Point of view [2014.02.14]

第12回 金田宏之

 人と組織の成長の観点から
「これからの賃上げ」を考える


金田宏之 かねだ ひろゆき
クレイア・コンサルティング株式会社 シニア・コンサルタント
1982年生まれ。2007年 早稲田大学教育学部卒業。民間企業のみならず、非営利組織である学校法人等、幅広い業種における人事制度改革に従事。制度設計から導入・運用にわたる継続支援に関するコンサルティングを得意とする。

 

 「今春、賃金は上がるのか?」といったタイトルが、最近、新聞紙上をにぎわしています。2013年の全国消費者物価指数は、前年より0.4%上昇と、08年以来5年ぶりに対前年比で上昇となり、デフレ脱却を目指す政府も賃上げムードを高めようと必死に民間企業へメッセージを発信しています。一方、民間企業では、一度基本給を上げてしまうと下げることが法的にも感情的にも困難であり、また現段階では今後の業績見通しも立てにくいという判断から、慎重な姿勢が取られています。さて、突然ですが読者の皆さんは、賃上げに賛成でしょうか、反対でしょうか?

もう一度考えてみる、“そもそも賃上げとは?”

 一般的に賃上げというと、基本給の水準を定額・定率で一律的に底上げするベースアップがイメージされますが、その他にも毎年行われる定期昇給や一時金(賞与)、手当によって給与水準を上げる方法もあり、捉え方、使われ方は多様なワードです。そもそも賃上げとは、外部・内部のさまざまな要因に基づいて実施される施策ですが、根本的にはインフレ等の物価変動に応じて議論される性質をもっています。
 現在の日本で考えると分かりにくいですが、例えば今年サッカーのワールドカップが開かれるブラジルでは、インフレの影響で消費者物価指数が5.9%上昇し(12年)、ある日系企業の工場では8.5%の賃上げで妥結(組合側の当初の要求は17.5%)したそうです。一方、ワールドカップでブラジルのライバルと目されるアルゼンチンでは、13年の消費者物価上昇率が政府の公表で10.9%であり、この物価上昇率に応じてさまざまな業界で賃上げが行われています。
 もちろん物価指数に関係なく「継続的に会社が成長している」「今期、最高益」といった業績等を受けて賃上げされることはありますが、ベースアップに関する議論の本質は、その国の物価や生計費の変動に依存しています。

経済学者ではなく人事コンサルタントの視点から見た賃上げ

 本稿では、こうした賃上げが正しい、もしくは間違いである、と個人的な意見を主張したいわけではありません。物価指数に基づけば、ブラジルやアルゼンチンのように社会情勢から賃上げせざるを得ない状況がある通り、賃上げは重要な経済施策です。ただし、人事コンサルタントとして現在の賃上げ議論を捉えると、かすかな違和感を覚えてしまいます。労働者の賃金を一律で底上げし、消費意欲を高め、デフレ脱却を実現する。そして、その先に景気回復、さらには雇用増・所得増といったサクセスストーリーが待っている。経済学者の意見としては合理的に感じますが、人事コンサルタントとしてはさらに踏み込んだ人・組織の“気持ち”にまで配慮した合理性をこの賃上げに追求したいところです。
 そこで物価指数に基づく賃上げ議論を出発にするのではなく、人・組織の“気持ち”を基準にした賃上げ議論を進めてみたいと思います。そもそも、労働者の賃金を一律で底上げすると、消費意欲は高まるのでしょうか? また、企業の業績に影響を及ぼす仕事への意欲(モチベーション)や生産性の向上に、賃上げはどれほどの効果をもたらすのでしょうか?

一律で賃金を上げる効果は?

 消費意欲は、一律で賃金水準を底上げすること自体ではなく、”どの程度上げるか“に起因すると思います。日本経済新聞が電子版読者に行ったアンケートでは、「仮に給料が上がった場合の使い道」について、半数以上が「主に貯蓄に回す」と答えていました。
 微々たる底上げでは、社会保険料が上がる・消費税が上がるといった外的要因によって容易に吹き飛んでしまうため、その効果はそれほど期待できるものではありません。仮に年収の1%相当のベースアップが行われたところで、皆さんは今まで購入に踏み切れなかった商品・サービスに積極的に手を伸ばすでしょうか? 具体的にどれほど賃金が上がれば消費につながるかは人それぞれですが、一律のベースアップでは限界があると思います。ちなみにあるクライアント企業の一社員(20代後半)は、「月額で3万円程度昇給したときであれば、手取り分が増えた気がする」と言っていたことがありました。
 次にモチベーション向上の観点ですが、単純に給与水準が上がるので、一般的な社員であれば経済合理的には喜ばしいことだと思います。ただし、一般的と前提を置いたのは、組織を2:6:2(優秀者2割、標準者6割、非優秀者2割)の法則で分類した場合の6割の標準者と2割の非優秀者にとってのみ無条件で喜ばしいことであるという意味です。というのも、優秀者2割にとっては、一律で給与を上げるのではなく、自分たちに重点的に多く配分されるべきである、という意識が少なからず存在するからです。このことは、組織全体の生産性向上という観点にも影響を及ぼすこととなるでしょう。

これからの賃上げ

 企業で働く人にとって、消費意欲やモチベーションを引き下げている原因には、現在の賃金水準だけではなく、将来的なキャリアの見通しに対する不安もあります。ポスト不足によって、将来自分は管理職に昇格・昇進できないのではないか? このまま同じ仕事をやり続けるのか? ポストのことを考える前に、そもそも自分の雇用は将来確保されるのだろうか? ――こうした閉塞(へいそく)感漂う組織の中で、一時的な一律の賃上げが消費意欲やモチベーションにどれほどの効果を発揮するかは定かではありません。
 では、こうした状況下で「これからの賃上げ」について、どのように考えていくべきなのでしょうか。ポイントは、シンプルに「誰に・どのように」人件費を配分すると、今後の継続的な企業成長の確率が高まるのかを素直に考えることだと思います。盲目的に一律で賃上げするのではなく、今後の成長のカギとなる人・チーム・部門に重点投資することで、魅力的な市場や仕事、新たなポストを生み出すことが今求められています。


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