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判例温故知新 精選―女性労働判例
女性の活躍が雇用社会に不可欠となる中で、格差問題の変遷を紐解く
[2018.07.27]

第3回 社会保険診療報酬支払基金賃金等請求事件ほか4件


君嶋護男 きみしま もりお
公益社団法人労務管理教育センター 理事長

1.社会保険診療報酬支払基金賃金等請求事件

組合間差別問題に端を発し、男性職員は一律に昇格させたにもかかわらず、同一の昇格要件を満した女性職員を昇格させなかったのは男女差別に当たるとして不法行為を理由とする賠償請求を認容

東京地裁 平2.7.4判決 労判565号7ページ
※控訴審で和解

[1]事件の概要

 約6000名の職員を有する特殊法人(被告)には、約5000名を組織するA労組と約120名のB労組があり、B労組の男性職員に昇格差別があったとする労使紛争の結果、労使協定により、B労組の男性職員について一律昇格させたところ、A労組から「逆差別」との声が上がった。そこでA労組の男性職員についても一律昇格の措置が採られたが、女性職員については継続審議とされたため、B労組の女性職員18名(原告)が、この措置は労働基準法4条違反に当たるとして、同一勤続年数の男性職員と同時期に昇格した地位にあることの確認、差額賃金、慰謝料等を請求した。

[2]判決要旨および解説

 判決では、労働基準法3条、4条の趣旨から、労働条件に関する合理的な理由のない男女差別の禁止は公序として確立しているとした上で、被告が昇格について女性職員に男性職員と同様な措置を講じなかったことは、合理的な理由のない男女差別に当たるとして、被告に対し、不法行為に基づき、男性職員と同様の昇格をすれば得られたであろう賃金と現実の賃金との差額相当額、慰謝料等の支払いを命じた。被告は、男女間の格差についても労働協約で段階的に是正することとしているから違法ではないと主張したが、段階的是正自体が男女差別であると斥けられた。また、被告は、本件一律昇格措置自体が給与規定に反する異常な措置であること、本件措置は労働協約に基づくものであることをその合理性の根拠として主張したが、いずれも斥けられた。
 本件は、背景には複数組合間のさまざまなしがらみがうかがえるところ、それにしても給与規定に反するような一律昇格自体が異例なことといわざるを得ない。ただ、男性職員については、その異例な措置を講じておきながら、女性職員についてのみ給与規定の原則を盾に取って一律昇格を拒否することは到底認められるものではないであろう。
 本件は控訴されだが、控訴審で和解が成立し、当時の男性昇格基準(勤続年数)に達していた女性については、原告ら18名だけでなく、148名も昇格したものとして差額賃金等が支払われた。

 



2.日ソ図書賃金請求事件

ほぼ同時期に入杜した男性社員に劣らなかったにもかかわらず、被告会社が賃金格差を是正せずに放置してきたのは労基法4条に違反する賃金差別に当たるとして損害賠償を命じる

東京地裁 平4.8.27判決 労判 611号10ページ

[1]事件の概要

 ロシア語書籍の輸入販売を業とする会社(被告)に勤務する女性社員(原告)は、昭和41年の入社当初は補助的・定型的な業務に就いていたが、その約1年後、支店の責任者として勤務することとなった。原告は、その後本社課長待遇、店長、さらに昭和57年には次長待遇となり、昭和63年に退職するまでの間、店長として勤務してきた。ところが、原告はこのような高度な仕事をするようになったにもかかわらず、補助的・定型的な業務を前提に定められた初任給を基に昇給が行われ、かつ適切な是正もなされなかったことから、昭和47年ごろには、労働の質・量とも同時期に入社した男性社員に劣らなかったにもかかわらず、賃金格差が維持・拡大され、次長待遇になったときから退職までの間には、基本給において、月額約2万円から6万円の賃金格差が生じていた。そこで原告は、遅くとも次長待遇となって以降基本給に格差があるのは労働基準法4条違反であるとして、男性社員との差額賃金を請求した。

