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「採用学」の視点から探る、これからの新卒採用の方向性 [2014.08.08]

第1回 採用学とは何か――エビデンスに基づいて採用を考える


服部 泰宏
横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 准教授

1 はじめに

 採用のミスマッチ、就活によるうつ・自殺、早期離職、女性やシニアの活用……昨今ではこうした就職活動・採用活動に関する話題はメディアでも多く取り上げられるようになり、困難な問題が山積みになっている。また、それに加えて2016年卒の学生から採用活動期間の後ろ倒しが決まり、採用活動の期間が短くなるためにより採用の競争は激しくなる。そのような状況の下で、どのような施策を行えば採用活動をより適切に行うことができるのかについて、頭を悩ませている企業採用担当者は非常に多いことであろう。
 私はこうした状況を打破すべく、科学的アプローチから採用活動を求職者・採用担当者双方にとって効率的なものにするための産学連携プロジェクトとして、「採用学プロジェクト」を立ち上げた。本連載では、このプロジェクトを進めるに当たって明らかになったことや先進的な採用活動の事例を取り上げる。そして採用活動のうちでも、三つの点に焦点を当てて進めていきたい。それは、(1)16年卒以降の採用活動を展望すること、(2)「経験則ではなくデータを用いる採用の在り方」を模索すること、(3)先進的な企業の事例を取り上げること、である。

2 採用活動の概観:時間軸とマッチング

 具体的な話に入る前に前提として、採用とはどのような活動なのかを考える上で大切になってくる二つの観点を紹介したい。これらは基本的な事柄であるが、いずれも重要なことである。その一つは「時間軸」、もう一つは「マッチング」に基づいた観点である。

(1)時間軸から見る採用
 採用活動は、時間軸で区切ると三つのものに分けられる。それは、募集・選抜・社会化の段階である。「募集」とは、企業による募集情報の提示と、求職者による自己選択の段階である。ここで自己選択とは、「企業と合う/合わないということを、求職者自身に判断させ、合わない場合にはエントリーを控えるようにさせること」である。次に「選抜」とは、企業による求職者の選抜と、求職者による企業の選択の段階である。最後に「社会化」とは、個人が企業に入り馴染む、業績を上げることである。

(2)マッチングから見る採用
 次に、マッチングの観点から見ると、採用活動は三つのマッチングが関わってくる。それは、期待のマッチング、フィーリングのマッチング、能力のマッチングである。
 「期待のマッチング」とは、個人が企業に求めるものと、企業が提供するものとのマッチングである。具体的には給与水準、教育機会の提供、海外勤務の可能性などである。これは募集段階において、募集情報や会社説明会、リクルータを通して確認される。これがミスマッチを起こすと、職務満足や組織への愛着、離職・残留に影響を与える。
 次に、「フィーリングのマッチング」とは、「この人と働きたい」などといった主観的な相性のマッチングである。これは募集段階と選抜段階において、募集情報や会社説明会、リクルータ、採用面接を通して確認される。これがミスマッチを起こすと、期待のミスマッチ同様職務満足や組織への愛着、離職・残留に影響を与える。
 最後に、「能力のマッチング」とは、その字のごとく求職者が持っている能力と企業が必要とする能力とのマッチングである。これは選抜段階において、適性検査や採用面接を通して確認される。これがミスマッチを起こすと、仕事業績に影響を与える。

3 日本の採用の課題

 日本の採用の課題は多く積み重なっている。そうしたさまざまな課題のうち、(1)曖昧にされる「期待」、(2)曖昧で画一的な能力評価、(3)活動の過熱化の三つについて取り上げたい。

