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企業がEAPを活用するコツ [2011.11.08]

第9回 不調者への対応における事業場内資源と事業場外資源2 ~EAP機関と事業場内資源との連携をどのように強化するか?~

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師

内部EAPと外部EAPという分類

前回はEAP機関やEAPカウンセラーと産業医や看護職の連携のあり方を中心に説明した。今回はもう少し具体的にその連携をどのように構築するかという点について、説明する。

そもそもEAPは、米国で“職場におけるアルコール依存症のためのプログラム”から派生したものだ。そして、サービスの対象をアルコール関連問題だけでなく、職場のメンタルヘルスや従業員の個人的な問題にまで広げて、今日に至っている。

その米国では、かねてより“内部”EAPと“外部”EAPという二つのあり方が知られている。内部EAPというのは、EAPカウンセラーが、契約にせよ、雇用された形にせよ、社内に在室して、対応する形態を指す。一方の、外部EAPとは、悩み事を抱えたり、患者である従業員(クライアントと称される)が、会社の外にあるEAP開設のカウンセリングルームを訪れたり、電話相談を糸口に「対面カウンセリング」と呼ばれる、社外の施設でのフェース・ツー・フェースの面接につなげる形態のことである。

一般に、従業員規模が大きい場合には内部EAPを選択した方がコストパフォーマンスに優れ、中小規模事業場の場合には外部EAPを選んだ方が実際的であるとされている。どちらにするかは、状況や事情に応じて、EAP機関と相談して決めてもよい。

コンビネーション・モデル

さて、国際的にみて、日本企業は独特の健康管理の文化を持っていることをご存じだろうか?

実は、日本のように健康診断を毎年会社が実施し、その内容を産業医や健診機関の医師が判定し、保健指導を受けたり、治療が必要な病気が見つかったら医療機関を紹介してもらう――というようなことが法的に定められている国は極めてまれである。

もちろん、米国でも健康増進活動を促進する企業は少ないながらあるのだが、機微な健康情報を取り扱う健康診断を法的に課すのは、欧米ではプライバシーに対する一般的な感覚からいって、不可能に近い。

しかし、日本では健康診断を会社で受けることは違和感のないものとなっており、さらに産業医制度があることも加わって、働く人にとっては、社内に医師がいることや、学校の保健室のように保健師や看護師がいることは、自然に受け入れられている。

メンタルヘルス対策が得意な企業では、このような産業医や看護職が、実質的に内部EAPとしての機能を発揮している場合もあると考えられるが、EAPの観点でみれば、実は内部EAPということになるのである。

日本におけるEAPの創世記は1990年代に入ってからであるが、その頃には、大手上場企業や外資系多国籍企業の内部EAPとしてのモデルが、専門家の間に紹介されていたのである。これを機会に内部EAPとして自社の産業医等の機能がどのような状態なのかについて、一度見直してみるとよい。

2000年前後には職場のメンタルヘルス問題に注目が集まる中、内部EAPと外部EAPの組み合わせを目指すのがよいのでないかとEAP機関やEAP専門家が議論していた。ちなみに米国では内部EAPと外部EAPの組み合わせでサービスを利用する形態は「コンビネーション・モデル」と呼ばれている。

例えば、国内の大手企業のケースで、本社に健康管理のプログラムを運営する産業医や看護職がいる場合に、これを内部EAPと位置づけ、支社や工場には外部EAPを導入するという事例も紹介されてきた。実は、今回の話題であるEAP機関と事業場内資源との連携とは、このコンビネーション・モデルを自身の会社や事業場に導入することとイメージしてみると考えやすいのである。

ちなみに厚生労働省は、職場のメンタルヘルス対策を推進する際には、民間であるEAP機関や公的機関や精神科の医療機関を「事業場外資源」と呼び、社内で働く、産業医等を「事業場内資源」と呼んで、両者の連携とかねてから強調してきた。

コンビネーション・モデルの導入は、事業場内資源である産業医等と事業場外資源に含まれるEAP機関との連携でもあるので、行政の考え方にも合致している。

連携の実現のためのステップ

さて、コンビネーション・モデルのイメージが分かったら、次にどのように行うかという段階に入る。

ここで、産業医と看護職が両方ともいるものと仮定して、メンタルヘルス不調者の対応に関して必要な機能ごとに、EAP機関と産業医等のどちらが、これを分担するかということを確認してみよう。

