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企業がEAPを活用するコツ [2011.10.25]

第8回 不調者への対応における事業場内資源と事業場外資源1 ~EAPと産業医等との連携の難しさと役割分担のあり方~

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師

EAPと産業医の連携の難しさ

EAPを導入しようとする人事労務担当者が直面する問題の一つに産業医側のネガティブな反応がある。例えば、人事労務担当者が産業医に「今回、**社というメンタルヘルス相談機関と契約して・・・」と説明しかけると、「なんで、難しい精神科的な病気を扱うのに、医師でもない奴らと契約するのか!そもそも私がいるではないか!」と文句を言われてしまう。精神医療面で、力量の不確かなEAPは信用できないというのは、医師の視点では当然なのかもしれない。そのような反応を予想して、産業医には告げずにEAPとの契約を進めようとしていると、途中で知った産業医が激怒して、猛反対されてしまったという笑えない話もある。EAPと連携して、不調者の対応の大部分を任せられたほうがストレスがなくてよいというくらい、好意的な反応を示してくれる医師は未だに少数派のように思う。

また、中規模以上の事業場には保健師や看護師のいるところもある。コストが医師より安いこともあって、出勤する日数は医師より多い。これらの看護職では、EAPの導入への反応として、前向きなものと後ろ向きなものの二通りが考えられる。前向きな場合の多くは、メンタルヘルスや精神科関係が専門でないので、むしろ便利だと謙虚にとらえるケースが多い。後ろ向きな場合には、自分の専門家としての領分を侵されるような印象を看護職に与えていることが原因となっているように思う。

一方、EAPカウンセラーも精神科医や産業医、場合によって看護職から、何度も手ひどく拒絶された経験があって、産業医等とのかかわりを本音のところで嫌がる傾向も否めない。言うまでもなく、医療における医師免許は絶対的な国家資格だ。保健師や看護師も国家資格である。しかし、精神保健福祉士を除いて、カウンセラー資格は国家資格ではない。だから、資格の面では弱いところがある。

国際EAP協会が公認する認定EAプロフェッショナルという資格がある。しかし、国内で取得者はまだ50名足らずであり、企業だけでなく、医療の世界でも、その認知度は残念ながら、高くない。そのため、医師等に積極的に連携を求めることには腰が引けてしまうのである。

EAPにせよ、産業医にせよ、企業が契約しているのだから、窓口である人事部門を通して、人材の面で、企業の全体最適のために貢献してほしいのだが、このような状況から、EAPと産業医等が犬猿の仲となってしまって、連携がうまくいかないことは実際に多いのである。

しかしながら、前回までに説明したように、EAPサービスの目的は、人事労務担当者を含む管理職からの相談を受け付け、最終的には従業員の職場での問題を解消することである。その結果、不調と診断され、休業や休職に至る場合も出てくるのだが、不調者によって起きる職場の問題としての事例性の解消を目指すには、不調者への一貫した対応が必要になる。そのために、EAPと産業医、看護職との協力関係はどうしてもほしいところである。

就業規則や社内規程のような、メンタルヘルス不調者への対応ルールのことを、厚生労働省は「職場復帰支援プログラム」と呼び、企業での構築を推奨している。その中で、産業医等の専門家と、人事労務担当者や衛生管理者といった会社側の担当者との連携を強調している。さらに、厚生労働省は産業医等の専門家を事業場内資源、EAP機関や医療機関、その他公的機関を事業場外資源と称している。つまり、両者の連携は過去から、行政等による委員会でも課題として取り上げられており、企業の側で双方を連携させて活用するのがよいという結論に変わりはない。

不調者の対応における産業医等の役割とEAPの機能

そして、EAPの導入を嫌がったからといって、産業医がメンタルヘルス対策、特に不調者への対応を一手に引き受けることができるのかというと、多くの場合にはそうではない。

例えば300人くらいの事業場の場合、選任された産業医が職場巡視や衛生委員会、あるいは健康診断の事後措置のために来訪するのは月1回2~3時間程度というのはよい方だ。 従業員が300人程度であれば、3人以上はメンタルヘルス不調で休職中、さらにそれを上回る人数が職場復帰後だったり、事例性が目立つことで、何らかの対応が必要、というのが平均的な状況である。とすると、どうしても毎月、産業医による数人の不調者との面談対応は必要になるのだが、2~3時間では対応しきれない。

