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心理的安全がもたらすチームパフォーマンスへの効果 [2019.02.28]

第3回 心理的安全性を高めるリーダーシップとは


――社会心理学の研究成果と企業事例によるチームづくりのヒント――

青島未佳 あおしま みか
九州大学 人間環境学研究院 学術研究員
株式会社産学連携機構九州(九大TLO) 総合研究部門 アドバイザー

 第2回は、心理的安全性とチームパフォーマンスの関係性を解説したが、第3回はチーム力向上の鍵となるリーダーシップと心理的安全性の関係について九州大学での最新の研究結果を報告する。

1.スポーツ業界に見る心理的安全性

 2019年2月初旬、日本大学のアメリカンフットボールの悪質タックル事件がまたもや物議を醸している。警視庁は前監督らの指示はなかったと判断したが、本事件において朝日新聞社のデジタル記事では、"上意下達・物言えぬ空気"と題し、「この問題は、スポーツマンシップが抜け落ちるほどに追い詰めた強い上意下達の体質と、物言えぬ空気を指導陣が形成していたことにある」と言及した。
 スポーツ界では、監督・コーチといったリーダーのリーダーシップの在り方が、チームの明暗を分ける。第2回で紹介したとおり、大学スポーツにおいて常勝集団となったチームは、上級生が雑務を行ったり、学年を超えたミーティングを行い、監督のアドバイスの意図を確認したり目的を共有するなどの取り組みを実践していた。これらの取り組みや改革の旗振り役は当然のことながら監督である。
 このような改革を推進する監督の意図は、「学生の主体性の確立と自由に発言できる組織をつくること」である。いわゆる上意下達といった「上の言うことに下は黙って従う」上下関係の厳しい体育会系組織とは真逆の組織づくりである。
 このような取り組みを実践している青山学院大学・陸上部や帝京大学・ラグビー部は、学生一人ひとりの自主性・主体性が高まり、チーム全体として勝てるチームへと成長できた。一方、前出の朝日新聞社の記事によれば、日大アメフト部では、「当初は30分間の個人練習でさえ、個々がメニューを決められなかった」というほど主体性を失っていたとのことだ。
 それに比べ組織改革を行っている監督は、選手である前に学生である部員に対して、チームとして勝つことだけでなく卒業後に社会で活躍できるように、主体性や自主性、自ら考え行動できる力といった社会人として必要なスキルも同時に育成している。
 「学生の主体性の確立と自由に発言できる組織」は今回のテーマである心理的安全性が高い組織といえる。どのような組織でも強いチームになるためにはチームに属する個々人が主体的に行動することが大切である。よく言われるように、チームとしては1+1<2のチームを作ることが望ましいが、ベースラインである"1+1"の1の力を発揮するためには、一人ひとりが主体的に行動することが重要になる。心理的安全性の確保は、チーム内で一人ひとりが自分の本来持っている力を発揮するためにも必要な要素であるといえる。
 事実、データの面でも(我々の調査結果においては)、心理的安全性は、個人の先取り志向や顧客志向といったプロアクティブ行動につながることが確認できている。

2.チームづくりの成否を決めるのはリーダー

 スポーツ界の事例から見ても自明なように、監督・コーチ=リーダーによってそのチームの在り方は大きく変わってくる。一方で、スポーツ界のみならずビジネスの世界でも、組織の風土はその組織を率いるリーダーが7割を決めるともいわれるように、チームパフォーマンスに与えるリーダーの影響は非常に大きい。
 実際にこれまでの我々の研究からも、リーダーシップはチーム力を上げる重要な要素である「①コミュニケーション」「②相互協力」「③目標共有とフィードバック」「④チーム学習」に大きな影響を与えていることがデータからも分かっている。リーダーシップは、チーム力を上げるための土台といってもよい。
 また、第2回で記述したとおり、心理的安全性もチーム力を上げるための土台であり、我々が行った直近の企業との共同研究では、リーダーシップよりも心理的安全性のほうがチーム成果やチーム活動に与える影響が大きいことが判明している。
 これまでの研究を総合的にまとめると、「リーダーシップ」と「心理的安全性」はチーム活動を活性化させるための両輪といってもよいだろう[図表1]

図表1 心理的安全性とチームパフォーマンスの関係

3.変革型リーダーシップが、心理的安全性を高める

 リーダーシップと心理的安全性はチーム活動を活性化させるための両輪ではあるが、心理的安全性という目に見えない状態は、自然発生的にできるものではなく、誰かがその触媒を担う必要がある。その触媒がチームのリーダーであり、そのチームのリーダーのリーダーシップの発揮の仕方が心理的安全性に影響を与えていると考える[図表2]
 では、どのようなリーダーシップが心理的安全性を高めるのだろうか?

