Point of view [2016.07.08]

第66回 モハメド・オマル・アブディン

スーダンの働くママたちの経験から学ぼう


モハメド・オマル・アブディン
東京外国語大学 特任助教

1978年、スーダンの首都ハルツームに生まれる。生まれた時から弱視で、12歳の時に視力を失う。19歳で来日、福井の盲学校で点字や鍼灸を学ぶ。その後、ふるさとスーダンの平和を築くための学問を学びたいとの思いから、東京外国語大学大学院を経て現職。2011年の南部独立後のスーダンを見守り、祖国平和のために発言を続ける。プライベートでは待機児童を含む3人の子どもの父。著書に来日から第一子誕生までを綴ったエッセイ『わが盲想』(ポプラ社)がある。

 

なぜスーダンの銀行は女性管理職比率が高いのか?

ぼくは、水道局に勤務する父と、国営銀行で働く母の間に生まれた。5人兄弟の次男坊である。

子どものころのぼくは、母の職場近くに設置された企業専用保育所に通っていた。兄たちも皆その保育所に入っており、おかげで母は5人の子どもを授かっても、仕事を辞めることは一度も考えたことがなかったという。

公立保育所は、小学校に上がると、夏休み中に子どもたちを受け入れてくれない。一方ぼくはその時も、母が働いている間は企業専用保育所にずっといさせてもらった。周囲の子どもたちや兄弟もいて、ワイワイした雰囲気の中で過ごせたことはいい思い出だ。

朝の登園時間になると、200メートルほど離れた幹線道路沿いのバス停に向かう。そこから母親の職場の専用バスに乗車し、同僚の親子らとともに町の中心に向かう。子どもたちが保育所で下車した後、母親たちはそのバスで職場に移動していた。帰りの時間になると、仕事帰りの母親たちが同じバスで保育所にやってきて、子どもたちとともに帰宅するのだ。

このおかげでぼくの母は30年間働き通すことができたし、管理職にもなった。母の職場では、管理職に占める女性の割合はすごく高かったようだ。詳しい理由は分からないが、母いわく、銀行にとっては、できるだけ長く働いてもらうことが望ましいので、職場をあまり変えたがらない女性のほうが優遇されやすいのだそうだ。

日本のメディアは、イスラム圏の女性について「いつも束縛されていて、教育も受けられず、仕事をするどころか自由に外出することも許されない」と偏ったイメージで報道することがしばしばあるが、そのたびに「そんな情報を流す暇があったら、日本の女性の社会進出や、男女間の待遇差について報道しろよ」と憤りを覚える。ムスリム人口の多い国を一緒くたに語ることは、著しく事実をゆがめることにつながると、日本でイスラム関連ニュースを耳にするたびに思う。

脱線してしまった。なぜスーダンの銀行業界で女性が優遇されやすいのかに話を戻そう。男性は仕事の経験を積むと、より高い収入を求めて、湾岸諸国へ出稼ぎに行くケースが多い。雇用主にとっては、やっと使えるようになった人材が次々にいなくなるのだから大きな痛手だ。それならば、女性社員が子どもを産んでもすぐに職場復帰できるよう環境整備をし、女性に長く働いてもらったほうが経営的に安定するということで、そのための企業努力をしているのだそうだ。

どうだろう。日本と真逆の話ではないか。「結婚して子どもが生まれたら、どうせすぐに辞めるんでしょ」というのが、日本企業の人事の見方ではないだろうか?

一方で、スーダンの銀行業界の人事担当者たちは、男性に対して「収入の高い会社が見つかれば、どうせすぐに転職するんでしょ」と思っているから、採用時も、昇進においても、男性が不利になるとも考えられる。

スーダンをヒントに日本企業ができることとは

とはいえ、日本の労働環境はスーダンとはまったく違う。このエピソードに何の意味があるのだという疑問が聞こえてきそうだ。だが、先に取り上げたエピソードにはヒントが隠されているとぼくは思っている。

日本政府は待機児童の多い自治体を中心に保育所を増やすことを検討しているが、これだけでは女性の職場復帰・キャリアの発展"はそれほど実現しないのではないか、と素人ながらに見ている。例えば、運よく子どもが"地域の"保育所に入れたとしよう。同時期に、自身のキャリアに有益な異動の話があったとしたら……。子どもを連れて引っ越ししたくても、その先でも入れる保証はどこにもない。岐路に立たされた女性は、どのような判断をするだろうか。職場復帰、そして管理職への意欲を持つ女性にとっては、出産は人生最高の瞬間であると同時に、キャリアが未曾有(みぞう)のピンチに立たされる瞬間でもあるのだ。

そのピンチを解決するには、スーダンの例で紹介したように、人を活かしたい企業のアイデアとアクションが必要だと思う。

例えば、自治体が保育所を増やすのは結構なことだが、それと同時に企業内保育所の設置を急がねばならないとぼくは考える。働きかた・働く場所に合わせて小回りの利く企業内保育所であれば、女性のキャリア形成支援になるだけでなく、企業にとっても"ロスなく"働いてもらうことが可能になる。

そして、女性にとって懸案事項、子連れ出勤問題を解決せねばならない。それに関しては、「子連れ専用車両」を通勤時のラッシュアワーを中心に、特に都心に向かう列車に設置すれば状況は改善するのではないか? それをしなければ、都心に集中する企業内に保育所を増やしたとしても効果は薄れてしまうだろう。これもまた、人を活かすために企業ができるアクションの一つだ。

国頼みの対策ばかりに注目するべきではない

『女性が輝く社会の実現』に向けて、政府、民間企業、そして日本国民全体が知恵を絞りあって有効な対策を見いださなくてはならない。だが、箱モノとしての保育所を増やすことにばかりこだわっては、現状を質的に改善することは期待できない。

水際対策よりも、まず女性が仕事を継続することによって、自社にどのようなメリットがあるかを認識して、それを実現するため、それぞれの企業が個別で、自社の現状にあった小回りの利く対策を打ち出すことが大切になろう。それをした上で、国・自治体が、企 業の取り組みをサポートする側に徹する形をとれば、現状は格段に改善するのではないかと思う。

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