jin-jour(ジンジュール) |人材育成、リーダーシップ、モチベーション、メンタルヘルス対策など 人事の視点から、働く人と会社の関係を元気にする情報を発信

ログイン
MENU

メニュー

×

企業がEAPを活用するコツ [2011.12.20]

第12回 危機(クライシス)におけるメンタルヘルス対策 ~自然災害や事故、自殺等が生じた場合のEAPサービス~

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師

EAPは危機(クライシス)の時に活用できる

文明が発達した現代、特に豊かな経済大国である日本で働き、暮らすわれわれは、幸運にも戦争もなく、飢えに苦しむこともほとんどない。実際の生活で、事件に巻き込まれる可能性は海外の国々の状況と比べても低いだろう。しかし、想定外の危機に直面する時、現実の生活はユートピアではないことを思い知らされることになる。

3月11日に未曽有の東日本大震災と同時発生的に起きた津波被害、それに続く、福島第一原発による放射線事故等、多くの人にとってそれまでに想像したこともなかったような事象が次々と日本を襲った。これによって多くの人が亡くなり、家族や親族を失った。また、けがをしたり、家や職場を失くしたりした。東北だけでなく、関東での被害も甚大である――。

このような状況を英語ではCrisis(クライシス)、日本語では、危機と呼ぶ。

そして、危機は従業員のメンタルヘルスに必ず影響を及ぼし、人材リスクを増大させ、労働損失を拡大してしまう。企業の活動は、社会のニーズを満たしつつ、利潤をあげて、従業員の雇用を維持することであるが、その存続を妨げる要因は経済不況、市場原理による競争だけではない。

例えば企業が何らかの影響を受ける可能性のある危機にはざっと見ただけでも、以下のようなものがある。

【危機の例】

  •  自然災害
    地震、津波、竜巻、台風、洪水
  •  事故
    交通事故、航空機事故、列車災害、労災事故
  •  ビル(建物)の問題
    火災、停電
  •  テロ
    爆弾、化学兵器、生物兵器
  •  犯罪
    強盗、暴力事件、不法占拠、誘拐
  •  自殺
  •  感染症

これらの危機が訪れれば、程度の差があっても企業としては危機管理を行うが、特に人事労務部門としては、危機管理に従業員のメンタルヘルスを課題として取り上げ、対策を行う必要性が高まる。しかし、危機が訪れてから、メンタルヘルスの専門家でない人事労務部門ができる対策は限られてくるだろう。同様に、平時から綿密な危機対策を自力で作成できる担当者もそうはいないのが現実と思う。そこで、危機におけるメンタルヘルス対策のためにEAPが活用できるのである。

経験的には、EAPの良否は従業員からの相談に際しての対応のレベル、管理職相談の対応の可否や研修の効果の有無で測ることができる。そして、さらにEAPの専門性が効果的に発揮されるのが、危機におけるメンタルヘルス対策のサービスなのである。

危機による影響

危機は人間の感情に重大な影響を及ぼす。人が亡くなる、大けがをする、あるいは普段の暮らしや大切なものを喪失するという異常な体験はトラウマ(心的外傷)を引き起こす。それに対して、人体はトラウマによる反応を起こす。激しい感情の表出を経験することもあるし、反対に感情的な反応がなく、ボーとしてしまうこともある。不眠になったり、食欲をなくすことも珍しくない。

【トラウマ反応】

  •  感情面の変化
    嘆き、悲しみ、落ち込み、感覚がまひするなど
  •  身体面の変化
    頭痛、渇き、寒気、嘔吐(おうと)、めまい、動悸(どうき)、発汗、息苦しさなど
  •  感覚面の変化
    方向感覚がなくなる、集中できない、過度の緊張、刺激に過敏、悪夢を見るなど
  •  行動面の変化
    不眠、食思不振、飲酒を繰り返す、引きこもるなど

医学的には、トラウマによる反応は心身への深刻なダメージを最小化するという効果もあると言われている。よって、これらは異常な事態に対する正常な反応とも言え、多くの場合、トラウマ反応は多くは数日で安定してくるものである。

しかし、しばらくして、次のような状態が顕著になった場合は、急性ストレス障害と呼ぶことになる。

【急性ストレス障害の状態】

  •  出来事以降の感覚がまひしたり、感情がなくなったかのようになる
  •  ボーっとして自分の周りに意識が回らなくなる
  •  現実感がなくなる
  •  自分を他人のように見ている状態になる
  •  その出来事が思い出せなくなることもある
  •  その出来事が繰り返し思い出され、次のような状態になること
    そのときのイメージを思い浮かべる
    そのときの様子を考える
    夢を見る
    そのときの様子だと錯覚する
    ――以上が非常に鮮明に起きる
  •  その出来事の状態を思い出さないように接触等をひどく避ける
  •  強い不眠、パニック、イライラ、集中を欠く、過度の警戒、不安、激怒するなど
  •  非常な苦痛を感じ、日常生活を普通に過ごせず、誰かに話すこともできないこと

強烈な出来事から4週間以内にこれらの状態が発生するが、2日程度で落ち着いてくることもあるし、多くの場合に4週間以内には改善する。

しかし、1カ月以上たってから急性ストレス障害のような症状が出たり、症状が1カ月を超えて続く場合には、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に発展するケースもある。

【PTSDの症状】

  • 1) 再体験;繰り返し、体験を思い出し、嫌な感情が湧き上がること
  • 2) 回避;想起させるものや場所を避けること
  • 3) 過覚醒;感情の高ぶりやそれによる不眠や集中困難など