[2]判決要旨および解説

 原告と入社時期が近い男性社員4名との間の初任給格差については、業務内容、職歴等を勘案すると相応の理由があるから、直ちに原告が女性であることを理由とする差別扱いがあったとまではいえない。しかし、それが昭和57年度以降の本件賃金格差の合理的理由となり得ないことは明らかである。したがって、原告が入社後における社内の事情の変化に応じて男性社員と同等の労働に従事するようになったにもかかわらず、初任給格差が放置された結果として、その格差が維持ないし拡大するに至った場合には、その格差が労働基準法4条に違反する違法な賃金差別となる場合がある。
 年齢、勤続年数が同じである男女間の賃金格差が合理的であるのは、その提供する労働の質および量に差異がある場合に限られるべきであって、労働組合との交渉によって決定される昇給率が男女一律という事情のみでは、本件賃金格差の合理的理由とはなり得ない。昭和57年度以降の賃金格差は、原告が女性であることのみを理由としたものか、または原告が家計の主たる維持者でないことを理由としたもので、労働基準法4条に違反する違法な差別であり、しかも適切な是正措置を講じていなかったことについて被告に過失があるから、不法行為に当たると解され、原告は被告に対し賃金差別と相当因果関係に立つ損害賠償を請求し得る(賠償額466万円)。
 本件は、原告は、入社当初は定型的・補助的業務に従事していたことから、男性社員との賃金格差には合理性があったものの、その後男性社員とそん色のない仕事に就きながら、最初の賃金格差を退職まで引きずってきたことが労働基準法4条に違反する賃金差別と評価されたものである。当初、賃金額に差があった場合、その後同じ率で賃金が増額されれば、絶対額では格差が拡大することは明らかであるから、会社としては、一定の段階(本件では次長待遇に昇格したときとしている)で、格差の是正をすることが必要であったと考えられる。

 



3.中国電力損害賠償事件

個々の事情を一切捨象した単純な在級年数の平均値比較により職能等級の昇進に直接差別があるとはいえない。女性は男性を超える一定の勤続年数がなければ主任に登用しないという直接差別があるとはいえない

第1審 広島地裁 平23.3.17判決 労経速 2188号14ページ
   〈参考収録〉
控訴審 広島高裁 平25.7.18判決 労経速2188号3ページ

[1]事件の概要

 原告は、昭和56年に電力会社(被告)に入社し、昭和61年10月の職能等級制度の導入に伴い主任2級となり、平成17年10月に導入されたクラス制度によって主任2級クラスIIとなり、平成20年10月に同クラスIとなった。被告における業績考課の評定要素は、「仕事のしかた」「仕事の成果」「責任・協力」および「チャレンジ」からなり、上記評定要素ごとに5段階評定が行われ、能力考課では、職務遂行能力の程度を4段階で評定されていた。
 原告は、昇進における男女差別の根拠として、同期・同学歴(高卒事務職)の間で、平均的に見て昇進において大きな男女格差があると主張したほか、サービス残業やセクハラの指摘等に対する報復により昇進差別を受けたこと、転勤後、仕事や挨拶の面で嫌がらせを受けたことなどを主張し、平成15年4月以降主任1級(管理職以外で最高ランク)の職能等級にあることおよび平成17年4月以降管理職3級の職能等級にあることの確認および一連の不法行為による精神的苦痛に対する慰謝料等1320万円を請求した。

