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米国大手企業でパラダイムシフト進む 人事評価の新潮流 [2016.09.09]

第2回 新人事評価の「型」と設計ステップ


槇 千晴
マーサー ジャパン株式会社
組織・人事変革コンサルティング コンサルタント

 前回は、パフォーマンスマネジメント、いわゆる人事評価見直しの背景を「組織の生存条件」「ヒトを活かす条件」「ヒトの志向性」の変化という観点から整理した。
 第2回となる今回は、新しい人事評価の「型」と設計ステップについて紹介する。

1.新しい人事評価の「型」

これまで人事評価には、以下のように大きく三つの機能が求められてきた。
①経営の期待値に対する社員の実績値(達成度)の見極め
②結果に基づく等級や報酬の判断材料
③社員の方向づけ、動機づけ、育成促進

 しかし運用の現場では、①②の位置づけが過度に重視され、事実上、③はないがしろにされていることが多いのが実態だ。
 本来は、社員の実績値(達成度)の見極めよりも、どうすれば経営の期待を超える成果を出せるようになるのかを検討することこそが重要である。しかし、実績値(達成度)の見極めを昇格や報酬の判断材料として用いることから、評価結果が処遇決定の手段としての色彩が濃くなる結果、評価プロセスにおいて「社員の方向づけ、動機づけ、育成促進」が後景に追いやられてしまっている。
 一方、人事評価の新しい潮流は、①②よりも③の機能強化に軸足を置く。この動きが目指すところは、過去のものである結果の測定や評価調整に時間を投下するのではなく、企業業績の先行指標である個人のケイパビリティ(企業競争力を高める原動力となる組織的な能力や強み)向上に焦点を当て、それぞれ異なる個人の成長に寄与することにある。
 そこで本稿では、人事評価の新しい潮流について、以下の三つの「型」から、その本質的特徴を見ていきたい。

■要件1 フレキシブルであること

 一つ目の要件、それは評価のモノサシを固定化しないことにある。「固定化しない」対象は、評価項目、評価ウエート、期初に設定された目標、さらには評価者に及ぶ。
 その理由は大きく二つある。まず、昨今のVUCAと呼ばれる複雑な経営環境下においては、経営環境に即応できる組織のフレキシビリティが生存要件になる。組織は、異質(多様)人材の集合体であることが必要になり、その異質の良し悪しを測るモノサシが均一では機能しないことから、必然的に評価のモノサシは多様性を備えたものとなる。また、環境の変化に応じた適宜変更や調整を可能にすることで、目標の鮮度を保ち、その達成の経営への寄与度を高めることが必要になる。
 こうしたフレキシブルな仕組みの中では、異質(多様)人材の個々に着目することが必要であるため、評価の在り方は個々人ごとに設定されたモノサシに基づく、絶対評価にならざるを得ない。
 相対評価(レーティング)は、必然的に社員を競争に駆り立てる結果となるが、相対評価の廃止すなわち絶対評価への移行は、社員を社内競争から解放し、自己のさらなる成長による自己実現・社員間の共創への移行を容易にするだろう。その意味で、相対評価の廃止は、本質的には、多様性の尊重との引き換えといえるだろう。

[図表1]フレキシブルな仕組みを導入した企業事例

企業類型 制度の特徴 目  的
A社 中長期ビジョン実現を戦略的に行う部門に対して、期間中に求められる「成果」に対する評価ウエートや、達成時の報酬へのインパクトを通常制度より高く設定することが可能(10倍等) 最も重要なことは何かを極端なまでに明示し、その達成への注力を促す
B社 毎月、評価者とのディスカッションの中で、目標の進捗を確認。達成が認められた時点で、新たな目標に差し替える 達成された目標のために年度の残りをアイドリングさせない。達成意欲の維持・継続を習慣的に促す(チャレンジカルチャーの醸成)
C社 目標設定のKPIsは自由設定(1項目のみ固定) 「本人が取り組みたいこと」への注力が最も成果を上げるという前提で、イノベーションの発生頻度が上がることに期待(運用支援を目的に、階層/等級ごとにKPIsのガイドラインを提示)

