マイナンバー担当者の不安解消! 今行うべきこと [2015.09.11]

第2回 取り扱い場面の洗い出し


水町 雅子
五番町法律事務所 弁護士
元内閣官房社会保障改革担当室参事官補佐

 本連載では、マイナンバーのために今やるべきことは何か、マイナンバーの取り扱いのポイントは何かを、具体的に解説していく。
 第2回の今回は、マイナンバー対応のために、まずやるべきことである「取り扱い場面の洗い出し」について具体的に見ていこう。

今回のポイント「現在の事務を確認する」

● まずは現在行っている税務手続き・社会保障手続きを確認すればよい

● 「税務手続き」がカギ。洗い出しステップは、①法定調書を把握する、②担当者にヒアリングする、③対象者を確認する、④法人番号対応を検討する

● 業務フローを確認したら、取得、利用、保管、提供、委託、廃棄のプロセスごとに整理する

1.取り扱い場面を洗い出そう

[1]マイナンバー対応は取り扱い場面の洗い出しからスタート
 マイナンバーの取り扱いを外部機関に委託するか否かにかかわらず、まずは、自社でいつマイナンバーを取り扱うかを考えよう[図表1]。なぜならば、マイナンバーは、利用することができる範囲がマイナンバー法で限定されており(同法9条)、この範囲を超えた取り扱いは違法となる。
 違法といっても、即刑事罰となるものではないが、マイナンバーを利用できる場面を自社で把握せずに外部委託してしまうと、委託先が、マイナンバーの利用範囲の限定を遵守しているかどうかを確認することも難しくなる。また、マイナンバーを取り扱う場面を洗い出さなくては、外部委託するにしても適切な委託料を見積もることも難しいだろう。
 さらに言えば、個人情報保護法上の義務に服する企業においては、利用目的を特定し、対象者に通知等しなければならない。マイナンバーについてもこのルールが適用される。その点、マイナンバーの取り扱い場面を洗い出しておけば、利用目的の特定も同時に行うことができるので効率的だ。
 なお、個人情報保護法上の義務に服する企業とは、「個人情報取扱事業者」をいい、簡単に言うと、5001人以上の個人情報を使っている事業者のことである(法律上はもっと詳細な要件が規定されており、この説明はやや不正確ではあるが、分かりやすさを重視し、この説明としている。詳細は個人情報保護法2条3項同施行令2条を参照)。
 何はともあれ、取り扱い場面の洗い出しからスタートしよう。

[図表1]取り扱い場面の洗い出しの必要性と範囲

[2]今行っている手続きを把握する
 取り扱い場面の洗い出しというと、社内の関係部署に一斉照会をかけたり、気の遠くなるような膨大な作業を要するのかと不安になる担当者もいるかもしれない。しかし、マイナンバーは民間企業の実務を劇的に変える制度ではなく、あくまで現在の税務手続き・社会保障手続きの中の一項目として情報が追加になるものだ。したがって、現在行っている税務手続き・社会保障手続きを確認すればよい。
 なお、マイナンバーは「税」「社会保障」「災害対策」の3分野のための番号といわれる。自治体などでは、この3分野における取り扱い場面の洗い出しが必要となるが、民間企業では災害対策の行政手続きを行っていないと考えられるため、税務手続きと社会保障手続きを確認すればよい。特に、税務手続きが民間企業にとってマイナンバー対応のカギとなる。

2.税務手続き

[図表2]税務手続きに関する取り扱い場面の洗い出しステップ

[1]法定調書を把握する
 税務手続きでは、税務署に提出する書類群にマイナンバーを記載する。したがって、今、会社が税務当局に提出している法定調書を把握しよう。法定調書事務担当者であれば、会社で提出している法定調書を確認することは、それほどは難しくない。まず担当者にヒアリングしよう。
 代表的な法定調書は、「給与所得の源泉徴収票」である。社員がいる会社であれば、「給与所得の源泉徴収票」を提出しているはずだ。また講演や原稿執筆を外部有識者に依頼している場合等は、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を提出する。そのほか、不動産の個人地主に賃料を支払っている場合には「不動産の使用料等の支払調書」を提出しているだろう。法定調書の一覧は国税庁ホームページに掲載されているが、金融機関以外の会社であれば、関係する法定調書はそこまでは多くない。

