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日本人事 ~プロが語る 人事魂~
トヨタ自動車 常務役員 吉貴寛良さん
[2011.07.14]

【日本人事】国内中心の生産体制から海外現地生産へーグローバル化に向けて大きく舵を取った「TOYOTA」の大転換期~トヨタ自動車株式会社 常務役員 吉貴 寛良さん(2/4)


日本人事 ~人事のプロから働く人たちへ~(6)
トヨタ自動車株式会社 常務役員 吉貴 寛良 さん

取材・文:溝上憲文(ジャーナリスト)
撮影:トリニティ

企業において、一人ひとりの社員の力を引き出す役割を担い、企業競争力のカギを握るのが人事部です。 「日本人事─NIPPON JINJI」では、経験豊富な人事パーソンに、仕事を通じて味わった「つらさ」「喜び」「やりがい」など、 人事として働くことの原点・本質を語ってもらいました。
トヨタ自動車株式会社 常務役員の吉貴 寛良さんは、1985年に北米進出の人事部のプロジェクトチーム入りし、一人の人事パーソンとして、トヨタのグローバル化の最前線で奮闘してきました。現在でこそ日本発のグローバル企業の代名詞と化した同社ですが、80年代の北米進出の黎明期に現場では何が起こっていたのか、その貴重な体験談を語っていただきました。

「個別人事」業務への疑念

トヨタ自動車工業とトヨタ自動車販売の合併日の1982年7月1日に、吉貴氏は正式に人事課に異動する。入社以来、晴れて本来の人事業務を担当することになった。当時は、人事課と労務課があり、人事課の主な仕事は、管理職以上の役職者の個別人事である。賃金・賞与の人事考課をはじめ、昇進、異動、配置など、会社にとって評価すべき人材を間違いなく登用する責務を負う重要なセクションである。

吉貴 寛良さん(トヨタ自動車株式会社 常務役員)

吉貴氏が担当したのは、主に課長クラスの個別人事である。しかし、仕事に慣れるにつれ、次第に飽き足らぬものを感じ始めたという。

「個別の課長の名前を覚えることから始まります。各職場から課長の人事考課が上がってくるわけですが、大抵高い評価を付けてきます。それを見て、人事が調整する。つまり、あらかじめ決まっている分布に振り分けるのです。当然、個々の課長の評価を含めた噂などに敏感になります。あの人はよくできるとか、できないとか、誰もが“耳年増”になるわけです。

賃金・昇格体系を構築しているときはそれなりに楽しんでいましたが、正直言って、個別人事はあまり好きではありませんでした。課長の名前を覚え、『やれ何年入社だ』とか、『いつ昇格した』とか、一々覚えることが、自分のキャリアに何の意味があるのか、と(笑)。もちろん、後で思えば、部下に対する上司の見方とか、組織はどういう力学で動くのかということを知るよい勉強になったと思いますが、当時は、別の仕事に代わることができれば代わりたいという思いもありました」

普通なら、自分より目上の課長クラスの人事を左右する権限を持つ部署での仕事は、誇らしくもあり、自尊心をくすぐられるだろう。しかし、吉貴氏はその仕事を誇らしいどころか、「嫌だな」とさえ思った。それは一言で言えば、自分が考える本来の人事の仕事ではないということに尽きる。

「本来の人事の仕事は、従業員にどういう働き方をしてもらえば、より力を発揮してくれるかを考えることです。そのためには、一人ひとり違う個に目を向けることが大事です。しかし、職場の長は調整の交渉で下げられることを前提に、それこそほとんどインフレに近い、高い評価を付けてくる。人事も個々の従業員の働き方より、勢いAとかBという評価の記号にのみ関心が集中する。本当に個々の従業員がどんな活躍をしているかを見ていれば、全員に高い点数を付けることが責任ある態度でないと分かるはずです。ですから、調整会議での会話というのが、ものすごく不毛なわけです。『そうじゃないだろう』という思いがありました」

こうした問題意識は、現場感覚がなければ生まれない。吉貴氏の現場志向は、おそらく新人時代の住宅課の業務や合併の融合作業などで身に付けたものであろう。吉貴氏は、後年、96年に「チャレンジプログラム」と称する大きな人事制度改革を手掛けることになる。改革の根底には、「複眼的に個を評価する」視点を重視した個別人事の精度向上のねらいが込められていた。

アメリカ進出と“法律修業”