[注]図表では、導入準備中の企業も含めている。

 では、相対評価を廃して、報酬とのリンケージをどうとるのか。
 これについては、大きく二つのポイントがある。一つは、報酬決定要素として市場価値を取り入れることであり、もう一つはトータルリワード(等級・報酬のみならず、成長・育成機会の提供等を包括する処遇体系)の観点から処遇を決定するということである。
 これまでは社内の「評価」に基づいて報酬が決定されてきたが、いくら社内の「評価」が高くとも、市場価値よりも低い報酬水準では、優秀人材をリテイン(定着)できない。社内の「評価」によらず、個々の社員の市場価値に見合った報酬水準が担保されていれば、報酬による優秀人材の流出は相当に抑えることができるだろう。
 また、個々人の志向が、より多様化する現代においては、報酬が流出のトリガーにはならない場合も多い。仮に市場価値に満たない報酬額であっても、就業環境や従事している仕事自体の満足度が高いため、その会社で働き続けるという選択をする者もいるであろう。衛生要因のみならず、動機づけ要因も含んだトータルリワードの観点から「個々人の処遇」を考えることが、最も妥当性の高いプラクティスであるものと考えられる。

■要件2 オープンであること

 二つ目の要件は、1次評価者・2次評価者・最終評価者といった閉じた世界で評価を完結させないことである。それは、また、評価結果通知(Inform)という、一般的には上司から部下への一方向のコミュニケーションをやめることも意味している。
 閉じた世界で評価を完結させないこととは、具体的には、多方向(multidimensional)フィードバックの環境を整えることを指す。
 これは、異質の良し悪しを測るモノサシを複数の価値観で構成することで、個の秀でた一芸を引き出す確度の向上を企図している。また、人事評価というインフラを、ある種の社内におけるコミュニケーション、ソーシャルネットワークの場として開放し、仕事と成長というテーマでつながり、結果的に共創を促す環境の構築が期待されている。
 一方向のコミュニケーションをやめることとは、成長支援を目的とした対話(Dialogue)へのコミュニケーションの質的変換を企図している。
 実際、このオープンな仕組みは、導入企業において、果たして成長への注力強化のみならず、関係者の物理的・心的負担の軽減にも貢献しているようだ。目標管理から成長支援への軸足移行により、上司は関係者を納得させるための評価のエビデンス作成に膨大な時間をかける必要がなくなり、部下はレーティングによる評価結果とその後の処遇への不安が軽減されているというのが導入企業から多く聞かれる声である。
 また、環境面においては、フィードバックの鮮度や効果性を重視し、ハード/ソフト面の環境整備に努める企業が多いことは、本要件を担保する上での特徴といえる。

[図表2]オープンな仕組みを導入した企業事例

企業類型 制度の特徴 目  的
D社 評価は毎月。定期的なディスカッションをルール化 まずは「ルール」とすることで習慣化を企図。数を重ねることで抵抗感を廃し、フィードバック文化の醸成を促す
E社 フィードバック用のアプリを導入。直属上司の他、業務関係者から、日常的にアプリを介してフィードバックを受けることが可能。直属上司は、これらのフィードバックも踏まえた上で、必要な場面で対面式の対話を行う 多方向フィードバックが日常的に行いやすい環境を整え、組織全体のフィードバック文化の醸成を促す
F社 年2回の評価面談を廃止。一年を通じて必要な場面でインサイトを与える対話をルール化。対面の他、フィードバック用のアプリを導入 フィードバックは現状直属上司・部下間で実施。フィードバックが日常的に行いやすい環境を整え、必要なその時に最も鮮度と価値のある気づきの提供を促す

■要件3 パーソナルであること

 三つ目の要件、それはマス管理をしないことにある。ヒトの志向性が変化している中で、従前の等級・報酬のインセンティブだけで、異質(多様)人材を惹きつけることは難しい。これからは、仕事のやりがいや周囲からの認知を含む広義のトータルリワードでの適切な処遇が求められる。そして、金銭的報酬のみならず、非金銭的報酬(例:プロボノ[自らの専門知識や技能を活かして参加する社会貢献]活動への従事、やりたいポジション・ロールへのチャレンジ制度、休職・留学制度、表彰などの社内認知制度、等々)も含めた経営資源の効果的投資配分の実現には、マスに対する均等配分から、よりパーソナルな投資配分への転換が必要である。したがって、新しい人事評価の潮流においては、個に着目した配分設計・実行が必須となる。
 導入企業に対するインタビューでも、「追求すべきは(等級や報酬による)差別化よりも個別化」「イノベーションを牽引可能な人材に必要な処遇を行うことを仕組みとして担保する」という声が、その必要性を裏づけている。