加えて、多くの産業医は精神科が専門ではないので、不調者への対応を率先してやってくれる医師は少ない。それというのも、医師の間では古くから精神科を、英語の綴りから「プシコ」と呼んで、そうした患者さんは、精神科医にまず紹介!というのが常識的な対応とされている。専門の細分化が進んだ医師の感覚ではそれが自然なのである。

このように医師の専門の細分化が進んでいる一方で、日本の健康管理を包括的に担ってきた専門家も医師である。

昭和47年の労働安全衛生法の施行から、産業医という名称が用いられるようになった。労働安全衛生規則には産業医の職務として、事業者としての総括安全衛生管理者への勧告や衛生管理者への指導や助言が定められている。つまり、産業医には、メンタルヘルス不調者の取り扱いに関する意見を会社側に出すという役割があるのだ。

また、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、事業場内産業保健スタッフとして産業医は、医学的専門知識を必要とする対応の中で就業上の配慮が必要な場合には、事業者に必要な意見を述べるとされている。

同様に「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、産業医は管理監督者および人事労務担当者の果たす機能を専門的な立場から支援し、必要な助言および指導を行うこととされている。特に最終的な職場復帰の決定の段階では産業医は就業上の配慮等に関する意見書の作成を行うことが記載されている。

このような産業医の役割を踏まえた上で、前回に掲げた人事労務担当者を含む管理職層からの相談に対し、EAP機関に果たしてもらうべき機能を振り返ると、以下の5項目であった。

  1. (1) 管理職や人事労務担当者への助言=アドバイスの機能
  2. (2) 本人の医学的評価(精神科医ではないので診断とまではならないが)=アセスメントの機能
  3. (3) 産業医や精神科医への紹介=リファーの機能
  4. (4) 管理職、人事労務担当者、家族、精神科医、産業医による連携の構築=ネットワークの維持機能
  5. (5) 対応の一連の記録や情報の適切な管理=レコードの機能

このうち、産業医が最低限、法律的にも求められているのは、アドバイスの機能だと分かる。意見を出すことは即ち、助言、つまりアドバイスだからだ。

したがって、それ以外のところは腕がよければ、EAPカウンセラーが対応できるはずである。加えて、アドバイスの内容をEAPカウンセラーが産業医に説明して確認してもらい、そのまま産業医としての意見書を出してもらってもよいのである。

そうすると、精神科が専門でない産業医としては、得意とは思われない不調者への対応の大半を、EAPカウンセラーに任せることができる。また、資格の面で十分でないところのあるEAPカウンセラーとしては医師である産業医のお墨付きをもらうことは安心にもつながる。これは両者にとってよいことなのだ。

また、すでに出務している保健師や看護師には、五つの機能を満たすための、予約やスケジュールを含む調整、言い換えればコーディネーションを依頼できるだろう。保健師や看護師の強みは、病院と同じように従業員にとって身近な存在だという点だ。EAPカウンセラーが事業場に定着し、広く管理職層に顔を知られるようになるまでは、そうした看護職の助けがあったほうがよい。看護職の関与が人事労務担当者の情報収集に役立つ面もある。

専門家を活用する人事労務担当者の立場では、このような連携があるのとないのとでは、対応できるキャパシティや効率性からいって、天と地ほどの差が出てくる。安くはない費用をかけるのだから、事業場外資源としてのEAPカウンセラーと、事業場内資源である産業医や看護職との連携を作ることを目指すべきなのである。

次回は、人事労務担当者の立場で見た、EAP機関と事業場内資源との連携の構築の仕方や工夫を説明したいと思う。

写真:亀田 高志さん

Profile

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師
1991年産業医科大学医学部卒業後、NKK(現JFEスチール)や日本アイ・ビー・エム(株)で計11年間、専属産業医の実務に従事。2005年に産業医科大学産業医実務研修センター講師となり、2006年10月に産業医科大学による(株)産業医大ソリューションズ設立に伴い現職。
職場の健康管理対策、特にメンタルヘルス対策を専門とし、現在は、企業に対するコンサルティングサービスと研修講師を手がけている。メンタルヘルス相談機関であるEAP(従業員支援プログラム)の活用やゆとり世代等の若手問題の防止やその育成にも詳しい。


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