[2]担当者にヒアリングする
 つまり、法定調書を把握するためには、個人宛てに支払った金銭に関し、税務署に調書を提出しているものを洗い出すわけだ。この点、各種業者が開催しているマイナンバーセミナーなどを受講しても、それほど具体的な情報が説明されないことがある。これは、会社によって提出する法定調書の種類と数が異なり、また法定調書ごとに提出義務の範囲が異なるので、すべての会社に一律に当てはまる解説が困難であるためと考えられる。
 例えば、「不動産の使用料等の支払調書」は、同一人に対するその年中の支払金額の合計が15万円を超えるものについて提出が求められ、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲は、支払先の種類ごとに、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50万円、5万円を超えるもの等とされている。
 このあたりは、自社の法定調書事務担当者にヒアリングするのが一番である。国税庁のホームページで公表されている法定調書の種類と提出範囲から、マイナンバーの取り扱い場面を検討すると、上記のとおり、税法上の細かい議論に迷い込んでしまいがちになる。それよりも法定調書の担当者に、今自社が提出している法定調書、今後提出しそうな法定調書を確認するほうが効率的かつ効果的だろう。
[3]対象者を確認する
 このようにして、法定調書の種類を洗い出したら、その対象者を把握しよう。「給与所得の源泉徴収票」であれば従業員とその扶養家族が対象であり、「不動産の使用料等の支払調書」であれば個人地主が、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」であれば、講師、原稿執筆者、弁護士、税理士等が対象である。自社でどういう種類の個人に対し金銭を支払っているか把握しよう。
[4]法人番号対応を検討する
 マイナンバー制度では、個人に対して付番されるマイナンバー(個人番号)だけではなく、法人に対して付番される法人番号も存在する。
 個人に支払う金銭に関する法定調書には、マイナンバーを記載するが、他方で、法人に支払う金銭に関する法定調書には法人番号(12桁の会社法人等番号等+1桁の検査数字の13桁の番号)を記載する。したがって、マイナンバー制度対応のためには、法人番号対応も検討する必要がある。
 とはいっても、法人番号対応は、さほどの準備は不要であろう。なぜならば、個人番号はどこかに一覧で公表されるわけではないので、会社としては個別に取得しなければならないが、法人番号は国税庁の開設するホームページで公表される予定であるので、取得が容易だ。また、個人番号はその取り扱いに対し、マイナンバー法で厳格なルールが定められているが、法人番号の取り扱いはごく例外的な場合を除き、厳しいルールの適用はなく、だれでも自由に使用できる。個人番号は対象者が生きている人間であるのに対し、法人番号は対象者が法人であるので、このような差異が生じる。したがって、会社におけるマイナンバー対応では、法人番号よりも個人番号に注力していこう。
 以上の洗い出し作業は、[図表3]の形式でまとめるとよいだろう。これは、各手続きの大まかな概要と進捗を確認するための表としても利用できる。説明欄や懸案欄は、必要に応じて作成するにとどめ、特に作成しなくても構わない。

[図表3]マイナンバー対応進捗表 (クリックして拡大)


3.社会保障手続き

 社会保障手続きでも、ハローワーク、年金保険者、医療保険者に提出する書類群にマイナンバーを記載することになる。健康保険、雇用保険、厚生年金などで、どのような手続きでどのような対象者のマイナンバーを取り扱うのか、厚生労働省が提出している資料などを基に確認する。[図表3]に「雇用保険届出事務」「健康保険届出事務」等と追加しておくとよい。
 社会保障手続きは税務手続きとは異なり、社外の個人のマイナンバーを取り扱うことは、従業員の扶養家族以外は、原則としてはないだろう。そこで、社会保障手続きについては、マイナンバーの取得や本人確認をめぐる混乱がさほどないと考えられる。

4.業務フローの確認

[1]マイナンバー対応の類型を考えよう
 上記のとおり、税務手続きと社会保障手続きでマイナンバーが必要となる対象者が把握できたら、以下の四つを例に類型化する。

①従業員とその扶養家族(税務手続き)
②従業員とその扶養家族(社会保障手続き)
③継続取引先(税務手続き)
④単発取引先(税務手続き)

 この際、個人番号の取得タイミングや本人確認方法その他の留意点が同じものをうまくグループ化できるよう、会社と対象者との接触頻度などを考慮しつつ、類型化するとよいだろう。

[2]業務フローを確認しよう
 次に、類型ごとに現在の業務フローを把握しよう。その際、情報の取得、利用、保管、提供、委託、廃棄といったプロセスごとに整理するとよい[図表4]

[図表4] 業務フローの確認(「①従業員とその扶養家族(税務手続き)」の例)

取得

・○月に従業員全員から「給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書」「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出を受ける

利用

・○月に各部で取りまとめて社内の経理部に集約

・○月に経理部にて源泉徴収票を作成

保管

・書面は経理部キャビネットに保管(無施錠)

・経理部にて書面に記載された情報をITシステムに入力(システム保守は委託するが入力は経理部が行う)

提供

・○月に税務署と本人に源泉徴収票を交付

・それ以外には、警察、裁判所に提供可

・個人情報の外部提供時は上長の事前確認要(個人情報保護規則)

