トップインタビュー 明日を拓く「型」と「知恵」 [2012.11.14]

20代が担う「大人気ブランド」。現場に任せ、後方で支援する──株式会社ジャパンイマジネーション 代表取締役会長 木村達央さん(上)

 


 

  
撮影=小林由喜伸

木村達央 きむら たつお
株式会社ジャパンイマジネーション 代表取締役会長
1948年東京都生まれ。71年学習院大学経済学部卒業後、三菱商事に入社し、主に経理業務を担当。76年株式会社デリカ(ジャパンイマジネーションの前身)入社。営業部長、専務などを経て90年に代表取締役社長に就任、2010年代表取締役会長に就任。社長在任時から「組織はフラット、考え方はシンプル」を掲げる。
趣味は物見遊山で、主な行き先は「イタリア」「温泉」「飛鳥地方」だという。

10代や20代女性に大人気の「セシルマクビー」で知られる。
ギャル向けブランドとして成長したが、今や大人世代も支持。
「こだわらない」ブランド、「任せる」経営で、人気を継続する。

取材構成・文=高井尚之(◆プロフィール

 ファッションブランドの経営者には、派手な服や個性的なファッションに身を包んだ、エネルギッシュなタイプが多い。
 だが、ジャパンイマジネーション会長の木村達央さんは、まったく違う。東京・丸の内や大手町といったビジネス街にいそうなタイプだ。
 この人が、レディスアパレルブランド「セシルマクビー」(セシル)を運営する会社の会長とは思えないかもしれない。

渋谷109で12年連続売り上げトップ

 若者向けファッションビル「渋谷109(イチマルキュー)」に、次々と若い女性が吸い込まれていく。後に続き建物に足を踏み入れると、音響の大きなBGMが出迎えてくれる。
 入居する店の面積は広くなく、多くの店は15~20坪だという(セシルは約47坪)。館内には若い女性が圧倒的に多いが、マーケティング調査に来たのか、中高年男性も目につく。

 1990年代後半から2000年代にかけて、このビルからは「ルーズソックス」「厚底サンダル」「レッグウォーマー」「カリスマ店員」といった若い女性の流行が生まれた。かつてほどの熱狂感は薄れたが、今でも109は“ギャルの殿堂”と呼ばれる流行発信地だ。

 このビルの2階に「セシルマクビー」がある。木村さんが営業部長時代の87年にスタートさせ、96年の社長時代にブレイクしたレディスアパレルブランドだ。
 全館で約120店舗のうち、年間40~50店舗が入れ替わったり、リニューアルしたりする109で、セシルはずっと人気を継続してきた。2000年からは12年連続で売り上げNo.1を誇っている。


“マルキュー(渋谷109)のセシル”といえば若い女性の共通語。盛衰が激しいファッション業界を10年以上にわたり牽引している

 二人三脚で伸びてきた同ビルを、木村さんはこう振り返る。
 「109は、専門店ビルがブランドとなった初めてのケースでしょう。これほどまで人気が続き、例えばお正月の福袋に並ぶ行列や、徹底した顧客志向のビジネスモデルなど、専門店ビルの動きが社会現象となったのは109ぐらいしかありません」

 セシルは“マルキュー系ファッション”の代表ブランドともいわれる。当初は「渋谷109発信」という狭い意味で使われ、胸元を開けて女性らしさを強調したり、ミニスカートで脚線美を強調したり、といったセクシーファッションだった。
 やがてそれが30代や40代の大人層にも広がり、それにつれて露出も抑え目になった。かつては、高級ブランドを多少無理してでも買っていた人も、不況やデフレの影響、ユニクロ人気などもあり、「安くてカワイイ」商品を上手に選び、着こなすようになったのだ。

 ブレイクして以来、木村さんのもとには「若者に大ヒットさせる秘訣を教えてほしい」といった取材や講演の依頼が増えたが、本人は戸惑ったという。
 「正直にお答えしようとすればするほど、特別なことがないのです。競合と向き合い、日々の競争の中で負けないようにやってきたら、こうなったというのが本心です」

 そう語りながらも、木村流の経営哲学がある。その代表例が「任せる経営」だ。

販売の原動力は“元お客”

 セシルマクビーの店舗をのぞくと、明るい髪色でばっちりメイクをした女性が目立つ。よく観察しないと、どちらがお客で、どちらが店の人なのか区別がつかないこともある。
 それもそのはず、販売員(業界では「FA[ファッションアドバイザー]」と呼ぶ)のほとんどは、セシルの元お客だった人たちだ。
 ジャパンイマジネーションの全従業員約1200人のうち1100人がFAで、女性の平均年齢は23.9歳と、大学卒社会人2年目の世代である。