[2]判決要旨および解説

 第1審では、大量観察した場合、昇進において相当な男女差があることを認めたものの、①女性が男性より短い在籍年数で昇進している例があり、同期・同学歴で女性より後に主任になった男性も複数見られることから、男性は一定の勤続年数で機械的に昇進させるが、女性はこれを超える勤続年数がなければ昇進させない取り扱いが行われていたとはいえないこと、②業績考課、能力考課によって個々人に評価の差が出るのは当然であること、③平成11年3月までは、女性の深夜労働の禁止、時間外労働・休日労働の制限といった女性保護規定により、女性の活躍の場が制限されていたこと、④平成9年の被告における女性の意識調査の結果では、管理職にチャレンジしたいと思わない女性の数は75%にも上っており、女性の多くは34歳までに自己都合退職していることから、そうした個々の事情を捨象した単純な在級年数の平均値の比較のみから男女差別があるとはいえないと述べている。
 すなわち、判決では、大量観察の結果、昇進においてかなりの男女差が見られることは認めつつ、男性より早く昇進している女性もいること、人事考課によって差が生じるのはやむを得ないこと、女性は保護規定によって活躍の場が制限されていたこと、女性労働者には管理職登用を望まない者、結婚・出産等によって自ら早く退職している者が多いことから、会社の昇進管理は男女差別に当たらないと判断したわけである。
 控訴審でも、ほとんど第1審と同様の判断がなされた。原告(控訴人)は、「協力向上力」「指導力」以外の要素は4段階評価の2番目と比較的高い評価を受けながら、上記二つの要素は3番目の評価を受けていたとして、主任1級や管理3級の能力を具備するに至っていなかったと判断し、控訴を棄却したことからすると、原告は、単独の仕事ではかなりの能力を発揮するものの、チームワークに関しては問題があったようで、そのことが指導力を求められる主任1級以上への昇進が認められなかった原因となったことがうかがえる。そのこと自体は、必ずしも不当とはいえないが、昇進において、男女の間で相当な開きがあったわけであるから、評価が公正に行われたか否かについて、会社側に厳しい立証を求める必要があったと思われる。確かに、会社では、評定基準の公表、評定者の研修、2次にわたる評価、評価結果の本人へのフィードバック等が行われているが、本件における昇進における男女差、特に同期生の主任への登用の割合が、男性8割、女性1割強という格差を説明するのに果たして十分であったか疑問が残る。
 いずれにせよ、男女差別に限らず、今後、成果主義等による賃金制度の一層の普及に伴って、人事考課を巡る争いが増加することが予想されることから、人事考課の適正さが厳しく吟味されると思われ、本件で示された会社の対応は、一つの判断材料を示したといえよう。

 



4.その他

[1]内山工業事件

第1審 岡山地裁 平13.5.23判決 労判814号102ページ
控訴審 広島高裁 平16.10.28判決 労判884号13ページ

 このほか、賃金に関する男女差別が争われた事件としては、女性社員19名(原告)が、勤続年数・年齢が同じ男性に比して差別を受けたとして差額賃金を請求した事件がある。1審では、男性と女性の職務内容・職責等が同評価されるから、男女の賃金差は労働基準法4条違反に当たるとして、損害賠償を認めている。控訴審では、同様の立場に立ちながら、原告らの救済に当たって、労働基準法13条を類推適用し、勤続年数が同等の男性社員との差額相当の損害が生じたと認めた点が特色となっている。

[2]名糖健康保険組合事件

東京地裁 平16.12.27判決 労判887号22ページ

 一方、健康保険組合に勤務する3名の女性(原告)が、後輩男性がより高い賃金を受けるのは男女差別であるとして差額賃金を請求した事件では、労働基準法4条違反を認めながら、原告らのあるべき賃金額を一義的に決定すべき法的根拠を見出し難いとして、差額賃金請求を否定し、差別により受けた精神的苦痛に対する慰謝料(594万~666万円)の支払いを命じている。

君嶋護男 きみしま もりお
公益社団法人労務管理教育センター 理事長
1948年茨城県生まれ。1973年労働省(当時)入省。労働省婦人局中央機会均等指導官として男女雇用機会均等法施行に携わる。その後、愛媛労働基準局長、中央労働委員会事務局次長、愛知労働局長、独立行政法人労働政策研究・研修機構理事兼労働大学校長、財団法人女性労働協会専務理事、鉱業労働災害防止協会事務局長などを歴任。主な著書に『おさえておきたい パワハラ裁判例85』(労働調査会)、『セクハラ・パワハラ読本』(共著、日本生産性本部生産性労働情報センター)、『ここまでやったらパワハラです!―裁判例111選』(労働調査会)、『キャンパス・セクハラ』(女性労働協会)ほか多数。


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