Point of view [2016.10.28]

第73回 ボブ田中

人材と組織が元気になるデザイン思考とは


ボブ田中  ぼぶ たなか
東北芸術工科大学デザイン工学部企画構想学科 教授

株式会社ボブ田中事務所代表。本田技研工業、アサツーディ・ケイを経て独立。現在は、イノベーションデザイナーとして多くのブランド構築や商品開発などに携わる。専門領域は、イノベーション実践論、創造性開発。2006年カンヌ国際広告祭日本代表審査員。著書に「広告のことが面白いほどわかる本」(中経出版 2010年)、など多数。

 

■時代が働き方を変える

大学で教鞭をとっていることもあり、さまざまなタイプの学生たちと接しているが、「もう少し頑張ってみよう。そうすれば、いいことがある」といった文句は、もはや、ほとんどの学生には通用しないということを強く感じる。私自身が生まれたのは高度成長期と言われる時代であり、事実1956年から1973年までのGDPは平均9.1%という高い成長率を維持していた。さらに、1990年代初頭のバブル崩壊まで日本経済は成長し続けたこともあり、私にとっての「経済」とは常に成長するものであり、仕事を頑張れば良いポストを得られ、給料も右肩上がりで増えるものであった。しかし、今の大学生が生まれたのは1997年以降であり、今に至るまでのGDPは0%辺りをウロウロしている状態。つまり、学生たちは生まれてから大学生になるまで、好景気というものを知らないし、周囲の大人が頑張っても報われない姿をたくさん見てきているのである。

そもそも働き方そのものが変わってきている。英国のオックスフォード大学でAI(人工知能)の研究を専門とするマイケル・A・オズボーン准教授は今から3年ほど前、人間が現在行っている仕事の約半分は、将来機械に奪われると予測した。ビッグデータの処理速度やセンサー技術の高度化などにより、機械が人間より早く正確に安く仕事をこなしてしまうというのだ。実際今でも多くの回転寿司店では、注文をタブレットで行い、注文した寿司はレールで届くというシステムとなっており、そこに人の姿を見ることはない。自動運転技術のクルマの実現が急に現実味を帯びてきていることも、オズボーン准教授の予測がもはや現実化し始めていることを感じさせる。

■創造性あふれる企業が求められている

前述の学生に向けた「頑張ろう」という言葉は、学生にとっては「汗水流して身体を駆使する」という意味合いに感じられるようで、これからの時代は、そもそも「頑張り方」が違うことを学生自身が既に読み取っているようにも見える。つまり、機械ができることは機械に任せる。一方、人間は、身体を使うのではなく脳に汗水を垂らす時代だということだ。機械ができない発想力で、問題解決のための答えを導き出していく。そういった創造性が求められているともいえよう。

実際、現在世界で活躍している企業は、技術そのものやモノづくりに長けている企業ではなく、新たな発想で新しいビジネスやデザインを生み出しているGoogleやAppleなどである。それに比べ、過去に世界を席巻していた日本の企業は創造性を発揮できず、依然として同じカテゴリーの中でどんぐりの背比べをしているような印象だ。

■日本企業が復活するための二つのヒント

この日本企業の停滞の原因はさまざまあるであろうが、本稿では、一つは創造性のある人材の育成ができていないこと。そして、組織としてその創造性を認める風土ができていないことを挙げておきたい。

まず一つ目の"人材育成"に関して述べると、今までの日本の学校教育は知識偏重であり、情報や知識を多く正しく記憶できる学生が優秀とされてきた。企業内においても同様で、さまざまな市場データを収集し、決まったフレームワークに当てはめて分析することで、解を導き出すことが重要視されてきた。その最たるものがマーケティングである。フレームに当てはめれば、画期的なものではないけれども大失敗することもない答えが出てくる。逆に言えば、誰がやってもそこそこの答えを得ることができるのだが、それが他企業との競争から抜け出すことのできない同じパイの食い合いという状況を生み出しているように思える。

二つ目の"組織"については、創造的なアイデアや提案を認められない日本企業の風土である。多くの企業が「イノベーション」を標榜しているものの、新しい提案を過去の成功者が過去の物差しで評価し、潰してしまっている。評価している本人は、正しい判断だと思ってやっているのだが、そもそも今までにないイノベーショナルなアイデアなど、正確には誰にも評価できない。課長、部長、役員、社長へと何段階も通り抜けなければならない関門がある中で、善意の判断により必ずどこかで却下されてしまうのだ。

■イノベーションを生み出す「デザイン思考」

このような創造性の高い人材育成と組織風土の改革のためには、今までの成功体験をなぞることのない新たなシステムを導入することが急務であろう。最近、注目されている「デザイン思考」は、シリコンバレーの多くの企業が実践している思考方法として注目されており、導入の仕方によってはその解決策になる可能性がある。この思考法はデザイナーが問題解決のために行う思考過程を体系化したものであり、イノベーションを生み出すことをゴールとしている。

最初のステップは、市場データの分析結果から傾向と課題を導くのではなく、「人間」をじっくりと観察し、その行動から今まで顕在化していなかったインサイトを導き出すことから始まる。次のステップでは、そのインサイトに対して、既成概念にとらわれないアイデアを生み出し、そのアイデアをプロトタイプにしていく。アイデアを机上で固めてしまうのではなく、費用をかけないプロトタイプを何度もつくることで、市場での適合性を判断していくのである。

iPhoneやUber(米国発のタクシーに代わる自動車配車アプリ)などのイノベーションが、このデザイン思考から生まれたかどうかは定かではないが、少なくとも旧来のマーケティング手法では生まれなかったプロダクトでありサービスであろう。2013年に、経済産業省が「デザイン思考を活用した企業経営の在り方に関する調査」結果を報告書として公表してからは、多くの企業が研修やコンサルティングを利用し、デザイン思考の導入を急いでいるようである。

※詳しくは、16年8月に上梓した拙著「まだ、マーケティングですか?」(日本能率協会マネジメントセンター)をご覧いただきたい。

日本から、イノベーションが次々と生まれ、新たな時代が切り開かれること、多くの人がそのイノベーションの恩恵にあずかり元気になる日が訪れることを願わずにはいられない。

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