図表2 リーダーシップと心理的安全性の相関関係

 リーダーシップにおける研究は多々あるが、マネジリアル・グリッド(Blake & Mouton, 1964)やPM理論(三隅, 1984)などに代表されるよう多くの研究においてリーダーシップの要素は、目標設定や計画立案、メンバーへの指示などにより目標を達成する能力(P)と、メンバー間の人間関係を良好に保ち、集団のまとまりを維持する能力(M)の側面の二つに分類される[図表3]

図表3 PM型リーダーシップ類型(三隅、1984)

 加えて2000年代になってからはサーバントリーダーシップの大切さも唱えられている。また、近年のような先が見えない時代においては、ビジョン提示、新しい視点の付与といった変革型リーダーシップも大切だろう。
 我々の研究においては、事柄を統制・管理する課題達成リーダーシップ(P機能)と人間の心理や気持ちに配慮する対人関係リーダーシップ(M機能)の要素に変革型リーダーシップの項目を加えて、どのような関係性があるのかを統計解析の手法を活用し分析した(変革型リーダーシップは対人関係リーダーシップに包含している)。
 その結果、対人関係リーダーシップと変革型リーダーシップが心理的安全性に大きな影響力を与えていた[図表4]

図表4 心理的安全と創造性・プロアクティブの関係性

[注]単純相関では、課題遂行リーダーシップ∔.40、対人関係リーダーシップ∔.54、変革型リーダーシップ∔.58

 単純相関では、課題遂行リーダーシップを含め三つの項目に正の相関が見られた。一方で、回帰分析の結果では、対人関係リーダーシップは+.48の反面、課題遂行リーダーシップは-.37となっている。これらは、対人関係・変革型リーダーシップが低く、課題遂行リーダーシップが強い、いわゆるP型リーダーの下では、心理的安全性が高まらないということを示している。
 前述の日大アメフト部にも見られた事象"P型リーダーは、上意下達・ものを言わせない空気を作り、心理的安全性を損なう"ことをデータでも検証できたといえる。
 ビジネスの世界においても、言われたことを正確に遂行することで成果を上げる予定調和性の高いビジネスにおいては、軍隊的な組織のP型リーダーでも十分に成果を上げられた。しかし、現代の混沌とした時代においては、誰でも発言できる、さまざまなアイデアを場に出せる組織づくりが重要であり、そのような組織づくりに向けて、対人関係リーダーシップや変革型リーダーシップが重要であるといえる。
 また、心理的安全性の高さに影響する要素としては、対人関係リーダーシップと同様に、変革型リーダーシップの影響度が高いことが興味深い。チームビジョンの伝達やチームが向かう方向性をメンバーに伝えるというビジョニング行動が心理的安全性を高めている。
 加えて、コーチングと心理的安全性の関係性についても分析したところ、「人の話を聴くという」行動よりも、「成長支援という良かった点や改善点を率直にフィードバックする」「気づきが生まれる質問をする」という行動のほうが、心理的安全性が高くなる結果となった[図表5]

図表5 コーチング行動と心理的安全性の関係性

 一見すると心理的安全性を高めるためには、メンバーの気持ちや行動を受容していく行動が大切そうに思えるが、受容行動よりもリーダーの能動的なビジョン発信やフィードバックが、この結果から重要であるといえる。
 改めてエドモンドソンの定義を確認してみたい。エドモンドソンの定義は「チームの心理的安全性とは、このチームでは率直に自分の意見を伝えても対人関係を悪くさせるような心配はしなくてもよいという信念が共有されている状態を意味する。こうした信念は、暗黙のうちに当然のことと思われており、メンバー個人としても、チーム全体としてもいちいち注意を払ったりはしないうちに共有されていることがほとんどである」ということだ。
 このような規範を作っていくためには、メンバーがチームにおける自身の期待を認識し、その期待に沿った行動ができているかを確認でき、自分の行動を強化・調整していく過程が大切ではないかと想定する。そのためには、リーダーがメンバーの意見を聴くといった行動だけではなく、リーダーからのビジョン提示やフィードバックが重要となる。
 人は先が見ない・不確実なことに対して人は恐れを感じる動物である。組織の方向性を示してもらうことで、透明性が高くなり、先に対する不安が和らぐ。また、良い点をきちんとフィードバックしてもらうことは承認欲求や自尊感情が高まるし、改善点をフィードバックしてもらえることはリーダーも率直に意見を述べてくれているという見本になる。
 今回の分析から、リーダーの受容行動(傾聴等)+リーダーからのビジョン提示・フィードバック⇒メンバーの行動強化・調整⇒心理的安全性の確保ができると仮定できる。
 心理的安全性を確保するためには、リーダーのビジョニングとフィードバック行動が特に大切といえるが、多くの企業において、これらの行動はリーダーの得意分野とはいえない。実際に複数の会社で測定したデータでは、課題・対人・変革型リーダーシップのうち、変革型リーダーシップのポイントが圧倒的に低い。また、コーチング項目として測定した傾聴・観察・質問・フィードバック項目の中では、フィードバックは他の項目より低い傾向にある。
 10年以上前からコーチングがブームとなり"傾聴トレーニング"などを導入している企業も多いが、今後は"聴く"だけでなく"伝える"スキルをいかに身に付けていくかが重要である。

