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企業がEAPを活用するコツ [2012.01.31]

第14回 海外拠点で働く人のメンタルヘルス対策 ~グローバルなビジネス展開にEAPを活用してみる~

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師

海外赴任はメンタルヘルス対策の盲点?

あらためて言うまでもなく、現在はグローバル競争の時代であり、これからもそれが続くだろう。いわゆるバブル崩壊から20年以上を経て、ついに日本は経済大国世界第二位の地位から滑り落ちた。1990年代に一瞬だけと思われた非常な円高は昨今、延々と続いており、製造業だけでなく、さまざまな業種で生産拠点の海外への移転が続いている。その数は、報道される事例より実際にははるかに多い。当然、外国で暮らすことがあまり得意でない傾向と言われる日本人も、業務の必要性から、欧米はもとより、アジア、あるいは南米等まで、幅広い地域での海外赴任を強いられるようになっている。その中で、職場要因だけでなく、海外での生活によって、海外赴任中の社員が心身に不調をきたしたり、職場での問題を起こすなど、重要な海外拠点での事業に影響を生じる事態に悩まされる企業が増加している。

過去から、海外赴任におけるメンタルヘルス不調等の問題は、専門家の間では課題の一つと捉えられてきた。例えば、商社は海外との貿易を行うのだから、過去から海外赴任があって当たり前で、さらに現地でメンタルヘルスの問題が生じるのもさほど珍しいことではなかった。しかし、そのような事例は限られていたので、業界や専門家の間だけの話題で済んでいたように思う。

しかし、どんな従業員規模・業界でも、(日本国内では少子高齢化の影響があって、市場は縮小していくのだから)海外でのビジネス展開は、存続を確保するための絶対的な手段となってきている。そのため、もともとは海外で働くことなど想像していなかったような人でも、成長市場と目される国に赴任するのが日常茶飯事になっている。最近の行き先はインドや中国が多いという話もある。

ところで、一定の割合でメンタルヘルス不調者や不調になる素因を持つ人がいることをご存知だろうか。「疫学調査」といって人間集団としての医学的な調査研究を総合してみると、働くことに影響するような不調を経験する可能性のある人というのは、少なくとも、全体の1割はいると考えられる。この状況は海外拠点で働く場合もそれに類するのである。その結果、当たり前のようにメンタルヘルス不調者やそれに伴う問題が顕在化してきている。

基本的に企業が日本で業績の悪い人を海外拠点に派遣することは少ないだろう。できると思われる人を候補として派遣するのだが、これが思うようにならないことも多い。その原因の一つがメンタルヘルス不調なのである。

日本国内ではメンタルヘルス不調により職場で欠員を生じても、不調者の担っていた仕事をカバーする人材は多少でもいるのが通常だ。

ところが、海外赴任社員の場合には、グローバル人材と言われるリーダークラスだけでなく、日本国内の本社なり、事業部の意向を反映する、いわゆるつなぎ人材のクラスであっても、海外拠点の事業活動のカギになる仕事を担うものである。従って、このカギとなる仕事が滞るような、日本人派遣者の不調やそれに伴う問題は、海外での事業活動に大きな痛手となってしまう。しかし、このような問題を重視し、対策をしっかりと行うことができている日本企業は、現状では極めてまれだと言わざるを得ない。

海外赴任で起きる問題とは?

対策を理解するためには、どのような問題が起きるのかを理解していただく必要があるので、まず、基本的にストレスによってどのような不調等の問題が起きるのかを[図表]でおさらいしておきたい。

【図表】職業性ストレスモデル(職場のストレスと健康モデル)

図表1:職場のストレス要因に個人的要因/仕事以外の要因/緩衝要因が重なり急性の反応や病気に繋がる

(J. J. Hurrell, M. A. McLaney,アメリカ労働安全衛生研究所, 1988:亀田高志訳)

これは職場のメンタルヘルス対策の課題を示すモデル図で、職場の内外のストレスや、関連する要因と不調の生じ方を説明するものである。EAP専門家の間でも広く受け入れられている考え方でもある。

[図表]の示すところはシンプルだ。示しているのは、職場のストレスが人間の感情、身体と行動に反応を起こすこと、そしてその反応は職場の外のストレスで増幅されるし、支援する人たちの存在によって和らげられること、また、反応の大きさは個人的要因の違い、つまり個人差も関係すること、反応が高じると感情面、身体面の症状が出たり、行動の異常をきたして、診断や治療の対象となる不調になってしまう――ということである。

この図表から海外赴任で不調が起きやすいことがわかる。例えば、海外赴任では仕事内容の難しさだけでなく、言葉の問題や気候、異文化の環境や習慣の違い等、さまざまなストレス要因が存在する。加えて既婚者や親族と同居している人の場合、家族を帯同しなければ単身赴任となるし、家族を帯同すれば、家族の不調等の問題も考えなければならなくなる。

これらの要因は職場の内外の強いストレス要因となり得る。また、日本なら家族や親族、友人や職場の心許せる同僚がいるかもしれないが、海外ではそうはいかない場合が多い。ストレス反応を和らげてくれる支援が乏しいのである。

そして、不調となった場合に海外の医療機関にかかろうと思っても、医療制度の違いや医療レベル、言葉の問題から早期には相談しにくいという事態が起こる。また、治療を受けたとしても、現地に産業医がいることはないだろうから、働き方に関する助言や指導を受ける機会もない。その上、日本人は海外拠点の要職についているケースが多いのだから、気軽に自身の問題を社内のメンバーに相談するのも難しいと思われる。

