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トップインタビュー 明日を拓く「型」と「知恵」 [2012.06.27]

テレビを軸に「生活者と交流」。10年後も生き残る布石を打つ――株式会社ジェイ・スポーツ 笹島一樹さん (下)

 


 

   
撮影=小林由喜伸

笹島一樹 ささじま かずしげ
株式会社ジェイ・スポーツ 代表取締役社長
1967年東京都生まれ。慶応義塾高校・慶応義塾大学時代は体育会レスリング部に所属。
90年に住友商事(株)へ入社後は映像関連事業畑を歩み、ジュピターゴルフネットワーク(株)編成部長、(株)AXNジャパン取締役、住友商事・映像メディア部チームリーダーなどを経て、2010年に(株)ジェイ・スポーツ・ブロードキャスティング(当時の社名)社長に就任。11年10月にBS2局、12年3月にBS4局体制に移行した放送局を率い、スポーツ放送の醍醐味(だいごみ)を伝える。

BS最大の4局体制となった放送は、逆に真価も問われる。
さまざまなスポーツを総花的に伝えても、視聴者からは支持されない。
多様化したメディア環境の中、生中継を軸に新たな情報交流も行う。

取材構成・文=高井尚之(◆プロフィール

 NHKが2局(総合と教育)、民放5局(日本テレビ、TBS、テレビ朝日、フジテレビ、テレビ東京系)の地上波から視聴者が番組を選んでいた“護送船団時代”は、過去の話――。
 今やCS放送を含めると、何百チャンネルから選ばれる時代だ。

プロ野球を複合的に伝える

 かつて、隆盛を誇った巨人戦は健在だが、高度成長期や1980年代の活気はない。
 そもそも巨人戦が長年、娯楽スポーツの代名詞でいられた最大の理由は、競合スポーツ番組の不在である。
 競合不在の時代、巨人戦の結果は世の中の“共通言語”だった。だから「巨人が負けた翌日は機嫌が悪くなる部長」が、あちこちの職場にいた。

 時代は変わった。国内外の競合商品の台頭(パ・リーグ、欧州サッカー、MLB=大リーグ、世界と戦う日本代表アスリート)や、海外へのスター選手移籍により、巨人戦だけがスポーツ番組の頂点とは言えなくなった。
 商品に例えれば、一世を風靡(ふうび)したガリバー商品が、生活志向の変化やライバル商品の出現、そして経営体制に向けられた消費者からの厳しい視線により、支持が低下したわけだ。

 時代の変化といえば、生活者がテレビに接触する時間も減っている。ユーチューブやスマートフォンなど、業界の垣根を越えた競合メディアも増えた。「テレビが『メディアの王様』であった時代はすでに終わった」と指摘する声もある。
 そんな環境の中、どう知恵を絞って、テレビやスポーツの魅力を打ち出していくか。


●プロ野球の完全生中継も、同社にとっての強力なコンテンツ。野球を題材とした名物トーク番組「ガンバレ日本プロ野球!?」(写真提供:株式会社ジェイ・スポーツ)

「単にウチの局ではプロ野球やっていますよ、サッカーやっていますよ、だけでは面白くないでしょう。もっと細かい情報を含めて、複合的に発信するようにしています」
 J SPORTS社長の笹島さんはこう説明する。プロ野球では、中日、広島、楽天、千葉ロッテ、オリックスという地域に根づくチームの放送に力を注ぐ。
「野球はプロ野球、MLB合わせて年間750試合以上中継。プロ野球はセ・パ5球団の主催試合が中心、MLBはダルビッシュなど日本人投手先発試合を中心に放送」を掲げる。
 こうした生中継をコアにしながら、選手の周辺情報にも力を入れる。オフシーズンには選手とOBとの“飲み会”を設定し、酒を酌み交わしながらの本音トークを行う「ガンバレ日本プロ野球!?」も人気番組だ。