PTSDは3カ月以内にその半数が回復し、これを急性とする。しかし、3カ月以上続くものは慢性のタイプとして区別される。

これら以外に過去からあるメンタルヘルス不調は悪化するし、アルコール依存症が顕著に表れてくることもある。

これらの問題は従業員の健康と企業の現場管理のリスクと共に、危機によって生じた損失をさらに拡大させる。危機が訪れる前に準備を行う必要があるし、危機に直面したら、人材のリスクと損失を最小化する対策を実行しなくてはならない。その際にEAPの活用はその選択肢の一つになり得るのである。

危機による影響を最小化するEAPサービス

では、もしも、危機が起きたら、質のよいEAPはどのようなサービスを提供してくれるのであろうか。

まず、危機の起きる前から、EAPの側から危機管理としてのメンタルヘルス対策の提案があるべきではないかと私は考えている。というのは、危機が起きてからの対応の有効性を高め、影響を少なくするためには、事前の周到な準備が欠かせないからである。

事前準備で行うこととして、最初に、管理職や一般従業員等の責任や立場に応じた、危機におけるメンタルヘルスや対策、対応に関する教育研修が挙げられる。

医学的専門家でなくとも、危機によるメンタルヘルスへの影響をあらかじめ知っておくことは、その後の問題を小さくするのに有効である。また、危機に直面してダメージを受けた人に対して、最も早く支援の手を差し伸べられるのは、職場の上司や同僚である。その場合の援助では、カウンセリングというような難しいことではなく、寄り添い、話を聴くという程度でもよい。なるべく多くの社員がその程度のことができるような基礎知識を持っておくのがよい。そのために教育研修は有益である。

震災から多少時間がたっているとはいえ、危機に係る話題に対する関心は高いと思われるので、今ならこうした研修を実施できる可能性が高い。そして、その際にはEAP機関の専門家を活用することができる。

また、事業所や特定の地域における自然災害等の問題があった場合の対応サービスのプランも、EAP機関側に今のうちから尋ねておくのが望ましい。費用の目安や専門家の配置やバックアップ体制の情報をあらかじめ知っておくことは人事部門として有益である。

そうやって準備をしておけば、実際に危機が訪れ、その危機に直面した従業員や職場が出た場合、EAP機関は次のようなサービスを素早く提供できるのである。

【危機におけるEAPサービス】

  •  相談窓口の開設
    電話によるもの
    対面によるもの
  •  現場での介入
    影響を受けた従業員や職場へのアセスメント(リスクレベルの確認)
    リスクレベルの優先順位に従ったアセスメントやカウンセリングの実施
     従業員個人に対する場合(対面の形式)
     職場全体に対する場合(集合の形式)
    病的レベルにある従業員の精神科医療機関への紹介
  •  現場での対応支援
    対応する会社側スタッフへのケア
    職場単位の情報交換へのサポート
    [参考]危機による影響を受けた職場単位でのミーティングで危機によるストレスを共有したり、相談することが行われる場合があり、その開催の指導や支援をEAPは実施できる。
  •  既知の不調者のケア
    うつ病などのメンタルヘルス不調
    アルコール依存症
  •  フォローアップ
    ダメージから回復していく過程での従業員個人と職場単位のアセスメントと必要な介入の実施

いずれも先に示した、危機がもたらす人材への影響、つまりトラウマ反応、急性ストレス障害、PTSDやその他の不調の問題を防止し、あるいは軽減することに有効である。こうした危機における対応にこそ、EAPを活用するべきであるし、こういった点を確認することで、そのEAP機関が信頼するに値するのかが明確になる。

実際の危機の場面では、EAP機関側の専門家が中心となり、職場での対応、現場のバックアップ、相談の受付、精神科医療機関への紹介、職場でのミーティングの支援等を順次行っていく。この際、対応する事業所や職場、従業員の範囲を決めるのを専門的に助言することもEAPによる大切なサービスである。

また、企業側の役割や担当を決めることにも協力してくれるはずであるし、報告会の開催や情報共有のための会議にも出席してもらうことができる。

読者がもしもEAPを活用する企業の側の窓口担当や責任者であれば、事業継続を確実にするために、危機管理の一環として危機におけるメンタルヘルス対策の準備を行い、実行できるようにしておくのが望ましいと思う。

そのためにここに説明したような問題を意識して、これを防止したり、影響を少なくするための対策を、今後EAP機関と相談してはいかがだろうか?

次回はEAPとの契約に関する注意点を紹介したい。

写真:亀田 高志さん

Profile

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師
1991年産業医科大学医学部卒業後、NKK(現JFEスチール)や日本アイ・ビー・エム(株)で計11年間、専属産業医の実務に従事。2005年に産業医科大学産業医実務研修センター講師となり、2006年10月に産業医科大学による(株)産業医大ソリューションズ設立に伴い現職。
職場の健康管理対策、特にメンタルヘルス対策を専門とし、現在は、企業に対するコンサルティングサービスと研修講師を手がけている。メンタルヘルス相談機関であるEAP(従業員支援プログラム)の活用やゆとり世代等の若手問題の防止やその育成にも詳しい。


管理職のeラーニング講座、お試しできます

無料トライアル受付中

禁無断転載
▲ ページの先頭に戻る

シリーズ記事

キーワード

ログイン

×

人事・労務に役立つ商品・サービス検索

  • カテゴリとジャンルから検索

検索

注目商品ランキング 新着商品