(1)曖昧にされる「期待」
 日本の採用、とりわけ新規学卒者の採用の特徴として、募集段階で雇用条件をはじめとする企業と求職者間の相互期待が曖昧なことが挙げられる。個人が企業に対して何を期待し、逆に企業が個人に対して何を期待するかということが雇用契約のような文章の形でも、また口頭のやりとりのようなインフォーマルな形でも、明確に語られるのは少ない。これは、1969年(リクルートブック登場)以降の日本企業の一般的な採用の考え方が根底にあるためである。
 日本の伝統的な採用においては、「応募者が多ければ優秀な人がその中にいる確率も高い」、そして「エントリーシートや面接のような、精度が高いとはいえない選抜テストでも、優秀な人を選り分けることは容易」という仮説的ロジックに基づいて行われる。これは確かに論理的には正しいことであるのだが、実際に行うとなると問題を引き起こす種になる。
 このロジックにのっとると、企業はできるだけ多くの求職者を確保することがまずはじめの目標になる。そこで曖昧で、ポジティブな情報・魅力的なイメージで求職者に働きかける。この結果、実際に応募してくる人の数は多くなる。こうして企業としてはその多くの求職者の中から優秀な人を採れるようになると考えるかもしれない。しかし、応募者の数を増やした分、選抜の密度は低くなる。つまり、一人ひとりの能力を吟味するために使う時間が短くなるのである。
 そして、これはさらなる問題につながる。「期待のミスマッチ」を引き起こすのである。求職者は、曖昧でポジティブな情報や魅力的なイメージに基づいて応募を行うが、その分実際に入社してみると現実とのギャップがあることに気付き、期待が裏切られた感覚が発生する。とはいえ、日本企業の雇用慣行の中で、途中で退社すると不利になるため、辞めることは難しい。こうして、「期待のミスマッチ」の問題は隠蔽(いんぺい)されてしまうのである。

(2)曖昧で画一的な能力評価
 次の問題として、能力評価の基準が曖昧であることが挙げられる。2009年に日本企業の採用基準を調べた経団連の調査(*1)では、選抜時に重視する点として、「コミュニケーション能力」が76.6%で第1位に挙がっている(6年連続で第1位)。続いて第2位が56.1%で「協調性」、第3位が55.2%で「主体性」、以下「チャレンジ精神」(51.5%)、「誠実性」(40.0%)と続く。また、2005年の労働政策研究・研修機構(JIL-PT)の調査(*2)では、第1位が「エネルギッシュで行動力のある人」(64%)、第2位が「協調性・バランス感覚がある人」(58%)、第3位が「誠実で、堅実に仕事をする人」(42%)となっている。
 *1:経団連「2008年度・新卒者採用に関するアンケート調査」
 *2:労働政策研究・研修機構「大学生の就職・募集採用活動等実態調査結果―大卒採用に関する
   企業調査」 (以下、「JIL-PT調査」と略)

 こうした評価基準を見ると、いずれも曖昧で、分かりにくいものとなっていることが明らかだろう。求職者は、その曖昧な能力要件をどのように満たせばよいのかで苦労することになる。また、企業側にとっても応募者がこのような基準を満たしているのかどうかを見極めることは非常に難しい。では、なぜこのような曖昧な評価基準になっているのだろうか。その理由は、新卒一括採用という古くからの日本の採用の慣行に理由がある。
 新卒一括採用を前提とした場合、採用時点でその会社で仕事をするに当たって必要な能力や技術のすべてを、求職者が身に付けていることは期待できない。その上、人材を採用する時点で、その人が将来的にどのような職種に就くのか、どのようなキャリアを歩むのかということが明確になっていない。そこで採用側としては、仕事に直接必要な能力や技術そのものではなく、「将来的にそうした能力を高いレベルで身に付けるであろう人材」を推測するという発想にならざるを得ない。
 こうした評価基準の問題は、その曖昧さゆえに、企業間における評価基準の画一化につながり、そうした評価基準の画一化が求職者間の格差を生み出すということだ、企業が設定する評価基準が「コミュニケーション力」のように抽象的で曖昧なものに収れんしていくと、同じような求職者を巡って複数の企業がしのぎを削ることになる。その結果、複数の企業から内定を得る求職者と、どの企業からも声がかからない求職者というように、就職活動における格差が拡大していくことになる。

(3)活動の過熱化
 そして、このような期待の曖昧化と能力基準の曖昧化が、採用活動の過熱化を引き起こしている。募集段階で可能な限り大きな母集団を形成し、そこから選抜していくことで優秀な人材を獲得していくというロジックの下では、いかに他社ではなく自社に求職者を引き付けるかという考えに基いて行動するようになる。人材の獲得競争の中でこうした意識により、さらに曖昧でポジティブな情報・魅力的なイメージを打ち出すようになり、採用活動は過熱化していく。
 また、先述したように日本企業では曖昧な評価基準が重視されており、そしてそれが多くの企業で画一的なものになっている。そうした評価基準の下で、秀でた少数の「優秀な」学生を採用するために、熾烈な母集団獲得競争を引き起こすことになる。
 ここで皮肉なことは、膨大なコストを投じて形成した母集団から、膨大なコストを投じて人材を選抜しなくてはならないということだ。先のJIL-PT調査によると、採用活動は募集段階において母集団を形成した後、ES・履歴・能力検査により採用予定人数の2~15倍に絞り込み、そして候補者数×15~40分×2~5回の面接で内定者を絞り込むというプロセスを経る。これだけ多くの時間と労力が割かれているのだ。
 しかし、その多大な苦労にも関わらず、望み通りの能力を持った人材を採用することができた企業は少ないと言わざるを得ない。というのは、画一的で曖昧な評価基準の下では、採用を熱烈に望む企業の数に対して、その要件を満たす求職者の数が著しく少ないからである。実際、JIL-PT調査によれば、5割超の企業が「求める能力の人材を確保できていない」という問題を抱えているのである。

