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マネジメントの視点からみた ワーク・ライフ・バランス時代の長時間労働削減とは [2011.05.09]

第1回 ワーク・ライフ・バランスとはライフステージに応じた労働時間の多様性を担保すること

広田 薫 ひろたかおる

日本能率協会総合研究所 組織・人材戦略研究部 主幹研究員

ワーク・ライフ・バランスのブームが続いている。書店をのぞけばワーク・ライフ・バランスと銘打った棚があったり、関連する多くの本が平積みされていたりする。私がはじめてワーク・ライフ・バランスいう言葉を用いたのは2005年1であるが、そのころには想像すらできなかった光景である。

ただし、ワーク・ライフ・バランス施策を導入し、全社員が定時に帰れるようになれば、従業員の私生活が充実し創造性のある仕事ができたり、企業業績が向上したり、女性の労働力率が向上したり、ひいては出生率が上昇することで少子化問題も解決するなど、企業の人事部門のみならず我が国が抱えている問題がすべて解決するような風潮には、若干疑念を抱かざるを得ない。

本稿では、まずはこうした意見を題材としながら、ワーク・ライフ・バランスに関する私なりの定義・考え方を明示してみたい。そのうえで、次回以降、ワーク・ライフ・バランスの前提となる長時間労働を削減するためにはどういった考え方を職場に定着させていけばよいのか、また、具体的にはどのような日々のマネジメントが必要なのか、といった順に論を進めていくこととする。

1「経営環境に応じた労働時間管理の進め方」『第5章 仕事と生活の調和(ワーク&ライフバランス)を目指すために』2005年2月(社団法人 全国労働基準関係団体連合会)

1.重要なのは若いときに生涯を捧げるだけの価値のある仕事を見つけること

先日、ある金融機関の労働組合幹部の方と話をする機会があった。その方の在籍する会社では全社的なワーク・ライフ・バランス推進の方針の下、本・支店ともに全社員が19時前には帰るようになっている。こうした施策はいつの間にか崩れていくことが多いので、数年も続いていることに敬意を表したところ、「実は若手社員から不満が出ている。昼間はお客様のところに営業に行っているので、なかなか勉強する時間が取れない。早く一人前になりたいので先輩たちが残して行った今までの仕事を棚卸ししてよいところを見習いたいと思うのだが、19時には会社を出なければならないのでそんな時間が取れない。最近はセキュリティ上の問題で、資料を自宅に持ち帰ることもできない。ここままでは消化不良だし、他社の若手社員との差も広がってしまう、といわれる。いったいどうすればよいのか」と逆に相談を持ちかけられてしまった。

いわゆる既存の「ワーク・ライフ・バランス」的な優等生的発言であれば、Offの時間に視野を広げることがOnの時間の充実につながるとでも答えるところであるが、果たしてこう言い切ってしまってよいものであろうか。仕事というものは、実際に現場で仕事をこなしていくことで覚えていくものではあるまいか。先輩の仕事のよいところを引き継ぎ、自らの知見を加えながら頭から汗を流すぐらい考え抜き、努力することで上司、顧客から高い評価を受け、認められ、さらなる難易度の高い仕事にチャレンジしていく。こうした経験を繰り返していくことで「一皮むけた経験」を積み重ねていき、"ライフワーク(生涯を捧げるだけの価値のある仕事)"といえるような仕事を見つけていくのであろう。その過程での一時的な長時間労働は認めてもかまわないのではないか。「残業=悪、残業手当はコスト、コストは削減しなければならない」といった発想だけではなく、「勉強による居残り=研修、研修は投資、投資は金額が大きくなるだけリターンも大きくなる」といった発想も必要なのではあるまいか。

2.そのために上司は部下を「見守り、指導する」

ただし、注意しなければならないのは、“ライフワーク”を見つけるのは本人の責任だからと、若手社員を放置してはならない、ということである。そうではなく、上司は部下を「見守り、指導する」という姿勢を持たなければならない。なぜなら、そもそも仕事とは、上司が部下に配分・指示し、進ちょく管理をしながら進めていくものだからである。

