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企業がEAPを活用するコツ [2011.11.22]

第10回 不調者への対応における事業場内資源と事業場外資源3 ~EAPの活用における専門医療機関のネットワーク~

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師

EAPカウンセラーによる紹介は難しい

先に「リファーの機能」と呼んだEAPカウンセラーの機能として、相談者の状態をアセスメントした結果、精神科のクリニックや病院の専門医へ紹介して、診断や治療を受けてもらうものがある。

こういった専門医への紹介の機能は、日々のメンタルヘルス不調への対応の中や、一般定期健康診断で、産業医が紹介状を書いて、該当する従業員に専門機関を受診してもらうという手順と同じと考えてよい。

しかし、ここでEAPカウンセラーはしばしば、あるハードルにぶつかる。「医師が紹介状を受け取るのは、通常は医師からの場合に限られる」という医師側のルールである。つまり、EAPカウンセラーが紹介状を書いても、それをまともに受け取ってくれない医師もいるということなのだ。

これは医師の感覚的なものである。それ相応の書式を整えて、"よろしくご診断、ご治療ください"と言う趣旨の内容を書くだけで、当然ながら、医師同士の紹介状を拒絶することはない。ところが、EAPカウンセラーが同じようにしても、医師側に簡単には認めてもらえないのである。

そもそも、医療機関への紹介状を別の医療機関の医師に発行してもらう場合には、受診する側が数千円の費用を支払うのが通常だ。もちろん、産業医が事業場で紹介状に相当するものを書いてくれることもあり、それは無料と思う。しかし、紹介状を受け取る病院側にとっては、紹介状有無は保険点数、つまり売り上げに影響する仕組みでもある。このようなシステムの中で"EAPカウンセラーの紹介"というのは位置づけがあいまいなので、受け取りに難色を示す医師がいるのも分からなくはない。

しかし、このステップを超えられなければEAPサービスとしての不調者の対応が不完全で終わってしまうのだ。

もともと、メンタルヘルス不調者の多くは、自身の問題が精神科的なものだと考えにくいという特徴や傾向がある。うつ病の人が自ら落ち込みがひどいのでと言って精神科医のところに行ってくれればよいのだが、そうならないので、職場での対策や対応に期待が集まるのだ。

こういったメンタルヘルス不調者の思考の特徴から考えて、EAPカウンセラーが、精神科医の診察が必要と思った時に、"自分で適当な精神科を探して、受診してきてください"と言ったところで相談者がそれに素直に従うとは限らない。しかも、受診した結果は本人が自ら説明に来ない限り、EAPカウンセラーにはフィードバックもされないのである。

そのような状況では、管理職や人事労務担当者への助言としての「アドバイスの機能」が果たせない。何らかの一般的なコメントで終わることになってしまう。

したがって、EAPカウンセラーとして、あるいはサービスを受託するEAP機関としては、精神科の専門医療機関とのネットワークを作るのが必須だ。また、企業側としても、精神科の専門医療機関とのネットワークがあるのか確認する必要がある。「リファーの機能」が果たせないようなら、EAPサービスを利用する効果が半減してしまうからである。

EAP機関がどのような母体を持っているのか?

このような難しい課題を解消する方法を説明する前にEAP機関の種類や成り立ちに触れておきたい。

EAP業界では、そのEAPを開設したり、運営する人の職種によって、よく三つに分類されている。

【EAP機関の分類】

  •  心理系
    主に心理カウンセラーが設立・運営。電話によるカウンセリング、その中での不調者への対応、ラインケア研修を中心としたサービスを提供するもの
  •  医療系
    主に精神科医が中心となって、精神科クリニック等と併設のような形態で運営し、職場復帰支援やリワークサービスを通じて、疾病を持つ労働者への介入を行うもの(このような形態を"医療モデル"とも称することもある)
  •  人事系
    主に心理カウンセラーが設立・運営。電話によるカウンセリング、その中での不調者への対応、ラインケア研修を中心としたサービスを提供するもの

このうち、不調者への対応が得意なのは言うまでもなく、医療系と呼ばれるEAP機関になる。医療系のEAP機関と契約し、その医療機関やEAPに勤める精神科医がしっかりと対応してくれるなら、問題はない。しかし、全国的には、これは少数だという難点がある。

EAPサービスとして、最も活用の機会が多いのは心理系に属するEAP機関だが、これが、今回の話題であるEAPカウンセラーのいるタイプである。電話や対面での相談やカウンセリングだけではなく、不調者に対する一連の対応のために、専門医療機関とのネットワークを確立しようというのが、今回のテーマなのである。

人事系のEAPでは不調者への対応を直接は行わないケースが多い。人事労務担当者への不調者の取り扱いに関する法的な側面等の助言や、ライン研修などを提供する。

さて、EAPは以上のような分類がなされるが、すでに開業しているEAPの設立の経緯や経営母体には次のようなさまざまなものがある。それぞれ、上の三つの分類とその他に分類した。

