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目標管理で必ず結果を出す企業の作法 [2015.12.25]

第1回 目標管理が人事制度の一部だとの思い込みから脱出する


中村 壽伸
株式会社日本経営システム研究所
代表取締役社長

はじめに

 目標管理は業績管理の根幹をなす仕組みであり、最も成果の上がる目標を掲げて全部門・全社員が取り組み、これを達成する仕組みである。しかし、取り組む社員にやりがいを与えようとして、評価に連動させたためにひずみが生じているケースも見られる。各人の目標レベルが公平に決められていること、結果だけでなくプロセスも認めるようにすべきこと等の論理が広まり、ついには各人の等級に見合うレベルの目標を与えることや上司との面談での目標設定が重要施策だと理解されるに至り、「企業業績に資する」という目標管理本来の導入目的から逸脱する傾向を強めている。
 企業が競争に勝つということは、顧客の経営にいかに資するかが決め手である。目標管理(MBO)のobjectivesのそもそもの意味は「目的」であり「aim」(志など)に近いものである。この連載では4回にわたり、「目標管理で必ず結果を出す企業が行っている作法」にスポットを当て、これから目標管理にどう取り組むか、その「発展性」を読者とともに、考えてみたい。

1 目標管理が成果を上げられにくい原因はどこにあるのか?

 労務行政研究所が行った「目標管理制度の運用に関する実態調査」(2013年)では、目標管理制度の導入率が88.5%に上る一方、このうち31.3%が「制度を見直す予定がある」と答えている。その背景には、目標管理制度が十分な成果につながっていないことや、目標の公平感に納得のいかない社員がいるなど、解決しなければならない要因があるものとみられる。これらはいわば企業内部からの声である。
 一方、外部の声として、目標管理制度は「成果主義を象徴する制度だ」との批判がある。成果主義は社員各人に目標達成を強く促し企業成長を実現しようとする仕組みなので、社員同士の助け合いや教え合う機会が減少すること、有益な情報を仲間と共有せず、利己的で視野が狭く近視眼的な行動に走らせる仕組みだ、などというのがその理由である。
 こうした声はほとんど誤解によって生じている。「目標管理は人事制度の一部であり、公平な評価のために必要だ」との誤解である。目標管理を「人事制度」の付属「制度」だと解釈するのはそもそも誤解なのである。
 第二次世界大戦後、日本は高度経済成長の最中にさまざまな業績向上の仕組みを導入しては入れ替えてきた。例えば ZD(無欠点活動」、MBO(目標管理」、SQC(統計的品質管理」、QCサークル活動、TQC(全社的品質管理)、方針管理、TQM(全社的経営品質向上)という具合にである。
※各用語については、後段【ミニ用語解説】参照
 現在、目標管理は再びブームになっているが、第1次ブームといわれた1960年代当時との違いは何かというと、目標達成度を個人業績評価に反映するようになったことである。以前は目標達成度と評価は別にすべきとされていた。本来、目標管理は業績向上「活動」なのだが、「人事制度の一部」と理解されたことで多くの課題が表出しているのである。

2 成果の上がる目標選び

[1]成果の上がる目標を設定する
 では、なぜ目標管理が実際の成果とうまく結びつかなくなったのか、ここではその問題について考えてみよう。
 例として[図表1]をご覧いただきたい。目標が「クレーム防止」となっていて、具体的には「加工要因による不適合を50%削減」とある。営業部門でも製造部門でも、日本企業はクレーム対策を成果目標に掲げることが多い。クレームは顧客を失う原因になるため自然に力が入るのは当然なのだが、この目標を掲げると顧客満足に積極的だとして管理職からも受け入れられやすいので、目標の定番になりやすい。では、この[図表1]による目標設定は企業に成果をもたらすだろうか?答えは「否」である。理由は少なくとも二つある。

[図表1]「成果の上がる目標」の検討(例1)

目  標 評 価 基 準
クレーム防止
 …加工要因による不適合を50%削減

A:クレーム防止ミーティング7回以上

B:クレーム防止ミーティング6回開催

C:クレーム防止ミーティング5回以下

 一つは、不適合を半減させることがどれほどの経営効果につながるのかが事前に考えられていないからである。これまでどのようなクレームが生じていたのか。どの顧客にどれほどの迷惑や損失を与えてきたのか。自社にとってもペナルティの支払いなどでどれほどの損失になったのか。再加工によるコストはどれほど嵩(かさ)んだか。再加工を必要としたことによって期限内納入率はどれほど達成していたか――など、確認すべき視点は数々ある。そして何より重要なのは、今後これによって重要顧客を失う危険性がどれほど高まるかということであり、これらをきちんと整理して事態の深刻さを自覚することが重要である。
 しかし[図表1]の記述からは、そのような現状把握ができている様子は見られない。つまり、不適合を半減させることは良いことだと短絡してしまってはいけないということである。そして顧客にとっても自社にとっても、ランキングの高い不適合項目から解消に着手する必要があるのであり、管理職も一般社員も深く考える必要性を認識すべきなのである。
 二つ目は、評価基準である。ミーティングの開催回数を増やすほど高い評価が与えられるようになっているが、ミーティングは問題解決の「手段」にすぎないので、これは評価基準になり得ない。仮にミーティングを評価対象にすることがあったとしても、有効に実施されるほど回数は少なくて済むはずだから、回数が多ければ評価を高くするという発想は全く逆である。ちょっと考えれば分かりそうだが、このような事例が上場企業でもまかり通っているのが現状ではないだろうか。

[2]直接効果を狙った目標は効果的か
 [図表2]は、評価基準に不適合削減率を用いて直接効果を評価しようとする点が、[図表1]との違いである。これなら成果が上がると判断してもよいだろうか?

