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「採用学」の視点から探る、これからの新卒採用の方向性 [2014.09.16]

第4回 企業イメージとマッチング:就職情報サイトの“効果的”活用とは


服部 泰宏
横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 准教授

1 はじめに

 前回は、「データに基づき採用と育成をつなげる」ということについて、三幸製菓株式会社の杉浦二郎氏と対談を行った。採用活動をそれだけで切り話して考えるのではなく、全社的な戦略の下で、育成まで連関した人事施策の一部として戦略的に行っていくことの重要性を感じていただけただろう。
 今回は、採用コンサルティング事業や企業調査を行っている、株式会社マイナビのHRリサーチセンター HRM研究ユニットの神谷 俊氏と対談を行う。学生の就職活動における特性を踏まえ、採用戦略の全体像の中で就職情報サイトの位置づけをどうするべきなのかについて、深めていきたい。

2 株式会社マイナビ HRリサーチセンター 神谷氏と服部による対談

服部 本日はよろしくお願いいたします。まずは自己紹介をしていただけますか。

神谷 私は、株式会社マイナビ HRリサーチセンターHRM研究ユニットの神谷 俊と申します。マイナビというと就職情報サイトをイメージする人も多いかもしれませんが、私は新卒採用を行っている企業から依頼を受けて調査を行ったり、そのデータを踏まえたコンサルティング事業を行っています。今回は、採用支援を行う者の観点から採用活動についてお話しできればと思います。

服部 有り難うございます。まずは、採用支援企業の観点から、採用に関して感じていることをお話しいただきたいと思います。

神谷 そうですね、採用活動において重要なのは、採用の目的を踏まえ、全体の戦略をしっかりと考え、各施策の位置づけを明確にすること――これに尽きると思います。
 就職情報サイトの機能というのは、「企業に応募してくる学生を集めるための広告である」と単純に考えられがちです。確かにそれは間違ってはいないのですが、就職情報サイトでの学生と企業との出会いは、あくまで「きっかけ」です。就職情報サイトの活用方法を採用計画全体の中でしっかりと位置づけ、戦略的に活用していくことが何より重要であると考えています。

服部 なるほど。就職情報サイトの持つ機能とその利用目的について採用活動を行う企業が明確に認識を持つべきとのことですね。確かに、「多くの他社がやっているから」の理由で利用することが普通だと考えられがちの就職情報サイトの利用目的は、もっと明確にすべき点であるのかもしれませんね。

◇  ◇  ◇  ◇

服部 では、就職情報サイトの活用をどのように位置づけていけば良いのか、企業はどのような採用を展開していけば良いのか。現状抱かれている問題意識も含めて、お話をしていただけますか。

神谷 以前、私の所属するHRM研究ユニットにて旧帝大・早慶クラスの2015年卒学生を対象に、企業イメージ形成に対する他者の影響について質問紙での調査を行いました。この調査では、文系8割、理系2割の123名が対象となりました。まずはこの調査についてお話しします。
 その調査によると、就職活動が本格的にスタートする前、2013年の7月から8月の状況として、目指したい業界・企業・職種のいずれかが決まっていた学生は約9割でした。その学生のうち、目指したい業界・企業・職種を決める要因・きっかけとして大きかったものを三つ選択してもらったところ、「友人・同級生がその職種について話していたのを聞いた事がきっかけ」(27.6%)が最も多く、次いで「教授・先輩がその業種について話していたのを聞いた事がきっかけ」(26.6%)、「その他のメディア(インターネット上・TV等)で、その業界を高く評価していたのを目にしたから」(12.5%)となりました。他方で、「自分の価値観や志向に基づき、調べていくうちにその業種を見つけた」は5.7%、「実際にその業種の社員と話をする機会があった事がきっかけ」10.6%となっています。
 この調査から示唆されるのは、学生はしっかりと調べたり、企業内部の人間から話を聞いて、内実を確かめて応募意志を固めるのではなく、断片的な情報から形成されるイメージを基に就職活動を始めていくということです。

