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企業がEAPを活用するコツ [2011.10.12]

第7回 管理職への啓発活動 ~EAP(カウンセラー)による効果的な研修~

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師

なぜ、管理職への啓発が必要なのか?

前回まで、本場米国ではコアなサービスでありながら、日本では一般化していないEAPの活用法として、人事労務担当者や管理職からの相談を受け付けるサービスを詳しく説明した。

その機能を発揮できる良いEAPカウンセラーやEAP機関を見つけ、契約にこぎつけた後に大切なことは、人事労務担当者や管理職が、従業員や部下の事例性を看過せず、すぐにEAPカウンセラーに相談するというアクションを取ることである。

従業員や部下は多くの場合、自ら精神科医等の専門家のところへ自主的に相談に行くことは少ないと言ってよい。通常は家族や職場の誰かの働き掛けがあって、改善の努力や専門的な診断や治療に結び付くのである。特に日本では厚生労働省による「ラインによるケア」という言葉があるくらい、管理職層による働き掛けが期待されている。

ところが、当然、多くの管理職は自身の業務遂行に忙しい。私は、管理職層には、もともと頑強で、活力が高い人が多いと感じているが、それ故なのか、勤怠や業務遂行の問題、コミュニケーションや身だしなみといった、不調者の引き起こす、いわゆる事例性を意識していない人も多い。さらに、実際に部下にメンタルヘルス不調者がいた経験がないと、それが自身の問題であると認識しづらいものなのである。

日本は先進国の中で、異例とも言ってよいほど、行政と司法が職場におけるメンタルヘルス不調者の管理責任を、企業側や管理職層に強く課している印象がある。その結果、自殺のみならず、精神障害が労災補償の対象となり、関連して年間1000件を超す労災申請が出されるほどになった。また、働き過ぎによってうつ病になり自殺に及ぶ「過労自殺」やハラスメントによる「自殺」のようなケースで、損害賠償が裁判で争われる事例がメディアでしばしば取り上げられるようにもなっている。

従業員や部下がメンタルヘルス不調になると、彼らは企業にとって、人件費を払っているが、それに見合う働きのできない状態となる。欠員の補充も容易ではない現代では、それは労働損失に直結する。その損失を管理職自らが背負い、あるいは他の部下に負わせ、その結果、職場としての生産性を下げてしまうケースも少なくない。

以上のようなリスクや生産性への影響について、管理職に対して社内で系統的な研修を行い、啓発する必要がある。そうしなければ、せっかくEAPカウンセラーへの管理職向けの相談窓口を開設したと宣伝しても、意識の高い少数の管理職しか相談に来ない結果に終わってしまうからだ。

人事労務担当者を含めた管理職層がその立場上悩む問題、特に、従業員や部下の事例性についてEAP(カウンセラー)への相談を通して解消できるように、正しい知識と部下への対応スキルを持ってもらうことが重要なのである。

ふさわしい講師とは?

では、研修を行うこととして、次に考えるのは誰に講師を頼むのかということである。もちろん、管理職等への相談サービスを発注しているEAP機関に、講師を依頼してもよい。その場合、企業内の相談室に配置されている、あるいは、相談の電話を受ける担当であるEAPカウンセラーが研修を実施するのがベストである。

ここで、講師が満たしておくべき最低条件は、第6回でご説明した以下五つの機能を果たせるかどうかである。

  1. (1) 管理職や人事労務担当者への助言=アドバイスの機能
  2. (2) 本人の医学的評価(精神科医ではないので診断とまではならないが)=アセスメントの機能
  3. (3) 産業医や精神科医への紹介=リファーの機能
  4. (4) 管理職、人事労務担当者、家族、精神科医、産業医による連携の構築=ネットワークの維持機能
  5. (5) 対応の一連の記録や情報の適切な管理=レコードの機能

その講師となる専門家はアセスメントの機能やリファーの機能を含み、不調者の対応を自分で手掛けた経験がなければならない。医師や看護職、あるいはカウンセラー資格を持ち、不調者を相手に医療機関や企業等で対応した経験があることが最低条件になるだろう。そうでなければ、本物の不調者がどのようなものか理解できておらず、管理職への説明も具体的にならないからである。

