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企業がEAPを活用するコツ [2012.01.17]

第13回 EAPをどのように選び、うまく契約するか? ~EAP機関の選定と契約におけるポイント~

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師

EAP機関はどのように選ばれているのか?

本連載の第6回では、人事労務担当者や管理職からの相談という観点からEAPの探し方と契約の仕方を紹介した。今回はもう少し広い意味で、"よいEAP機関"の選定や契約の実際について説明したいと思う。

まず、企業の担当者が、実際にEAP機関をどのように探しているかについて筆者は産業医大の教員だった2007年に東証一部企業の人事部の方々に対して、郵送によるアンケート調査を通して調べたことがある。その中でEAP機関の探し方を尋ねたところ、以下の結果になった(複数回答)。

図表1:EAP機関の探し方 インターネットで検索:26.4%、セミナーに参加:24.5%、社外の専門家の紹介:20.8%、他社の担当者の情報:18.9%、口コミ:13.2%、記事や広告:13.2%、社内の産業医の紹介:11.3%、日本EAP協会のホームページ:1.9%

人事部門の方は多忙であることと、当時EAPへの関心があまり高くなかったこともあり、回答数は53企業と少なかった。回答数も少なく、複数回答でもあったので、断定的なことは言えないが、検索や何かしらの広告、あるいは紹介や口コミが主な手段であるのは確かだろう。しかし、「インターネットで検索」が最多だったことには、驚かされた。「記事や広告」も同様だが、"活字になった情報を見て選ぶ"というレベルに、危うさを感じる。

"自ら情報を求めて出向く"という意味では、セミナーに参加する手もある。実際に回答数も2番目に多い。ちなみに、EAP機関は無料セミナーをよく行っている。その際、ゲストに外部の専門家を招く場合もあるし、EAP機関内のカウンセラーが講演を行うこともある。顧客サービスの一環の場合もあるのだが、実際には営業的な意味合いが強く、サービスを説明するパンフレット等をたくさんもらって帰ってくることになる。人事担当者の方にとって、無料のセミナーを聞いただけでは、EAP機関の良しあしは、よく分からないのではないかというのが私の本音だ。業界の人間でない限りはEAP機関の良否の判断は難しい。ISO規格までといかなくとも、質に関する情報が限られているために致し方ない状況はしばらく続きそうだ。

しかし、質に関する情報が不足していることこそが、EAP機関の活用がうまくいかない理由である。あるとき突然、メンタルヘルス対策を担当しなくてはならなくなった担当者が、まずはインターネットや記事・広告を見て、次に無料セミナーに出てみて、EAP機関の営業にすすめられるまま、電話相談から始めてみる――これでは出だしから"有効活用"とは程遠い。

EAP機関を選ぶ際に知っておくコスト

EAP機関を選ぶ場合に、まず人事担当者の方に意識してほしいことが一つある。それは、EAPサービスは形態の違いこそあれ、基本的にはビジネスであるという点である。EAPサービスは決して慈善事業ではない。不調者を相手にメンタルヘルス対策を行うとしても、医療機関が母体であったとしても、あるいは、「働く人の心の健康を守る」という理念をうたっていても、である。

この連載でも、ストレス調査をウェブ上で行うサービスに触れたが、こういった取り組み以外のコストは、EAPカウンセラーや管理スタッフ等の人件費が大半を占める構造になっている。そして、EAPサービスの良否は結局のところ、EAPカウンセラーの質やそのサービスを提供する基盤に依存する。従って、よいEAPカウンセラーを使いたい、つまりは質のよいサービスを買いたかったら、ある程度のコストをかけなくてはならないのである。

しかし、企業の利用実態は必ずしもそうではない。実は先の調査では、EAPサービスを購入するためにかけているコストについても尋ねている。匿名とはいえ、答えにくいコストについての質問だったので、回答数は35企業にとどまったが、次に示すように、ばらつきがとても大きいことが分かる(回答くださった企業にはとても感謝している)。なお、通常EAPサービスの料金は、契約料が別途だったり、従量課金制だったりすることもあるが、基本的には年ごとに対象の人数割り料金(英語でCapitationと呼ぶ)を支払うシステムになっている。