服部 そうですね、そのように学生が断片的な情報を基にフィーリング先行で応募に進んでいくというのは、同様に学術的な先行研究でも示されていますね。

神谷 そうです、限られた情報を基にイメージで自らのキャリアを選択して行くんですよね。就業経験を持たない学生ですから、ある意味自然な流れなのかもしれません。しかし、企業もその点を理解せずに、企業情報の広報的・概念的な側面を強調した選考プロセスを展開してしまうと、それこそ「3年3割」と言われるように、選考終盤や入社後にミスマッチングを起こし選考辞退や、早期の離職を促してしまうことにつながってしまいます。これは、学生にとっても企業にとっても不幸なことではないでしょうか。

服部 おっしゃるとおりだと思います。現在の採用活動は、選考過程においてできるだけ印象の悪い部分を隠し、良いイメージのみを提示して引き込んでいくことが多く行われていますが、その結果、入社後に予期していない現実に直面して、離職につながってしまうということは多く起こっていることでしょう。

神谷 こうした状況を踏まえると、まずは企業側が、学生はどのように動いているのかを理解すること。その上でどういった人材が欲しいのか等の自社の採用戦略をしっかりと立てること。そしてその戦略が適切に達成されるように各採用施策を計画し、実行すること。これが企業に求められることだと考えています。

服部 私もその考えに強く共感します。では何かそれを実現した事例などはあるでしょうか。

神谷 こうした状況を克服した例として、当社がコンサルティングをさせていただいた電子機器メーカーA社の事例をお話しさせていただきたいと思います。
 A社は、毎年、40名前後の新卒採用を行っている企業です。しかし、採用活動に大きな課題を抱えていました。それは、1年目離職率が30%、3年目離職率が50%、内々定の辞退が60%、選考プロセスにおける平均歩留まりが70%となっていることでした。こうした状況に対して、自社の選考手法を前提から見つめ直すということを行いました。

服部 なるほど、具体的にはどのようなことを行ったのでしょうか。

神谷 具体的には、三つのことを行いました。一つ目は、求める人材を明確に定義付けること。コンピテンシーアセスメントを用いて高業績者の傾向を測るだけでなく、今後の企業戦略の確認や現在の社内環境調査等、多角的な調査を行いました。その企業の中でいかなる人材が成長していくのかを重視し、定義づけを行っていきました。
 二つ目は、その求める人材が興味・関心を示すような広報戦略です。広報戦略において、注力したのは段階的に情報提供の質を変えていくことです。学生にとって、より身近な情報から提供していきました。社会的に広く知られているサービスを事例に取り上げ、そのサービスがどのようなユーザーに活用されているのかについて説明し、さらにそのサービスに対してA社の製品がどのような貢献をしているのか。また、その製品に対するA社の社員のこだわりや、葛藤を広報情報の中で表現していきました。学生の認知しやすい情報から、徐々にその舞台裏を展開していく構成ですね。段階的に情報をA社に寄せて表していくことで、学生の具体的な業務理解と動機形成を促すねらいです。
 そして三つ目は、採用プロセスにおけるコミュニケーションデザインです。先輩社員と学生の面談や対話機会を何より重視しました。自社を受験した学生が、業務内容をどのように捉えているのか、どのようなビジネスキャリアをイメージしているのか。これらの対話を通して企業が学生を理解し、随時、学生の求める情報提供をできるようにプロセスを組み上げて行きました。学生の本質的なキャリア形成を支援するような機会を多くデザインしていったのです。
 こうしたことを行った結果として、内々定の辞退を60%から16%に劇的に減らし、また各採用プロセスにおける平均歩留まりも94%という高い値に改善することができました。