[図表3]パーソナルな仕組みを導入した企業事例

企業類型 制度の特徴 目  的
G社 明確な「最終評点/評語」は付さない仕組みに改定。相対評価結果より「下位N%は必出、減給、即PIP(Performance Improvement Plan、業務改善計画)」という厳格な処遇運用ルールを廃止。直属上司、関係者からのフィードバックを総合的に勘案して処遇を決定する仕組みとする (ヒトとして凸凹があっても)イノベーションを牽引可能な人材に必要な処遇を行うことを可能にする
H社 「成果に応じた処遇(Pay for Performance)」の方針は維持し、決定プロセスの透明性を廃止 (処遇決定権者層による)レーティングの結果指標に頼らない人材投資の議論を促進する

2.標準的な設計ステップ

 ここでは、どのようなステップを経て新しい人事評価の設計を行っているのか、三つのステップから見ていきたい。

■ステップ1 現状分析

 現状分析のゴールは、人事評価の見直しにより、実現したい「あるべき姿」の定義を行うことにある。なお、現状分析は、自社の課題抽出と市場プラクティスの調査で構成される。それぞれを見ていこう。

[ステップ1-1]課題の抽出

 人事制度は手段であり、目的ではない。この評価制度の新しい潮流も、ある課題解決のために導入されているものである。したがって、制度導入の是非を検討する前に、何を目的とした見直しであるのかを具体的に定義することが重要であることは言うまでもない。
 すでに導入している企業では、設計・導入における留意点として、「仕組みの説明よりも導入背景の説明とその腹落ち感が重要」「なぜ見直すのかを明確に伝える必要性」を挙げ、制度改定・導入の目的を明確化することの重要性を述べている。
 「ストーリーを語る必要がある。腹落ちしなければヒトは動かない。背景はどうあれ、これまでの考え方やプロセスを抜本的に変えることを納得させるだけの"Why"がなければ、現場のコミットは望めない」「たとえどんなに不満を口にしていても、古いプロセスへの愛着をみくびってはいけない。時間を掛けて意識を変える必要があり、また、意識を変えようという気にさせる理由がいる」と彼らは説明する。
 経営視点での課題抽出、あるべき姿の定義のみならず、従業員の視点も踏まえてトップダウンとボトムアップを組み合わせた形で実施することが求められる。

[ステップ1-2]市場プラクティスの調査

 「あるべき姿」が定義された後(または並行して)行われるのが、市場プラクティスの調査である。具体的には、当該領域に関連するカンファレンス等の参加による全体的なトレンドの確認、先行導入企業へのヒアリング等を行う。
 これらの情報収集は、例えばグローバル企業であれば、グローバルのCOEが情報の収集および地域・各社への提供を行っているようである。地域内・地域外の人事担当者は、共有された情報を基盤に、お互い意見交換をしながら知見を高め、制度設計や導入準備プロジェクトチームへの直接的・間接的関与を行い、当該領域のチャンピオン(擁護者)として機能することが期待される傾向が見られる。

※COE(Center of Excellence):一般的には、特定分野に集中して行動的な研究・開発活動を行う組織。当該活動に関わる人材やノウハウ・ツール等を結集した組織をいう場合もある

■ステップ2 制度設計

 ステップ1で自社の課題抽出と市場プラクティスの調査を通じて明確化されたあるべき姿の実現に向けて、打ち手を絞り込む。市場プラクティスを参照して、あれもこれもと欲を出して総花的に手を出すと失敗することになる。ここでは、あくまで自社固有の打ち手を絞り込むことが大事となる。
 加えて、多くの導入企業の設計方針に「シンプルであること(Simplify)」が含まれている点も見逃せない。では、具体的に、どのようなアプローチで形づくられるのか、以下に見ていきたい。