 一方、毎晩23時と翌朝7時の「野球好きニュース」では、プロ野球とMLBの試合結果をまとめて紹介。プロ野球ファンからは、例えば、こんな番組の観られ方をしている。
 「仙台の出身なので東北楽天とMLBのファン。最近は小学生の次男と朝7時からの『野球好き』を観ながら野球談義をして、朝食をとるのが日課です」(40代の会社経営者)


●日本のプロ野球から日本人メジャーリーガーの情報まで連日放送「野球好きニュース」(写真提供:株式会社ジェイ・スポーツ)

「自転車好き」と交流を深める

 サッカー欧州選手権とロンドン五輪にはさまれた日程の6月30日、もう一つのビッグイベントが開幕する。

 世界最大の自転車レース「ツール・ド・フランス」――。
 23日間、全長3500kmもの距離で勝敗を競う戦いだ。名称は「フランス一周」という意味だが、周辺国で行われるステージもある。今年のスタートはベルギーのリエージュだ。
 3週間以上の行程には市街地を走るレースもあれば、山岳地帯を走るレースもあり、高低差約2000メートルを、1チーム9人編成で20チーム以上が参加し、競う。
 特に欧州での人気は高い。1903年から始まっており(二度の世界大戦での中断をはさみ)今年で99回目。フランススポーツ界の威信をかけた大イベントでもある。日本では都市生活者を中心に人気が急上昇している。


●世界最大の自転車レース、ツール・ド・フランス(写真提供:株式会社ジェイ・スポーツ、photo:©Yuzuru SUNADA)

 このレースもJ SPORTSが約100時間にわたり生中継して、リアルタイムでの状況や沿道の熱狂ぶりを伝えるが、放送を盛り上げる取り組みにも意欲的だ。
 まずは自社の公式サイトで特集を組み、「レースの展望」や「絶景ポイント」などで開幕までの興味を高める。
http://www.jsports.co.jp/cycle/tour/index.html

 「J SPORTS サイクル部」というのもある。「部」とは言っても、J SPORTSに勤める人のクラブ活動ではなく、自転車好きのための交流サイトだ。テレビ中継をする一方で、ツイッターやフェイスブックなどソーシャルメディアを駆使して、視聴者との情報交流も行う。

「ツール・ド・フランスは競技日程も放送時間も長いので、レースを観ながらいろんなことを書き込みしやすい。この時期は特に視聴者からの反応が増えますね」
ちなみに筆者がフェイスブックをのぞいた時は「いいね!」が7630人もいた。

 J SPORTSでは、パブリックビューイング(スタジアムやイベント会場、街頭などにある大型の映像装置を利用した観戦イベントのこと)も行うが、こうしたイベントに参加する層も「スポーツによって個性が出ます」(笹島さん)という。
 ツール・ド・フランスでは、こんな感じだ。
「一部の人たちは、サイクルウェアに身を包んで、愛用する自転車でやってきます。レースは深夜2時に中継が終了することもあります。電車が終わった時間なので朝まで会場を確保して滞在できるようにしていますが、この人たちは関係ない。『じゃあ、お疲れさま』と、そのまま愛車に乗って颯爽(さっそう)と帰っていくのです(笑)」

 テレビの中継を軸にした、コアなファンとの交流。単に「スタジオに遊びに来てください」と呼び掛けていた、従来の関係性とは一味違った濃密さがあるようだ。


●放送を軸とした、ファンとの濃密な交流が強み。ツール・ド・フランスをテーマに開催したトークイベント(写真提供:株式会社ジェイ・スポーツ、photo:©Yuzuru SUNADA)

テレビの優位性を軸に

 テレビというメディアについて、笹島さんはこう考えている。
「社内で『10年間はテレビでやっていける』と話しています。例えば、7年後の2019年にはラグビーのW杯が日本で開催される。その放送デバイス(装置)は現在のテレビだと思います。携帯電話は2年で世代が変わる機器ですが、テレビの世代が変わるのは10年単位なので」

