Point of view [2017.02.24]

第81回 三木明子

発達障害者への理解と配慮のある職場づくり


三木明子 みき あきこ
筑波大学 医学医療系 准教授

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(精神保健学・看護学分野)、博士(保健学)。産業保健看護上級専門家(保健師)。宮城大学、岡山大学を経て、2005年4月より筑波大学医学医療系准教授(現職)。日本産業精神保健学会(理事、編集委員)、日本産業看護学会(理事、研究委員長)、日本産業ストレス学会(評議員、編集委員)、日本精神保健看護学会(代議員)、日本看護学教育学会(評議員)などを務める。

進む法整備の下で、企業による就労環境整備が急務

2005年4月に「発達障害者支援法」が施行され、国民の理解の促進や発達障害のある人に対する包括的な支援がスタートし、その後、初めてとなる改正が、2016年5月の参議院本会議で可決成立した。この間、2011年には障害者基本法の一部改正で発達障害が法の対象に含まれることが明文化され、さらに障害者差別解消法が2016年4月からスタートした。また、2018年4月からは、法定雇用率の算定基礎に精神障害者が加わることとなり、こうした流れの中で、これまで以上に発達障害者への理解と配慮ある職場環境が必要となる。

改正発達障害者支援法は、就労と教育支援を強化することを柱とし、子どもから高齢者までのライフステージで切れ目のない支援を目指す。その中でも、発達障害者の就労機会の確保および職場定着のためには、個々の障害の特性に配慮した良好な就労環境の構築が重要であり、ハラスメント予防のための取り組みやジョブコーチを活用した相談・助言体制の充実を図ることが盛り込まれている。また、就労を支援する上では主治医や産業医などの産業保健スタッフが相互に連携を図りながら協力できる体制を整備するとともに、産業保健スタッフが受ける発達障害者の雇用に関する研修について必要な検討を行うことが明示されている。

大人の発達障害

近年、大人の発達障害に関する本が相次いで出版され、子どもだけの特性ではないことが広く知られるようになった。アメリカ精神医学会では2013年に診断基準のマニュアルを改定し、これまで広汎な領域に及ぶ発達上の問題や障害を「広汎性発達障害(PDD)」と表現してきた定義を改めて、「自閉症スペクトラム障害(ASD)」と"自閉性の連続体(スペクトラム)"と捉えるように変更している。

発達障害者は、発達の遅れではなく発達に顕著な偏りがあるために、社会で生活しにくい人のことをいう。彼ら・彼女らは、人と接する日々の生活の中で、できることとできないことの落差が大きい。そうした人々を支える発達障害者支援法では、発達障害は「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害」、発達障害者は「発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるもの」と示されている。周囲に工夫や配慮がない状況(社会的障壁)を、社会全体で問題解決していく考え方に変わってきたのである。

発達障害のある人を理解するために

発達障害を理解する上で、社会性の障害、コミュニケーションの障害、想像力の障害があることを知っていただきたい。そのため、周囲からは「これぐらいは言わなくても分かるだろうということが分からない」「悪気もなく失礼なことを言う」「ミスを繰り返す」「忘れ物が多い」「複数のことを同時に対応できない」など、さまざまな印象を持たれる。

つまり、暗黙のルールが分からない、周囲の状況が読み取れない、相手の気持ちが分からないことがある。社会常識に照らして叱っても、本人が混乱してしまう場合がある。①その場で、②順序立てて、③具体的に、④簡潔に話し、やさしい言葉で社会のルールを伝えることが肝要である。「これぐらいは分かるだろう」は通用しないことを周囲は理解しなければならない。

時に、一方的に話す、相手と会話が続けられない、皮肉・冗談が理解できないこともある。こうした場合は、冗談や比喩(ひゆ)を使わず、言葉を省略せず、正しく伝える。

多くの人が参加する会議の席で話すことは苦手というケースもある。たくさんの情報から自分に必要な情報だけを取り出す能力(選択的注意)に困難があるためである。仕事以外の要求はせず、本人が職場の行事(スポーツ大会、歓送迎会など)に参加したくなければ、無理強いしないことにも配慮すべきである。

また、感覚過敏があり、騒音のある環境を好まない。さらに、「少し」や「ほとんど」が一般化できない、先の見通しが立てられない、急な変更でパニックを起こすことがある。「少しお待ち下さい」と言うと、「何分、待ちますか?」と聞き返し、「ほとんどありません」と言うと、「何%ですか?」と聞き返す。時間や数値化できるものは、具体的にする「後で来て下さい」ではなく、「○時△分に、××の場所に来て下さい」と伝える。仕事は一度に多くを与えず、一つひとつ依頼する工夫が必要である。

職場でどう支援するか

発達障害者に対しては、本人の言動を直そうとせず、本人が職場で困らないように支援をすることが大切である。本人の障害特性を理解した上で、適材適所に配置し、環境調整と視覚化でストレスを軽減する。最後に、支援に向けた具体的なポイントをまとめておくので、ぜひ皆さんの職場でのご検討に役立てていただきたい。

[1]環境を整える

・知覚過敏に対して具体的な対応を本人と決める(光や音に敏感であれば、サングラス使用や耳栓使用を許可する、照度や音量を下げるなど)

・指示は口頭ではなく、eメール、写真、イラスト、図表など視覚情報を利用して伝達する

・1日、1カ月のスケジュールを一緒に立てる

・職場の全員が本人の特性を理解できなくても、特定の理解者がいればその人が継続的に支援をする

[2]本人の能力を最大限発揮できる業務内容を見つける

・顧客とのトラブルが多い場合は、人と交渉する業務は複数で交渉する

・新しいことを覚えにくい場合は、ルーティン業務を多く割り振り、資料やマニュアルを充実させる

・パニックを起こす場合は、事前に変更を伝えておき、本人のペースでできる時間的にゆとりがある業務に変更する

[3]本人との付き合い方を工夫する

・良いところを伝え、行動を褒める

・できる課題を提示し小さな成功を積み重ねる

・物事の善悪を説くよりも、本人に何のメリットがあるのか損得で説明するほうが伝わる

・攻撃された時は、相手の視界に入らず、「人」「時間」「場所」を変えるのいずれかを実行し、エスカレーションを防ぐ

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