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育成担当者のための 今月の注目トピック [2013.02.20]

第11回 本音の学びを引き出す実体験型研修

 


中川繁勝  なかがわしげかつ エスジェイド代表、人財育成プロデューサー


 私は日頃、研修のアレンジや研修講師として人材育成に関わっている。また縁あって他の講師の研修に参加したりすることもある。そんな活動の中で感じるのは、受講者に最も大きな「学びのインパクト」をもたらすのは、実践や実体験を伴った研修だ、ということだ。以前にタグラグビーなどの身体を動かす体験型研修の効果については紹介したが(第5回参照)、今回は実践さながらの実体験による研修について紹介したい。

●実力が試される場

 緊張で手が震える。汗が噴き出す。うまくしゃべれない。
 これらはいずれも実体験型の研修で筆者が確認した受講者の状況だ。研修であるにもかかわらず、無意識に受講者をそのような状況に追い詰めてしまうのが実体験型の研修の効果なのだ。本番さながらの状況が受講者を本番同様の心理状態に追い込み、できること・できないことはもちろん、自らの実力や本性までも明らかにしてしまうのだ。

 筆者が某企業で育成担当をしていたときに、実践さながらの状況を作り出す「新人マナー実習」という場を他社の新人研修担当者と共に創ったことがある。新人研修の中で一般的に実施されるマナー研修は、型を教えてはくれるが、残念ながら入ったばかりの新人たちにとってはなかなか身に付く場にはならない。ロールプレイの相手も同じ新人であり、緊張感もない。新人研修担当者の悩みは、「結局、現場に入ったときには忘れてるし、できない」ということだった。それを解決したのが「新人マナー実習」だった。自社の新人を2~3人一組で他社へ訪問させ、相手の担当者に新人のマナーを他者視点でチェックしてもらうのだ。これが新人たちには非常にインパクトのある経験となったのだ。

●本気で臨み、失敗を経験することの価値

 訪問前にまずは電話で新人がアポを入れる。相手は先方企業の新人研修担当者だ。担当者同士は事前に申し合わせており、時間帯を決めて相手企業の新人からの電話を待ち受ける。新人にとっては初めての他社への電話。初めてのアポ取りだ。
 マナー研修で型は学んだもののいざとなると動けない。自信のない者は事前にシナリオを書いたり台詞(せりふ)を準備したりする。その準備の心構えは評価に値するが、残念ながらそのシナリオ通りにことは運ばない。電話の相手からは思いがけない返事が返ってきたりする。例えば、当の担当者は席を外していて、電話に応答した担当者以外の方が気を利かせて伝言を受けるというのだ。慌てる新人。台本とは違うやり取りに戸惑う。次の言葉も出ない。吹き出す冷や汗。仲間が電話脇でフォローを入れるが、本人にはそれを受け入れる余裕もない……。
 あるグループは訪問前に、お互いに名刺交換ができていないことを認識し、自社の新人研修担当者に名刺交換の練習台になってもらうよう申し出た。各自が納得いくまで練習し、入念に準備をしたそうだ。
 また、あるグループは道に迷い遅刻しそうになった。遅れを回避するためにタクシーに飛び乗ったのだが、運悪くこのタクシーの運転手が道を間違えた。約束の時間は過ぎてしまった。遅れを詫(わ)び、事情を説明し、それでも訪問したいと相手先担当者に頼むものの、相手の都合も悪く断られてしまった。この状況は強く彼らに反省と後悔の念をもたらし、彼らは自社の担当者に事情とことの顛末(てんまつ)を報告した。
 後日、担当者同士で確認し合い、再訪問の機会を得た彼らが万全の準備をしたことは想像に難くないと思うが、驚いたことに、彼らはお詫びの手土産まで持参して訪問したという。その状況でいかにして自分たちの気持ちを相手に伝えるかを考えた末の行動だったようだ。「もう2度と他社訪問においてヘマをすることはないだろう」という担当者の談だった。