 新卒採用では、毎年1000人前後の学生が同社のFAを目指して応募する。「セシルマクビーが好きで『あんなふうに接客してみたい』という人が多い」という。
 もともと好きなブランドゆえ、接客マナーや販売研修は行うが、新たに「商品にほれ込む」ことを徹底する必要はない。「単に商品を売るのではなく、着こなし提案も行い、ブランドの魅力を伝える役割」と販売関係者は話す。これもまた同社の特徴の一つだ。

 「今日は学校、お休みなんですか」
 店舗では、お客に近い20代の販売員が、フレンドリーな接客を行う。この距離感の近さも持ち味だ。ただし相手は、あくまでもお客。言葉遣いには気を遣うという。
 顧客には中学生から60代までいるので、相手に合わせた対応をする。着やすさを好んで常連となった年配客には、「お母さんに似合う服を一緒に探す」姿勢が喜ばれるそうだ。

 こうした若手世代を率いる木村さんは、徹底して「現場に任せる経営」を貫く。
 もっとも本人は「権限委譲という決意ではなかった」と笑いながら説明する。
 「最初は喜んで任せたのではなく、事柄的に任せざるを得なかったのです。若い女性がどんなファッションを好むか、私には分かりません。分からないから詳しい人に任せる。考えてみれば、当社は昔から『経営』と『商品』は分けて運営してきました」

「任せる」にもコツがある

 その任せ方を、木村さんはこう説明する。
 「現場に任せるといっても、丸投げするわけではありません。最初に『目標』を合意して、『結果』を追求するのもポイントです。
 目標を合意したら、後は任せます。時には報告を受けますが、細かく指示することはしません。すぐに結果として表れますから」


細かいことは指示せず、現場の自由にやらせる。「お客様との距離感の近さを最大限生かした接客で、相手の意向をくみ取る」のが極意だ

 実際に、どんな任せ方なのだろう。
 「セシルマクビーのブランドを刷新したときは、新しい取り組みを次々に行いました。ブランドが大きくなるまで、何も細かくいわれませんでしたね」(元ブランドマネジャー)
 「『どうかね、あの件は?』と聞かれて、『これこれ、こうなっている段階です』と話すと、『ああそう、じゃあ確定したら教えてね』という感じです」(管理部門の女性社員)
 よく「任せきれないで口を挟む」話を聞くが、木村さんの場合、言葉どおり、徹底して任せるようだ。

 木村さんは、またこうも語る。
 「誰に任せるかもポイントです。お客様と同じように生活しているのは大切ですが、消費者とまったく同じ視点の人ではダメ。もし、それでうまくいくなら、消費者アンケートをして、その結果どおりの服をつくれば売れるわけですが、そうはならない。
 やはり一歩、先を読む目を持つ人に任せなければなりません。私たちのビジネスは、今のお客さまの2~3カ月先のニーズをつかむことなので、その判断ができる人です」

 任せると決めたら、中途半端ではいけない、徹底して任せることも大切だ──と話す。これは木村さん自身の経験から来ている。
 セシルマクビーは、木村さんが営業部長時代の1987年にスタートさせたが、最初は“山の手お嬢様”路線の保守的な商品構成だった。それが96年に冒頭で紹介したような、“セクシー系“に大変身する。手掛けたのは、当時20代だった小嶋裕之さん(現社長)だ。

 きっかけは渋谷109の業績不振だった。呉服店や紳士服店もあるなど、全方位型の商品構成が行き詰まり、特徴のないファッションビルになっていた。そこで運営側は「渋谷に集まる女子高校生に特化したビル」に変えることを決断したのだ。
 この路線変更に伴い、セシルも刷新を求められて「セクシー系」に変えたところ、当時の若い女性に大評判となった。ここで学んだことは、思い切りの大切さである。

経営の「流行」には乗らない

 ファッションブランドとして「商品」では流行にこだわるジャパンイマジネーションも、「経営」では安易に流行には乗らない。
 最も特徴的なのが、今でも「品ぞろえ型」の手法を貫くこと。品ぞろえ型とは、企画を自社で行い、取引先アパレルメーカーが製造提案した商品をそろえてブランドとするやり方だ。
 ファッション業界では「SPA」と呼ぶ、企画・製造・小売りを自社ですべて手掛ける手法が目立つ。米国ブランドの「GAP」(ギャップ)が始め、「ユニクロ」が導入して一気に拡大したため注目を浴び、今では主流となった。

 品ぞろえ型を追求する理由を、木村さんはこう説明する。
 「このビジネスモデルは、昔から変わらない手法です。『SPAでないとこれからのアパレルは生き残れない』といわれた時期もありましたが、当社は50社近いアパレルメーカーとの共同作業で、その神輿(みこし)に乗っているのです。1人のデザイナーが商品を考えるよりも、50人で考えたほうが、いい商品ができると思っています」


こだわりを持つべきもの/捨てるべきもの──その的確な判断を武器に、多くのファッションブランドをブレイクさせてきた

 繊維商社に委ねず、自分たちで取り仕切るのも特徴だ。セシルマクビーの規模(年間売り上げ100億円超)を持つブランドは、アパレル業界でも多くはないが、この規模になると繊維商社が仕切るケースが多い。だが、そうした手法もとらない。

