Point of view [2016.02.12]

第57回 松本 勝

「会社」という概念が消える日


松本 勝  まつもと まさる
特定非営利活動法人キャリアクルーズ 代表

1975年大阪府生まれ。東京大学大学院工学系研究科卒。ゴールドマンサックスでトレーダーを務める傍ら、ボランティアで母校の学生のキャリア支援を行う。退社後、支援活動を拡大するなかで、本当に必要なのは早期からの「キャリア観醸成」支援であることに気づく。2013年4月、大学1、2年生向けに「キャリア教育」を提供する「キャリア大学」を開始。2015年12月、全ての学生が自由にOB/OG訪問できる「VISITS OB」をリリース。

 

 私が、ここで皆さんに伝えたいことは、「会社と従業員」の関係は今後急速に変化を遂げ、「雇用」という概念の崩壊をきっかけに、究極的には「会社」という概念自体が消えるであろう、ということだ。正確に言うと、私たちがこの数十年、いや数百年間「当たり前」と人々が思っていた「会社」という概念が、原形を残さないほど、大きく変化する、ということである。そして、この変化の兆候は、すでに私たちの周りの至る所で現れ始めている。
 これらを理解するために、ここではマクロな視点から「人類の発展の歴史」を俯瞰(ふかん)し、ミクロな視点から今後の「働き方」を分析する、二つのアプローチで議論を進める。

■企業と「働き方」の関係

 まずは、マクロ的な視点から人類の発展の歴史をさかのぼると、産業革命以前は、いわゆる軽工業が中心で、少人数の比較的フラットな組織を作り、小規模な投資額でものづくりを行っていた。
 これが、産業革命をきっかけに一変した。重工業という大規模投資が必要な事業形態へ企業の軸足がシフト、それに伴い「大企業化」が進み、階層的な組織が生まれた。
 重工業という大規模ビジネス、巨額の投資額を必要とするビジネスを行うために、従業員の数を増やすと同時に、銀行借入に対する信用を担保するために企業の規模を拡大する必要があった。そして、その肥大化した組織をマネジメントするために組織が階層化していく、という当然の流れからであった。
 これを見れば分かるように、人類の発展は、発明(革命)から始まり、それに対応するビジネスが世の中で生まれ、企業がそれに適応する組織形態へ変化し、それに応じた「働き方」が生まれる、という順に進んでいくことが理解できる。そして、それらの間にはタイムラグがあり、企業が外部環境の変化に応じて、徐々にビジネスモデルと組織形態を適応させていくのが常だ。

■IT革命と「個」へのシフト

 そして、1990年代にインターネット革命が起こり、ビジネスの形は一変した。さらには今後、IoT(世の中に存在するさまざまなモノに通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信する技術)や人工知能革命が起こり、変化のスピードは加速するであろう。
 そのような中、階層化した旧来型の大規模組織形態とそれに最適化された「働き方」だけは、いまだに残っている。組織形態や「働き方」が、ビジネス形態の従属変数だとすれば、今後それらが大きく変化するのは時間の問題である。
 インターネットの普及により「個へのパワーシフト」が進み、一人ひとりが社会に与えるインパクトは格段に上昇した。また、今後、人工知能が普及すれば、多くの業務はコンピュータに代替されることになる。同時に、多くのことがIT技術を使えば簡単・低コストに出来るようになり、ビジネスに必要な投資額も格段に下落した。必要な資金も銀行借り入れだけでなく、直接投資家から資金調達できる環境も整ってきた。ビジネスモデルさえ良ければ、数人のチームで数百億円の資金も調達可能な時代だ。
 そんな中、もはや一カ所に大勢の従業員が集まって信用を形作り、労働集約的にビジネスを行う必要はない。少数精鋭の優秀な人材でチームを作り、お互い自由な場所からオンラインでつながり、投資家から資金調達してビジネスを行えば良い。

■「会社」という概念の消滅とは

 次は、もう少しミクロ的な視点から「働き方」について考察してみたい。
 「働く」という行為を5W1Hで要素分解すると、究極的には、Who(誰と)、Where(どこで)、When(いつ)、What(何を)、Why(何の目的で)、How(どうやって)「働くか」の組み合わせにすぎない。これまで「会社」という概念のプレゼンスが高かった時代には、主語が「会社」であるため、Where(どの会社で)、What(何をする)が他の要素より重視され、Who(他の社員)、When(勤務時間)、Why(売上目標など)、How(事業戦略)の要素は、従業員にとっては従属変数として会社から与えられる関係にあった。これは、旧来型の求人サイトを見れば明らかであろう。「どの会社」で「何をするか」しか書いていない。
 ところが、「個」に時代がシフトすると主語は「個人」となり、優先される要素も大きく変わる。Where(どの会社で)、What(何をするか)は、さほど重要でなくなる。特に、外部環境変化の激しい昨今、「何をするか」はその時々で変わるからだ。
 そんな状況では、LinkedIn(リンクトイン:2003年にアメリカで発祥したビジネス特化型のSNS)の創業者であるリード・ホフマンが著書「ALLIANCE」の中で述べているように、人と企業は「期間限定のプロジェクトにコミットする」という信頼で結ばれる関係が適しているのかもしれない。
 しかし、そこにはすでに私たちがイメージする「会社」や「雇用」という概念は存在していない。

■残るは目的に共感した人的ネットワーク

 では、今後どのような要素が重要となってくるのか。それは、WhyとWhoの二つである。「どんな社会を創りたいのか」という自分のミッションをお互い共有し、それに共感した仲間が集まってプロジェクトを推進する、形態である。
 私たちも、このような時代の流れに呼応し、先日「VISITS OB」というサービスをリリースしたが、これはファン醸成プラットフォームだ。自社の社員プロフィールを公開して、彼ら「個人の想い」を学生に共有し、それに共感した学生がファンとなって集まってくる仕組みである。
 ここには、私たちもまだリード・ホフマン同様、「会社」という概念を間接的に残している。しかし、今後より一層「個へのパワーシフト」が進み、「会社」という概念自体が消えていくことは間違いない。残るとすれば、ある目的に共感した人たちが集まった、良好な人的ネットワークの存在としてだけだ。

 私たちに今できることは、このような潮流を正しく理解した上で、自らの組織や雇用・採用の在り方を時代にフィッティングさせ、パフォーマンスの期待値を高めることだけである。どんな大企業であっても、この流れに逆らうことはできないのだ。

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