【EAP機関の設立のされ方や経営母体の例】

  •  欧米で標準的なEAPを最初から目指したもの(心理系)
  •  企業の内部EAPがスピンオフしたもの(心理系)
  •  精神科系の病院、クリニックから派生したもの(医療系)
  •  職域健康診断機関が職場のメンタルヘルスサービスに特化して始めたもの(医療系)
  •  人事コンサルティングから派生したもの(人事系)
  •  アウトプレースメントのサービスの一つとして行われたもの(人事系)
  •  単なるカウンセリングサービスの延長で行われているもの(心理系)
  •  損害保険会社のサービスの一つとして始まったもの(その他)
  •  電話による健康相談から初めて枠を広げてきたもの(その他)

ちなみに、損害保険会社はグローバルに市場シェア確保にしのぎを削っているが、そこにいわばおまけとしてEAPサービスが付加されることがある。欧米のEAP業界では、こういったEAPサービスの質の悪さや業界への影響が危惧されている。しかし、損害保険会社の本来的な立場から、特に疾病による休業、休職をターゲットとする、リスク管理のためのEAPサービスを提案することは必ずしも不自然なことではないと考える。

また、一般的な健康に関する電話相談を主に健康保険組合に対して行っているところから、EAP的なストレスやメンタルヘルスに関する相談へと対象を広げてきたようなEAP機関もある。ちなみに、このタイプには出版社の事業から派生したタイプのものもある。

産業医との連携でネットワークを構築する

さて、EAP機関の設立のされ方や経営母体を予備知識として得られた後は、事業場の中における不調者への対応において、精神科クリニックや神経科病院とのネットワークをどのように確保するかということと、それをEAP機関にどのように要求するかについて、説明する。

まず、先の医療系の場合には経営母体の医療機関が地理的に不便でなく、不調者の診断や治療がスムーズに行われ、なおかつ、自社の産業医に対して適切な情報提供が行われるなら問題はない。

しかし、精神科医の技術が信頼できるものだったとしても、地理的にあまりにも遠く、受診させるのが常識的から考えて無理だと思えるような場合や、精神科医の対応枠が非常勤で限られるような場合には、代替案として、地理的に便利で、対応枠が十分にある精神科クリニックや病院との連携構築を要求するとよい。

次に心理系の場合には、契約の段階から精神科の専門医療機関への紹介をサービスとして要求し、自社に近い医療機関との連携を構築するように求めるとよい。非常勤であっても、自社に精神科医や専門産業医がいれば、その医師を介してネットワークを作っていくのは可能なはずである。

また、専門医療機関とのつながりが薄くても、EAPカウンセラーに専門医療機関と連携しようという熱意がある場合には、自社の産業医に協力してもらい、医師会等のつながりから、近隣の精神科クリニックや病院を紹介してもらうこともできる。ここで、医師同士の力を借りるのである。

次に、人事担当者がしておきたいのが、そのクリニックや病院を、EAPカウンセラーや機関の側の人と、一緒に訪問することである。自社の考え方やEAPサービスの概要を示すものを、会社のパンフレットと一緒に持ってゆき、あいさつに行くことで、つながりを持てる可能性がある。また、実際に訪問すれば、そのクリニックや病院が入りやすいところなのか、プライバシーが保てる環境か、受付の接遇はよいか、などといった点が確認できる。

ここでの目標は、EAPカウンセラーの紹介を受けてほしいこと、できればEAPカウンセラーからの情報提供も受けてほしいこと、診察の結果を診断書の形か、診療情報提供の形で産業医に戻してほしいということを伝え、了解してもらうことである。

それでも、産業医からの紹介状が必要だと言われたら、自社の産業医にEAPのカウンセラーから提供される情報に、紹介状を書き添えてもらうように、頼むこともできるだろう。

会社間の関係と同じで、きちんとした会社としての依頼であることや、一貫して礼儀正しく対応し、診てもらった従業員のその後の状態を報告するなどして、精神科医に信頼してもらう努力も必要である。

最近は精神科クリニックでも、精神科医がホームページで、自身の産業医経験や、働く人のメンタルヘルスについて啓発的な記事を載せていることがある。このようなクリニックとの関係ができると、アセスメント以降のスムーズな流れができて、EAPカウンセラーを事業場内に置くことの意義も出てくる。

このように、EAPの活用という機会を生かして、自社のための専門医療機関のネットワークづくりをされてはいかがだろうか。

次回は、EAP機関が企業に提案することの多いストレス調査について、課題と問題の防止について、紹介する。

写真:亀田 高志さん

Profile

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師
1991年産業医科大学医学部卒業後、NKK(現JFEスチール)や日本アイ・ビー・エム(株)で計11年間、専属産業医の実務に従事。2005年に産業医科大学産業医実務研修センター講師となり、2006年10月に産業医科大学による(株)産業医大ソリューションズ設立に伴い現職。
職場の健康管理対策、特にメンタルヘルス対策を専門とし、現在は、企業に対するコンサルティングサービスと研修講師を手がけている。メンタルヘルス相談機関であるEAP(従業員支援プログラム)の活用やゆとり世代等の若手問題の防止やその育成にも詳しい。


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