だからこそ“ライフワーク”を見つけるためには、本人の努力もさることながら、上司の役割である日々のマネジメントが重要となるのである。上司は、部下に対して、育成の視点を踏まえたうえで仕事を与え、進ちょく管理を徹底しアドバイスを送る、さらには、その過程で正しい仕事の仕方を教えていくのである。当然のことながら、短時間で燃焼しつくしてしまうような過度な長時間労働はやめさせる勇気を持たなければならない。

3.だからといって何人に対しても長時間労働を奨励するものではない

人は年を取るものである。せっかく“ライフワーク”を見つけて、この仕事を続けていこう、この会社で長く働こうと思っても、職業生活を続けていくに当たっては、この“ライフワーク”を中断ないしは断念させてしまうようなイベントが発生することがある。育児や介護はまさしくそういった例であり、なかには“ライフワーク”を深耕するために夜間の社会人大学院に通いたいといった方も出てくるであろう。こうした働き続けるに当たって時間的な支障が出てきたときに、それを乗り越えられるような働き方が社内に用意され、実際にその働き方ができる状態にあることが求められている。こうしたときに威力を発揮するのが、ワーク・ライフ・バランスなのではあるまいか。

我が国の女性の年齢階級別労働力率の特徴を表したものに「M字型カーブ」というものがあるが、このカーブを女性が「育児・介護を放棄してまで長時間労働により働く」か「育児・介護のために退職するか」といった選択の結果としてとらえるのではなく、性別にかかわりなく働き続けるために労働時間の長さを調整した結果としての「年齢階級別労働時間」としてとらえ直すことが必要である。

4.重要なのは、ライフステージに応じた労働時間の多様性を担保すること

要は、ワーク・ライフ・バランスを、ライフワーク(生涯を捧げるだけの価値のある仕事)を早く見つけ、それを生涯(ライフ) 続けるための前提条件として位置づけるのである。老若男女一律に早く帰れ、というのではなく、若年期、壮年期、高年期といったライフステージに応じた労働時間の調整を可能にすることが真の意味でのワーク・ライフ・バランスなのではないか。そうであるからこそ、若いうちからゴールに向けて最短距離で進む仕事の仕方を意識させ、意味のない長時間労働をしなくても成果を上げる方法を身に付けさせなければならないのである。上司の責任は重大である。

次回は、意味のない長時間労働をなくすために上司はどういったマネジメントをしなければならないのか、その考え方について検討していきたい。

図 女性の労働力率

図:年齢階級別の労働力は、2009年には「25~29歳」(77.2%)と「45歳~49歳」(75.3%)を左右のピークとし、「35~39歳」を底とするエム字型カーブを描いている。

写真:広田 薫さん

Profile

広田 薫 ひろたかおる

日本能率協会総合研究所 組織・人材戦略研究部 主幹研究員
1962年神奈川県横須賀市生まれ。1985年中央大学法学部卒業。2003年法政大学大学院政策科学専攻修士課程修了(政策科学修士)。
厚生労働省などから労働時間管理に関するプロジェクトを20年以上にわたって多数受託・研究。民間企業に対する残業削減、ワーク・ライフ・バランス推進といったテーマの研修・コンサルティング・ソリューション提案などにも豊富な実績を持つ。
主な著書:『経営環境の変化に応じた労働時間管理の進め方(厚生労働省「労働時間制度改善セミナー」テキスト)』(全国労働基準関係団体連合会)、『義務化!65歳までの雇用延長制度導入と実務』(2004年7月発行:日本法令)。なお、本テーマでは『労政時報』第3735号(08.10.10)に『マネジメントの視点から見た残業削減の進め方-生産性向上とワーク・ライフ・バランス実現に向けた長時間労働削減の視点と対応策』を執筆。


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