図表2:EAPサービスの従業員一人当たりの年間コスト 500円以下:14.3%、500円から1000円未満:14.3%、1000円から2000円未満:25.7%、2000円から3000円未満:25.7%、3000円から5000円未満:8.6%、5000円から10000円未満:8.6%、10000円以上:2.9%

日本では、年間1人当たり1000円から2000円が標準的なEAPサービスの料金だとされている。一方、アメリカはこれより高いのが専門家側の認識で、適正なサービスを提供するためには25ドルから40ドルが適正な料金と言われている。

ところが我々の行った調査では、1000円に満たないケースが全体の約3割あり、最低では65円というケースさえあった。

もちろん、入札や見積もりを取って価格の安いところを選択するというのはコスト意識の高い企業なら当然のことかもしれない。けれども、EAP機関から、きちんとしたサービスを受けるために、年間数百円というのは、良い考えとは思わない。

例えば1000人の企業の場合、5%の従業員の相談を受け付けてもらうとすると、1年で50人の相談対応をやってもらうことになる。とても少なく見積もって、この50人に平均で4回ずつ、記録等の時間を含めて1回45分の面談を行うとすると、合計で年間150時間となる。そうすると、月々12.5時間は来てもらわなければならないので、例えば、週1回3時間のペースでEAPカウンセラーの時間拘束が必要となる。

これに対して、企業がかけるコストが、従業員1人当たりで500円だとすると、従業員が1000人だから年間50万円となる。そうすると、この週1回の訪問で1万円にしかならない。専門資格を持って、産業医や看護職との連携、あるいは精神科クリニック等との連携も行ってもらうレベルのEAPカウンセラーを想定しているなら、あまりにも安すぎる。

半日で1万円という勘定だとすると、フルに毎日、5日間、午前も午後も行って、1年でようやく最大で500万円を売り上げるのが精いっぱいという金額となる。実際には移動やEAP機関内の業務、専門家としての自己研鑚(けんさん)等もあるので、週の半分の時間を実働に充てるのが限界だろう。そうすると実際に売り上げるのは250万円――この売り上げがEAPカウンセラーによる人的なサービスだけだとすると、例えば営業が一人で250万円しか稼げないビジネスモデルは成立させるのが極めて難しいのと同じ状態だとわかるだろう。

こういった事情を考えれば、もし従業員1人当たり年間500円でサービスを買えたなら、資格や経験の怪しい人物がやってきても致し方ないのである。

広い地域のサービスを買いたいとき

現在は小規模分散型事業場形式のビジネスが増えた。企業規模によらず、関東や関西の両方にEAPを導入したいというケースも出てくる。そうした場合に広いエリアで質のよいEAPサービスを一括で購入したいという希望を人事担当者が持つことがある。

どのようなサービスでも現在はワンストップサービスが好まれるから、大手のEAP機関に一括発注したいと思うのは当然の心理だろう。それが、メンタルヘルスに関する問題への対処においてならなおさらだろう。しかし、EAP機関の側にとってそれはとても難しいという現実を企業の側として知っておくことが重要だ。

日本のEAP業界は20年あまりの歴史しかなく、業界としては未成熟な段階にある。具体的に言うと、信頼できるレベルの資格や経験のあるEAPカウンセラーは国内には100人から最大で200人程度しかいないと考えられる。首都圏からEAPカウンセラーを派遣するにはコストもかかるし、EAP機関としては、仕事のできる貴重な専門家を地方に送って丸1日を費やす余裕もないというのが本音だろう。

そのため、たとえ全国展開ができると首都圏のEAP機関が宣伝していたとしても、地方の事例への対応は、地元の何らかの資格を持つ個人でやっているか、医療機関で働いているカウンセラーに委託しているケースが多い。勉強会の開催や情報提供をEAP機関が一生懸命行っても、委託を受けたカウンセラーの対応内容・質をEAP機関の側が見直し、是正のために指導するという関係にはなりにくい。

