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Point of view [2015.07.24]

第46回 筒井淳也

日本的労働・雇用慣行によって排除される人々


筒井 淳也  つつい じゅんや
立命館大学 産業社会学部教授 博士(社会学)
1970年生まれ。一橋大学社会学部、同大学院社会学研究科満期退学。専門は計量社会学、家族社会学。著書に『仕事と家族』(2015年、中公新書)、『親密性の社会学』(2008年、世界思想社)など。

 

■日本型福祉社会と性別分業

 1980年代には、日本的な雇用や働き方、それを軸とした日本社会の在り方について否定的な言論が見いだされることは少なかっただろう。1970年代前半のニクソン・ショックやオイル・ショックに際し、日本経済は重化学工業からの方向転換によって見事に危機を乗り越え、比較的安定した成長を維持することができた。雇用の面では、内部労働市場を活用した頻繁な異動と女性の非労働力化・パート労働化により、企業は男性稼ぎ手の雇用を保障することができた。
 同時期に政府は、いったんは拡充する姿勢を見せてきた社会保障を「企業と家族」に預け返す方向に舵(かじ)を切った。田中内閣による1973年の「福祉元年」の宣言から、大平内閣時1979年の「日本型福祉社会」への転換である。これにより、1980年代から日本は西欧型の政府主導の「福祉国家」を目指さなくなった。
 これら、企業の動向と政府の動向に共通してみられたのが、性別分業を前提とし、またそれを強化する動きである。日本型福祉「社会」とは日本型福祉「国家」とは異なり、生活保障の供給の主体をあくまで社会、すなわち民間に置く構想である。すなわち企業が男性雇用を守り、男性によって扶養された女性が家事・育児・介護を行うという性別分業体制が前提となる。
 日本が光り輝いた時期に性別分業が強化されたことが、仕事と家庭の両立を促す度重なる政策介入にもかかわらず共働き社会化が日本で進まなかった大きな要因であるといえる。

■男性的働き方と政策の効果

 以上のような経緯から、性別分業が私たちの社会に強力に根付いてしまったことをまずしっかりと認識することが大事だ。というのは、このために生半可な政策介入では「仕事と家庭の両立」が実現できなくなってしまったからだ。
 例えば「仕事と家庭の両立支援」というと、私たちはすぐに女性にとっての支援だと考えてしまいがちだ。しかし女性が(自営業や農業というかたちではなく)家庭の外で雇用されてフルタイムで働くのならば、当然パートナーたる男性にとっても仕事と家庭は両立していなければならない。それにもかかわらず、「両立支援とはすなわち働く女性への支援のことだろう」という強い思い込みが残っているのは、今になっても性別分業が私たちの行動や思考に染み付いているからであろう。
 実際、「男性の/男性的働き方」に政府が介入する動きはあまり目立たなかった。日本の場合、男性的働き方は独自の内部労働市場、すなわち企業とそのグループ企業の中で労働力の調整を行う慣習と深く結び付いている。被雇用者は勤務時間、勤務場所、勤務内容の三点において「無限定」である(つまり残業や休日出勤があり、転勤があり、異動による職務内容の変更がある)という負担を強いられる代わりに、そういった要請のない非正規雇用と比べて高い賃金率と安定した雇用を享受できる。
 こうした働き方の「無限定性」により、賃金率の高い労働市場から排除される人たちがいる。女性、そして外国人である。長時間労働や転勤は、雇われた男性に生活を合わせることができる家族、つまり主婦あるいは主婦パートがいることが前提となっている。頻繁な職務内容の変更は、周囲との意思疎通などのジェネラルな能力を必要としており、結果的に専門技能のある外国人労働者が基幹労働力として生き残る道を閉ざしている。
 こういった働き方に対して、これまでどのような政策的な介入がなされてきただろうか。
 労働時間については、1987年の労働基準法の改正により段階的に週40時間労働制が施行されてきた。しかし労使協定で上限が無効化でき、また残業を抑制する意図で決められた割増賃金の制度も、その実収入を増やす手段として利用されていることが多く、労働時間の短縮は思うように進まなかった。実際、「残業がなければ生活が苦しくなる」と感じている被雇用者は少なくない。そして長時間労働が昇進の条件となっている職場も多く、このことが育児休業明けで残業が難しい既婚女性の労働意欲を奪い取っている。政府が「本気で」労働時間の短縮に取り組んだことはこれまでなかったといえる。
 転勤については、政策介入によってそれを抑制する動きはなかった。1986年に施行され、何度か改正を重ねてきた男女雇用機会均等法についても、「転勤の実績がない企業で転勤(の受け入れ)を雇用・昇進の条件としてはならない」といった規制はあっても、転勤自体を抑制して両立支援をしようという意図はそこにはなかった。均等法は、「女性が男性的働き方をしようとするのなら平等に扱え」というものであって、「男女が仕事と家庭を両立できるように男性的働き方を抑制しなければ」というものではなかった。
 このような政策は、結果的に男性的働き方を温存する効果を持った。他方で1980年代後半から、女性を非正規雇用に閉じ込める政策が次々と実施された。1985年の第三号被保険者制度、1986年の労働者派遣法である。総じて政策介入は、性別分業を維持するように作用したのである。

■ニーズへの対応と政策的支援の在り方

 現在では、働き方を改善しようという試みは(政府でも労働組合でもなく)むしろ企業内部から生じている。女性や外国人といった、これまで高所得の労働市場から排除されてきた人たちは、日本人男性に劣らない能力を持っている。男女の大学進学率も近づいており、入社時点で職務能力に男女差があるわけではない。また海外市場での事業展開を見据えて外国人の能力を欲している企業も(大企業に限らず)多くなってきたはずだ。「異質」な労働力を排除することの損失は大きい、と気づかれつつあるのかもしれない。いわばニーズ主導の働き方変革である。
 もちろん、だからといって政策プログラムのレベルで何もしなくてよい、というわけではない。政策介入には、性別分業を強化するものと、それを緩和し共働き社会を促すものがある。前者を廃止し、後者を強化する必要がある。
 まず性別分業を維持させている制度の廃止である。具体的には片働き世帯を優遇する税・社会保障制度を撤廃し、働き方により中立的な制度に作り変えることが課題となる。これは、必ずしも共働き世帯を優遇する制度にするということではない。仕事と家庭の両立が今よりも容易になれば、所得の高い男性と同じく所得の高い女性が結婚する確率が高くなるため、世帯間の所得格差が広がる恐れがあるからだ。
 次に共働き社会を促す制度の強化である。これについては、やはり長時間労働の抑制、勤務場所の限定など、内部労働市場における雇用と労働にある程度の制約を設ける介入が必要になる。かなり根本的な働き方の変革になるため、短期間でこういった変化をもたらすためには、多かれ少なかれ強制的な政策介入が求められるかもしれない。


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