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Point of view [2018.11.09]

第122回 各務晶久

人口減少時代の人事マネジメント

各務晶久 かがみ あきひさ
株式会社グローディア 代表取締役
特定非営利活動法人人事コンサルタント協会 理事長

川崎重工業、日本総合研究所を経て独立。大阪市人事に関する専門委員、大阪市特別参与、大阪商業大学大学院非常勤講師等を歴任。中小企業診断士。同志社大学卒、関西学院大大学院でMBA取得。著書に『人材採用・人事評価の教科書』(同友館)、『メールに使われる上司、エクセルで潰れる部下 利益を生むホントの働き方改革』(朝日新聞出版)

日本の人事課題は世界最先端

 文字どおり「人」を扱う人事パーソンは、人口減少問題の最前線に立っている。近年の"超"売り手市場を目の当たりにして、人口減少時代の到来を痛感していることだろう。中小零細企業では、若年層どころか中高年の採用すらままならないほど人手不足は深刻だ。
 1990年代以降、わが国では欧米の人事マネジメントを積極的に取り入れてきた。MBO、コンピテンシー、EQ、SHRM等々、人事領域にはカタカナ語が氾濫し、「人事は流行に従う」と揶揄(やゆ)されたほどだ。
 しかし、現在、日本は未曽有の人口減少を迎えている。これほど深刻かつ急激に人口が減る国はなく、参考にできる先進国はない。つまり、わが国がこれから取り組む人事マネジメントこそ、諸外国から注目される先端領域となる。
 このような人口減少時代、人事マネジメントには大きく分けて三つの課題が生じることになる。
 第1に労働力の絶対数を確保すること、第2に多様な人材が同居することに伴う価値対立の解消、第3に労働生産性の向上である。

多様な労働力の活用

 第1に挙げた労働力の絶対数確保は、限られたパイの奪い合いを勝ち抜くことではなく、これまで活用してこなかった主婦、65歳超の高齢者、外国人、ニートといった多様な人材を受け入れることである。首都圏のコンビニ、外食産業など、これらの労働力抜きに成り立たない業種さえある。
 もっと活用の自由度を高めるために、「働き方改革関連法案」を受けて、企業では制度設計が盛んだ。逆に言えば、制度論ばかりに焦点が当たり、他の2点は置き去りにされたままとも言える。

増加するコンフリクト

 第2の「価値対立の解消」については、人材多様化の制度面でなく、運用面の課題である。
 これまで日本企業は、均質集団を作り上げることに主眼を置いてきた。新規学卒一括採用、終身雇用、企業別労働組合といった日本型雇用慣行は、同じ価値観を有する仲間で組織を固めるのに効率的だ。
 自分たちの「内と外」を分け、仲間意識を涵養(かんよう)し、結束を固めてきた経営システムは、価値観を異にする人間を排除する側面を持つ。つまり、多様な価値観を持つ人材の同居には、経営システムの再構築が必須だが、ダイバーシティを声高に叫ぶ大企業ほど、旧来型の雇用慣行やマネジメントポリシーを本質部分で堅持し続けているのは滑稽(こっけい)だ。多様な価値観を持つ人材を同居させることに、いかに日本企業が不慣れなのかが理解できる。
 子育てを最優先する主婦、生きがいを重視する高年齢層、ジョブホッピング(編注:よりよい処遇やスキル向上を求めて、短期間に転職を繰り返すこと)に関心が高い外国人など、多様な価値観を持つ人材をマネジメントするには、会社への忠誠心をあおったり、上昇志向を刺激したりする従来型の人事マネジメントは通用しない。それどころか、価値観の異なる者の混在は、これまでよりも対立(コンフリクト)場面を増やしていく。その予防・解消に人事は積極的に努めなければならない。
 昨今、SNSやワイドショーのトピックを見る限り、意見が分かれる議論はすぐ「炎上」する。自分と異なる意見や価値観を受け付けず、相手を徹底的にたたく傾向は年々ひどくなっているようだ。そんな状況に反して、企業では人材や価値観の多様化がいや応なしに進む。火種は組織の中で常にくすぶり、いつ火が吹くか分からない。
 このような時代にこそ、「コンフリクト・マネジメント」に取り組まねばならない。意見や価値観の対立を構造的に捉えたり、その効果的解消法を組み立てたりする「コンフリクト・マネジメント」を科学的なマネジメント手法として企業内に取り入れるのだ。
 「コンフリクト・マネジメント」は、ラインマネージャーへ定着させて終わりではない。人事の役割も変化するのである。
 これまでとは異質な人材を受け入れる場合、コンフリクトを起こすことを想定して、人事は積極的に本人と周りの人間関係の間に入り、緩衝材の役割を果たすのである。本人だけでなく上司などからも意見を聞き取り、調整弁になる役割を人事が買って出るのだ。