4 今後の採用活動はどうなるのか

 さて、ここまでは現在の採用活動の問題点について概括してきたが、ここからは16年卒以降の採用活動についての展望を述べたい。16年卒採用から、採用活動はその期間が後ろ倒しになる。広報の開始時期は従来の12月から3月になり、選抜の開始時期は4月から8月になる。そこで、広報解禁から内定解禁の時期、つまり企業が求職者と関われる期間は10カ月間から7カ月間へと短縮されることになる[図表]

[図表]採用活動・スケジュールの変化
区  分主導とその目的広報の開始選抜の開始広報解禁~内定解禁の期間(企業が求職者と関われる期間)
12年卒採用
⇒14卒採用
 への変更
経団連主導
採用活動の過熱化
への抑制
 
10月⇒12月
2カ月の後ろ倒し 
変更なし
4月スタート 
10カ月間
広報解禁~選考解禁
4カ月(12月~4月) 
16年卒採用政府主導
人材育成システムの強化
12月⇒3月
3カ月の後ろ倒し 
4月⇒8月
4カ月の後ろ倒し 
7カ月間
広報解禁~選考解禁
5カ月(3月~8月)
選抜~内定解禁
2カ月(8月~10月) 


 したがって、これまで以上に短い期間で、母集団を集め、それを維持し、求職者を見極め、内定を出し、受諾させ、求人数を確保する必要が生じてくる。つまり、求職者を自社に引き付けることが極めて重要な課題となるのである。
 そうした中では、以下のような二つの企業/求職者の行動が予想される。一つは、見えざる競争の激化である。採用活動の時期が後ろ倒しになったため、優秀層の採用は多くの企業にとって喫緊の課題となる。そこで、一部の優秀層の採用に関しては、企業と学生(大学)のダイレクトな採用がアンダーグラウンドで進行すると考えられる。一方で、もう一つは"見える競争"の激化である。そうした特別に優秀な求職者に限らないマスの部分では、短くなった期間の中で、熾烈な母集団形成競争、母集団プールの引き付け競争が起こると考えられる。

5 今後の連載予定

 今回は、これまでの採用活動の問題点、そしてこれからの採用活動の展望について一般的な考察を述べてきた。前者に関しては、採用活動が主観的な感覚や慣習に規定され、それゆえPDCAを回すような体制になっていないことが大きな原因であると考えている。後者に関しては、採用活動が短期化し競争が激しくなると予想される中で、効率的な採用活動を行えるか否かが望み通りの人材を獲得するための鍵になると考えている。この両者を克服するための大きな武器になるのが、私が「採用学」の軸に据える科学的なエビデンス・ロジックなのだ。
 今後の連載では、さまざまな企業の人々と対談をしつつ、(1)16年卒以降の採用の展望、(2)経験則ではないデータを用いた採用の在り方の模索、(3)先進的企業の事例紹介、を進めていく。その際には、採用に科学的手法を導入していくために、データをいかに集め・分析するのか、分析から得た知見をいかに活用していくのか、そしてそれらに対して採用活動に関わる採用担当者・採用支援企業はどのように考えているのかという点に注目していきたい。

 

PROFILE
服部 泰宏
 はっとり やすひろ
横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 准教授
1980年神奈川県生まれ。滋賀大学経済学部情報管理学科専任講師、准教授を経て現職。組織コミットメントや心理的契約といった日本企業における組織と個人の関わりあいや、経営学的な知識の普及の研究等に従事。2010年に第26回組織学会高宮賞を受賞。2013年以降は、人材の「採用」に関する科学的アプローチである「採用学」の確立に向けて「採用学プロジェクト」を立ち上げ、主宰者として精力的に研究・活動に従事している。
 採用学プロジェクト ホームページ: http://saiyougaku.org/ 


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