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変化創出系ミドル「課長 夏川あい」の育て方 [2017.07.31]

第4回 再び営業現場で専門能力の柱をつくる

~STAGE-3 専門的な思考力の形成期~


PMIコンサルティング 株式会社
マネジャー 石丸 晋平

【今回のあらすじ】

 夏川あいは、九州支店で複数の得意先を担当した後、主任に昇格、本社営業本部に異動する。営業本部では、大手コンビニ「ハナマルマート」を担当。夏川は、競合他社に出遅れたコンビニ業態の販売シェアを伸長させ、劣勢を逆転するという組織的な課題の中核を担うことになる。この一皮むける職務経験が、営業としての専門能力を磨き上げる。

■御用聞き営業の壺中主任、提案営業の夏川主任

 ABC食品のコンビニ業態攻略は、明らかに競合他社の後塵(こうじん)を拝し、実に厳しい状況にあった。ファミリー向け商品が主力のABC食品は、若年層に支持されるコンビニ業態を重要視してこなかった。一方で、競合メーカーはコンビニ向け商品の企画やPB(プライベートブランド)開発、地道な営業活動を続けていた。このため、コンビニ店舗が4万店を超え、巨大な市場が形成されるころには圧倒的な差が開いていたのだ。
 コンビニ業態の攻略を戦略課題とする営業本部は、営業体制の強化を進めた。2007年にコンビニ営業部を新設し、秋山部長を責任者として選任した。秋山部長は、広域量販店の営業やマーケティング部、都市部と地方の支店長を経ており、社内でも評判の営業マネジャーである。大手コンビニの担当営業には、壺中主任と夏川主任を配置した。壺中は、入社から一貫して16年間、最大市場の首都圏支店の大手チェーンを担当、今回が初めての異動だった。夏川は、主任昇格と同時に営業本部に着任、入社8年目ながら3回目の異動である。

「コンビニ業態の攻略は最重要課題だ。二人の活躍を期待している」
 秋山部長は、着任した壺中と夏川への期待を表明した。粘り強い対人関係の構築が強みの壺中は、直ちに担当企業の窓口であるマーチャンダイザー(以下、MD)との接触を開始、MDのパーソナルな情報収集に努めた。一方の夏川は、関係者との接触と並行し、コンビニ業界の現状と課題を調査し、コンビニ営業部の課題を達成させる計画立案に着手した。コンビニ業界は、新規出店による成長を続けていたが、既存店売り上げは低迷していた。夏川は、ABC食品が劣勢から逆転するには、コンビニの次なる需要を取り込むことが重要と考えていた。

■安請け合いする壺中主任、構想を練る夏川主任

「Taspo(タスポ)需要に対する販売キャンペーンを大きく打ち出したい」
 壺中は担当MDから販促企画の依頼を受け、二つ返事で応答した。壺中は、新たな商機の情報を得たことに満足していた。Taspo需要とは、コンビニでのタバコ購入の増加により缶コーヒーなどの「ついで買い」が急増した現象である。未成年者の喫煙防止を目的に導入された電子カード(Taspo)の申請には手間がかかることから、消費者の購買行動が自動販売機からコンビニに流れていた。この顕在化した需要に対し、メーカー各社は販促金を増やし、競い合っていた。既にメーカー各社の儲けは少なく、赤字覚悟の企業も現れ始めていた。
 夏川は、一見すると商機にみえるTaspo需要が、メーカー間の販促合戦となり過当競争(過度な販促金の出し合い)に陥ることを見抜いていたため、「ハナマルマート」に対して最小限の提案にとどめた。代わりに、夏川は、消費者行動理論をベースに、新たな需要を取り込むための仮説的な作戦を準備していた。

 夏川は、消費者の行動や、その行動に至る要因を知ることの重要性を、入社後の早い段階に当時の上司から学んだ。その後、地道に理論や事例を学習し、2年前に担当した大手食品スーパーとは、繰り返し消費者心理の調査を行った。特に、核家族世帯の主婦や、単身世帯のOLのモチベーション・リサーチに精通した。
 過去からの調査結果では、美容・健康・時短という女性の関心度の高い領域のパーソナル・インフルエンス(対人的影響)において、都市部のOLは、地方のOLや20~30代の主婦への影響力を持っていた。コンビニ業態の次なるターゲット客層である20~30代の女性の利用客拡大に向けて、夏川は都市部のOLに着目した。秋山部長は、夏川の仮説的な作戦の報告を受け、マーケティング部と連携したプロジェクトチームの立ち上げを指示した。

