1チームで2~3人しか採りません。野球という勝負の世界でもあんなに一生懸命やっているのに、会社における採用なんて実にでたらめです。履歴書を見て「有名大学?では採りましょう」とやっているだけで、良い人が採れるはずがない。だから歩留まりが悪いんです。

一方で、近年人事の現場ではパワーハラスメントが大きな問題になるなど、その仕事の領域も拡大しています。

松本 時代によってスタンダードが変わります。したがって、常にその時代に合わせないといけません。ただ、僕自身は、セクハラは一発レッドカードですが、パワハラはまず話を聞くという主義です。パワハラというのはケースバイケースですし、お互いに言い分がありますから、ちゃんと聞いて裁定するしかない。パワハラといって一発で解雇したことはありません。ただし、暴力はダメです。昔は手を出すような指導も美化されていましたが、時代によってスタンダードは変わってきます。時代の感覚に自分を合わせていくという柔軟性が求められているといえるでしょう。

 

インタビュアー佐藤文男(佐藤人材・サーチ株式会社 代表取締役)
1984年一橋大学法学部卒業後、日商岩井、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券、ブリヂストン等異業種においてキャリアを積み、1997年より人材紹介ビジネスの世界に入る。2003年10月に佐藤人材・サーチ株式会社を設立して代表取締役社長に就任。本業の傍ら、2017年4月から山梨学院大学の経営学部客員教授として「実践キャリア論」の授業を実施する。著書は今まで18冊(共著1冊)を出版する。

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