<不調者への対応における連携の例>

  1. 1)本人や関係者のスケジュール調整等=コーディネートの機能:看護職
  2. 2)本人の医学的評価=アセスメントの機能:EAPカウンセラー
  3. 3)産業医や精神科医への紹介=リファーの機能:EAPカウンセラー
  4. 4)管理職や人事労務担当者への助言=アドバイスの機能:EAPカウンセラーと産業医
  5. 5)管理職、人事労務担当者、家族、精神科医、産業医との連携の構築=ネットワークの維持機能:EAP機関と産業医
  6. 6)対応の一連の記録や情報の適切な管理=レコードの機能:EAPカウンセラーと看護職

今回は本人や関係者のスケジュール調整等としてコーディネートの機能を加えてみたが、以上のような分担を、人事担当者としてまずイメージしておくのである。

次に産業医と看護職の側にこれらの案を提示してみるのである。このステップを飛ばしてしまうと、専門家としての権限を侵される気分になってしまう場合がある。それを避けるために対話の機会を設けて、会社としての考え方を説明するとよい。

産業医と看護職がメンタルヘルスの専門家でなくとも、医療職としての基礎知識がある相手であるし、これらの内容と分担の案を示すことは、会社としての意向をスマートに伝えるのによい方法である。あらかじめ、会社側の考え方を産業医等に理解してもらうようにコミュニケーションをとっておけば、専門家なのに無視されたというようなネガティブな印象は持たずにすむ。そして、EAP機関やEAPカウンセラーに任せる機能について、産業医や看護職に共通認識を持ってもらうのである。

そしてこうした後に、産業医や看護職にEAP機関の選定にも参加してもらうのがよい。そうすると、契約前からEAP機関の選定、契約の打ち合わせ、あるいは契約後のサービスを評価する場面で、会社側の立場での発言したり、行動してもらうことが期待できる。

EAP機関は外部の機関なので、会社側に産業医や看護職が立っていても違和感はないし、むしろ、医療の専門家が会社側にいるということで、高い意識を持ってもらう効果があるかもしれない。

人事担当者としては、契約の締結時には必ず、定期的に報告書の提出と報告会を行うよう、EAPに求めたいところである。このEAPによる報告書の内容の精査や報告会への同席も、産業医や看護職の時間の許す限り対応してもらうようにするのがよい。人事担当者では気が付きにくいポイントを、会社側の立場になって指摘してくれる可能性が高い。

ゲートキーパーの役割

さて、EAP機関との契約作業が終わって、実際のサービスの提供が始まった場合も、産業医や看護職には、ゲートキーパーの役割を期待できる。看護職によるコーディネートの機能、産業医によるアドバイスの機能、看護職によるレコードの機能というのは、会社側にとってEAP機関のサービス内容をモニタリングするのに有効なチェックポイントとなり得るのである。

例えば、EAP機関が極めて少数のクライアント(=従業員である相談者)だけにかかりきりになったり、本来は精神科医療機関に紹介すべきクライアントを抱え込んだりという好ましくない状態がないか、産業医等に監視してもらうことができるのだ。

このゲートキーパーの役割は、産業医等がいない、協力してくれないケースでは、人事担当者が自ら行わなくてはならない。しかし、医療の専門家ではない人事担当者には判断に迷うところもあり、知識がなく、よくわからないところでもある。この点を任せることができれば心強いはずだ。

EAP機関の側にとっても、会社側の事情を知る医療職が、サービス内容の選択や判断をタイムリーに行ってくれるのは、顧客企業の事情や状況を理解するのに効果的なことだ。もしこのような産業医等の関与を嫌がるEAP機関なら活用を止めた方がよい。

以上のような考え方を理解し、紹介した工夫を実践して、ぜひ、自社の産業医等の機能も生かしながら、メンタルヘルス不調者への対応に、EAP機関やEAPカウンセラーを効果的に活用していただきたい。

次回は不調者への対応に欠かせない、専門医療機関のネットワークを構築とEAP機関の連携について説明する。

写真:亀田 高志さん

Profile

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師
1991年産業医科大学医学部卒業後、NKK(現JFEスチール)や日本アイ・ビー・エム(株)で計11年間、専属産業医の実務に従事。2005年に産業医科大学産業医実務研修センター講師となり、2006年10月に産業医科大学による(株)産業医大ソリューションズ設立に伴い現職。
職場の健康管理対策、特にメンタルヘルス対策を専門とし、現在は、企業に対するコンサルティングサービスと研修講師を手がけている。メンタルヘルス相談機関であるEAP(従業員支援プログラム)の活用やゆとり世代等の若手問題の防止やその育成にも詳しい。


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