■窮地に立つ壺中主任、商機をつくる夏川主任

「今年ではなく、来年以降に向けた新たな需要の取り込みについて話がしたい」
 秋山部長と夏川は、「ハナマルマート」の商品本部長との商談に際し、企業レベルでの協議を開始したいとの要望を伝えた。商品本部長は、ABC食品の提案を気に入り、カードサービス部や店舗運営部など、さまざまな関連部門を紹介した。
 夏川は、都市部のOLを起点とする20~30代の女性客層の利用者拡大に向け、さまざまな施策を企画・提案、社内外問わず大いにリーダーシップを発揮した。「ハナマルマート」と実施したモチベーション・リサーチでは、都市部OLの中でもオフィス周辺での購買行動を行うオピニオン・リーダー層と、自宅周辺での購買行動を行うフォロワー層に分かれることが明らかになった。そこで、首都圏オフィス街のコンビニ特化型の商品をオフィス街と、自宅の多い最寄り駅周辺に同時展開、この商品政策は大ヒットした。その後は、主婦層に人気のテレビ番組などの露出を増やし、「ハナマルマート」の地方エリア展開に加え、グループ企業である総合スーパーを巻き込んだムーブメントに発展させた。新たな需要取り込みは大きな成果を上げ、「ハナマルマート」におけるABC食品の劣勢逆転は、既に射程距離圏内となった。
 消費者行動理論は、消費者の購買行動に焦点を当てた研究が多い。夏川は、消費者の購入後の使用行動に着目し、毎日使い続けるメリットを訴求するサービス開発の可能性について検討を始めた。

 一方、壺中は窮地に立っていた。
 壺中は、得意先の担当者からの依頼を一面的に捉え、自社の利益を顧みずに御用聞き対応にまい進した。その結果、担当者間の対人関係には明確な上下関係が生まれ、ABC食品にとって不利な商談・取り引きが目立った。さらには、時間と予算をかけて対人関係を築いてきた担当MDが異動し、販売シェアも大きく縮小した。
 秋山部長は業績回復に向けて提案・交渉に駆け回ったが、ABC食品=都合の良い御用聞きメーカーというポジションが確立されており、提案機会を取り付けることさえ困難であった。壺中は、秋山部長の指示を受け、得意先の上位者や関連部門とのコミュニケーション強化を図ったが、まったくうまくいかなかった。16年間、同じ担当者と同じ交渉を繰り返してきた壺中は、専門性といえる知識もスキルも経験もなく、御用聞き以外の営業活動を知らなかった。秋山部長は、壺中を首都圏支店に戻し、代わりに他の営業担当者を配置せざるを得なかった。

「専門的な思考力の形成期」の育成施策を考える

 一般的に主任層の職務経験が「専門的な思考力の形成期」に該当する。変化創出型の人材への成長を描くためには、この時期に専門性の柱をつくることが極めて重要だ。
 専門性の柱とは、基本原理を応用する力である。専門分野の高度な知識やノウハウを駆使し、実際の「修羅場」において高い付加価値を実現する力が応用力といえる。ここで言う「修羅場」とは、戦略課題など経営上の"重要度"、前例がないなど"困難度"、権限移譲など本人の"自由度"という三つの度合いが高い職務経験を指す。担当者としての限定的な職務の延長上には応用力を要する「修羅場」は存在しないことに注意したい。

 「専門的な思考力の形成期」には、「修羅場」の職務経験が必要だが、主に二つの理由から職務経験がデザインされていない企業は少なくない。
 一つの理由は、主任層人材の基本が成立していないケースだ。これには前回解説した「人材の塩漬け問題」が大いに影響している。今回登場した壺中がまさに塩漬け問題の被害者である。残念ながら基本のできていない人材は、応用以前の問題である。この問題の解決策については、前回までの記事を参考にしてほしい。主任層に達する以前の職務経験を適切にデザインし、ビジネスにおける基本を成立させる必要がある。
 もう一つの理由は、現場に意図的な「修羅場」をつくる能力がないケースだ。経営環境の変化に伴い、企業の戦略や課題は変化する。この変化を察知し、チャレンジングな課題を形成する能力は、すべての現場に求められる。そして、重要度と困難度の高い組織課題に有能なプレイヤーを配置し、一皮むける職務経験を与える人材育成は、現場のマネジメント業務の一環である。しかし、このマネジメント業務の遂行能力が現場に備わっていないケースが散見される。これは将来的な組織能力に関わるミドルマネジメントの深刻な問題である。
 現場で「修羅場」をデザインする能力の機能不全が起きれば、高度で専門的な思考力を問われる機会がないまま管理職に登用されるケースが増加する。一時的な高業績を理由に、基本的な能力形成に問題のある人材が管理職に昇格するケースさえ見受けられる。壺中が、異動することなく管理職に昇格する姿をイメージしてもらいたい。応用力なき上司は、部下の応用力を鍛えることはできない。悪循環の原因であり、由々しき事態である。その結果、次代のマネジメントを担うべき人材が、世の中の変化や経営課題とは切り離された現場の業務に埋没してしまう。ここでは、現場に意図的な「修羅場」をデザインする能力がないケースにおける対策を紹介したい。