4.リーダーとして大切な心構え"信頼"

 最後に、心理的安全性を高めるために、リーダーとして大切な心構えについて言及したい。高業績チームのリーダーの基本的な心構えは、①メンバーに興味を持ち、信頼する、②メンバーが主役(自分が主役になろうとしない)、③多様性を認める(自分のみが正しいと思わない)――の三つあると考えているが、特に心理的安全性を高めるために重要な一つは①メンバーに興味を持ち、信頼をするということだ(詳細は『高業績チームはここが違う』[2016年、労務行政]153ページ参照)。
 信頼という言葉の定義は難しいが、簡単に言うと"お互いに相手が置かれた状況を慮りながらも、率直に意思疎通ができる関係性"と考える。これは、心理的安全性と似ている概念である。
 エドモンドソンは、心理的安全性と信頼の違いとして、心理的安全性はチームレベルの状態を示しているが、"信頼"は2者間の関係性にあるものと定義している。
 また、シンガポール国立大学のマカリスター教授(Daniel J. McAllister)は、信頼を「認知的信頼」と「情緒的信頼」の二つの側面で定義している。認知的信頼は、この人はこの仕事をやり遂げるための能力・意欲があるといった相手が持っている知識に対する信頼であり、情緒的信頼は、この人に頼っても大丈夫だといった相手との人間的な感情的な絆を表している。
 多くのリーダー、特に発展途上にあるリーダーは、
・チームで起こっていることをできる限り知っておきたい
・任せると不安である
・自分でやらないと部下からリーダーとして認められないのではないか
――といった意識から、なかなかメンバーに権限委譲できないことが多い。

[1]任せると不安である
 このような意識を信頼という側面から考えると、「任せると不安である」という意識は、相手に対する「認知的信頼」が低いといえる。
 いろいろな方法はあるが、認知的信頼については、報連相といった基本的なルールを決めた上で、相手の能力・意欲を"信じて任せてみる"と心に決め、やってみることが第一歩である。実際にある企業のリーダーは、これまではすべて自分で決めてやっていたが、組織改革のプログラムを受ける過程で、"まずは任せてみよう"と決め、部下にある仕事をやらせてみると自分が思ったよりも高い結果を出し、相手に対する認知的信頼が高まったそうだ。これは、このリーダーが多少不安に思っていても、やらせてみないと分からなかったことだ。この組織では、これを契機に権限委譲のよいサイクルが回っていった。また、ここで大切なことは、もし失敗をしても責めずによい学習の機会だったと許容することだ。失敗を許容することが、お互いの信頼やチームとしての心理的安全性を醸成していくプロセスの一つである(その意味では失敗を許容できる仕事を任せることが大切だ)

[2]自分でやらないと部下からリーダーとして認められないのではないか
 また、自分でやらないとリーダーとして認められないのではないかという意識は「情緒的信頼」が低いといえる。
 ちなみにマカリスターの研究では、特に情緒的信頼が心理的安全性を高めると報告されている。データ的な分析はしていないが、これまでのフィールド調査から、リーダーとメンバーの間に情緒的な信頼があるケースは、リーダー自身が自分の弱みを見せる、もしくは自分も失敗することを伝えるという行動をしていた。このような例は、Googleのアリストテレスプロジェクトの報告でも言及されている。
 また、趣味や家族のことなど仕事以外の雑談をすることもお互いの心理的距離を縮め、チームとしての心理的安全性を高める効果がありそうだ。実際に、我々の研究でも雑談がチーム成果に影響することは判明している。

 このように、リーダーの行動一つが、心理的安全性の高低に大きく影響する。一人ひとりが発揮しているリーダーシップ行動は一朝一夕には変えることはできないが、本記事を通じて、まずは心理的安全性の必要性を認識していただければ幸いである。

青島未佳 あおしま みか
九州大学 人間環境学研究院 学術研究員
株式会社産学連携機構九州(九大TLO) 総合研究部門 アドバイザー

慶應義塾大学環境情報学部卒業・早稲田大学社会科学研究科修士課程修了。日本電信電話株式会社に入社。その後、アクセンチュア株式会社、デロイトトーマツコンサルティング株式会社を経て、2012年1 月より現職。人事制度改革、人事業務プロセス改革、人事システム導入支援、コーポレートユニバーシティの立ち上げ支援、グローバル人事戦略など組織・人事領域全般のマネジメントコンサルティングを手掛けるとともに、製造業の業務改革、全社改革プラン策定、営業・マーケティング改革のコンサルティング経験を有する。現職からチームワーク研究を主軸としたコンサルティング・研修を実施。主な著書に『高業績チームはここが違う』(共著、労務行政)

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