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Point of view [2014.09.12]

第26回 高城幸司

人事制度は頻繁に変える勇気も必要
~戦略との乖離を避けるために必要なこと~


高城幸司  たかぎ こうじ
株式会社セレブレイン 代表取締役社長
1964年10月21日、東京都生まれ。1987年同志社大学文学部卒業後、株式会社リクルートに入社。6期トップセールスに輝き、社内で創業以来歴史に残る「伝説のトップセールスマン」と呼ばれる。1997年には日本初の独立/起業の情報誌「アントレ」を立ち上げ、事業部長、編集長を経験。その後株式会社セレブレインの社長に就任。人材育成、人事制度構築など、年間で50社以上の企業と人事コンサルティングで関わる。
現在の専門は人事、マネジメント、セールス、ブランドマーケティング等。立教大学をはじめとする大学での講義、講演活動やラジオパーソナリティーとして仕事の接点を広げている。一方、日本酒のきき酒師でもあり、日本酒サービス研究会専務理事や名誉きき酒師任命委員を務める。

 

 筆者は、これまで毎年50社以上に対し人事制度の構築を支援してきた。会社から依頼を受けるきっかけは株式公開やM&Aなど、さまざまである。先日もオーナーである父親から事業承継したご子息より、自社の人事の仕組みを一新したいとの依頼を頂いた。ちなみに人事制度を構築する前に、依頼先の現状分析をすることになるのだが、年功序列の古い人事制度を大切に使っている会社も少なくない。成果主義は8割以上の会社が導入している…とある新聞記事で紹介されていたが、それは大企業の実態にすぎないのではないか。人事制度はそこまで性急に変わらない、というのが筆者の実感だ。
 さて、本題に入ろう。これまでの経験から感じているのは、自社の戦略と乖離(かいり)した人事制度を平気で運用している会社があまりに多いこと。社員にとっては大いに困る問題だ。ただ、企業戦略からかけ離れた人事制度を変えないことには理由があるのか? その背景を探ってみることにする。

戦略が変わったら人事制度は変える必要あり?

 ここで人事制度について簡単に定義しておく。仕組みとして、

・等級制度
・評価制度
・報酬制度

から構成されている。いずれも「定める基準」が定義されており、これに基づき処遇(昇給・昇進・昇格)が決まる。例えば、等級制度の主任級(営業職)であれば、

《効果的な提案をして一定の収益を上げることができる》

と会社が期待する定義が明示されている。この三つの仕組みを活用して社員の働く意欲を向上させ、経営戦略を人事上から支援するのが人事制度の目的である。ところが、会社の戦略が変わっても、人事制度は変えない会社によく遭遇する。それでは社員は混乱することにならないか? いや、間違いなく混乱するだろう。例えば、筆者が取材した機械商社のP社は円高の影響で業績が長年低迷していた。そのため評価制度を改定し、

《目の前の仕事で高い収益を上げる人》

を高く処遇するように設計した。営業職の評価基準は収益目標達成率だけである。これにより、収益額の大きな仕事をしている営業担当だけが高く評価され、管理職に抜擢(ばってき)されるようになる。社員は目先の収益確保だけに固執し、当然ながら新商品開発のために取引先の声に耳を傾ける気配など皆無の状態になった。その後、円安に振れて業績が回復すると、今度は経営陣が、

「取引先の求めるニーズを把握して、商品開発につなげてほしい」

と、従来とは180度変わった新機軸の方針を発信する。ところが、人事制度は変更なしである。経営陣は新方針の趣旨を伝えれば、社員の意識や行動は変わると思ったのかもしれない。しかし、これが大きな間違いだった。残念ながら、社員は新商品開発のために取引先の声なんて聞かない。長年染みついた収益を上げる行動を優先するだけで、経営陣が"笛吹けど誰も踊らない"状態である。

企業戦略が浸透しない怒りの矛先をはき違えてはいけない

 ここで方針が180度変わった理由を補足する。経営陣はアベノミクス効果で業績好調は当分続くと予測、新規事業を幾つか立ち上げる決断をした。経営陣にもLED事業や海外進出支援などのアイデアはあったものの、

「現場の視点で新しいビジネスの芽をつくり上げたい」

と考えて新商品プランを公募した。具体的には社内の掲示板で、

・社長のメッセージ
・応募方法

を告知し、締め切りまで約3カ月の公募期間を設定。経営陣は社員が意欲的に参加してくれることを期待していた。ところが応募者はわずか3人にとどまり、しかも提出された新商品プランは(経営陣からすれば)アイデアレベルで評価に値しないと思える内容ばかりであった。まさに想定していなかった結果に、経営陣は公募の事務局を任せた人事部の関係者を呼び出し、

「こうなったのは、人事部の社員への伝え方が悪かったからだ。責任をとるように」

と厳しい言葉を投げ掛けた。
 では、どうすればよかったのか? 人事部の責任だけとは言えないだろう。問題は社員が新商品を考えることに意欲的になる人事制度に変えなかったことにあるのではないか? 本気で社員に新規ビジネスを考えてほしいと考える会社であれば、評価やインセンティブなど処遇面での反映方法を制度化するものだ。サイバーエージェント社やリクルート社などが代表的なケースかもしれない。

頑強な人事制度の構築よりも柔軟に対処できることが大切

 時代が変われば方針が変わる。朝令暮改とも言うが、変わっても構わない。方針が変わればそれに合わせて仕組み(人事制度)も変えればいいだけである。それがどうしてできないのか。人事制度が複雑につくられているからではないか?
 筆者が取材したあるIT系企業は、人事制度の設計に大掛かりなシステム構築で対応しており、多少の変更でも数百万円、あるいは数千万円のコストが発生する状態になっていた。臨機応変に修正できないシステムにしてしまったため、企業戦略が変わっても人事制度を変えることができないのであろう。
 あるいは、「人事制度を改定する専門家が社内にいない」という理由を挙げる会社も少なくない。たしかに当社のようなコンサルティング会社にとっては有り難い話である。ただ、そこまで面倒に考えなくても、企業戦略と人事制度をつなげる方法はある。評価制度に1カ所だけ、柔軟に会社の戦略を書き加えられる項目を準備しておくことだ。例えば、優先事項が「収益の確保」から「新規事業の種まき」に変わったら、現状の評価項目に追加して、

《今期の重要テーマ:新商品開発のため取引先の声を聞く》

と書き込んで社員に目標を設定させる。さらに評価ウエートを何割か割り当てればいいのである。そうすれば、前述のP社であれば全社員(少なくとも営業職)が取引先の声を聞いてアイデアを出し、新商品プランの応募をするであろう。社員は経営陣の掛け声よりも自分の評価を大事にするものだ。ちなみにP社では、上記のように「今期の重要テーマ」に関する取り組みを評価項目に追加した結果、翌年から新商品プランの応募が急増したようだ。
 戦略と人事制度の乖離を防ぐため、大掛かりな仕組みの変更は不要である。小さな工夫を凝らすだけで十分なのだ。ただし、変化のたびに細かく対処する心配りを忘れないでいただきたい。


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