 具体的な対策とは、経営主導の管理職候補層に対する実践型プログラムの導入である。現場には、緊急度の高い業務や課題が山積しており、重要であっても追加の負担は回避したいものだ。現場任せにせず、経営の意思として「修羅場」を課すことが重要だ。有能なプレイヤーが視野狭窄(きょうさく)に陥る前に、自社の経営環境をひもとき、経営計画や戦略の意図を理解した上で、自ら推進すべき組織的な課題に対する企画・推進させるプログラムを導入する。高い専門性を応用し、組織的にスケールの大きな成果を目指さなければ、期待を上回ることができない過酷な職務経験となる。私たちは、こうした人材育成施策をNLDプログラム(New Leader Development Program)と位置づけ、さまざまな企業への支援を通じて実践を積み上げてきている。
 例えば、自社の経営課題を経営者に直接ヒアリングし、現場として率先して成果を上げるべき組織課題を自分たちの力で形成していく。さまざまな関係者を巻き込み、困難な交渉を行い、状況を俯瞰(ふかん)的に捉えながらリーダーシップを発揮して新たな価値を創出するプロセスが「修羅場」そのものの経験となる。一定期間の取り組みを通じ、最終的には経営者へその成果を報告する。これら一連の流れが、いわば管理職候補向けのMBE(Management By Experience)である。従来業務の延長線で視野狭窄に陥っている管理職候補者や、その上司は面食らってしまう内容だが、こうした機会から、経営者をうならせる発案や成果が生まれることもしばしばある。

[図表]人材育成設計の具体例:STAGE-3専門的な思考力の形成期

 こうした形で、経営課題に直結する組織的な活動を企画・推進する上では、[図表]のステップCに示したように、思考の軸を補助する経営理論の基礎(経営戦略、マーケティング、財務会計など)の学習が必須である。管理職昇格前に、経営理論全般の基本的な知識を習得しておきたい。また、応用力を養うために、組織的な重要課題に専門性を活かす実践経験と、普遍的な理論に精通する学習を反復させる必要がある。特に自らの専門性の柱とする領域は、業界を見渡してトップレベルと言える知識・スキルの習得を目指したい。

 次回は、夏川が専門性を多角的に拡大していく過程を通じて、思考と行動の軸を増やす職務経験のデザインについて考えていく。

<主人公のプロフィール>

氏  名: 夏川あい

生年月日: 1977年7月12日

学  歴: 早稲田大学 法学部卒

職  歴: 2000年4月 食品メーカーABC食品に入社

【連載全7回のテーマ(予定)】

[第1回] 序章 人材育成への問題提起

[第2回] 営業先で仕事の考え方が変わった日 STAGE-1 ビジネスOSの導入期

[第3回] 実務を通じて汎用能力の土台をつくる STAGE-2 多面的な思考力の形成期

[第4回] 再び営業現場で専門能力の柱をつくる STAGE-3 専門的な思考力の形成期

[第5回] 異動先で専門能力を拡張する STAGE-4 多角的な専門性の形成期

[第6回] 職場改革をリードする STAGE-5 夏川あいの後日談

[第7回] 終章 新たな人材育成の仕組みづくり

石丸 晋平 いしまる しんぺい
PMIコンサルティング株式会社 マネジャー
人事、組織、マーケティングなど、多岐にわたる分野で、多くの企業に対するコンサルテーションの実績を持つ。企業の競争力の源泉である「人」を徹底的に洞察するアプローチから、人材開発戦略の立案、次代のリーダー開発、営業組織改革、ダイバーシティ経営の支援など、人材開発を中核としたコンサルティングに従事している。
http://www.pmi-c.co.jp/

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