●本気のスイッチが入る

 そんな体験の中で初めて新人たちは自分ができていないことを実感し、スキルや知識の必要性を強く感じる。そして、自ら本気で学ぶことを選択するようになるのだ。
 緊張や不安という感情を伴ったこのような失敗体験は、強く受講者の記憶にも残る。同じ状況に置かれたときに、何に気をつけなければいけないか、どう行動すればいいのかを自ら考えられるようになるのだ。研修担当者としては、現場の実践でなく研修の中の実習での失敗でよかった、と胸をなで下ろすとともに、新人たちが本気で学ぶ気持ちになったことを喜んでいる。

●複合的スキルの発揮の場として

 提案の場を実体験してもらう研修でも同様の効果があると筆者は感じている。その研修では筆者が顧客役、受講者がシステム提案をするSEを演じる。ある設定のもとで受講者は複数回のインタビューを重ねて顧客の真意やニーズを探りつつ、最終的にシステム提案をするという実践型研修だ。
 受講者には事前に必要なスキルや知識を提供しておくのだが、「知っていること」と「できること」の違いを受講者は痛いほど思い知らされる。実践的であるため、初回訪問の名刺交換からアイスブレイキング(コミュニケーションをスムーズにするため、警戒心を解くこと)のコミュニケーション、論理的な考え方、話し方、聴き方、情報の整理の仕方、議事録の書き方、資料の作り方、プレゼンテーション等、複合的なスキルが動員される。単一のスキル研修では味わえない状況、一筋縄ではいかない状況はもはや正解のない世界。自分の発した一言で顧客がへそを曲げてしまうかもしれないし、逆に雄弁に話してくれるかもしれない。相手の状況をリアルタイムに探りつつ、臨機応変にインタビューを重ねつつ、ゴールに向かうのだ。
 この実践さながらの状況は受講者のスキルを棚卸しすることにもなり、同時に「何をしなければいけないのか」を常に考えさせる環境に受講者を置くこととなる。必然的に受講者は自ら考え行動することを迫られる。幸い、研修という環境は受講者に「失敗を恐れずにチャレンジしてみる」ことを許すわけだが、こういった実践型研修では、それでもチャレンジしない(できない)という受講者の恐れや不安までも露わにする。それほど心理的に現実感を伴う研修となるわけだ。そこでの感情を伴った気づきは先述の新人マナー実習と同様に、受講者に主体的な学びを促すこととなる。

●評価の高い研修を実現する

 このように、実践さながらの状況の中で進める実体験型の研修は、臨場感のある場を受講者に提供することで受講者に研修への参加意欲を向上させ、自らの気づきや学びを促す効果的な時間となるのだ。理屈と事例を説明することの多いレクチャー型の研修や、関連したワークを通しての研修と比べて、受講者の学びは深く忘れ得ぬものとなろう。
 担当者としてはどんな状況設定とするか構想するなど、準備に力をかける必要はあるのだが、失敗の許される実践的な実体験研修は、投資対効果の高い研修であると筆者は感じている。今回取り上げた新人マナー実習は、筆者が発起人として立ち上げた複数社を巻き込んでの研修だったのだが、筆者が担当を退き、他社の担当者が変わってもなお5年以上も複数社が協力し合って続いているという結果が、その効果と満足度の証(あか)しではないかと考えている。


※本記事は、人事専門資料誌「労政時報」の購読者限定サイト『WEB労政時報』にて2012年2月に掲載したものです 

中川繁勝中川繁勝 なかがわしげかつ エスジェイド代表、人財育成プロデューサー

システムエンジニア、ネットワーク技術者養成のマーケティングを経て、ITコンサルティング会社の人財開発マネジャーとしてコンサルタントの育成に従事した後、独立。現在は、研修講師としてロジカルシンキングやプレゼンテーション等のコミュニケーション系研修を提供するとともに、人財育成を支援するためのコンサルティングサービスも提供している。NPO法人人材育成マネジメント研究会理事。ワールド・カフェをはじめとした対話の場の普及を促進するダイナミクス・オブ・ダイアログLLPのパートナーとして、各種ワールド・カフェとワールド・カフェ・ウィークの開催を推進。また、場活流チェンジリーダー塾にてメンターとしてリーダーの在り方を養成する活動にも従事する。


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