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“未来型”要員・人件費マネジメントのデザイン [2018.09.04]

第8回 ダイバーシティ組織における要員・人件費のデザイン ~1人は1人分とは限らない(前編)


山田友里絵 やまだ ゆりえ
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
シニアコンサルタント

売上100億円のステージへ

 D社は、創立25年で首都圏と関西、名古屋に拠点を構えるまでに急成長を果たした営業会社である。2011年から2017年までの中期経営計画では年商50億円の達成を目標に掲げ、拠点および人員の拡大に注力をしてきた。その結果、2015年には年商50億円を前倒しで達成。次のステージとして売上100億円を目指すことを掲げて業容拡大を続け、2019年現在の人員は2011年比2.5倍の2500人、取り扱い案件数は3.2倍へと飛躍的に成長した。
 そして、2020年を目前に、売上100億円の達成は次の世代が担うべきとの経営判断がなされ、次世代の経営陣への引き継ぎが行われた。
 今回の主人公は、会社の転換期といえるこの時期に、新たに人事部の担当として配属された小町さんである。

小町さんの前任者長谷さんとは

 少し補足をすると、D社の人事部には、歴代の社長と人事部長の右腕となり活躍していた長谷さんがいた。長谷さんは、D社が新卒採用を開始したころから既に人事部に在籍しており、ほとんどの社員の年齢、出身校、異動の経歴から家族構成に至るまでのあらゆる人事情報を記憶し、異動や新人配属は長谷さん抜きでは成り立たないと言われるほどの人であった。しかし、その長谷さんも創立メンバーの一人として世代交代の対象となり、その後任として人事部に新たに配属されたのが小町さんであった。
 小町さんは、入社8年目。ちょうどD社が年商50億を掲げ、会社規模が急激に拡大した年に入社し、創設メンバーが現場で指揮をしていた最後の世代に当たる。営業会社であるD社では、基本的に採用後は全員現場配属となるため、小町さんも入社から現場の経験しかなく、これからも当たり前に営業の第一線で活躍をしていくのだろうと思っていた矢先、思いがけず人事部への異動が通達された。
 そしてある日、特段の前触れもなく稲村人事部長に呼び出された。

毎月中途採用をしているのに人手不足

 会議室へ入ると、そこには稲村部長のほかに、働き方改革グループの担当である佐助さんも神妙な面持ちで座っていた。稲村部長はおもむろに全社の組織別の人員数、残業時間、顧客満足度評価、従業員満足度評価の一覧表を広げた。
「これは、働き方改革グループで実施している調査の経年データなんだが、働き方改革に着手をした2013年から3年くらいは、いろいろな取り組みの効果が徐々に出てきた結果として、平均残業時間を減少させつつも、顧客満足度や従業員満足度は当社が掲げる水準を維持できていた。しかし、その後3年間の数字に関しては、売上拡大に応じて人員数を増加させているにもかかわらず、平均残業時間が徐々に増加してきており、さらに顧客満足度は少しずつではあるが基準値を下回る組織が発生してきており、かつ、従業員満足度も低下傾向にある」
 小町さんが去年までの数字を一通り見終わると、佐助さんが切り出した。
「働き方改革グループとして、全社ヒアリングを毎年行っているのですが、その際特に聞かれた意見が、①人が足りない、②残業が減らない、の2点だったんです。働き方改革の取り組みを進める中で、単純な残業時間削減にならないよう、組織間の業際や業務の進め方の見直しなど、あらゆる手を打ってきたつもりです。特に、人が足りないという点に関しては、働き方改革とは別に"基準人員"の試算を基にして各組織へ人員の補充・異動を行っていて、極端に人が足りなくなっている組織は存在しないはずなんです。それでもなお、人手不足、残業過多という言葉が出てくる実態がつかめない状況です」
 そして、佐助さんは小町さんにこう話を続けた。
「先月、働き方改革の年間計画の進捗を報告した際に、社長から年計の推進とは別に、本件の原因究明と対応策を検討するようオーダーがありました。そこで、この仕事を小町さんにも手伝ってほしいのです」
 小町さんは、つい最近の現場を振り返り、確かに毎月何人か中途採用のメンバーが増員されていたのに、残業が減っていなかったことを思い出した。

基準人員とは?

 早速、小町さんは佐助さんとともに会議室に残り、進め方を相談することにした。
「小町さん、"基準人員"という言葉は聞いたことありますか? 基準人員とは、組織の人員数の過不足を把握するときの判断基準となる数値のことです。長谷さんが編み出した試算方法で、人員の異動や配置の際の考え方の根拠として活用されています。ちょうど、この一覧表の現有人員、つまり実際にその組織に配属されている人数の隣の行に記載があります」
 小町さんは、合わせて長谷さんが残してくれた引き継ぎ書を確認した。そこには次のように解説があった。