 取引先に対する姿勢については、次のように説明する。
 「近江商人の『三方よし』(売り手よし、買い手よし、世間よし)ではありませんが、お互いにメリットがあり、もうかること。そして日ごろの信頼関係が大切でしょう。取引先とは、半分は利害関係、半分は信頼関係だと思っていますから」

 感性が鋭く、移り気な若い女性向けファッションなので、商品回転も速く、年間20回転もする。そのため取引先メーカーは、商品によっては「依頼を受けてから3~5日でファーストサンプルを納品する」(取引先)という早さだ。メーカー側は、事前に生地や小物材料もストックしておく。サンプル納品後の急ぎの部分修正も多い。
 支払い条件を含めた信頼関係がないと、ここまで迅速には対応し続けないだろう。

ブランドの生き残りをかけて

 同社には「セシルマクビー」だけでなく、「ファビュラス アンジェラ」や「アンクルージュ」「ビーラディエンス」といった7ブランドがある。
 いずれのブランドも、“ファストファッション”と呼ばれる分野で戦っている。言葉の語源はファストフードから来ており、もともと「低価格で手軽」という意味だが、「価格以上の価値を、デザイン性やスピード感で出しているブランド」と定義づけられる。


アンクルージュ(Ank Rouge)。「ロマンティックガーリーな世界にレトロな質感、ラグジュアリーなネオヴィンテージ テイストを中心に構成するブランド」

 今から4年以上前の2008年9月15日は、後に世界同時不況となる“リーマンショック”が起きた日だ。だが、その直前に、ファッション業界では別の動きが始まっていた。9月13日、銀座に「H&M」(本部はスウェーデン)が開店して大行列となったのだ。
 次いで09年には「フォーエバー21」(本部はアメリカ)が原宿に進出し、すでに進出していた「ZARA」(本部はスペイン)とともに、低価格の外資系ブランドが注目される。

 これら外資系が起爆剤となり、国内勢の「ユニクロ」「しまむら」の拡大も含めて、ファストファッションブームが起きる。リーマンショック後の不景気による収入の伸び悩みや、デフレ経済もブームを後押しした。
 「グローバル競争」といえば海外で戦うイメージが強いが、日本国内でのグローバル競争も厳しさを増している。

 こうした状況下で生き残りのカギを握るのは、やはり商品開発と販売だ。その成果は、毎日の数字で表れる。木村さんはこんな言い方で説明する。
 「若い女性向けの商品は、接待をすれば買ってもらえるものでなく、義理で買ってくれるものでもありません。純粋にお客様が身銭を切った結果が、売り上げ数字となります。
 社内には『売り上げこそすべて』と話します。毎日の売り上げは、お客様の人気投票ですから、結果については最大限に謙虚でいたい。その意味で私は“売り上げ至上主義者”です」

 ジャパンイマジネーションでは、入社を希望する応募者に伝えることがある。「ウチはアパレルではなく、小売業です」という言葉だ。
 同社がファッションビジネスで重視することは、送り手としてのこだわりではなく、受け手の視点で考えること。お客が何を求めているかで、ブランドのテイストもどんどん変えていく。
 「経営者のこだわりが強すぎる会社はダメになる」というのも、木村さんの持論だ。

 セシルマクビーが、かつてのギャル向けから、若者だけでなく中高年に支持されるようになったのも、どんどん変えたからだ。お客に近い世代に任せながら、全体の方向性を描く木村さん。その判断が企業の盛衰にもつながっていく。

■Company Profile
株式会社ジャパンイマジネーション
・創業/1946(昭和21)年  ・設立/1957(昭和32)年
・代表取締役会長 木村 達央  代表取締役社長 小嶋 裕之
・本社/東京都渋谷区代々木2-1-1 新宿マインズタワー13F
 (TEL) 03-3372-8151(代)
・事業内容/レディスファッションの企画・販売
・代表商品/『セシルマクビー』『アンクルージュ』など
・従業員数/1171人(2012年9月30日現在)
・企業サイト http://www.j-im.jp

◆高井尚之(たかい・なおゆき)
ジャーナリスト。1962年生まれ。日本実業出版社、花王・情報作成部を経て2004年から現職。「企業と生活者との交流」「ビジネス現場とヒト」をテーマに、企画、取材・執筆、コンサルティングを行う。著書に『なぜ「高くても売れる」のか』(文藝春秋)、『日本カフェ興亡記』(日本経済新聞出版社)、『花王「百年・愚直」のものづくり』(日経ビジネス人文庫)、『花王の「日々工夫する」仕事術』(日本実業出版社)、近著に『「解」は己の中にあり 「ブラザー小池利和」の経営哲学60』(講談社)がある。

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