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Point of view [2018.12.21]

第125回 上田恵陶奈

AI時代の人材に求められる能力と、そのマネジメント

上田恵陶奈 うえだ えとな
株式会社野村総合研究所 コンサルティング事業本部
未来創発センター2030年研究室 上席コンサルタント

東京大学法学部卒、英・エセックス大学政治経済学修士。情報・通信コンサルティング部、金融コンサルティング部などを経て現職。AI、決済、通商・越境取り引きなどを中心に、複数の事業領域にまたがる戦略の構築・実行支援、および政策立案支援に従事している。2030年の日本に向けたビジョン検討においてオックスフォード大学と共同研究し、「迫りくる労働力不足をチャンスに変える」として成果を発表。金融法学会会員、情報ネットワーク法学会会員。
主な著書に『企業通貨マーケティング』(共著、東洋経済新報社)、『誰が日本の労働力を支えるのか?』(共著、東洋経済新報社)等がある。

1.「RPAからAIへ」という上り坂

 生産性の向上はもちろんのこと、人手不足の解消や働き方改革の推進も手伝ってRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)の導入が盛んである。RPAは、今まで人が行ってきた業務プロセスを前提に自動化を進めるものである。順調に導入できた企業では、業務効率が改善したり、残業を削減できたりしているだろう。しかし、RPAが思うように成果を上げないという声も多く聞こえる。代表的なものが、導入が思ったより大変だ、よくエラーを出す、手順の改定などメンテナンスの手間がかかるといった点である。これでは導入目的を達成できないと、RPAの利用中止を考える企業もあると聞く。
 しかし、こうした障壁や挫折は、これから業務のデジタル化を進め、RPAからAIへ、そしてデジタルトランスフォーメーション[注]へと進んでいくために不可欠なプロセスである。人が行うことを前提に構築し、担当者にあわせて最適化を積み重ねてきた業務プロセスを、人ではなくRPAやAIなどのデジタル・ワークフォースに移管していくのである。新たな担い手であるデジタル・ワークフォースにとって、得意・不得意も、最適な手順も、個人差がないことも、全て人とは違うのである。担い手の特性にあわせて業務を標準化し、手順を再構築し、再びトライアンドエラーで最適化を積み重ねていくことは、今後を考えると避け得ないスイッチングコストと言えないだろうか。
 さらに、こうした苦労は、一度経験することで今後長らく活かすことのできる経験値となろう。RPAが、コンピューターにとって最も向きそうな業務(タスク)を対象に、かつ多くは単独の業務(タスク)単位で導入することで、エラーによる影響が限られる条件下で経験を積めることは、むしろ好条件とすら言える。

[注]デジタルトランスフォーメーション:デジタル技術を活用して顧客へ価値を提供し続けるために、企業活動の全体を変革する取り組みのこと。

2. AIと共存する時代の人材

 "自動化された未来のオフィス"と聞くと、真っ白な部屋でコンピューターだけが静かに演算しており、別室にはコンピューターに命令する一握りの幹部だけがいるような映画のシーンを思い浮かべるかもしれない。しかし、少なくとも当面の間、AIは万能ではない。トレードオフの関係もある複雑な現実世界では、AI自身が最適な目的を定めることは難しく、人が目標を設定する必要があろう。またAIは、相手と駆け引きをしたり、共感を得たりするような高度なコミュニケーションも不得意である。そして、先例が通用しない非連続の変化にはAIは弱く、その場で考え抜ける人にはかなわない。つまり、AIには人の助けが必要なのであり、未来のオフィスの中には引き続き人がいて、人とAIは共存する。
 よく、AI時代に必要とされる人材としてデータサイエンティストが挙げられる。しかし、実際に必要とされる能力は多種多様だろう。AIが不得意な能力を具体的に考えると、①概念で議論するような創造的な思考能力、②議論や説得のような高度なコミュニケーション能力、③前例のない局面でも自分で思考できる能力である。AIを使いこなす能力だけではなく、AIが不得意な各能力を担える人材をそろえる必要があるのだ。

3. AI時代の人材マネジメント

 AI時代にエキスパートとして活躍できる能力が多様だということは、その多様な能力全てを持ったスーパー人材などまずいない、ということでもある。つまり、一人ずつエキスパートとしての得意なスキルは違っており、多様なエキスパートを集めることで結果として多様な能力がそろうのである。総合職という万能社員を中心にした組織から、多彩なエキスパートが能力を相互補完する組織へと変化していくと考えられる。
 すると、未来の人材評価は、人が担うべき能力軸のうち一つでも優れているならば、他の能力軸の評価にかかわらず積極的に評価する加点主義になるだろう。この「優れている」という言葉の意味は、人がAIに勝るということではない。例えば、われわれは知識を暗記する試験を経験してきたが、実際の業務では知らない情報はインターネットで検索しており、われわれは知識についてインターネットと競争しない。同様に、業務ノウハウをAIが教えてくれると、業務経験の浅い人材でも質の高い業務をこなせるだろうから、人に求められるのはAIを打倒する能力ではなく、AIを活用することで自らの能力をエキスパートとしての水準に補完・底上げしてもらうことである。
 エキスパートは、その専門性によってステージ(地位)が決まると想定され、ジェネラリストの総合職が年功によって職階を進むこれまでの姿とは違うだろう。新卒の総合職は、漏れなく駆け出しの平社員から職階がスタートするが、エキスパートは持っている能力のレベルに応じたステージからスタートする。労働者マーケットで希少な才能を持つ人材を、広い裁量と高給で処遇することも可能になるだろう。さらに、年功では職階が上がることが原則であるのに対し、エキスパートでは専門性が相対的に低下すればステージが下がることもある。
 このような多様なエキスパートの専門性は、ラインの上長だからというだけで適切に評価できるわけではなく、能力評価や人事評価のエキスパートを、業務のマネージャーとは別に育成することも必要になってくるだろう。そのような複雑な人事データを扱うために、HR Techと呼ばれる人事・人材の情報と業務を一元化できるようなサービスも浸透していくと予想される。
 RPAからAIへという現場の挑戦が始まったのと同時に、人事・人材マネジメントにおける挑戦も始まっているのである。未来の多彩なエキスパートが活躍できる環境を構築するトライアンドエラーが、各社で進むことが期待される。

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