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育成担当者のための 今月の注目トピック [2013.04.16]

第13回 「学び方」と「教え方」のパラダイム転換が起こる――人材育成へのIT活用の現在地と未来

 


中川繁勝  なかがわしげかつ エスジェイド代表、人財育成プロデューサー


 人材育成や教育にどのようにITを活用するか。ここは多くの育成担当者もベストな答えは出せないでいるところではないだろうか。学校教育では教科書の電子化という声も聞かれる中、研修テキストの電子化に乗り出す企業もある。が、筆者としては果たしてそれで活用が十分にうまくいくとは思えない。筆者は以前ネットワーク系の企業に勤めていたことがあり、そこでEラーニングの推進をしていた。当時は紙のテキストをHTMLに置き換えたり、ところどころに音声を入れたりしていたが、それは持ち歩ける便利なテキストをパソコンでないと見ることができないようにした不便なものだった。それでも時代はパソコンをはじめとしたITを教育になんとか活用しようと躍起になっていた。教科書の電子化はそれに似た一面がある。

 一方で、最近は複数のベンダーから、受講者の行動変容までサポートしようというITシステムが登場してきている。例えば、本連載第9回で紹介した、研修連動型のITツール「Action T.C」もその一つだ。こういった取り組みの草分けでもある株式会社ネットマンの代表取締役/発明家の永谷研一さんに、教育研修の世界におけるIT活用のお話をうかがいながら、そのポイントを探ってみよう。

*「Action T.C」とは:研修後、受講者はそれぞれアカウントを持ち、研修での学びに沿った「アクションプラン」(目標設定と行動計画)を作成する。さらに、行動計画の実施状況を日々入力する。リマインド機能とシンプルな操作で「振り返り」を習慣化するとともに、入力自体が研修を受けたほかの受講者仲間にメールで通知されるため、受講者や研修のステークホルダー全員を巻き込むことが可能となった。
(詳しくは、本連載第9回「ITツールを活用し、研修フォローアップを活性化・有意義化する」を参照)

――以前にもこのシリーズでちらっとご紹介はしたことがあるのですが、改めて「Action T.C.(以降 ATC)」とはどういうシステムなのかを教えてください。

「研修を受けた後の受講生の行動を習慣付けするためのITシステムです。行動改善・習慣化システムといえます。目標を達成するためにアクションプランを立て、実践しながらセルフチェック、振り返りをするのですが、さらにチーム内のほかのメンバーとフィードバックをし合いながら『続けるチカラ』を育んでいくソフトウェアです。管理者は効果測定用のデータも自動的に取得することができます」

●チームという関係の重要性

――過去にブログやSNSなど会社の中で使っていたのですが、使う人はごく一部で、多くの人はなかなか使わないものでした。ATCではほぼ全員が参加するように聞いていますが、どのような仕組みになっているのでしょう? また、チームというコミュニティーがオンライン上でうまく機能していくポイントはどこなのでしょうか?

「まずは“リアルの”チームを作ること、これが最も大切です。ただ名簿のリスト上で分けただけではなく、心をつなぐチームです。そのために、オンライン上ではなく研修の場においてチーム作りを行います。心をつなぐためには、例えばチームのロゴを作るとか、チーム名を作るとか、共通のゴール設定をするとか、やり方はいろいろあります。
 そういった過程で、メンバーの意識を一つにするんです。私は研修の最後の方でチームの写真を撮るんですが、いくつかの作業を一緒に行うとお互いに距離感も縮まってきているので、そのときにしか出ない笑顔が出るんですよ。それを共有しておく。そういうことをしながら仲間意識を醸成していくんです」

――なるほど、ITを使う以前の話ですね。ITを使うことで距離を超えたコミュニケーションができると言われますが、まずはリアルなコミュニケーションが必要だと。

「そうです。これは相互支援や学び合いの場においては絶対に必要な要素なんです。
 それからもう一つ。事前にインプットして、納得してもらうことが大事です。
 ATCではPDCAにワンステップ加えた『PDCFA(F:フィードバック)』サイクルを使います。まずこれを頭に入れてもらいます。一人でPDCAを回し続けるのが難しいことと、そこにフィードバックがあるとうれしかったり励みになるということを頭で分かってもらう。その後に、一度紙の上でやってみます。目標を設定し、アクションプランを考え、それをチーム内でお互いに共有してフィードバックコメントをするんです。そこで、どう感じたかを意見交換します。さらにフィードバックを踏まえて目標の見直しに進みます。フィードバックを経て、効果的に次の改善策となるアクションを考えるところまで行くと、フィードバックが自分のPDCAにどれだけ貢献しているかが感じられ、納得します。経験して納得してもらってから、ITに移行していくんです。また、ここまでくるとチームに対しての感情も芽生えてきます」

