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トップリーダーが語る人材戦略 [2012.07.05]

第6回 日本理化学工業株式会社(後編)


「『働くことの幸せ』が最も大切」
大山泰弘 おおやま やすひろ
取締役会長

 1932年東京都出身。56年に日本理化学工業株式会社に入社、74年に代表取締役に就任、08年に会長就任、現在に至る。受賞歴には、2003年には厚生労働大臣表彰、04年春の叙勲で瑞宝単光章、09年に渋沢栄一賞などがある。

【日本理化学工業の概要】
 国内シェアトップである粉が飛び散らないダストレスチョークなどの文具・事務用品製造販売を主業務に、プラスチック成形加工なども展開。障がい者雇用割合が70パーセントを超えるなど、長年、障がい者雇用に貢献している。
 一般企業では働けないと言われている重度障がい者であっても、社会の役に立って働くことができることを自ら実証。その実績を踏まえ、重度障がい者に対して、少しでも役に立って働ける場を企業が用意し、国が企業に代わって最低賃金を支給するという、ベルギー視察で学んできた障がい者雇用制度の導入を訴えている。また、「すべて国民は勤労の権利を有し、義務を負ふ」とする日本国憲法27条にのっとり、“国民みんなが役に立って働ける皆働社会”を、障がい者、中小企業、国、国民にとって「四方一両得」で実現できる――という、知的障がい者から得た気付きを伝えることを、日本理化学工業の使命として展開している。
URL=http://www.rikagaku.co.jp/
本社 神奈川県川崎市高津区久地2-15-10
資本金 2000万円
従業員数 74名
<2012年3月現在>

※本インタビューは、人事専門資料誌「労政時報」の購読者限定サイト『WEB労政時報』にて2011年9月に掲載したものです。

聞き手、文:溝上憲文  写真:(株)トリニティ

 
■ルールを守ること。誰にでも親切であること
――班長はどのようにして決まるのですか。一定の経験やスキルなど習熟度を評価して任用するのでしょうか。
 当社の周辺には、支援学校などが5~6校あります。高等部の2年生から3年生にかけて、地域の企業で2~3週間の実習を行います。当社ではいくつかの作業工程を経験してもらいますが、最終的には就職を希望する生徒にどの作業工程をやりたいのかを聞きます。本人の希望をベースに、実習期間の評価を勘案しながら配属する工程を決めています。しかも教えて仕込むのではなく、理解力に合わせていますから、入社後の習熟は皆早いです。
 班長の任命に際しては、スキルの習熟度だけではなく、報告・連絡・相談がちゃんとできるか、また、5S(整理、整頓、清潔、清掃、しつけ)に加えて安全(safety)の6Sのルールを守れているのかも見ています(注:「班長制度」については前篇を参照)。6Sについては毎月1回、グループごとに勉強会を行っていますが、その中での様子や発言の中身なども評価要素に加えて、班長を選んでいます。基本的には、ルールを守り、日常的に人の話をよく聞いているか、仲間の面倒を見ているかといった、誰にでも親切であるかどうかを重視しています。
 工場内にダルマの貯金箱を置いています。当社では互いに尊重しあうことを大事にしており、人を馬鹿にしたり、見下したりしてはいけないことになっていて、人の名前を呼び捨てにした場合には、罰金として10円を貯金箱に入れることになっています。貯まったお金は忘年会のお菓子を買う費用に充てています。

――作業の能力も大事ですが、6Sに象徴されるルールを守ることも重要ですね。ちなみに、採用の際の条件はあるのですか。

 当社では採用に際して「四つの条件」を約束してもらいます。一つ目は食事・排せつなど身辺処理が一人でできる、二つ目は簡単でも返事がちゃんとできる、三つ目は言われたことを一生懸命にやる、四つ目は周りの人に迷惑を掛けないということです。
 この四つの約束を取り交わすときには必ず保護者の同伴を求めています。「もし周りの人に迷惑を掛けたら即座に仕事を中断させ、家に帰す」ことを承知いただいており、その場合は保護者に連絡し、家庭に帰って待機してもらっています。その代わり、「家で待機しているときに、『もう二度としないので、もう一度働けるように会社に頼んでほしい』という言葉が本人の口から出たら、すぐに電話をしてください。そして翌日から出勤させてください」と伝えています。そうした約束事を保護者と交わすことにしているのです。

■頑張った人には、MVPを
――働く意欲を持たせるために、ほかにはどんな工夫をしていますか。
 毎月1回、マネージャーとサブマネージャーによる定例の会議があります。当社の健常者の会議で、部署ごとに報告をするのですが、その中で、従業員の成長度合いの報告や誰をどのように教育しようかとか、誰を班長にしようかという話も出ます。
 もう一つは、1カ月の中で特に頑張った人を「MVP社員」として選び、翌月の月曜日に表彰します。また、1年間を通しての年間MVP社員の表彰を忘年会に合わせて行っています。その日は従業員の父兄も呼びますが、父兄の前での表彰は、なおさらうれしいものです。

――障がい者と一緒に働く健常者の役割も重要だと思います。健常者である従業員は、会社の中でどういう役割を担っているのですか。

 健常者の社員は、支援学校や福祉関係の経験がある人ではなく、ごく普通にハローワークを通じて入社してきた人たちです。
 彼らに対しては「当社では、製造ラインで働いているのはほとんどが知的障がい者です。健常者がやってきたことをその通りに教えるのではなく、彼らの理解力に合わせて仕事をさせないといけません。自分ではやさしく教えたつもりでも、本当に分かっているかどうかをしっかりと確認すること。それでうまくできなかったら、さらにやさしく教えるように」と言っています。
 また「彼の能力がここまでしかないから、この仕事はできないのだと思うようでは、当社の社員としての責任を果たしたことにはなりません。どのようにすればその人の理解力に合わせて仕事ができるようになるのか、それを考えるのが社員の仕事です」とも言っています。「それでもいろいろやったけれども、どうしてもできない場合は、上の部長に報告しなさい。その場合は、みんなでどうするのか考えよう」と。



■最低賃金からスタート。賞与も能力に応じて支給
――多くの知的障がい者を雇用し、班長制度も導入しているわけですが、賃金体系はどのようになっているのですか。
 1975年に川崎工場を稼働させた当時、重度の知的障がい者については最低賃金の適用除外の制度がありました。全体の4分の1が重度の障がい者ですから、当初はその制度を念頭に置いて制度の申請手続きに入ったのです。
 ところが、この地域を管轄する労働基準監督署の管内では、それまでに適用除外を申請している企業がなく、初めてのケースということで申請手続きが大変でした。労基署に行くたびにあの書類が必要だとか言われ、担当官が何人も入れ替わる。何度も足を運ぶうちに、どうも労基署の担当官は、うちが安い賃金で人を使おうとしているという不信感で見ているようにも思えたのです。
 モデル工場を作るのにお役所からそんな目で見られていることが癪(しゃく)に障り、雇い入れ時の給与はすべて地域の最低賃金にすることにしたのです。一方では金利年4.7%で融資額の1億2000万円を返済していかなくてはなりませんでした。大変でしたが、最低賃金を払いながら20年で返済しました。

――現在の給与体系はどうなっていますか。

 月例給と賞与に分かれますが、月例給は最低賃金をベースに諸手当などが付きます。諸手当には「班長手当」のほか、毎月1回の6Sの勉強会に参加している人に支給する「6S手当」などがあります。したがって、最低賃金しかもらっていない人もいますし、上限は班長格で最も高い人で18万6000円です。勤続年数は関係ありません。
 賞与は能力に応じて支給しています。下限は数万円から、上限は月例給の1カ月分ちょっと支給しています。1カ月分以上の賞与をもらっている人は、班長格が多いですね。
 毎年の昇給は全員にあるわけではありませんが、最低賃金も毎年上がっていますので、全く上がらないということはありません。また、これは給与とは直接関係ありませんが、従業員の多くが障害年金をもらっています。それを加えると、大卒初任給並みの収入を得ていることになります。

――多数の障がい者を雇用していることで、安全衛生面で特に留意しているのはどういう点でしょうか。
 もちろん、機械を扱うので「こうすると危ないよ」というルールは最初にちゃんと教えます。結論から言えば、重度の知的障がい者ほどルールに忠実であり、どちらかといえば中・軽度の人のほうが見ていて危なっかしいですね。ですから最初に教え込みます。しつこく言わなくても、実演して「こうするとこうなってしまう、だから危ないんだよ」と見せてあげればよく理解しますし、重度の人ほど厳格にルールを守っています。



