Point of view [2013.11.29]

第8回 繁桝江里

職場におけるダメ出しの力

繁桝江里 しげます えり
青山学院大学教育人間科学部心理学科 准教授
1999年早稲田大学第一文学部卒業、2005年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了、2007年博士号取得(社会心理学)。山梨学院大学法学部政治行政学科専任講師、准教授を経て現職。社会心理学、対人コミュニケーションを専門とし、近年は職場を対象に研究を行っている。著書に『ダメ出しコミュニケーションの社会心理』(誠信書房、2010年)、『ダメ出しの力』(中央公論新社、2014年刊行予定)など。


 職場で一緒に働いている人に「あぁ、このやり方はまずいなぁ」「最近、連絡が雑になってるな」と思ったら、それを言えるでしょうか。本稿では、相手の悪いところを指摘するコミュニケーションを「ダメ出し」と呼びます。

ダメ出しはダメではない

 「ダメ出し」という言葉を使うのは、「叱る」ことと差異化したいからです。「叱る」という言葉はマイナスのイメージが強すぎ、言う側も言われる側も「できれば避けたい」ものになってしまうでしょう。しかし、職場のパフォーマンスを高めるためには、メンバーの悪いところは指摘し、問題点に対する気づきを与える必要があります。言われた側は、それを改善することで成長につなげることができるのです。
 ダメ出しが受け手にプラスの効果を与えることは、私が行ったいくつかの調査でも示されています。たとえば、上司からのダメ出しが多いほど部下の成長感が高いこと、危険をともなう作業チーム内ではダメ出しが多いほど安全行動が行われていること、などの結果が得られています。つまり、ダメ出しはダメではないのです。ダメ出しは、受け手に対するアドバイスとなり、受け手をサポートするものでありうるのです。
 とはいえ、「ありえる」と言わざるをえないのは、ダメ出しが受け手にマイナスの効果を与える可能性もあるからです。もちろん、パワハラだと思われるようなものは論外として、ダメ出しが示す情報自体は有用でも、受け手には脅威となりうる点も軽視できません。

ダメ出しの良い効果と悪い効果

 上司からダメ出しを受けた経験に関する調査では、ダメ出しには良い効果があることが確認されたと同時に、悪い効果もあることが分かっています。[図表]にダメ出しの効果についての回答の内訳を示しました。

[図表]「ダメ出し」の効果の内訳

資料出所:2009年に企業6社を対象として筆者が実施したもの。回答者数460名。

 

  まず、職務の明確化という面について、[図表]の上から3本のグラフを見てみます。たとえば、ダメ出しによって、「自分の仕事ぶりがどうかが分かった」という人も「分からなくなった」という人もいます。3つの項目に共通して、良い効果のほうが多いものの、かえって不明確になる悪い効果もあります。「どちらともいえない」という人も半数程度いました。
 次に、仕事への動機づけとして、[図表]の真ん中の3本のグラフを見ると、「仕事において成長しようという気持ちが強まった」という人は「弱まった」人よりも多いですが、その下のモチベーションや確信に関する2つの項目では良い効果と悪い効果が拮抗(きっこう)しています。さらに、上司に対する評価が、[図表]の下3本のグラフに示されています。「どちらともいえない」が増えますが、やはり、良い効果と悪い効果の割合は同じくらいです。

ダメ出しの効果を決める要因

 では、ダメ出しの効果を良いほうへ押し上げたり、悪いほうへ引き下げたりする条件はどのようなものでしょうか。効果の良し悪しを決める要因を分析した結果をまとめます。
○メッセージの要因:効果的な言い方は「ネガティブな感情をともなわない」「悪いところの解決法も示す」「良いところも指摘する」などです。聞けば当たり前のことのようでも、実際に行えているとは限りません。「そこまでしなくてはいけないのか」という声もありますが、受け手の脅威を減らしてこそダメ出しの効用が得られるのです。
○送り手の要因:上司が「誠実だ」「良心的だ」という人柄への信頼を得ていれば、ダメ出しが部下に与える効果は高まります。しかし、上司の能力に対する信頼はダメ出しの効果と関係がなく、能力があるからといって効果的なダメ出しができるわけではないようです。
○受け手の要因:人付き合いに肯定的な「他者志向性」が高い部下や、仕事で高いレベルの達成を求める「挑戦的職業価値観」を持つ部下は、ダメ出しによって動機づけが強まったり、上司をより高く評価するなど、気持ちの面での良い効果につなげられます。
○組織の要因:「目標志向」「サポート志向」の文化がある職場ほど、ダメ出しによって職務が明確化することが分かっています。ダメ出しは上司‐部下間の問題だけでなく、目標に向かってサポートし合う環境があることによって、職務面に活かされるのです。
 上司のダメ出しの頻度が部下に与える効果を検討した調査でも、受け手の職位や職務によって、ダメ出しの効果が得られたり、得られなかったりすることが分かっています。逆に言えば、条件さえ整えば、一見ダメに見えるダメ出しも効用をもたらすのです。

ダメ出しが効用をもたらす職場へ

 ダメ出しは、受け手に気づきを与えて成長につなげるだけでなく、相手の仕事をしっかり見ているということの表れであり、さらには、ダメ出しをできるくらいの信頼関係があることの証でもありえます。「イイ」と言うことは当然効果的であり重要ですが、「ダメ」と言うことの力もあるのです。

 ただし、本稿はダメ出しをやみくもにすることを推奨しているのではありません。むしろ、一度腰を据えて、「ダメ出しが効用をもたらす条件」を満たしているかを考えることが、より良い職場に近づく一つの方法だと提案したいのです。ダメ出しは難しいコミュニケーションだからこそ、それを使いこなせることが良い職場を示す指標となり、努力目標になりえます。ダメ出しの効用を引き出す条件は多様です。ダメ出しをする側の上司として、それを受けて活かすべき部下として、そのような環境を作り出すべき人事として、それぞれの立場でどの条件を整えることができるかを考えていただければと思います。

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