人事課で3年目を迎えた1985年――。吉貴氏に新たな転機が訪れる。それをもたらしたのは、日米貿易摩擦という従来の輸出主導型の日本経済の転換を迫る事件である。いわばその国難の渦に吉貴氏も巻き込まれることになる。

日本車の海外輸出超過がアメリカの自動車産業に影響を与え、政治問題化。アメリカでは日本の自動車メーカーに対する抗議活動が盛んになるなど、日本は厳しい批判を浴びた。摩擦回避のために、マツダ、いすゞ、スバルが北米進出を決めたが、すでに、84年にGM(ゼネラルモーターズ社)との合弁会社を設立していたトヨタ自動車は、最後まで単独進出に二の足を踏んでいた。そして、85年8月。ついにトヨタ自動車も北米進出を決定したのである。

吉貴氏は、北米進出の人事部のプロジェクトチーム入りを命じられ、その後、アメリカに勤務。ワシントンD.C.での法律の研修を経て、一人事パーソンとして、トヨタのグローバル化の最前線で悪戦苦闘することになる。

実はアメリカ赴任に際しては、一つのエピソードがある。85年2月に吉貴氏は社内のMBA留学制度に応募し、試験に合格した。そして、アメリカの大学院の受験の準備のために、8月の夏季休暇1週間にプラスした有給休暇1週間の計2週間の休暇を取り、大阪の実家に帰り、予備校の特別講座を受講。ところが、休暇を終えて会社に戻ると、突然、人事部の上司から、「悪いけれど留学をやめて、こっちの仕事をやってくれないか」と、プロジェクト入りを命じられたのである。北米事業準備委員会の下にある人事のプロジェクトチームに入り、候補地の選定や労務管理の課題などについて情報の分析と検討を行った。工販合併時と同様に、今回も候補地の決定から進出に向けたフィジビリティ・スタディ(事業化調査)を短期間に仕上げることになった。

そして、プロジェクト終了後、アメリカの労働法が分かる人間が必要になるとの役員の要請を受けて、アメリカに派遣される。MBAを志したが、挫折を余儀なくされ、一転して法律の勉強のためにアメリカに赴くことになったのである。

「人事から離れたいということで、MBAの留学制度に合格し、受験勉強までしましたが、『プロジェクトに入れ』と言われたときは、『しょうがないなあ』と思いました。ところが、一転してアメリカの弁護士事務所に研修生で赴任することになりました。結果的にMBAに進むことはできませんでしたが、『まあ、いいか』と自分を慰めましたね」

1985年12月、吉貴氏はワシントンD.C.にあるアレント・フォックス法律事務所に研修生として勤務する。前述したGMとの合弁企業設立以来、トヨタ自動車のアドバイザー役を務めた法律事務所であり、すでに何人かが研修生として派遣されていた。

吉貴氏は87年6月までの約1年半、法律の“修業”に励むことになるが、巡り合わせともいうべきものであろうか、1年ほど前から人事部の先輩である畑 隆司氏(注1)もここで研修を受けていた。畑氏は、GMとの合弁企業をはじめ単独進出後の現地子会社の人事部門の立ち上げに携わり、トヨタ自動車のグローバル人事の礎を築いた人である。その後、本社のグローバル人事部長を経て、2003年に常務役員に就任。将来を嘱望されながらも、09年に病気で亡くなっている。

トヨタ自動車は、1985年12月にアメリカのケンタッキー州に単独進出第1号となるトヨタモーター マニュファクチャリング USA(TMM)の設立を発表。これを皮切りに、世界各地に相次いで生産拠点を築いていく。従来の国内中心の生産体制から海外現地生産へとグローバル化に向けて大きく舵(かじ)を取ることになる。いわばその大転換期に吉貴氏は遭遇し、グローバル企業への脱皮を図るトヨタ自動車の先兵の役割を担うことになった。

注1:畑 隆司氏(1954-2009)
1976年トヨタ自動車販売株式会社入社。84年10月アレント・フォックス法律事務所研修。86年8月TMM(労務・安全衛生担当コーディネーター)。94年1月人事部企画室室長。2000年1月グローバル人事部部長、03年6月常務役員。09年死去。

(3/4「アメリカ人には通じない『トヨタ生産方式』」に続く)

Profile
吉貴 寛良(よしき ひろよし)トヨタ自動車 株式会社 常務役員
1957年1月4日生まれ。1980年京都大学法学部卒業。同年4月トヨタ自動車工業株式会社入社(82年7月トヨタ自動車株式会社に社名変更)。2001年1月トