Point of view [2018.10.12]

第120回 永禮弘之

社員の創造的学習がイノベーションのカギ

永禮弘之 ながれ ひろゆき
株式会社エレクセ・パートナーズ 代表取締役 クライアントパートナー

化学会社の営業・営業企画・経営企画、外資系コンサルティング会社コンサルタント、衛星放送会社経営企画部長・事業開発部長、組織変革コンサルティング会社取締役などを経て現職。
多数の企業や官公庁に対し、1万5000人超の経営者、経営幹部、若手リーダー育成を支援。ATD日本支部理事、リーダーシップ開発委員会委員長。早稲田大学、立教大学をはじめとする教育機関におけるリーダーシッププログラムの講師も務める。

組織学習は企業業績を高める

 本稿では、組織学習の企業業績への影響を示した上で、中長期的な企業業績に影響を与える継続的イノベーション(本稿では、イノベーションは「技術革新」ではなく「価値創造」を指す)への組織学習の効用を、筆者も関わったATDジャパンのリーダーシップ開発委員会の調査結果を基に明らかにする。その上で、「継続的イノベーションを促す組織学習には、どのような要件が求められるのか」について、拙著『ホワイト企業 創造的学習をする「個人」を育てる「組織」』(日経BP社)から、そのエッセンスを紹介したい。
 まず、組織学習は、実際に企業業績向上につながるのだろうか。2018年の経済財政白書では、OJTを含む人的資本投資は、現状の労働生産性の水準にかかわらず、企業の生産性全体に対してプラスに働くことを指摘している。特に、社員の自主的学習への支援制度の影響が高いことを示している。
 労働政策研究・研修機構「構造変化の中での企業経営と人材のあり方に関する調査」(2013年)では、ますます激しくなる構造変化の中で、日本企業が自社の競争力を高めるために今後強化すべきこととして、「人材の能力・資質を高める育成体系」を挙げた企業の割合は52.9%と、全選択肢の中で最も高かった。1990年代に、米国の経営学者ピーター・センゲが「ラーニング・オーガニゼーション」という概念を唱え、企業競争力の源泉が「組織学習」であることを訴えた。実際に、多くの日本企業は、昨今の構造変化を生き抜くため、自社の競争力を高める最有力の手段が体系的人材育成であると考えている。

継続的イノベーションを支えるのは組織学習

 自社の事業活動を大きく揺さぶる構造変化の下では、自社が産み出す価値を高めるイノベーションを継続することが欠かせない。21世紀の知識社会では、社会や顧客に高い価値を提供する価値創造型産業が主流になり、企業経営では持続的成長と価値創造(イノベーション)が重んじられる。
 筆者も関わったATDジャパンのリーダーシップ開発委員会による日本企業対象の調査(2016年)において、継続的に顧客価値を産み出すことに成功している「イノベーティブ度」が高い企業では、組織学習が組織のイノベーティブ度向上に貢献することが示された。具体的には、本調査の統計分析を基に導き出されたイノベーティブ度を測る指標に対して、プラスの影響を与える主な要因は、「組織のイノベーション推進力」と「現場の組織学習力」であることが分かった[図表1]

[図表1]企業のイノベーティブ度を高める影響要因

資料出所:「イノベーティブ企業のリーダーシップ開発(2018年版)」
(ATDジャパン リーダーシップ開発委員会、2018年)
[注]枠内の数値は、標準偏回帰係数とその有意性***P<.001 **P<.01 *p<.05)。
空白の欄は有意な影響が見られないことを表す。

 本調査の統計分析で導かれた知見は、次のとおりである。

■「組織のイノベーション推進力」とは…イノベーションに向け、求める人材像や人材要件を示し、重んじる指標や目標を掲げ、必要な経営資源を確保する仕組みを設け、全社員が自発的にイノベーション活動に貢献する制度を運用し、知識や技術を社内外からオープンに取り込み、活動の実行スピードを高めること

■「現場の組織学習力」とは…イノベーションに向け、社員に新しい経験を蓄積させ、理念や戦略にかなった行動を促し、積極的に社外の組織や人との交流、協働を推進すること

 要するに、社員の自発的行動を促す仕組み、社内のナレッジ共有、社外からのナレッジ獲得、社外との交流・協働、イノベーション活動の経験などの実践的な組織学習が、組織の継続的イノベーションにとってカギになるのだ。リクルートワークス研究所によるデータ分析「人材開発に関する実態・風土と企業業績」(同研究所「人材マネジメント調査2013」の定量分析)でも、「採用」「柔軟な働き方」「選抜・評価」「人材開発」といった人事施策の中で、人材開発の効果が「新しい製品やビジネスモデルの構築」の度合いに対して最も大きいことが指摘されている。

「創造的学習」が価値創造のカギ

 企業内のイノベーションは、スティーブ・ジョブズ氏のような一握りの天才イノベーターの所業でもなく、偶然生まれるわけでもない。組織のイノベーション力を高めるカギは、価値創造を牽引(けんいん)する「クリエイティブ・キャピタル」(専門知識や技能を身につけ、顧客や社会にとって価値が高い仕事をする人)を組織内で増やし、価値創造に向けた「創造的学習」を促す職場環境、仕組み、組織体制、企業文化を築くことにある。
 「創造的学習」とは、新しい価値の創造を目指す学習だ。知識の記憶に傾倒する「受験勉強」や、生きる力や個性重視を抽象的に唱える「ゆとり教育」とは異なる。
 創造的学習は、価値創造に向けた次の五つの学習活動から成る。

①テーマを見つける
②没頭して楽しむ
③実体験する
④他者と交わる
⑤教え合う

 これら五つの学習活動は、探求するテーマを定め、アイデアを生み、試行錯誤を通じてアイデアを仮説検証し、多様な他者と協働し、知恵を融合させるイノベーションの活動サイクルと連動する[図表2]

[図表2]イノベーション活動と創造的学習の関係

資料出所:永禮弘之・瀬川明秀著『ホワイト企業 創造的学習をする
「個人」を育てる「組織」』(日経BP社、2015年)

 働く個人の視点からも、価値創造に結びつく創造的学習法を身につけることは最優先事項だ。今後予想される超高齢化社会の日本では、職業人生が50年以上続く「100年ライフ」が待ち受けている。これまでより長い職業人生の中で、進化を続ける人工知能や新興国の低賃金労働者と張り合うには、創造的学習を続けることが最大の武器となるだろう。

[筆者注]ATD(Association for Talent Development)は1944年に設立され、米国に本部を置く。人材開発・組織開発に関する世界最大規模の会員組織で、120カ国以上に約4万人の会員を擁する。ATDの日本支部であるATDインターナショナル メンバー ネットワーク ジャパン(ATDジャパン)は2008年に設立され、ATDの情報発信、日本独自の調査研究などを行っている。

【参考文献】

「平成30年度 年次経済財政報告(経済財政白書)」(内閣府、2018年)
「構造変化の中での企業経営と人材のあり方に関する調査」労働政策研究・研修機構(2013年)
「イノベーティブ企業のリーダーシップ開発(2018年版)」(ATDジャパン リーダーシップ開発委員会、2018年)

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