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マネジメントの視点からみた ワーク・ライフ・バランス時代の長時間労働削減とは [2011.10.17]

第12回・最終回 帰りづらい空気を職場から追い出し、正々堂々と早く帰ろう-重要なのは、上司は部下の自律を促し自立化を支援すること-

広田 薫 ひろたかおる

日本能率協会総合研究所 組織・人材戦略研究部 主幹研究員

さて、本連載もいよいよ今回で最終回を迎えることになった。これまでは、残業発生の要因とその対策について、仕事の仕方やさせ方の見直しというマネジメントの視点から検討してきたが、帰りづらい空気が職場に蔓延していると、いくら1人で仕事を効率化したり、働き方のムダを省いて早く帰る環境を整えたりしても、なかなか早く帰ることができない。帰りづらい職場風土はなぜ発生するのか、また、こうした職場風土を変えるにはどうすればよいのかを明らかにすることで、本連載を終えることにしたい。

1.フレックスタイム制と裁量労働制-早く帰れるのはどっち?

先日、あるメーカーの人事担当の方から相談を受けた。この会社では、研究部門に対してフレックスタイム制と裁量労働制を導入しているが、同じような研究開発の仕事をしているにもかかわらず、裁量労働制を適用されている社員のほうが、在社時間が20%程度長いのだそうだ。

「社員の健康のことを考え、長時間労働をやめさせるためには、いっそのこと裁量労働制をやめて研究部門全体をフレックスタイム制に統一したほうがよいのでしょうか。そもそも同じような仕事をしているのに、労働時間制度だけでこんなにも社員の在社時間1が変わるものなのでしょうか。」

この相談に答える前に、フレックスタイム制と裁量労働制の特徴、違いを簡単に整理しておこう。

フレックスタイム制(労働基準法32条の3)とは、1カ月以内の一定期間(清算期間)の総労働時間を定めておき、労働者がその範囲内で、各日の始業および終業の時刻を選択して働く制度である。

一方、裁量労働制とは、研究開発などの専門業務(労働基準法38条の3)や企画・立案業務(労働基準法38条の4)など、その業務の性質上特に業務遂行の方法や時間の配分などに関し、使用者が具体的な指示をしないことを労使協定や労使委員会の決議等で定めた場合、当該協定や決議などで定める時間を労働したとみなす制度である。

要は、フレックスタイム制にしても裁量労働制にしても、始業・終業時刻2の決定や労働時間の配分を従業員に委ねるという点では大きく変わるところはない。では一番の違いは何か。それは残業時間の算定方法である。フレックスタイム制の場合は、1カ月の総労働時間(例えば、1カ月の所定労働日数×標準となる1日労働時間)を決めておき、その時間を越えた部分が残業時間となるので、実質働いた時間がそのまま残業手当の対象となる。

これに対して裁量労働制は、あらかじめ労使協定で定めたみなし時間により残業時間が決定される3ので、実際に働いた時間と残業手当の金額とは関係がない。ただし、これが裁量労働制のほうが在社時間が長くなるという理由にはならない。

なぜなら、1日5時間働いても、12時間働いても残業時間はあらかじめ定められた時間しか残業手当がつかない、ないしは全くつかないのであれば、早く帰ろうというインセンティブが働くからだ。

逆にフレックスタイム制の場合であれば、「生活残業」4が可能になるので、在社時間(残業時間)が長くなることも考えられる。どうもフレックスタイムとか裁量労働とかいった労働時間制度そのものの問題ではなさそうだ。

1裁量労働制の場合、勤務時間帯は固定されず出勤・退社の時間は自由に決められ、実働時間の管理もされないが、安全配慮義務として在社時間の記録および管理が義務づけられている。

2フレックスタイム制の場合、必ず勤務しなければならない時間帯(コアタイム)を設けることができる。

3みなし労働時間が法定労働時間(8時間)を超える場合には、労使で36協定の締結が必要であり、超過分の時間外労働に対する手当が支給されることになる。

4「生活残業」については、第5回連載「残業削減に向けた傾向と対策(1)-一見してムダだと分かる残業1『生活残業』『罰ゲーム残業』『付き合い残業』-」を参照のこと。

図:フレックスタイム制と裁量労働制の違い

それではなぜ、この会社の場合、裁量労働制の下で働く従業員のほうがフレックスタイム制で働く従業員よりも在社時間が長いのであろうか。それは、一言で言えば、仕事を効率よく行い、結果として早く帰るという風土が職場に根付いていないからである。