服部 それは劇的な変化ですね。自社の戦略を明確に意識して、学生の側の状況を十分に把握しつつ、効果的な施策を打てたようですね。

◇  ◇  ◇  ◇

服部 さて、就職活動を行う学生の側に対してはどのようなことをお考えでしょうか。

神谷 学生は、自分が就職活動をどのように進めているのかについて自覚的であることが望ましいと思います。つまり、自分の就職活動が、イメージ先行になってしまう可能性が高いということをしっかりと自覚すること。就職情報サイトは、あくまで企業の一側面にすぎません。自らの求める企業と出会うための最初の一歩だと考えておくこと。学生は実際の現場に踏み込み社員と対話しながら、自らの五感を存分に活用して、その時点で抱いているイメージと現実の比較をしていくべきだと思いますね。

服部 就職情報サイトの情報だけでなく、体感として理解をしていくことが重要であると。それはなぜでしょうか。

神谷 実際の就業体験がない学生に対して企業の情報を伝えることは難しく、また学生がその状態で企業の中で働く自分を考えていくことには限界があるからです。例えば、仕事のやりがいや、顧客に対する想い等を活字にして学生が読んでも、彼らが十分に理解することは難しいでしょう。
 そこはやはり企業に、機会提供を求めたいと思っています。学生に実際の業務や類似性の高い体験をさせ、考えさせるような場を提供すること、経験値の限られた学生に体験と内省の機会を与えなくてはいけないと思います。例えば、インターンシップ等によって学生に実際の体験の場を提供していくこと、これはもちろん大きなコストがかかることですが、採用活動全体を考えた時に、企業と学生双方にとって結果的にはより良い効果をもたらすことであるのだと思います。

◇  ◇  ◇  ◇

服部 では最後に、就職情報サイトは今後、採用・就職活動の中でどうあるのが望ましいと思いますか。

神谷 これまでも述べてきたことですが、学生側は自分の就職活動がイメージ先行になりがちであることに自覚的になって、就職情報サイトを自分なりに「活用」するという意識を持つことが重要でしょう。企業の側は、自社の採用戦略を練り上げた上で、就職情報サイトをどのように位置づけ活用すべきかを明確にする意識を持つことが大切なことだと考えています。企業にとって、学生にとって、それぞれ有意義な機会を生み出すためのツールとして活用していただきたいと思います。
 近年、学生には大手志向が多く見られますが、それ以外にもたくさんの魅力的な企業や、価値ある仕事は存在しています。それらの企業や仕事と学生の間に、就職情報サイトを通じたくさんの相互認知、相互理解の機会が生成されたらと思っています。

服部 それこそイメージ先行ではなく、学生は企業の実態を知るように、企業は学生に実態を知ってもらうように進めていく必要がありますね。


3 最後に

 今回の対談で挙げていただいたマイナビ社の調査でも、学術的な先行研究でも明らかになっているように、学生は断片的な情報から企業イメージを構築し、イメージ先行の就職活動を進めていくことが多くなりがちといえる。こうした現状を利用するように、企業イメージを高めるためにできるだけ印象の悪い情報を表出させず、「良い情報」だけを出していくような採用戦略も一つの手かもしれない。しかしそれは良い施策と呼べるのだろうか。
 イメージ先行になりがちな学生の就職活動の特性を、学生自身がよく自覚すること。企業の側も学生が持つその特性を「利用」するのではなく、そこに配慮するように就職後も見据えた採用全体の戦略を考え、各採用施策を位置づけていくこと。この両者の姿勢があってこそ、就職情報サイトは効果的に活用され、学生の就職活動と企業の採用活動は共に満足できるようなものになっていくのではないだろうか。

 

PROFILE
服部 泰宏
 はっとり やすひろ
横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 准教授
1980年神奈川県生まれ。滋賀大学経済学部情報管理学科専任講師、准教授を経て現職。組織コミットメントや心理的契約といった日本企業における組織と個人の関わりあいや、経営学的な知識の普及の研究等に従事。2010年に第26回組織学会高宮賞を受賞。2013年以降は、人材の「採用」に関する科学的アプローチである「採用学」の確立に向けて「採用学プロジェクト」を立ち上げ、主宰者として精力的に研究・活動に従事している。


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