――頭で理解して、経験して感じて、さらに「これが自分のチームなんだ」っていう気持ちを作ってから始めるんですね。

「そうです。ポイントは理屈と感情。リストとして分けられただけのチームではなく、感情の伴っているチームであることが必要なんです」

――チームを作ってしまうと、一人じゃなくなるのがいいですね。私の場合、スポーツクラブに一人で入るとなかなか長続きしないのですが、仲のいいインストラクターができたときには、それがモチベーションになって通うようになったことがあります。人とのつながりと、そこに生まれる感情が原動力になっていたんですね。

●「型」にはめる

「さらに言うと、ATC自体が取り組みやすい一つの『型』になっていることがポイントです。『目標に向かってみんなで同じようにやっていこう』という型になっているので、研修というものに対し『しょうがねえな』というスタンスの人でも手掛けやすいのです。ATCはある意味『ギプス』なんですよ。ATCというツールのギプスをはめて型を覚え、だんだん体と思考が動くようになってくる。このギプスがあるから習慣化されるんです」

――ギプスにはめられてできるようになれば、ギプスつまりATCなしでもできるようになっているかもしれない――というわけですね。

●ATCにおける副次的効果の出現

「私がこのツールを提供する側として一番うれしかったのは、ATC導入後に職場で飲みに行く回数が増えたという報告をもらったときです。ATCの様子を見ていた現場の上司が『それなら俺が教えてやる』という気持ちになって、勉強会と称して若手数名を連れて飲みに行った。まあ、勉強会と言っても、飲み会の場でいろいろアドバイスしたり相談に乗ったりというものなんですが。でもそれって、ATCがきっかけでOJTのアクションを引き起こしたということです」

――いい副産物ですね。ATCを入れることで育成担当者にしてみれば研修後の行動変容まで責任範囲が広がるので現場との関わりも増えそうだし、現場ではOJTの活性化をもたらす。受講者の行動の習慣化をサポートするだけじゃなく、ツールによっていろんなところにいい影響が出てきているわけですね。

「面白い事例があります。ある企業の女性支援研修でのことです。女性リーダーとしての仕事における心構えなどを学んだ後、お互いに支援し合い目標に向けて進むためのコミュニティーをATCで作ったんです。それぞれ目標を設定し、アクションプランを作った上でその実践状況を共有し、フォローし合う仕組みを構築したのですが、なんとそこからリアルなビジネスのタスクフォースが四つも生まれたんですよ! アクションの共有やそこに対する感情を伴った共有とフィードバックがあることでそれぞれの想(おも)いもつながり、ATCでのフォローが終わった後にビジネスにつながっていったんです。ご担当者は『導入1回目で元を取った』と喜んでくれました(笑)」

――担当者も最初からそこは狙ってないですよね。また、狙ってもうまくはいきません。本来、ATCはビジネスを生むためのツールではありませんからね。しかし、コミュニティーを作って、チームにして、お互いにサポートする関係を作っていく中から、何かが生まれる可能性もある――それって本来の組織のあるべき姿という気がします。

●ブログやSNSとの違いに見る教育的活用法

「研修の後に掲示板を作ったりしてフォローをする話は昔からありますけど、思うように活性化しなかったり、いわゆる炎上(誹謗〔ひぼう〕中傷や建設的ではないコメントが大量に投稿される状態)しちゃったりする」

――多くの場合、そういうところに書き込むことの意味や意図が明確じゃないですよね。その点、ATCは目標設定しているし、自分が誰かにフィードバックすることでその人を元気づけたりアドバイスをすることもできるようにしてある。進捗(しんちょく)状況を毎日書かないとみんなに置いていかれちゃいますね。アクションやセルフチェックをしないでいると、画面にはそのアクションプランに対して「×」が続くことになりますけど、「×な自分」ってみんな嫌ですよね。×にしないようにするために、アクセスして記録したりフィードバックしたりするようになる。

「3回連続して×が付くと、『アクションプランを変えましょう』ってメッセージがシステムから飛んでくるんです」

――面倒くさがっているとますます面倒なことになる(笑)。だったらやっておこう、というようになるわけですね。やってみれば「○」はつくし、周りからはいいフィードバックも来るし。それで気がつくと習慣化されていると。