委託

・システム保守を△社に委託

・書類廃棄、外部媒体破壊を×社に委託

廃棄

・書面は○年経過後、×社に送付し、溶解処分

・ITシステムデータは○年経過後、ITシステムからは消去の上外部媒体に移動。外部媒体はそこから△年経過後、×社に送付し、物理破壊

ルール

・個人情報保護法、社内個人情報保護規則に従う

・社内個人情報保護規則の主な点は上記各欄のとおり

 プロセスごとに整理すると大変な作業になると思うかもしれないが、これも、法定調書や社会保障手続きの担当者にヒアリングし、ヒアリング内容を書面にまとめればよい。または担当者用の内部マニュアル等があれば、それを基にしてもよいだろう。
 ポイントとしては、具体的な流れを整理することである。また関係部署も具体的に整理しよう。特に、マイナンバー法遵守の観点から、個人情報を提供する先と個人情報の取り扱いを委託する先は、具体的に把握する。
 個人情報を提供している先に、今後は、マイナンバー付きの個人情報たる特定個人情報を提供することになる。税務署や保険者、税理士、社会保険労務士、委託先に提供することは、マイナンバー法上問題ないが、それ以外に提供している場合は、マイナンバー法上適法かどうかを確認する必要がある。この確認をするためには、現在、どこに個人情報を提供しているかを、まずは把握することが必要だ。また、委託先については委託先におけるマイナンバーの取り扱いを確認・監督しなければならないため、今後、連絡等も発生する。この時点で、どこに個人情報を委託しているか把握しておこう。

[3]マイナンバーの本格始動後(2016年1月~)を検討しよう
 業務フローを把握したら、現在の業務の中にそのままマイナンバーを足し込むことで問題がないかシミュレーションしていこう。例えば、[図表4]では、書面を経理部キャビネットに無施錠で保管しているが、マイナンバーの本格始動後は、情報の漏えい、持ち出し等の防止に備えて施錠保管に変更する必要がある。また、書類の流れは、今と同じく部ごとに取りまとめて経理部に集約する方法でよいのか、従業員が直接経理部に送付する方法と変えるのかなどを検討する。
 また、グループ企業の従業員情報をグループ内の1社に集約している場合や転籍・出向・退職が頻繁な場合等は、懸案事項として把握した上で、具体的にどのように対応していくか検討していこう。
 ただし、この時点ですべての決定をする必要はなく、追って解説するマイナンバーの取得方法、安全管理措置等を合わせて検討するにつれて、マイナンバーの本格始動後の業務フローが出来上がっていくというイメージでよい。まずは、マイナンバー対応のためのたたき台作成、懸案事項の洗い出しを行おう。またはマイナンバーの本格始動後の検討は最初の段階では行わずに、現在の業務フローの把握のみにとどめておいてもよい。
 なお、最終的に決定した業務フローは、それを書面化すれば、マイナンバー用の社内マニュアルとなり、取扱規程となる。

5.取り扱い情報のリスト化

 前掲[図表3]のマイナンバー対応のための進捗表を加工すると、マイナンバーの取得後には、取り扱い情報一覧としても活用できる。マイナンバーを取得した後は、自社がどのようなマイナンバー情報を保有しているか、会社として把握しておく必要がある。これは、追って解説する安全管理措置上も求められるものである。
 この段階で、取り扱い情報のリスト化をすべて行うことまでは不要であるし、実際問題として困難だと思われるが、最終的には、[図表3]を加工し、[図表5]のような資料を作成していこう。

[図表5]誰のマイナンバーが必要かの洗い出し

ファイル名 種類 責任者 取り扱い部署 利用目的
従業員等ファイル システム用ファイル
(○○システム)
番号太郎 人事課 法定調書作成事務
健康保険届出事務
介護保険届出事務
厚生年金保険届出事務
雇用保険届出事務
労災年金届出事務
地主ファイル システム用ファイル(Excel) 内閣花子 経理課 法定調書作成事務
通訳者ファイル 紙ファイル 内閣花子 経理課 法定調書作成事務

 もっとも、すでに個人情報管理台帳等がある場合は、[図表5]のレイアウトにのっとる必要はなく、現行の個人情報管理台帳等に沿って作成していこう。ただし、その場合でも、マイナンバーが含まれる個人情報とマイナンバーが含まれない個人情報が一目でわかるよう、記載・管理していくべきである。


水町 雅子  みずまち まさこ
五番町法律事務所 弁護士
元内閣官房社会保障改革担当室参事官補佐
東京大学教養学部卒業後、現みずほ情報総研にてシステム関連業務に従事。東京大学法学政治学研究科法曹養成専攻を経て、西村あさひ法律事務所にてシステム案件・ファイナンス案件・企業法務案件に従事。その後、内閣官房社会保障改革担当室、特定個人情報保護委員会にて、マイナンバー法立法作業、プライバシー影響評価(特定個人情報保護評価)立案等に従事。現在は、五番町法律事務所を開設。

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