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企業がEAPを活用するコツ [2012.02.13]

第15回 EAPサービスの活用における質の確保 ~医療ではなく、人事労務からの視点がポイント~

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師

今回は本連載の最終回として、実際にEAP機関によるサービスを活用するに当たって、提供されるサービスの質を確保するための工夫について紹介する。

EAPサービス開始時点の工夫

本連載では、EAP機関やEAPカウンセラーの活用の幅を広げ、喫緊の問題である、職場のメンタルヘルスにおけるさまざまな課題への対処方法を紹介してきた。

これまでの14回では、電話相談形式以外の具体的なサービスを紹介してきた。これらは、現代の企業で人材に関する課題に取り組む人事部門の目線で選択したものである。

  •  不調者に対応するための、職場復帰支援プログラムの策定とその運用支援(第3回)
  •  問題のある部下に対応するための、人事労務担当者や管理職からの相談対応(第4~6回)
  •  管理職向けの部下のメンタルヘルスに関する研修(第7回)
  •  産業医等の社内専門スタッフとの連携(第8~9回)
  •  不調者の紹介のための、精神科クリニックや病院とのネットワークの構築(第10回)
  •  不調者の早期発見等を目的とする、ストレス調査(第11回)
  •  危機(クライシス)におけるメンタルヘルス対策(第12回)
  •  海外拠点で働く人のメンタルヘルス対策(第13回)

効果的な運用を行って、契約後のEAPサービスの質を確保するには、サービスの利用開始時点における目標設定が鍵となる。この目標設定は具体的でなければならず、また、契約時に明文化するのがよい。この目標が、活用窓口である人事労務担当者等とサービスを提供するEAP機関の営業担当者・EAPカウンセラーの共通認識になっている必要があるからである。

また、定期的にその目標の達成状況を確認する予定をあらかじめ立てておいたり、その目標が未達の場合には、EAP機関が改善のための対処を行うこととするなど、最初から約束があった方がよい。

さらに、EAPカウンセラーの選定はサービスの成否を分ける重要事項なので、サービスの提供を受ける前にその経験や経歴、そして人柄まで十分に確認をしておきたい。

そして、運用開始後は定期的な報告会の開催や報告書の提出を義務付け、これを予定に入れておく約束も、サービスの利用開始時点で行っておくのがよい。

EAPサービス利用中の工夫

実際にサービスを利用してから数カ月を経過した段階で、あらかじめ決めておいた目標の達成状況を確認するのが効果的である。そして、目標設定の段階も同様であるが、企業側の目線で、あるいは人事労務担当者の立場で理解できる説明を求め続けることが大切である。専門家としての医学的、心理学的な説明ではなく、人材のリスクと損失を解消するのに有効だったかどうかという点を追求するのである。

もしも、サービスを受けている最中に疑問の点があれば、遠慮なくEAPカウンセラー、場合によってEAP担当者に説明を求めるのがよい。

また、目標の達成状況に関しては、例えば、期間当たりの対面カウンセリングを行った実数だけを報告させるのではなく、次のような具体的な指標に関して、報告を求めることができる。

  •  カウンセリングの実数(期間あたり)
    [注]延べ人数だと、同じ人を何度もカウントすることもあるので、実人数であることと、回数ごとの分布を要求してもよい。
  •  カウンセリングの回数
    例)同じ従業員(クライアント)当たり、1回から例えば上限6回
  •  カウンセリング後の改善の有無
    例)改善:**名(**%)、不変:**名(**%)、悪化:**名(**%)
  •  外部紹介の対応
    例)カウンセリング実施者のうち、何人を精神科医療機関に紹介し、確実な受診までフォローしたか?
  •  産業医との連携
    例)何名の対象者について、産業医と情報交換を行ったか? そのうち何名に産業医から就業上の配慮に関する意見が提出されたか?
  •  リスクの高い事例への対応
    例)自殺をほのめかすなどの言動があったり、事件につながるような行動の異常があった事例の数。このうち、人事労務担当者との情報交換を行った数も報告させる。

これらを報告会の形式で、きちんとしたプレゼンテーションを行ってもらい、報告書を提出してもらって、検証するのがよい。四半期ごとや半期ごとの実施が適切だと考える。
その際、必要だと考えたら、契約で決められた範囲内で改善を求めるとよい。

さて、提供されるサービスの内容の良否を専門的な立場から助言してもらうのに最適なのが産業医である。産業医には業者の選定から入ってもらうなどして、最初から連携ができるようにした方がよい。その上でなら、定期的なEAP機関による報告会に出てもらったり、報告書を読んで助言してもらうよう、頼むことができる。

精神科や心療内科が専門でなくとも、産業医を真面目にやってくれる医師なら、ある程度の評価や改善のための助言を行ってくれるのではないか。この点は、医師以外に保健師や看護師、あるいは、EAPカウンセラーとは別に心理職と呼ばれるカウンセラーがいるなら、相談してもよいだろう。

EAPカウンセラーの接遇や態度もしっかりと見ていきたい。窓口となる人事労務担当者の印象だけでなく、活用した管理職、あるいは、実際に面接を受けた従業員の印象を無作為に選び、匿名のアンケート形式で回答してもらうことができる。いわば、顧客満足度調査のようなものである。

さらに、管理職による相談の場合には、相談を行った1カ月後あるいは3カ月後など、一定期間を経た後に、問題あると思われる部下の様子について、次のような問いを行うことができる。

  •  本人の仕事の様子(生産性はどれくらいだったか?)
    "まったくできない"から"かなりできる"というレベルを例えば5段階に分け、相談前後のレベルを対比して尋ねる。
  •  本人の職場での問題(いわゆる"事例性"はどうだったか?)
    "非常に問題である"から"まったく問題ない"というレベルを例えば5段階に分け、相談前後のレベルを対比して尋ねる。

これらはEAPカウンセラーの対応が有効であったかを知る上で絶対的な指標となる。その事例に人事労務担当者自らが関わっているなら、自身でも評価をつけてみるのがよい。

さらに、EAPサービスを医療的な色彩があると考えると、EAPカウンセラーが個別に面談する際の判断の良否やその記録の確かさは、質を担保するために、ぜひ確認したい事項である。しかしながら、これらは自殺のように深刻な問題でなければEAPカウンセラーの守秘義務の範囲なので、人事労務担当者には関与しづらい。

その場合には、産業医や、もしもいれば看護職に、同じ守秘義務を負った医療職として確認してもらうことができる。この点は契約の段階やサービス利用開始の段階で、EAP機関とEAPカウンセラーと同意しておく必要がある。

EAPサービスの終了時や契約の更新の際に

契約期間が終了する直前ないし終了時点には、サービスの提供の評価を行うことになる。
その場合に予防医学等の分野で行われている3段階の評価の考え方が役に立つのでここで紹介しておく。

  •  プロセス評価(システム評価)
    決められた手順通りにサービスが提供され、報告がなされてきたかという観点からの質的な評価
    例)EAPカウンセラーから従業員(クライアント)に対して、対面カウンセリングの際に、自殺等の危険な状態があるとわかった場合には、本人の同意なく人事労務担当者に通報することがある、というような内容を説明し、同意のサインを毎回もらっているかという点を確認する。
  •  パフォーマンス評価
    サービスを受けた従業員の割合や達成の度合いに関する評価
    例)管理職研修に関して、全管理職100人中、何名が受講したか(受講率**%)というような定量的な評価
  •  アウトカム評価
    ターゲットにした問題がどれだけ改善したかというような評価
    例)メンタルヘルス不調の診断を受けて休業・休職中の社員数の増減や総休業・休業日数の増減

実際にはアウトカム評価で効果を上げるためにEAPサービスを活用するのだが、アウトカム評価で定量的な改善を得るには相当な努力と時間が必要となる。そのため、単年度の場合にはおそらくパフォーマンス評価に基づいて、効果を考えるのが現実的かもしれない。
また、それを確実にするのが、プロセス(システム)評価であると理解しておくとよい。
しかし、常にアウトカム評価のことを意識しながら、EAPカウンセラーやEAP機関の営業担当者と情報交換を行うことも忘れないでいただきたい。

そして、時期に関わらず、医療情報の管理と自社に関する情報管理については、適正であったかを確認するのがよい。個々の事例の相談内容はもとより、自社の事業に関する情報や現場の問題は機微な情報である。年度末には必ずその点を総括しておくべきである。
その管理がずさんであるなら、他の側面の評価がどれほどよくとも、それを帳消しにするくらいのマイナスであるに違いない。

最終的な実績報告書と共に、残っている課題を指摘、提示した次年度以降の計画や提案書を提出してもらうのである。これらを検証することで、料金に見合うサービスの質と量であったかを見て、また、残っている課題を解消するのに継続に値するかを見直してみることができるだろう。

おわりに

EAPサービスを提供するEAP機関は業者の一つにすぎないが、取り扱う内容が精神科的な問題であるなど、医療に係る課題であるために、企業側としては、質の管理が難しいという印象があるかもしれない。けれども、大切なことは、専門的な内容の説明ではなく、それが自社にとってどのようなメリットがあることなのかを求め続けることである。そのことが、サービスを提供するEAP機関とEAPカウンセラーに企業側の真のニーズを理解させ、経験を積ませることになる。また、そのことに意義を感じて、努力をするのが真のコンサルタントであり、プロフェッショナルだと言えるのではないだろうか。

現在、日本のEAPサービスは、ワンストップで簡単に質の良いサービスが気軽に買えるほど、成熟した産業にはなり得ていない。したがって、活用するEAP機関を業者として成長させながら使おう、それによってメンタルヘルス不調等の自社の課題を解消していこう――という人事労務担当者の気概も活用するEAPサービスを成功に導くために必要だ。この点は現状の人事部門における他の課題に対処する際と全く同じレベルと考えよう。

日本企業と働く人を取り巻く環境はますます厳しいように思う。そのため、EAPサービスが対応するメンタルヘルス不調等の問題は、より顕在化していく可能性が高い。単なるもぐらたたき的な対応ではなく、本連載で紹介したEAP機関とカウンセラーを活用する具体的な方法を参照しながら、自社の課題に対処していただけたら幸いである。

最後になりますが、15回に及ぶ連載を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

写真:亀田 高志さん

Profile

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師
1991年産業医科大学医学部卒業後、NKK(現JFEスチール)や日本アイ・ビー・エム(株)で計11年間、専属産業医の実務に従事。2005年に産業医科大学産業医実務研修センター講師となり、2006年10月に産業医科大学による(株)産業医大ソリューションズ設立に伴い現職。
職場の健康管理対策、特にメンタルヘルス対策を専門とし、現在は、企業に対するコンサルティングサービスと研修講師を手がけている。メンタルヘルス相談機関であるEAP(従業員支援プログラム)の活用やゆとり世代等の若手問題の防止やその育成にも詳しい。


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