 もともとJ SPORTSはラグビーにも強い。国内トップリーグの試合はもちろん、地上波がほとんどやらない関西の大学リーグの試合まで放送してきた。海外に目を向けても、南半球の強豪国である豪州やニュージーランドの放送実績も豊富だ。昨年のラグビーW杯(ニュージーランド大会)では全48試合を生中継し、ファンから高い支持を得た。


●環太平洋の強豪国によるラグビーの国際大会、パシフィック・ネーションズカップ (写真提供:株式会社ジェイ・スポーツ、©2012, JRFU Photo by Ryan Pierse/Getty Images)

「2011年W杯で1分3敗に終わるなど、世間では『ラグビー日本代表の成績は全然ダメじゃないか』と言われますが、J SPORTSとしては有力なコンテンツといえます。特に中高年からの支持が強いですね。60代の人は、ラグビーがサッカーよりも人気があった時代を知る世代で、熱心なファンも多い。若い頃の好みは、年齢を経てもあまり変わらないのです」

 一方、テレビというメディアが圧倒的な強みを持っていた時代はすでに終わった、との論調もよく目にするようになった。確かに、近年のネットメディアの興隆には目を見張るものがある。しかし、インターネット時代とはいえ、ネット環境も万全ではない。
「テレビの生中継はインフラが安定しているので、どんなに多くの人が同時に視聴しても対応できます。ネットで生中継をするケースも増えていますが、アクセスが殺到したらサーバーがダウンしてしまう。映像ミスや余計なコメントが消せないという、生中継ならではのリスクはありますが、テレビの優位性が一番発揮される生中継で勝負したいです」

 今後めざすのは、複合的なビジネスモデルだという。
 「通信インフラを用いてスマホやタブレットに向けて放送を行う『オンデマンド放送』もあります。“生中継を観ながらツイッターで書き込む”自転車競技のような取り組みを増やし、視聴者に参加意識を持っていただくことも、有望だと思います。
 さらに、一種の“個人記録”として需要のあるブルーレイディスクの制作販売、オリジナルのサイクルウェア販売などイーコマースも好調です」
 「生中継」という強みを武器に、関連事業を強化していく考えだ。


●「生中継」という強みを打ち出した新たなビジネスモデルをめざす

“他社のプロ”に鍛えられた

 これまで前例のない道を切り拓いてきた笹島さんの歩みを、再度振り返ってみよう。
 就職時はバブル期で運動部出身の学生は人気だった。その中で一番早く内定の出た住友商事に入社する。希望していたわけではないが、たまたまメディアの世界を歩む。
 その後、出向で会社を移り、合併で社名が変わり…といった変化の激しいビジネス人生を経験し、42歳の若さ(当時)で社長になった。

 同じ会社でずっと勤務していたら得られなかった、多彩な経験が財産だ。
 合弁会社では、他社の職人的社員のこだわりに触れた。外資系企業では、欧米人の働く姿勢を目の当たりにした。
 「日本人はどうしても物事を否定的に見がちですが、欧米人たちはポジティブでかつアグレッシブ。愚痴はこぼさないのかと思ったら、夜の飲み屋では結構出てくるんです。でも、昼間のビジネス現場では絶対に見せない。特に米国人はそうですね」
 入社当時、英語は全然ダメで「アルファベットすら危うかった」と苦笑いするが、今ではまったく問題ないという。特別な勉強はしてこなかったそうだが、必要に迫られて会得した。これも持論である「気合いで何とかしてきた」の実例なのか。

 経営者としての生きた教科書も、他社出身の上司だった。
 「例えば、フジテレビ出身で副社長だった田辺 肇さんには、こういう事業をやってみましょうよと提案すると、機敏に動いてくれました。でもその一方で『交渉するけど難しいだろうな。この人とあの人を説得しなければならないから。オマエがオレの立場だったら通ると思うか』と答えが返ってくる。
 〈なるほどなあ〉と思いながら、交渉術や経営者の立ち振る舞いを学んでいきました」