現実に赴任中におきるメンタルヘルス不調には、適応障害、うつ病等がある。もともと会社に隠して不調を持っていた場合にはそれが顕在化することもあるし、また、アルコール依存症の問題も看過できない。これらの問題は社員だけでなく、その家族にも生じ得るし、個人的なストレス要因としては日本に住む親の病気や介護の問題に直面することもある。

いずれの問題が生じても、勤怠不良や個人の業績悪化にとどまらず、当人の責任下にある事業活動そのものに大きな影響が出てしまうことになる。

海外赴任は派遣に伴う費用(家族を帯同している場合の費用はさらに)高額になるものであるし、その分の損失も大きい。加えて、海外での事業に影響が出るとなると巨額の損失が出かねない。海外での問題は、国内でのメンタルヘルス以上に大きなリスクともなり得るのである。

さらに、職場の問題となるのは、メンタルヘルス不調だけではなく、身体の病気の場合も少なくない。実際に海外赴任中に持病の悪化や突然の病気で死亡する人も多い。長期入院を要する場合や治療のために就労がおぼつかなくなることもある。職場のストレスは身体に影響することは確実であり、加えて、日本人にとってそれほど満足な医療の受けられない可能性のある海外では、新たに不調を発病したり、持病が悪化することが増えるのである。

そして、職場のストレスは行動に影響し、日本人赴任者同士の人間関係の悪化や(深刻化してケンカや暴言にまで発展することも少なからずある)現地の従業員との関係悪化を引き起こすこともあり、そのことが原因で不調になることすらある。

これらの身体の問題や行動の異常も、海外での事業展開の大きなマイナス要因となるのである。

必要な対策とEAPの活用

以上のように、問題を明らかにしたところで、対策を考えていくことになるが、その際には、個々の社員の海外赴任の流れに沿って考えるとよい。

まず、赴任前の対策として、社員や家族への教育や研修、情報提供を行うことができる。この点については、EAP機関に委託することができる部分である。

情報提供の中身は、現地の医療情報や医療機関とその活用、生活上の注意点を含むものでなければならない。あるいは、契約を要することとなるだろうが、海外で活用可能なEAP機関の情報も入っているとよい。

後述する対策も同様であるが、このような研修や情報提供ができるEAP機関は、海外の専門機関とのネットワークを維持していないと対応ができない。また、ネットワークがなくとも、最低限、現地の医療情報の収集と提供ができなければならない。同時にEAP機関のカウンセラーなり対応窓口のスタッフは、英語を中心に語学がある程度できなければならないということになる。

次に現地で不調者が出た場合であるが、不調になったのが赴任者本人でも帯同家族でも、日本に帰国させるのが定石となる。その際、スムーズな帰国を支援することが対策となるが、その前に現地の医療機関で診断や治療を行った方がよいことが多い。また、日本に帰国させて受診させるにしても、現地の医療機関の主治医による英文による紹介状があった方がよい。
EAP機関には、現地医療機関や専門家との連携の機能を期待したいところである。仮に自殺未遂云々というようなハードなケースで、無事帰国に至るまで支援できるかといった対応もEAP機関と事前に協議するとよいのではないだろうか。

そして、帰国後には日本国内の医療機関の受診や産業医との連携が課題となる。

なお、身体の病気の場合は、メンタルヘルス相談機関の守備範囲でないように思われるかもしれないが、医療機関の活用や本人等のスムーズな帰国については、相談して助言を受けてもよいと思う。

また、行動の異常による問題についてだが、職場ストレスやその背景にある要因はEAPの専門分野でもあろうと考えられる。このような点も相談できるようなEAP機関を選択することをお勧めする。

そして、EAP機関には、海外での事例発生時の窓口となる人事担当者や、上司層に対しての丁寧な助言も期待したいところである。例えば海外拠点に単身赴任中の社員がうつ状態になった場合では、日本に残った家族への説明の仕方や本人の接し方など、信頼できる専門家のアドバイスが、スムーズな帰国のために必須だからである。

さて、これらのEAPサービスの費用はそれなりのものと考えていただくのがよいと思う。海外の専門家や医療機関との連携は高度な教育と語学の能力、国際的なセンス、豊富な経験がないと難しいからである。ただし、その費用が通常のEAPの活用に比べて、相対的に高額だとしても海外事業等の損失に比べては極めて少額だと思われるので、考慮してもよいと考える。

本連載で触れてきたような、EAP機関の選定やそれに対する要求として、これからますます増加する可能性のある海外赴任社員とそれに伴う不調等の問題発生に対する認識を高めていただき、EAPサービスの活用を検討してはどうかと思う。具体的にはこのようなサービスを提供できるかどうか、現在活用しているEAP機関や活用を検討しているEAP機関に尋ねてみることができるだろう。

さて、次回は本連載の最終回として、EAPサービスの活用を開始する場合や運用の最中に、サービスの質をどのように確保するかという点について、紹介する予定である。

写真:亀田 高志さん

Profile

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師
1991年産業医科大学医学部卒業後、NKK(現JFEスチール)や日本アイ・ビー・エム(株)で計11年間、専属産業医の実務に従事。2005年に産業医科大学産業医実務研修センター講師となり、2006年10月に産業医科大学による(株)産業医大ソリューションズ設立に伴い現職。
職場の健康管理対策、特にメンタルヘルス対策を専門とし、現在は、企業に対するコンサルティングサービスと研修講師を手がけている。メンタルヘルス相談機関であるEAP(従業員支援プログラム)の活用やゆとり世代等の若手問題の防止やその育成にも詳しい。


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