「システムを使って振り返りの機会を作っているんですよ。無理やりにでも。だからギプスって言っているんですけど。それが型って言っていることですね。この『振り返り』は行動の習慣化には必要ですが、ないがしろにしがちです。だから型で覚えてもらう。
 また、『自己開示』もすごく大事な要素です。しかし、自己開示っていうと苦しくなる人もいるのでATCでは自己開示って言い方をしていません。『深く内省、自己分析し、素直に振り返る』と説明してます」

●“つながるため”のIT活用を

――ATCの事例をいろいろ聞いていると、テクノロジーを“使わなきゃいけない”のではなくて、使ってみたらうまくはまった、という印象があります。そう考えると必ずしも最新技術でなくてもいいんですね。ITツールの使い方として、新しいものが出てきたときに「この技術をどう使うか」という観点から入るとなかなかうまくいかないことが多かった。

「学び合いや協調学習は昔から研究されて実践が呼び掛けられてはきたけど、なかなかうまくいかなかったことです。なぜなら、人が場を離れたときにつながる仕組みがなかったからだと考えます」

――スマートフォンやタブレット型の機器が出てきて、持ち運べて、ネットワークにつなげてほかの人とコミュニケーションができるようになりました。コミュニケーションという切り口でITツールが生かされるようになってきたわけですね。

「そして、そういうコミュニケーションをしている相手が、横とか斜めの関係にいる、同じような課題を持っている仲間であることもポイントです。
 いま中間から上の層に向けた研修での利用が増えています。この層の人たちの悩みは共通なんです。部下の育成とかリーダーシップとか組織運営とか。部署が違っても共感できるから取り組みやすいし、オンラインのチーム内支援活動にもはまりやすいのです」

●今後の教育とITの活用

――教育の世界における今後はどうなると考えますか?

「学校教育を見ていると、ITを活用しようとする際、どこの学校でも『学び合い』や『みんなでディスカッション』という形態を取っています。そこには唯一絶対の解があるわけではなく、拾ってきた情報をどうコミュニケーションして使っていくかが考える力を伸ばすことにもなるわけです。これは企業内の人材育成においても同様ではないでしょうか」

――検索して情報は見つけてきたけど、これを自分でどう構築してどう人に伝えるかが大事ですね。人と情報を交換することで、自分に足りなかったところを補完し合い、考えを共有することで新たな発想も生まれる。それってチームワークとかチーム活動に近いと思うんですけど、それを促進するというところでITは活用できそうですね。

「ITを使うと学び方が変わるのでパラダイム転換が起こらざるを得ないんですよ。教え方と学び方が変わるんです。技術でイノベーションを起こすんじゃなくて、技術がイノベーションのきっかけになる、と私は考えています。それはアナログな教育手法の否定でも、技術によるデジタルへの置き換えでもなく、“デジタルによってアナログな手法の良さや可能性を拡大させる”ということです。そういう視点でITの活用を考えていきたいですよね」

――これまで教育でのIT活用というとEラーニングという一方的な知識提供型学習ツールが思い起こされましたが、これからは「情報検索・共有」という観点と、「コミュニケーション」という「つながり」を促進させる使い方がカギになってきそうですね。

  今日は、ありがとうございました。

ゲスト:株式会社ネットマン 代表取締役/発明家 永谷研一氏
http://netman.co.jp/


※本記事は、人事専門資料誌「労政時報」の購読者限定サイト『WEB労政時報』にて2012年5月に掲載したものです 

中川繁勝中川繁勝 なかがわしげかつ エスジェイド代表、人財育成プロデューサー

システムエンジニア、ネットワーク技術者養成のマーケティングを経て、ITコンサルティング会社の人財開発マネジャーとしてコンサルタントの育成に従事した後、独立。現在は、研修講師としてロジカルシンキングやプレゼンテーション等のコミュニケーション系研修を提供するとともに、人財育成を支援するためのコンサルティングサービスも提供している。NPO法人人材育成マネジメント研究会理事。ワールド・カフェをはじめとした対話の場の普及を促進するダイナミクス・オブ・ダイアログLLPのパートナーとして、各種ワールド・カフェとワールド・カフェ・ウィークの開催を推進。また、場活流チェンジリーダー塾にてメンターとしてリーダーの在り方を養成する活動にも従事する。


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