【基準人員】

・各組織の業務量を推し量ることができる指標(=生産性指標)を基に算出される、各組織の理論的な必要人数のこと

・業務や人員の特性などの事情を加味した試算ではないことに留意。場合によっては、この試算によって算出された人員数より、実際の在籍人数が増減することもあり得る

≪例≫第1エリア

①担当者1人当たり取り扱い案件数:X件
②取り扱い案件数:Y件
③第1エリアの基準人員(担当者)=②÷①

 佐助さんによると、D社の要員計画は、上記の考え方以外に、管理職であれば、1人当たり担当者数、本社機能であればスタッフ1人当たり総社員数など、組織の業務特性や階層に応じて基準人員が試算されているとのことであった。
 小町さんが、再度佐助さんの作成した一覧表を見てみると、基準人員と現有人員が必ずしも一致しておらず、むしろ現有人員が基準人員を上回っている部署があることに気づいた。それを見た小町さんは、佐助さんに率直に疑問をぶつけた。
「この表を見ると、基準人員を下回っている部署はほとんどないですよね? つまり、基準人員で定められている人員数と現有人員が等しい、もしくは上回っている場合、その部署の業務量に対して実際に配属されている人員数は不足していないという意味ですよね。ということは、人手不足が原因で残業が増えることはあり得ないので、原因として考えられるのは、在籍している人のスキルや能力不足、ということでしょうか…?」
「確かに、基準人員と現有人員の比較結果をみると、そのような考え方もあり得なくはないですよね。ただ、働き方改革を通じて業務の標準化や人材育成も整備してきた手前、今回はもう少し各現場でどのような事態が起こっているのか、深堀りをしてみようと思っています」
 小町さんと佐助さんは、等級別の人員数や男女比、年齢別の構成比、エリアの広さや社内案件難易度など、人材に関する数値や業務量に関する指標を紐づけてみた。確かに、一部大規模な受注をしたエリアに関しては、人手不足や残業が多い傾向が見受けられた。しかし、それらのエリア以外でも同じくらい残業が発生しているケースが見られ、比較的業務量の見積もりがしやすい定型業務を集約したような組織でも、本来必要な人員数が配置されている(=基準人員数を満たしている)にも関わらず、残業が多発しているようだった。
 等級別人員数や男女比、年齢別の構成比や経験年数など、人事の定量データを二人掛かりで一通り集計・分析し、結果に関するお互いの認識合わせをしたところで、佐助さんから提案があった。
「細かい粒度で人員分析をすれば何かしら法則が見えてくると思ったのだけど、なかなか一筋縄ではいかないようですね。今日のところはお互いに持ち帰り、後日仮説を持ち合いましょう」

 その日の夕方、小町さんが帰り支度をしていると、人事部の前を通りかかった長谷さんから声を掛けられた。長谷さんは浮かない顔をしている小町さんを見て、少しの時間相談に乗ってくれることになった。
「長谷さん、お久しぶりです。とうとう、長谷さんが残してくださった引き継ぎ書にない難題に遭遇してしまいました。単刀直入に申し上げると、全社でリソースが逼迫(ひっぱく)して残業が増えていて、一部では品質問題になりつつあるようなんです。しかし、長谷さんが編み出した基準人員の試算に基づくと、どこの組織もおおむね人は足りているはずなんです。確かに、去年もほぼ毎月のペースで中途採用をしていましたし、新人も今年は前年比1.1倍採用しています。少し前まで、なかなか中途の方が根付かないということもありましたが、最近は入社後のフォローも改善して、リテンションが効いているため、退職率も改善してきているんです」
 首をかしげる小町さんに対して、長谷さんは満足げな顔で語りかけた。
「すっかり人事部の小町さんだね。確かに、8年前の2011年、ちょうど50億を掲げたころかな。当時の社長から『当社の適正な人員は何人なのか、どのような指標を追えば、リソースの過不足を察知できるのか導いてくれ』と言われたよ。人事部メンバーとその時は経営企画メンバーも召集してさまざまな人事データ、経営データを分析して基準人員の試算方法を編み出したんだよな。しかし、会社の規模が大きくなり、時短制度を利用して働く人やシニア人材など、多様な属性の人が入り交じって働くことが当たり前になってきた。感覚的に、当時と今とでは当社の従業員の働き方、仕事に費やす時間数、求められる成果を出すのに必要となる時間数が変わってきたように思う。つまり、2011年時点の基準人員"1人"の前提となっていた働き方と、現状の働き方が必ずしも同じであるとは言えないと思うんだ。そろそろ、基準人員の示す"基準"を見直す時なのかもしれない。おっと、そろそろ働き方改革のノー残業デーのアナウンス時間かな。今日はこの辺りで!」
 長谷さんはそう言って去っていった。後に残された小町さんの頭の中は「基準人員の見直し」というキーワードでいっぱいだった。

基準人員の"基準"とは

 翌朝、小町さんは前中計開始年から8年分の組織別の人員に関する定量データをあらためて眺めた。
 2011年時点とここ数年の等級別勤続年数、等級別男女比率、産休・育休取得者率、時短制度適用者率は大きく変わっていた。これまで、働き方改革や女性活躍推進関連で見慣れた数字ではあったが、昨日の長谷さんから「基準人員の見直し」というキーワードをもらってから数値を見直してみると、今まで何気なく見ていた数値が違う意味を持っているように思えてきた。
「もしかして、2011年時点の基準人員"1人"と、今の基準人員"1人"の捉え方が異なるということだろうか?」

(第9回へ続く)

山田友里絵 やまだ ゆりえ
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアコンサルタント
要員・人件費計画の策定、人事制度構築/導入支援、働き方改革支援、組織変革支援やD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)等、組織・人事に関するコンサルティングに幅広く従事。
 

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