その上で、企業組織や人事労務関係の基本的な知識が必要だ。なぜなら、研修の内容は医学的な内容に触れつつ、企業の管理職層の視点、つまりマネジメント的な側面からの説明を行わなくてはならないからだ。病院での経験がいかに豊富でも、この点が不足していると、研修に参加してくれた管理職層の共感を得ることができず、研修を行うことがかえって逆効果になってしまう。

また、人前で話をすることは慣れや訓練の成果もあるが、向き不向きもあるので、EAPカウンセラーによる研修の過去の受講者評価をEAP機関に尋ねて、その評判を確認してもよいだろう。

管理職研修で触れるべき点

EAPカウンセラーによるサービスの紹介を含む管理職層等への研修を米国ではオリエンテーションと呼んだり、利用促進のための説明をプロモーションと称したりする。これらはEAP機関が、顧客企業とその中で働く管理職層や従業員に対して行う最低限のサービスである。誠実なEAP機関なら、きちんと行ってくれるはずである。費用に見合うだけのパフォーマンスを顧客窓口として要求するのが大切だ。

従って、EAP機関に丸投げせず、案を出してもらって、要望を伝え、自社に合った研修をカスタマイズしてもらうのがよい。

さて、実際に研修で説明する内容だが、少なくとも次のような点に触れてもらう必要がある。

  1. 1)従業員(部下)のメンタルヘルス不調に関わるリスク
  2. 2)従業員(部下)のメンタルヘルス不調に関わる損失
  3. 3)様々なメンタルヘルス不調の特徴(特に事例性の側面)
  4. 4)(日本で特徴的な)ラインによるケアの考え方(厚生労働省の求める職場復帰支援プログラムや同プラン)
  5. 5)従業員(部下)の問題に気が付いたときの具体的な対応法

特に最後の対応法が重要であるが、その際にケーススタディやロールプレイを行って、受講した管理職層に、実際の職場での対応のシミュレーションを経験してもらうのがよい。

よく知られた事実だが、講義形式での情報提供だけでは、知識は時間が経つにつれて激減していく。問題のある部下に管理職としてどのように説明して、EAPカウンセラーのところに相談に行ってもらうか、というロールプレイの経験は、その後の部下への対応にとても有効である。

また、研修の冒頭には、窓口となる人事部門として、EAPカウンセラーによる管理職層への相談窓口の開設の背景や趣旨を説明したり、具体的な予約の取り方を紹介することが望ましい。

なお、傾聴や自律訓練のような話題に偏った内容を提案されることがあるかもしれない。その効果は否定しないが、それは、限られた時間で行う研修の最優先事項ではない。あくまでも研修は従業員(部下)の職場での問題、事例性の解消にあることを念頭に、EAP機関やカウンセラーとのやり取りを通して、効果的な内容にまとめ上げていくのがよい。

すでに、部下に不調者のいる管理職の参加も考えられるため、研修の終了時には、問題があると研修を通じて気が付いたり、不調と分かっている部下の対応に悩む管理職からの質問や相談をその場で受け付けるようにすると、効率的である。

研修の効果は受講した管理職へのアンケートでもある程度推定できるが、その後のEAPカウンセラーによる相談の対応件数の推移や問題が明らかとなった不調者の数や経過によって、さらに明確になる。

さて、次回はEAP機関やEAPカウンセラーと産業医や看護職の連携に焦点を当てて、起こり得る問題と予防法や対処法あるいは、効果的な両者の活用方法について説明する。

写真:亀田 高志さん

Profile

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師
1991年産業医科大学医学部卒業後、NKK(現JFEスチール)や日本アイ・ビー・エム(株)で計11年間、専属産業医の実務に従事。2005年に産業医科大学産業医実務研修センター講師となり、2006年10月に産業医科大学による(株)産業医大ソリューションズ設立に伴い現職。
職場の健康管理対策、特にメンタルヘルス対策を専門とし、現在は、企業に対するコンサルティングサービスと研修講師を手がけている。メンタルヘルス相談機関であるEAP(従業員支援プログラム)の活用やゆとり世代等の若手問題の防止やその育成にも詳しい。


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