[ステップ2-1]打ち手の絞り込み

 人事評価は、単なる人材マネジメントツールの一つというレベルの位置づけではなく、人材戦略そのものであり、経営戦略の実現に大きな影響を及ぼすコアな要素になる。ステップ1で定義された「あるべき姿」に基づく自社独自の方針が明確になっていれば、おのずと打ち手は絞り込まれていく。
 なお、ここで忘れてはいけないのが、導入企業の設計方針「シンプルであること(Simplify)」ある。「今より複雑な仕組みはあり得ない」と、ある導入企業の人事担当者は言う。「直感的に"今より良くなる"ことが期待できるデザインでなければ、課題解決のストーリーの納得性は担保されない」「使い勝手の悪いツールを使って、気軽にフィードバックをしようという気にはならない」
 こういったある種のプレッシャーを背景に、企業によっては、フィードバックに必要な最小限の要素に限定した設計を志向しているところもある。
 横並びで考える必要はなく、ぜひ自社独自の得たい果実を獲得することを考えていただきたい。

[ステップ2-2]ユーザーの参画によるアップグレード

 マネージャーその他従業員のニーズを組み込み、いわゆる「ユーザーの声」を反映しながら、試行錯誤を通じてアップグレードしていくことが重要になる。
 これは、従来の人事制度見直しにおいてはあまり考えられなかったアプローチではないだろうか。
 具体的には、設計のフェーズ、テーマごとに、試運転への協力・意見収集・交換する場を設け、有用なものは実際の設計に反映するというアプローチである。
 「アイテムにより選定された協力者の意見を収集し、また、テーマによっては協力者内の議論を促している。制度名称といったものは、全社員にオープンに募る場合もある。また、意見や議論は、人事が用意するたたき台をベースに行う形式をとっているが、却下されることが多い」といった企業も出てきている。
 こうしたアプローチは、ユーザーの巻き込みを通じた導入後の機能化を志向しているが、その効用は、経営・人事側のみならず、協力者にも思いがけないベネフィットをもたらしているという。
 「地理的にも業務的にも直接的な接点のなかった社員同士が、このイントラを通じて意見交換・議論をすることになった。結果として社内のパイプライン形成につながり、取り組みに対する協力者の好感度やコミットの度合いも上がった」

■ステップ3 導入準備

 導入準備における要諦は、スモールスタート&クイックウィンである。制度設計全般に通じるが、「完璧・万全を志向せず、まず走らせることを重視する。その上で課題を抽出して改善する」ことが志向される。
 まずはスモールスタート(Small start)でも成功体験(Quick win)を作り、とにかくユーザーに受け入れてもらえるところから始めて、改善を繰り返し、認知と共に展開範囲を拡大していくことを推奨する。なじませることも重要なポイントなのである。
 そのためには、何においても「丁寧な社員説明」に尽きる。目的や思想を共有し、徹底した理解、浸透に注力する。これが何よりの肝である。

3.チェンジマネジメントとしての取り組み

 今回は、新しい人事評価の潮流の「型」とその標準的な設計ステップを紹介した。
 新しい人事評価の潮流への転換は、単なる人事施策の部分変更にとどまるものではない、ということを押さえておくことは大変に重要である。
 従来の人事評価は、過去のものである結果の測定や評価調整に多大な時間を必要とし、そして、その評価結果は、主に処遇決定のツールとして機能してきた。しかし、新しい人事評価の潮流の目指すところは、企業業績の先行指標である個人のケイパビリティ向上に焦点を当て、それぞれ異なる個人の成長を促すことによって、業績向上を図ることにある。
 すなわち、新しい人事評価の潮流への移行は、本質的には長期にわたる経営改革、チェンジマネジメントとして捉えるのが適切であるということである。

 次回は、今回紹介した新しい人事評価に求められる、これまでと異なる運用のポイントを考えてきたい。

槇 千晴 まき ちはる
マーサー ジャパン株式会社 組織・人事変革コンサルティング コンサルタント
マーサージャパンの役員報酬プラクティスグループの中心メンバーであり、日系・外資系企業の国内・海外統括およびグループ会社組織・人事制度設計支援、役員報酬制度設計支援、M&Aに伴う人事DD等のプロジェクトを中心に組織・人事領域におけるコンサルティングに従事。外資系食品商社を経て、現職。
関西学院大学商学部卒、Université Jean Moulin Lyon 3, Management Socio-economic 修士

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