Point of view [2017.12.08]

第100回 友野典男

お金以外の報酬が大事だ

友野典男 ともの のりお
明治大学大学院 情報コミュニケーション研究科 教授

1954年生まれ。早稲田大学大学院経済学研究科修了。2014年より現職。専門はミクロ経済学、行動経済学で、経済行動の心理的・社会的・生物学的要因とその経済への影響について研究。著訳書として、『行動経済学―経済は「感情」で動いている』(光文社新書 2006)、『感情と勘定の経済学』(潮出版社 2016)、『ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る』(監訳、楽工社 2011)他がある。

非金銭的インセンティブの有効性

お金で人を動かすことができるのは確かだが、時にはお金が人のモチベーションを下げることもある。もちろん人を動かすのは、お金だけではない。

最近、経営者や研究者の間で、賞品や休暇のような金銭でないインセンティブ、すなわち非金銭的インセンティブの重要性や有効性が強調されるようになってきた。アメリカのある調査では、営業部門の78%、非営業部門でも67%の企業が、非金銭的なインセンティブを用いているという。アメリカの企業というと、成果報酬があまねく行われ、従業員もお金で働こうとするというイメージがあると思うが、そうではない。

そして非金銭的インセンティブによって仕事の成果が上がるばかりか、従業員の仕事に対する満足度も高くなることが分かっている。非金銭的なインセンティブの最も重要な機能は、それが経営者からの感謝や承認を伝えることができ、また仲間からの承認や賞賛を得ることができるという点である。それは、従業員の内発的モチベーションを高めることにつながる。

次のような興味深い実験がある。図書館で図書データをパソコンに打ち込む作業をやってもらうのだが、四つのグループに分けた[図表]。まず第1は、時給だけのグループ、第2グループは、時給は同じだが、それにプラスして時給よりは少し低い現金、第3グループは、現金と同額の魔法瓶(価格シールが貼られていて、価格が分かる)が与えられるグループ、4番目は、第3グループと同じ品物(価格は分からない)のグループの4通りの条件で実験が行われた。そして実験参加者は自分の報酬条件を知っている。

[図表] 図書データ入力実験のグループ分け

第1グループ 時給だけ
第2グループ 時給+現金(時給より少し低い額)
第3グループ 時給+魔法瓶(現金と同額、価格が分かる)
第4グループ 時給+魔法瓶(価格が分からない)

実験の結果、時給だけ(第1グループ)より、「時給+現金」グループ(第2グループ)のほうが仕事ははかどったのだが、その差は小さかった。しかし、「時給+価格が分かる魔法瓶」グループ(第3グループ)は、25%も仕事がはかどったのだ。金額は同じでも現金より魔法瓶のほうがよいことになる。そして、魔法瓶は価格が分かる場合と分からない場合(第4グループ)とでは差が出なかった。品物の金額が問題ではないのだ。ここで魔法瓶はわざわざきれいに包装してあり、リボンまでかけてあった。

非金銭的インセンティブはなぜ有効か

この実験は何を物語っているのだろうか。経営者が、従業員に対して親切な扱いをすると、従業員はそれに報いようとする。このような関係は互酬性とか返報性と呼ばれている。親切にされればそれにお返しをするという、人の持っている性質である。贈り物を交換する関係ということもできる。経営者から従業員に贈り物をすると、従業員はより一生懸命に働くという贈り物をお返しするのである。その場合に、経営者からの贈り物としてはお金がよいとは限らないことをこの実験は意味している。この実験では、品物が、同じ価値の現金よりも、従業員のモチベーションを引き出したのである。魔法瓶を包装してリボンをつける手間をかけたという「気持ち」が大事なのである。

さらに面白いことに、現金と魔法瓶のどちらがよいかという「好み」を聞くと、大多数は「お金」を選んだことである。単に好みを聞いただけでは、感情の要素は入ってこない。品物に気持ちが込められると、従業員から返報性を引き出し、それが努力や成果に結実するものと考えられる。

なぜ、非金銭的インセンティブが意味を持つのだろうか。職場で働いてお金を受け取るということは、単なる経済取り引きではない。もちろん、労働力と引き替えにお金を受け取るのであるから、経済取り引きであることには違いない。しかし、それだけではなく、人と人との関わりという社会的関係が含まれる。同僚同士だけでなく、上司と部下、経営者と従業員の間にも、このような人間関係は自然に発生する。経営者が、従業員の働きに対して感謝を伝えたり、働きぶりや人格を承認したりすることが、従業員にとってモチベーションを高めることになるのは容易に分かる。

また、金銭的インセンティブは、目標達成とか、成績向上などの数値達成に適している。これに対して、非金銭的インセンティブは、創造性や独自性を発揮させることに効果的といわれている

さまざまな非金銭的インセンティブ

では、非金銭的なインセンティブとしてどんな方法が考えられるだろうか。まず、経営に参加させるという方法がある。例えば、より大きな、より意義のある、面白い仕事を新たに任せるというのも有効な手段である。また、意思決定プロセスに参加させるのもよい方法だ。経営上のさまざまな意思決定プロセスに従業員が参加して自由に意見を述べることができるようにすることによって、モチベーションを高められるのである。

その他の非金銭的インセンティブとしては次のような方法が考えられる。

  • 品物、商品券、旅行券、食事券、鑑賞券、引換券などを贈る。
  • 企業が会員となり、スポーツジム、テニスクラブやゴルフクラブなどの利用券などを贈る。
  • トレーニングや講座への参加機会をつくる。英会話、資格など自分のスキルを高めることに参加する機会をつくる。
  • 勤務時間の裁量の幅を大きくする。
  • 勤務場所の裁量権を与える。在宅でもいいし、職場に出勤してもよい、あるいはカフェでもよいなど働く場所を自由に選択できるようにする。
  • 一時的に週休3日や4日にしたり、有給休暇日数を増やしたりする。いっそのこと数カ月から半年の休暇などを与えてもよい。以上を組み合わせてもよいし,本人に選んでもらうという方法もある。

非金銭的インセンティブはどんな貢献に対して与えるべきなのであろうか。成果としてカウントされるのは、売り上げなどの営業成績が多い。成果としてカウントされないけれど優れた貢献をした人に報いるために用いるのは、非金銭的インセンティブが適している。職場の雰囲気をよくしたとか、チームワークを促進したとか、改善提案を行ったなどである。

経営者にとって、金銭的インセンティブよりもコスト削減になる可能性は大きいし、職場での人間的な結びつきをつくることもできる。非金銭的インセンティブは予想よりはるかに重要であり、かつ効果的なのである。

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