■障害者を生かすことができれば、「四方一両得」
――知的障がい者の雇用に二の足を踏む企業も多いと思います。企業が障がい者を雇用することの意義とは何か、改めてお話してもらえますか。
 私は、働くことの幸せが人間が生きていくうえで最も大事であるということを、障がい者の人たちから教わりました。現在、働くことができない人たちの多くが、「福祉」の名の下に施設に入っています。しかし、保護された施設の中にいるより、企業の中にいて周りの役に立つほうが彼らにとってもうれしく、張り合いがあるものです。一般社会で働けないなら福祉で面倒を見ればよいと考えられがちですが、そうではありません。周りの役に立つ仕事を与えてあげられるのは企業です。
 日本国憲法は、本当の意味での福祉を国民に約束しています。第13条に「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と明記しています。また、25条で、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障していますし、27条では、すべての国民は、勤労の権利を有し、義務を負うとしています。そのためには、すべての障がい者にもそういう役割やポジションを与えること、すべての人が周りの役に立つ働き方を提供していくことが大事だと思っています。
 ベルギーでは、字も読めずに働けない人たちに、企業が働く場を用意し、そこで働く人たちに政府が最低賃金を支給する方式を導入しています。そのことで多くの障がい者が周りの役に立つ幸せを感じていますし、彼らを使う企業にとってもプラスになっているのです。

――日本でもそういう仕組みを導入すれば、一般の社会で働けずに施設に入らざるを得ない多くの障害者も、周りの役に立つ幸せを感じることができますね。

 実は2009年、私は渋沢栄一賞(注:渋沢栄一の精神を受け継ぐような企業活動と社会貢献を行っている、地域に根差した企業の経営者に対して贈られる)をいただきました。そのとき受賞したのは、私を含めて3人です。ほかのお2人は医療や教育分野に多大な寄付をした方ですが、当社は全く寄付していませんでした。
 そこで話を聞くと「日本理化学工業さんは、重度の障がい者を長年雇用してきましたが、今の日本の施設で重度の障がい者を20歳から60歳までの40年間保護するとすれば1人2億円の公費が掛かります」と言うのです。2億円ということは年間500万円です。それだけ掛けて施設で面倒を見ているのを、先ほどのベルギー方式にならって企業が活用すれば、最低賃金分の年間150万円程度で済むことになります。
 また、一般の社会で働けない障がい者が中小企業で働く場を与えられれば、中小企業も役に立って、働いてくれた分が利益につながります。施設で暮らしている多くの重度障がい者が社会の役に立つ仕事ができるだけでなく、中小企業も活性化するのではないかと思います。

――その仕組みが導入されれば、まさに「三方一両得」になりますね。社会的に多くの効果が期待できますね。

 私は「四方一両得」と言っています。障がい者は、最低賃金分の支給で12万円程度になり、地域で自立できます。国にとっても、仮に500万円払っているとすれば、最低賃金分の150万円を除いた350万円を軽減することができます。企業にとっても、役に立つ仕事をさせることができればプラスになります。そして障がい者を抱える家族にとっても福音になります。たまたま障がい者の子どもを持ったために、年老いても死んでも死にきれないという親御さんがたくさんいます。
 障がい者が最低賃金並みの収入をもらえるようになれば、グループホームに入れます。当社でも両親のいない10数人の社員がグループホームで暮らしていますが、月に6万~7万円払えば、食事付きのケアもしてもらえます。毎月12万~13万円の収入があれば、多少お金も残りますし、好きな物も買えて地域で自立できます。また、彼らの消費で町の活性化にもつながります。是非政府にも制度の導入を考えてほしいですね。
 障がい者に働いてもらうことで、中小企業をはじめ日本経済の活性化にもつながります。障がい者の働く幸せが得られる環境を、是非作ってほしいと思います。

――本日はありがとうございました。

溝上憲文(みぞうえ・のりふみ) ジャーナリスト
1958年鹿児島県生まれ。明治大学卒業。経済誌記者などを経て独立。経営、ビジネス、人事、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍中。著書に『隣りの成果主義』(光文社)、『超・学歴社会』(同)、『団塊難民』(廣済堂出版)、『「いらない社員」はこう決まる』(光文社)などがある。

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