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企業がEAPを活用するコツ [2011.07.19]

第1回 EAPとは何なのか ~誤解されてきたEAPの役割と効果~

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師

はじめに

本連載でテーマとする「EAP」は、Employee Assistance Programの略で従業員支援プログラムと訳される。日本におけるEAPはメンタルヘルスにかかわる相談を受け付ける業者としてとらえられている。企業で人事労務や健康管理関係を担当している場合や健康保険組合で働いている方は多少でもご存知なのではないだろうか。

メンタルヘルス対策の重要性が企業、特に人事部門に認識されるようになって久しい。今後、継続して対策を行うことが必要な職場のメンタルヘルス問題への対応で、EAPは厚生労働省の言うところの事業場外資源として、対策を推進する役割が期待されている。一方で、現実にはいくつかも課題があり、EAPの中には評判が芳しくないケースもあるのも事実である。

そこでEAPを上手に活用するポイントや課題、企業側からの対応方法を10回シリーズで紹介していく。本連載では、一貫して、企業・人事の目線を意識しながら、具体性のある情報を提供していく。

読者の方々の企業等での対策の推進やそれによって効果を上げることに多少でもお役に立てば幸いである。

EAPへの期待

1998年以降、それまでは2万人台だった自殺者数が3万人を超え、精神科に受診する患者数の増加、関連する医療費の増大もあって、職場のメンタルヘルスは社会問題化している。

現実は厳しく、メンタルヘルス不調になると、最終的に退職に追い込まれる場合が多い。働き過ぎ、つまり過重労働による場合には労災申請の対象となり、果ては訴訟にまで発展することもある。そのため、人事部門としては、職場のメンタルヘルスは単純に健康の問題としてではなく、人材リスクや損失、雇用問題としてのとらえ方が主ではないだろうか。企業に対する行政や第三者機関によるアンケートでもメンタルヘルス不調者の増加や休職者数の多さが明らかにされている。

一方で対策が進まない状況も厚生労働省等の調査で明らかにされている。その理由には医師等の資格があり、かつ職場のメンタルヘルスに詳しい専門家の絶対数が少ないことが挙げられる。厚生労働省が通称、メンタルヘルス指針等のガイドラインで示した内容は、人事部門が専門家の関与がないまま構築できるほど簡単ではない。だから、どうすればよいのかわからないといった状況にもあるのだ。

企業が専門家としてまず頼りたいのが50人以上の事業場で選任をすることが義務付けられる医師、つまり産業医である。しかし、産業医の専門が、精神科、順じるものとして心療内科である場合はまれである。医師は専門の科の仕事をするのが常なので、それ以外の専門科の場合には拒否反応があるのが普通だ。特にメンタルヘルス不調の場合には医師には精神科的な対応と解釈され、その傾向が強い。

産業医の主な資格は、一定の講習や実習を経た後に日本医師会により認定されるものである。講習等にはメンタルヘルスに関する内容が一部含まれているが、医師としての専門性を代替できるほどではない。専門的に産業医を行っている医師なら、相応の対応も期待できるのだが、そういった医師もいまだにレアな存在だ。

運よく、メンタルヘルスに関する対応に慣れた産業医を確保できても、健康診断の事後措置、職場巡視、衛生委員会への出席、過重労働と呼ばれる時間外労働時間の長い従業員への面接が、法律上の要求としてあるため、不調者への対応の時間をとることも難しい。

それに準じる専門家として、保健師や看護職などのいわゆる産業看護職がメンタルヘルス対策を推進してくれることがある。そのほか、臨床心理士等の専門家も対応できるケースがあるが、いずれも、産業医同様にこのような人材を見つけるのは難しい。ちなみにこれらは事業場内資源と呼ばれている。

事業場外資源であるEAPは多少、問題があるとされていても、本来、メンタルヘルス不調者への対応における専門家として活用を考えてもよい、選択肢のひとつである。それが、たとえ消去法で選択した結果だったとしてもよいのである。

定着しているEAPのイメージ

EAPと言えば、電話相談というのが定番である。悩みを抱えたり、不調を感じる従業員が、上司や同僚に知られずにそっと電話し、アドバイスを受ける。あるいは、カウンセリングを受けて、立ち直っていく。つまり、効果的な相談窓口を設定するもの、というようなイメージである。厚生労働省的な表現をすれば、メンタルヘルス相談機関というような言い方の機関に含まれるだろう。

従来は、この電話相談は、むしろ健康保険組合による福利厚生事業としての取り扱いも多かった。この場合には対象が被保険者だけでなく、被扶養者も含まれる。福利厚生事業に関しては近年の健康保険組合の財政の悪化の影響で、次第に健康保険組合による契約は減少傾向のようである。

企業、特に人事部門が窓口となり、この電話相談を導入している場合にも、次第に契約が削減されるようになっている。その理由はコスト削減圧力も当然あるが、相談窓口を設置したのに、効果が見えないという場合が多い。つまり、"相談すれば解決する"という期待があって、相談窓口を設置しても、実際には、解決していないということである。あるいは、解決しているのかどうか、わからないということが明らかになってきたのである。

本来のEAPの機能

企業人事としてEAPに費用をかける場合には当然、効果を期待するはずだ。ところが、その効果というのが、もともとあいまいだから、相談窓口を設置するという提案を鵜呑みにしてしまうのである。

悩みごとがあろうが、もっと言えば、病気をもっていようが、従業員が求められる仕事をこなすことが出来ていれば問題ないのである。ところが、ひどく悩んでいたり、強い不安にとらわれたりすると、パフォーマンスは低下する。あるいは、メンタルヘルス不調になると、多くの場合に脳の機能低下を伴うから、業務上のアウトプットは下がる。

このパフォーマンスの低下に伴う問題を解消するのが、EAPの本来の機能なのである。では、この本来の機能のように、先の電話相談が効果を上げないのはなぜなのかという疑問が出てくるかもしれない。その理由は、電話を介しての指導やカウンセリングで問題はほとんど解消しないからである。

EAPの本場はアメリカだが、アメリカで良質なサービスを提供しているEAPは、電話はあくまでもファーストコンタクトを受けるだけだと考えられている。電話をかけてくるクライアントの問題を聴取し(インテイク)、評価し(アセスメント)、専門機関に紹介する(リファー)。その各々の質を管理する仕組みがEAPの機能なのだ。これらを精度高く実施できれば、従業員のパフォーマンスの問題は解消していくことができる。日本でもそのようなEAPの活用は不可能ではない。

アメリカではEAPに対して一定の定義が与えられている。しかし、日本ではその歴史がまだ浅いことや、労働安全衛生法令の特殊性、あるいはEAPで働くスタッフの専門性から、その定義はあいまいなままである。

次回以降で、理想的なEAPの活用を実現していくための、ポイントや課題、それに対する対応を、テーマごとに説明していく。

写真:亀田 高志さん

Profile

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師
1991年産業医科大学医学部卒業後、NKK(現JFEスチール)や日本アイ・ビー・エム(株)で計11年間、専属産業医の実務に従事。2005年に産業医科大学産業医実務研修センター講師となり、2006年10月に産業医科大学による(株)産業医大ソリューションズ設立に伴い現職。
職場の健康管理対策、特にメンタルヘルス対策を専門とし、現在は、企業に対するコンサルティングサービスと研修講師を手がけている。メンタルヘルス相談機関であるEAP(従業員支援プログラム)の活用やゆとり世代等の若手問題の防止やその育成にも詳しい。


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