フレックスタイム制の場合であれば、働いた分だけ残業手当を支払わなければならないので、上司も部下の仕事ぶりにムダがないか、ダラダラしていないかといったチェック機能が働く。しかしながら裁量労働制の場合は、この残業代の支払いというチェック機能が働かない。裁量労働制が労働時間の配分を従業員に委ねるという会社と従業員との信頼関係上に成り立っていることが理解されていないと、「会社に長くいても、遅くまで残っていても、別に残業代がもらえるわけでもないし、会社のコストになるわけではないので良いではないか。のんびりダラダラ仕事をしていても、最終的にやることやればいいのでしょ。」という部下の開き直りと緊張感のなさ、それを放置する上司の無責任体制を産んでしまうことになりかねない5

そして、いったんこうした空気が職場に蔓延してしまうと、遅くまで会社に残って働くのが当たり前になってしまい、仕事をテキパキとこなして早く帰りたい人、また、育児や介護、本人の通院といった早く帰らなければならない事情を抱えた人まで帰りづらくなってしまうのである。

5だからといって裁量労働制が必ずしも長時間労働を生むものではない。裁量労働制の導入に当たっては、労働時間の配分を委ねることができる自己管理力のある者、具体的には本人の自己裁量と自己責任によって仕事の進め方や勤務時間の計画を立てられる者を対象にすることが鍵となる。

2.重要なのは、上司は部下の自律を促し自立化を支援すること

こうした帰りづらい職場風土を打ち破っていくにはどうすればよいのか。そのためのキーワードは「自律」と「自立」である。これまで連載の中で繰り返し述べてきたように、従業員一人ひとりが自己を律することでムダな働き方をやめ、管理職は日々のマネジメントの中で、ムダな働き方をなくしていく方法をマネジメントしていくことで部下一人ひとりの自立化を支援するのである。

そのために行わなければならないのは、簡単なことである。一人ひとりが終業時刻までには仕事を終わらせようという意識を高め、残業するのが当たり前、長時間会社にいるのが当たり前という意識を職場ぐるみで、会社全体として払拭させることである。

成果というアウトプットが変わらないのに、労働時間というインプットが増えることは、まさしく生産性がダウンすることであり、こうした働き方を恥じる風土を職場や社内に浸透させなければならない。

そのために、上司は仕事を進めるということは、目標に向かって何をすべきか逆算してロードマップを描き、そのとおりに段取りよく進めていくことを、部下に理解させるのである。これが上司の部下に対する自立化の支援である。

なお、その際、注意しなければならないのは、上司のアドバイスや指示が、そのまま具体的な対策、解決策になってはいけないということである。具体的な解決策を考えるのは上司ではなく、部下の仕事である。上司は、部下が解決策を導くためのヒントを与えるのである。プロスポーツの選手とコーチとの関係を思い返してほしい。選手が自己流で間違った練習を何時間続けてもうまくならないどころか、かえってけがをしてしまうこともある。そうではなく、コーチは選手に「君の場合、こういう練習をすればうまくなる」という上達のヒント、近道を教えるのである。コーチは上司、選手は部下、まさしく、ビジネスの場でも当てはまる。

3.おわりに

この夏、多くの企業で導入されたサマータイムや輪番休日は、確かに電力使用制限令による異例の事態といえるだろう。しかしながら、残業の削減や業務の効率化が大きな課題となっている昨今、こうした勤務形態を成功させるためには、単位時間生産性の向上という、わが国のビジネスパーソンにとっての永遠の課題を克服していかなければならない。
逆に言えば、一人ひとりが自律・自立し、上司は部下の自立を支援することで、日本人の働き方そのものを見直す契機にできれば、電力不足というこの難局を乗り越えることはもちろん、わが国のビジネスパーソンの生産性は見違えるほどに上昇するのではあるまいか。そうなることを期待して、本連載を終えたいと思う。

12回という長期の連載になりましたが、読者のみなさま、ご高覧ありがとうございました。

写真:広田 薫さん

Profile

広田 薫 ひろたかおる

日本能率協会総合研究所 組織・人材戦略研究部 主幹研究員
1962年神奈川県横須賀市生まれ。1985年中央大学法学部卒業。2003年法政大学大学院政策科学専攻修士課程修了(政策科学修士)。
厚生労働省などから労働時間管理に関するプロジェクトを20年以上にわたって多数受託・研究。民間企業に対する残業削減、ワーク・ライフ・バランス推進といったテーマの研修・コンサルティング・ソリューション提案などにも豊富な実績を持つ。
主な著書:『経営環境の変化に応じた労働時間管理の進め方(厚生労働省「労働時間制度改善セミナー」テキスト)』(全国労働基準関係団体連合会)、『義務化!65歳までの雇用延長制度導入と実務』(2004年7月発行:日本法令)。なお、本テーマでは『労政時報』第3735号(08.10.10)に『マネジメントの視点から見た残業削減の進め方-生産性向上とワーク・ライフ・バランス実現に向けた長時間労働削減の視点と対応策』を執筆。


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