[図表2]「成果の上がる目標」の検討(例2)

目  標 評 価 基 準
クレーム防止
 …加工要因による不適合を50%削減

A:加工要因不適合55%以上削減

B:加工要因不適合45~55%削減

C:加工要因不適合45%未満削減

 答えは「否」である。何を製造するかによって異なるが、防止すべきクレームを特定することができたら、目標は原則として「ゼロ」でなければならない。仮にこの製造部門が5工程だとして、各工程の加工不適合を半減させる目標を設定したら不適合は3.13%(=0.5の5乗)に減少する。取り組みの的を絞ればできることだ。何が優先して解消すべき不適合かを特定しない目標は、単なるスローガンにすぎないのである。

3 人事制度の一部だとの思い込みから脱出したら何ができるか?

[1]経営を深く考えるようになる
 目標管理は、管理職も社員も「経営を深く考える仕組み」である。顧客満足向上を謳(うた)う企業は多いが、実際にどうすれば顧客満足が向上するかを考えさせる仕組みを活用する企業は少ない。自社の戦略上、顧客満足にはランキングがあるはずで、主要顧客の満足を優先するのは理にかなうことである。限られた時間を有効に使うためには、優先すべき顧客の自社に対する評価を高める方策を講じるのが重要な選択であるはずだ。仕事に使う時間すべてを一様に短縮するのが良いことではなく、どこに時間を投入して最良の結果を引き出すかを判断できるようにするために、目標管理で深く考える力をつけるのである。

[2]目標設定面接が正しく実施できるようになる
 目標は管理職と社員とが面接を通じて相談して決定するのが良いとされているが、本当にそうだろうか? もちろん、社員に対して一方的な目標の押し付けが良い結果を生むことはない。重要なことは、先に述べたような現状把握・認識を管理職と部下が一緒になって実施することである。つまり目標設定のための分析から一緒に実行すべきなのである。それによって、何が会社の課題なのか、自部門・自部署の課題なのかを見定める力はいやでも付いてくる。少なくとも、管理職が分析したことを部下に見せて理解させ、目標を何にすべきかを的確に理解できるような目標設定面接を実施すべきである。単に会社の方針や全体目標、部門目標を示される面接であったら、できるだけ実現しやすい目標にしようという「交渉の場」になりかねない。

[3]人事制度との整合にとらわれずに済むようになる
 社員に適切な目標に取り組ませるとの理屈から、社員の格付け等級に見合うレベルの目標を設定すべきとの意見があるが、私は賛成できない。3等級の社員に3等級レベルの目標を与えるならば、その人はいつになっても現等級以上のレベルに成長することができない。それでは「チャレンジシート」の名称は実を伴わないことになる。モチベーション向上は、初めは小さな「成功体験」によって培われるものである。さらに褒められることによっていっそう高まり、達成感や自己効力感が次の目標への力になる。
 このように、目標管理が人事制度の一部だとの思い込みから脱出することこそが、非常に重要なのである。

【ミニ用語解説】

MBO(Management by Objectives:目標管理)

P.F.ドラッカーが提唱し、日本では1960年代に第1次ブームが始まった。社員個人の自主的な目標設定と活動によって人間の尊厳を重視するところに重点が置かれたが、当初は集団的人事管理を得意とする日本ではあまりなじめず、理想通りに成果は上がりにくかった。

SQC(Statistical Quality Control:統計的品質管理)

統計的方法を用いて行われる品質管理活動。当初は製造業において導入された。

QCサークル活動

SQCを活用して社内の小集団(サークル)によって実践する活動。

TQC(Total Quality Control:全社的品質管理)

品質管理の考え方を全社で活用する活動で、各部門の仕事の最適化を目的とした。

方針管理

経営方針を部門、部署の方針・目標に順次落とし込んでいき、全社でベクトルの整合した経営を実現しようとする活動。目標管理が個人の目標設定など、ボトムアップで行われやすいのと対照的に、トップダウンで運用されることが多い。

TQM(Total Quality Management:総合的品質管理)

経営品質の向上を目指す全社的活動で、全社最適を重視する。

ZD(Zero Defects:無欠点活動)

目標管理と同時期の1960年代に米国から導入された。より良い仕事を実現する上で重要なチェックポイントをリスト化し、随時書き足して業務の欠点を減らそうとする活動。

中村 壽伸 なかむら ひさのぶ
株式会社日本経営システム研究所 代表取締役社長
学習院大学法学部卒業。銀行勤務を経て現職。企業の事業戦略と経営計画を実現する人事・組織戦略の専門家。中堅・中小企業から上場企業まで、業種を問わず500社以上の企業をコンサルティングした実績を持つ。セミナー講師としても活躍中。主な著書に「経営者は昇進・昇格する人材をどのように見分けているのか」(日本生産性本部)、「成果主義の人事・報酬戦略」(ダイヤモンド社)、「バカな人事 ~なぜ御社の人事は社員のやる気を失わせるのか~」(あさ出版)ほか多数

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