労働生産性の向上

 第3の労働生産性の向上は、上述した2点よりも、実は優先順位が高い課題といえる。代替労働力をいくら確保したところで、これまでと同じ仕事量を、これまでと同じ人員でこなしていたのでは、企業の競争力は強化されない。同じ仕事量をより少ない人員でこなしてこそ企業や組織は強くなり、労働者への分配も高まるからである。
 「働き方改革」を端緒に、労働生産性向上の議論がそこかしこで見られるようになった。しかし、ホワイトカラーの職場に限って言えば、どうもかつてバブル好況時の「時短ブーム」のような取り組みが多く、実がないものばかりのように思える。
 決まった時刻で強制的に帰宅させる取り組みなどはその典型だ。確かに、これによって付き合い残業などは減るだろう。しかし、本質的に仕事のやり方を見直さない限り、労働生産性は高まらない。仕事の持ち帰りやタイムカードを先に打刻しておく「闇残業」が後を絶たず、問題が根深くなるだけだ。
 的外れなもので言えば、職場の中にバーを作ったり、服装をカジュアルにしたり、高額な絵を飾ったりすることが「働き方改革」の一環として取り上げられている。無意味とはまでは言わないが、もっとまっとうに仕事の効率を上げることに向き合うべきだ。
 筆者の近著にも詳述しているが、ホワイトカラーの職場には無駄があふれており、なかなか改善が進んでいないのが現状だ。
 日本の製造現場が世界屈指の生産性を誇っている一方で、さまざまな統計資料が日本のホワイトカラーの生産性の低さを指摘している。それには製造現場と異なる構造的な理由がある。製造現場では、生産管理や生産技術といった工程改善に着眼する専門部隊があり、それこそ秒単位で生産効率を改善している。工程作業従事者と改善担当者が分かれているのだ。
 一方、ホワイトカラーでは、比較的スキルが高い者が仕事を立ち上げ、ルーティン化してから定型業務従事者に引き継ぐ。一度ルーティン化した作業はほとんど見直されない。なぜなら、効率化を担える者がその業務から完全に離れてしまうからだ。
 これらに加え、責任の所在をあいまいにする冗長な意思決定システムや、日本語の言語構造に起因する作業効率の低さ、過剰管理なども日本のホワイトカラーの生産性の低さに影響を与えている。

※『メールに使われる上司、エクセルで潰れる部下 利益を生むホントの働き方改革』(朝日新聞出版)

人事部門の役割

 ホワイトカラーの労働生産性向上には人事部門の主導が不可欠だ。改善能力のある者を集めて業務効率化の専門部隊を組織したり、社内規程を見直して過剰管理を排除したり、責任の所在を明確にした上で意思決定を早めたり、手段が目的化した目標管理を見直したり――これらは主に人事部門の所掌業務だろう。
 AI、IoT、ビックデータの活用などが次世代の生産性向上ツールとして期待されている。これらのテクノロジーが効果を上げるまで、しばらくかかりそうだ。それよりも人事部門が実現できる目の前の地道な取り組みのほうがはるかに実効を上げる。
 待ったなしに突入する人口減少時代、人事部門が果たすべき役割は格段に重要性を増しているのである。

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