 だからだろう。社内に向けて情報を出し続け、周囲を巻き込むことにも意欲的だ。
 「BSへの進出も、いい話だけではなくネガティブな話もしています。例えば、固定費の増加。『CSと違ってBSは衛星使用料も高いから、大変なんだよ。だからこそ、いい番組にしよう』といったことです」


●同局のイメージキャラクター、武井咲さん(写真提供:株式会社ジェイ・スポーツ)

どんどん提案が出てくる会社に

 「当社は合併を繰り返して成長してきた会社です。そのため、バックグラウンドが違う社員が集まっており、時に衝突しながらも、当社ならではの強みを生み出してきました。一方、ここ数年で新卒として入ってきた人は、現在の会社の歴史の中でしか生きていない。でも安住しないで、チャレンジしてほしい。
 この先どういう会社にしたいかといってイメージするのは、2000年当時の株主であったフジテレビやソニーのような会社。この2社はカルチャー(企業風土)が似ていました。新しもの好きで、一芸に秀でている人を認めていましたから。組織としてのJ SPORTSもそうありたい」

 めざすのは「どんどん提案が出てくる会社」だという。
 「フジテレビは1980年代に、それまでの“母と子のフジテレビ”から、“面白くなければテレビじゃない”に路線を切り替え、『オレたちひょうきん族』などのお笑いや、『抱きしめたい!』から始まったトレンディドラマで、一世を風靡しましたよね。
 その原動力となったのは鹿内春雄さん(当時副社長。故人)が推進した“軽チャー路線”で会社内部に刺激を与えた。社内が活性化しないと、斬新な企画は出てきません」

 常に社内を活性化し続けるのが、経営者としての自分の役割と認識しているようだ。
「かつて、カルチャーが会社の業績に与える影響も学びました。新しいことにチャレンジし、失敗を恐れないJ SPORTSの企業風土は大切にしたいですね」
 「単に従業員をイジっているだけですよ」と言いながら、社長ブログには折に触れて従業員への思いも書く。例えば「Nくん、ホンマでっか?【営業奮戦記】編」(2012年5月22日)だ。
http://www.jsports.co.jp/blog/sasajima/cat13/n-1/

 社長だけでなく番組スタッフも、スポーツ観戦の見どころやウラ話などを、ブログやフェイスブックで発信する。スポーツ放送への熱い思いを届けたい姿勢は伝わってくる。
 BS局に移籍しても、独自性を持つ“異端児”であり続けようとするのだろう。

■Company Profile
株式会社ジェイ・スポーツ
・設立/1996(平成8)年9月(2011年10月、現社名に変更)
・代表取締役社長 笹島 一樹
・本社/東京都江東区青海2-4-24
 (TEL) 03-5500-3480(代)
・事業内容/スポーツ放送局
・代表商品/「J SPORTS 1」「J SPORTS 2」「J SPORTS 3」「J SPORTS 4」
・従業員数/120人(2012年4月1日現在)
・企業サイト http://www.jsports.co.jp/

◆高井尚之(たかい・なおゆき)
ジャーナリスト。1962年生まれ。日本実業出版社、花王・情報作成部を経て2004年から現職。「企業と生活者との交流」「ビジネス現場とヒト」をテーマに、企画、取材・執筆、コンサルティングを行う。著書に『なぜ「高くても売れる」のか』(文藝春秋)、『日本カフェ興亡記』(日本経済新聞出版社)、『花王「百年・愚直」のものづくり』(日経ビジネス人文庫)、『花王の「日々工夫する」仕事術』(日本実業出版社)、近著に『「解」は己の中にあり 「ブラザー小池利和」の経営哲学60』(講談社)がある。


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