新任担当者のための労働法セミナー [2014.08.21]
第28回 年次有給休暇(4)計画的付与(労働基準法39条6項)、取得時の賃金
下山智恵子
インプルーブ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士
今回のクエスチョン
Q1 忙しいときや退職時にまとめて年次有給休暇を取得されるのであれば、暇なときに消化してもらうほうがいいと考えています。会社が暇な時季を指定して取得させることはできますか?
A1 労使協定を締結すれば計画的に付与できます
年次有給休暇は、本来労働者の指定した時季に付与しなければなりませんが、計画的に取得させることができます(労働基準法39条6項)。この方法により、労働者にとっては取得の促進になり、会社にとっては業務に支障のない日に取得させることができます。
ただし、計画的付与の対象になるのは、労働者が有する年次有給休暇日数のうち、5日を超える日数です。5日は労働者が自由に使うために残しておかなければなりません。この「5日を超える日数」には、繰り越し分も含まれます。
【解説】
■労使協定を締結する
計画的付与には、①事業場全体の休業による一斉付与、②班別の交替制付与、③計画表による個人別付与――の三つの方法があります(昭63.1.1 基発1、平22.5.18 基発0518第1)。業務に差し支えのない方法を取り入れるとよいでしょう。
この方法を取り入れるには、会社と「労働者の過半数を代表する者」が労使協定を締結する必要があります。「労働者の過半数を代表する者」は、労働者の過半数で組織する労働組合があればその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者です。この協定書は、労働基準監督署への届け出は不要です。
なお、計画的付与についても、労基法89条1項1号の「休暇」であり、絶対的必要記載事項に該当することから、就業規則に規定しておかなければなりません[図表1~4]。
■入社して日が浅い者に配慮が必要
この制度を導入する際に問題になるのが、入社して日が浅く、年次有給休暇の権利が発生していない者や、残日数が少ない者の扱いです。
年次有給休暇の日数が少ない、あるいはまったくない労働者については、計画的付与の対象から外すか、次の方法のうちから、いずれかの方法を導入する必要があります。
①労基法26条による休業手当(平均賃金の6割)を支払い、会社都合の休日とする
②不足分だけ有給の特別休暇を与える
③振替休日とする など
このほかに、充当すべき年次有給休暇がないパートタイマーについては、労使協定において当日を「休日」と定める方法もあります。初めから休日であれば、休業手当の支払いは不要です。
■カレンダーで簡単に活用できる
計画的付与は、カレンダーで簡単に活用できます。1年単位の変形労働時間制などを活用している会社は、年間休日カレンダー作成時に組み込めばよいのです。
カレンダーを作成していない会社でも、年末年始やお盆、祝日など就業規則上で法定休日以外に定めている休日を一斉取得日に充てる、あるいは「飛び石」になっている休日の間の日を一斉取得日として連続休暇を設けるなどの工夫が考えられるでしょう。
ただし、今まで休日であったものを一斉取得日に変更する場合には注意が必要です。一斉取得日は「労働日」であるため、休日から労働日へ変更することになり、労働条件を悪くすることになります(労働条件の不利益変更)。
労働条件の不利益変更は一方的に行うことはできず、合理的でなければならないなどの要件があるため、注意が必要です(労働契約法9条、10条)。
■取得時の賃金は三つのいずれかの方法で計算する
年次有給休暇を取得したときは、次のいずれかの方法で賃金を計算することとされています。いずれの方法で計算するのかを就業規則に記載しなければなりません。ただし、③を選択する場合は、労働者の過半数を代表する者との労使協定を締結しなければなりません。
①平均賃金
②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
③健康保険の標準報酬日額
■「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」は次の方法で計算する
三つある賃金計算方法のうち、ほとんどの会社が②通常の賃金を選択しています。この方法の場合、月給者であれば、取得した日も賃金を減額しなければいいのです。
所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」は、次の方法で計算します(労働基準法施行規則25条)。
(1)時間給の場合
時間給×その日の所定労働時間数
(2)日給の場合
日給
(3)週給の場合
週給÷その週の所定労働日数
(4)月給の場合
月給÷その月の所定労働日数
(5)月、週以外の一定の期間によって定めた場合
(3)(4)に準じて計算した方法
(6)出来高払い制の場合
(賃金の総額÷賃金算定期間の総労働時間数)×1日平均所定労働時間数
(7)これらの組み合わせの場合
それぞれ計算し、合計する
《復習&応用問題》
Q2 当社では、事業場全体で一斉に年休を付与する日を設けています。このたび、労使協定で定めた計画付与日に取得せず、他の日に取りたいと言ってきた労働者がいます。認めなければなりませんか?
A2 計画的付与では、労働者の時季指定権は行使できません
計画的付与であらかじめ定めた年次有給休暇日には、労働者の時季指定権は使えません。つまり、労働者は計画的付与の日が気に入らなくてもその日に取得しなければなりません。
同様に、使用者の時季変更権も行使できないとされています(昭63.3.14 基発150)。
Q3 当社では、年次有給休暇を取得する者、取得しない者の取得日数に大きな違いがあります。ほとんど取得せずに2年の時効を迎える者がいるため、消滅する分を賃金に換算して買い上げることを検討していますが、法律上問題はありますか?
A3 消滅時効にかかる残日数や退職の際などに買い上げることは認められます
年次有給休暇は、本来、休暇を取得することで疲れをいやすことを目的とした制度です。会社が買い上げる約束をすることは、年次有給休暇取得の妨げとなり、原則としてできません。ただし、2年の消滅時効にかかる残日数を買い上げることは認められています。
このほか、退職により、権利が消滅する残日数を買い上げることや、法律を上回る部分の休暇日数を買い上げることは認められています。
※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2013年7月にご紹介したものです。
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下山智恵子 しもやまちえこ
インプルーブ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士
大手メーカー人事部を経て、1998年に下山社会保険労務士事務所を設立。以来、労働問題の解決や就業規則作成、賃金評価制度策定等に取り組んできた。 2004年には、人事労務のコンサルティングと給与計算アウトソーシング会社である(株)インプルーブ労務コンサルティングを設立。法律や判例を踏まえたうえで、 企業の業種・業態に合わせた実用的なコンサルティングを行っている。著書に、『労働基準法がよくわかる本』『もらえる年金が本当にわかる本』『あなたの年金これで安心!―受け取る金額がすぐ分かる』(以上、成美堂出版)など。
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