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Point of view [2019.08.09]

第140回 田中研之輔

70歳まで第一線で働き続ける
プロティアン・キャリアとは?

田中 研之輔 たなか けんのすけ
法政大学 キャリアデザイン学部 教授

博士(社会学)。専門:キャリア論 一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員を務める。大学と企業をつなぐ連携プロジェクトを数多く手がける。著書は『辞める研修 辞めない研修―新人育成の組織エスノグラフィー』(ハーベスト社)、『丼家の経営―24時間営業の組織エスノグラフィー』『走らないトヨタ―ネッツ南国の組織エスノグラフィー』(ともに法律文化社)等22冊を数える。企業の取締役、社外顧問を14社歴任。連載として、『日経ビジネス』『日経STYLE』「プレジデントオンライン」他多数。最新著に『プロティアン―70歳まで第一線働き続ける最強のキャリア資本術』(日経BP社)がある。

 筆者は大学生にライフキャリア論を教える傍ら、企業研修やセミナー等に数多く登壇機会をいただいている。テーマは、組織経営、組織開発、人事制度、新卒採用など多岐にわたる。また、職場での働き方やキャリア形成に関するヒアリング調査を継続して行っている。これまでにインタビューをさせていただいたビジネスパーソンは、インフォーマルな形式を含めると、5000名を超えている。
 これらの理論的知見と経験的データを基に、キャリア論の専門家の立場から、皆さんとどうしても共有しておきたい考え方がある。それが「プロティアン・キャリア」論だ。

「The Career is Dead」

 かつてないほどに、今、キャリアという考え方に社会的関心が寄せられている。その背景には、①政府が70歳までの雇用を企業の努力義務として発表したこと、②「終身雇用を守るのは難しい」と大企業のトップが口にしたこと、③政府による副業・兼業の推進――が関連している。
 中でも、トヨタ自動車の豊田章男社長の「雇用を守り続ける企業に、インセンティブがあまりない」と記者会見での発言、さらに、経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)の「終身雇用は制度疲労を起こしている。終身雇用を前提にすることが難しくなってきている」という記者会見での発言は、各種メディアがこぞって報道をした。
 この三つが交錯する社会状況を一言でまとめると、一つの組織に身を預けずに、副業や兼業を利用しながら、できるだけ長く柔軟に働いていくことが、ビジネスパーソンに求められているということだ。
 つまり、今、私たち自身のこれからの働き方や生き方が問われている。別言するならば、令和という時代の幕開けとともに、昭和や平成で継承してきたこれまでの働き方や生き方では通用しないというのを突きつけられている。こうした状況に直面して、一つの言葉を思い返す。

「The Career is Dead」。

 直訳すると、「キャリアは死んだ」という意味になるこの言葉には、"従来型のキャリアはなくなり、これからは違うキャリアを模索する必要がある"、そんな思いが込められている。
 ここで想定されている従来型のキャリアとは、昇進、昇格、収入、地位、権力、社会的安定……これらが右肩上がりに上昇・増幅していくモデルだ。こうした従来型のキャリアで前提とされてきたのは、一つの組織の中でのキャリア形成だった。
 しかし、そうした組織内キャリアではなく、組織を渡り歩きながらキャリアを形成していくモデルを私たちはこれから模索していかなければならない。言い換えるなら、私たちは今、先人たちのキャリアが参考にならないような歴史的な過渡期に直面していると言える。

組織内キャリアからプロティアン・キャリアへ

 そこで、組織ではなく個人に着目してキャリアを形成していく視座として不可欠なのが、「プロティアン・キャリア」という考え方である。
 プロティアン・キャリアとは、ボストン大学経営大学院で組織行動学や心理学の分野で教鞭をとっているダグラス・ホール教授が1976年に提唱した概念だ(編注:前出の「The Career is Dead」という言葉も同教授の著書のタイトル)。「プロティアン」という言葉の語源は、ギリシア神話に出てくる、思いのままに姿を変える神・プロテウスにある。プロテウスは、火にもなり、水にもなり、時に獣にもなったりと、環境の変化に応じて、変幻自在に姿を変える。
 プロテウスについて押さえておくべきポイントは、変化に応じて、自分の意思で自由に姿を変えることができるという点。その言葉にキャリアを掛け合わせて、ホール教授が、社会や環境の変化に応じて、柔軟にキャリアを変えていく「変幻自在なキャリア」として「プロティアン・キャリア」を提唱した。
 プロティアン・キャリア論のポイントは、二つある。①キャリアというのは組織の中ではなくて、個人によって形成される。②キャリアというのは変化に応じて、個人にとって必要なものに変更することができる。
 そもそも、キャリアとは「結果」ではない。キャリアとは個々人が「何らかの継続経験」を通じて「能力」を蓄積していく「過程」を意味する。これまでの経験の「歴史」でありながら、これからの「未来」でもある。
 私なりに定義すると、キャリアとは、これまで生きてきた足跡(結果)であり、生き方を客観的・相対的に分析する(現在)ことであり、これからの生き方を構想していく羅針盤(未来)なのだ。

キャリア資本の視点からプロティアン・キャリア形成を捉える

 そして、私が今、成果としてまとめているプロティアン・キャリア論には、「キャリア資本」という概念を接合させて考えている。例えば、A社からB社へと転職した人材を評価するときに、従来のキャリア論では、それぞれの組織内での職務実績を評価の対象としてきた。しかし、これからは、"組織の中でいかなるキャリアを形成してきたのか"という個人のキャリア資本が判断の基準に据えられてくるようになる。
 キャリア資本とは、①ビジネス資本、②社会関係資本、③経済資本の三つの資本から蓄積される。資本として捉えることで、現在の資本量を把握し、今後に向けていかなる資本形成が必要かを見据えることができる。詳しくは、新著『プロティアン―70歳まで第一線働き続ける最強のキャリア資本術』(日経BP社 2019年8月7日刊行)にまとめてある。

 私たちは今、組織にキャリアを預けるのでもなく、老後を政府に任せるのでもない、働き方や生き方を模索しなければならない。人生100年時代のキャリアの見取り図をアップデートしていくのだ。
 社会変化に翻弄(ほんろう)されるだけでなく、自ら変幻自在にキャリアを形成していきながら、70歳まで第一線まで働き続けるというポジティブなキャリアプランを戦略的に練る上で、プロティアン・キャリアという考え方が今、欠かせない。

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