もちろん、きちんと連携の取れている業者もあるだろうが、一括購入の場合EAPサービスの質の管理は難しいのである。しかも、EAPサービスは商売なので、単に事例の対応を委託しているだけで、本当の意味でサービスの質の管理ができていなくとも、提携カウンセラーがいるとか、提携機関があると、宣伝・説明するものなのである。

筆者としては、東京なら東京のよいEAP機関、大阪なら大阪で第一のEAP機関というように、地域ごとにEAP機関を探すのがよいように思う。その方が、質が適正なのかについて見極めやすいし、EAP機関とのやり取りもスムーズになるからである。首都圏の産業医等が出張することはまれで、通常は事業場の地元にいるのが普通だから、自社の医療スタッフと連携してもらうにしても、近くのEAP機関の方が便利であることも理由のひとつだ。EAPサービスの導入に、時間的に多少の前後が生じても、あるいは対応の時間や曜日の枠に地域ごとの差が出ても、地域ごとに本当によいEAP機関を探していくのが結果的には効果的な対策になるように思う。

契約におけるポイント

さて、EAP機関の選定のあと、契約を取り交わす段階では、営業担当者だけでなく、担当するEAPカウンセラーにも直接会い、資格内容や専門家としての経歴、企業での勤務経験などを確認するべきだろう。また、営業担当者とやり取りをする過程で、EAP機関のオフィスはぜひ訪問してほしい。応接室だけでなく、どんなスタッフがいるのか、電話のやり取りや対面のカウンセリングはどんな様子なのか、オフィス全体を見せてもらうと、医学や心理学に詳しくなくともそのEAP機関がどのような運営を行っているのかよく分かると思う。

そして、忘れてはいけないのが、EAP機関は従業員や場合によって企業の機微な情報に触れるということである。契約では必ず、守秘義務契約を結ぶことと、相談者等の健康情報の取り扱いについても、きちんと決めておくのがよい。具体的には、自殺や事件のリスクのある事例と判明した場合には、本人の同意がなくとも、窓口となる企業側の人事担当者に通報するように求めるのである。そうすることで、EAPカウンセラーが相談者に情報管理のあり方や通報する事態について、相談の前にあらかじめ説明する必要が生じる。このことはEAPカウンセラーの立場をカウンセラーと相談者の双方に明確に理解してもらうのにも役立つ。

そして、大切なことは、いかなるサービスを購入しても、契約の段階で具体的な目標を設定することである。目標設定には、次のような項目が想定できる。

図表3:契約に際して設定する目標の例 電話相談の利用率:(例)年間での相談者の実人数が全従業員の5%以上であること、面談相談の利用率:(例)年間での相談者の実人数が全従業員の3%以上であること、管理職相談の利用率:(例)年間での相談者の実人数が全管理職の8%以上であること

数値目標を設定する時はEAP機関側の説明を聞き、納得いくまで交渉してほしい。例えば、実際の利用率が目標を下回った場合に、利用促進のための講演や研修を実施してもらうことを契約に盛り込むのは、顧客として当然の要望と考えてよいと思う。

さて、次回は、海外拠点で働く日本人のメンタルヘルスに関わる問題にEAPを活用できるのかという話題に触れてみたいと思う。

写真:亀田 高志さん

Profile

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師
1991年産業医科大学医学部卒業後、NKK(現JFEスチール)や日本アイ・ビー・エム(株)で計11年間、専属産業医の実務に従事。2005年に産業医科大学産業医実務研修センター講師となり、2006年10月に産業医科大学による(株)産業医大ソリューションズ設立に伴い現職。
職場の健康管理対策、特にメンタルヘルス対策を専門とし、現在は、企業に対するコンサルティングサービスと研修講師を手がけている。メンタルヘルス相談機関であるEAP(従業員支援プログラム)の活用やゆとり世代等の若手問題の防止やその育成にも詳しい。


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