Point of view [2017.01.27]

第79回 脊尾大雅

人事が知っておきたいメンタルヘルス不調者への対応


脊尾大雅 せお たいが
社会保険労務士、精神保健福祉士
秋葉原社会保険労務士事務所 代表

精神科医療機関でアルコール依存症などの治療に携わった後、EAP専門会社に入社。契約先従業員・家族のカウンセリング、人事労務担当者・管理監督者の労務相談、職場環境改善のコンサルテーション、メンタルヘルスやコミュニケーションに関する研修を担当。そのかたわら、精神保健福祉士養成学校にて講師を務めるほか、2013年には小規模零細事業場のメンタルヘルスに関する産業医学振興財団の研究グループに参加。2016年に秋葉原社会保険労務士事務所を開設。著書に、「メンタルヘルス対策 はじめの一歩」(共著・産業医学振興財団)などがある。

 

2015年12月よりストレスチェック制度が義務化され、会社が従業員のストレスやメンタルヘルス不調について関与する余地が広くなった。この制度を契機に、会社は従業員の健康向上やメンタルヘルス対策に展開していくことが望ましい。

ただ、「そもそも不調者にどのように対応したらよいのか分からない」という方も多いと思われるので、今回は人事労務担当者が知っておきたい基本的な対応について言及したい。

■「基本的な労務提供ができているか」が前提

従業員は労務を提供し、会社にはその対価として賃金を支払うという主たる義務が、労使間には存在する。会社が持つ視点はこれを前提とすることが大事であり、病気かどうかは関係ない。例えば、慢性的に身体的疾患を抱えた方はいわゆる「病気」の状態だが、この一点を持って仕事ができないということではない。

精神的な疾患も同様である。精神的な不調を感じて通院している方でも仕事ができている方は多くいる。よって、病気かどうかは労使間における義務に影響を与えるものではない、ということを前提として考えなければならない。あくまで「仕事ができているかどうか」が重要である。

■対応の優先順位は「受診」ではなく「サポート」

とはいえ、仕事ができているとしても不調を感じさせる従業員がいた場合、「何かおかしいけど働けているからよい」とするわけにもいかない。不調を感じさせる従業員がいた場合、「まずは話をする」ことが大事で、これが安全配慮義務履行のための基本的な行動である。話をした結果、どのようなサポートができるかを考えることが望ましい。

注意すべきなのは、この段階ではあくまで「サポート」を考えるのであって、「医療機関への受診を勧奨する」ことが目的ではない。話を聴くことによって気持ちが晴れ、本来の状態に戻る可能性もある。どのようなサポートの在り方が必要かを本人と確認することが大事である。仕事やプライベートの問題の解決への手助け、業務上の配慮や職場環境の調整など、想定されることはさまざまであるが、できる範囲でのサポートが展開されることが望ましい。

そうしてしばらく様子を見ていても不調が改善されなかったり、本人がつらい状況である場合には、医療機関への受診を促す必要がある。その際、社内に産業保健スタッフがいる場合は、そちらを案内してからがよい。

人が成長するためには一定の負荷がかかるものである。その時には多少「何かおかしいな」と思う様子はあるかもしれない。ただ、そこで医療を勧めてしまうのは早計である。まずはサポートの強化を意識してもらいたい。そのためには早めに声掛けをして話を聴くことが大事である。遅くなってしまってはサポートではどうにもならない可能性がある。

■ストレスチェック制度を活かし、サポートの強化を

ストレスチェック制度は、「労働者のストレスの程度を把握し、労働者自身のストレスへの気づきを促すとともに、職場改善につなげ、働きやすい職場づくりを進めることによって、労働者がメンタルヘルス不調となることを未然に防止すること(一次予防)」が主な目的である。(厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」4ページ)

会社が具体的に行うべきは、従業員が自分のストレスに気づいて、積極的にセルフケアに努めるよう後押しすること、働きやすい職場づくりの阻害要因を除去することである。

そもそもストレスはどのような場面でも存在するものであり、そのすべてを医療の場面に落とし込むことは得策ではない。むしろストレスが高い職場環境だという結果が分かったら、サポートの在り方の再検討、長時間労働やハラスメントなど働きづらい職場環境の調査や是正、高負荷状況の把握と是正をすることが大事である。

人が成長するために本来は必要なストレスを会社が取り除いてしまっては、組織は確実に弱体化する可能性が高い。ただし、その負荷が不合理なものや違法性のあるもの、成長を抑制してしまうほど過度なものであれば、会社はその除去に積極的に努めなければならない。その判断が、人事労務担当者の役割の一つと言える。会社は、不適切な負荷や極端な負荷を除去しつつ、管理監督者を中心とした相互サポートの強化を目指す方針を打ち出し、個の成長を促しつつ組織としての強化を図る。それが働きやすい職場づくり、組織の発展になると思われる。

2018年4月1日からは障害者雇用率の算定基礎に精神障害が加わり、法定雇用率も上昇する予定であり、配慮とサポートのバランスが一層求められると考えられる。不調が疑われる社員へは、すぐに医療につなげるのではなく、上司が話を聴き、必要なサポートを講じ、産業保健スタッフ等がいる場合はそこに相談するなど、まずは基本的な行動から見直すことをお勧めしたい。

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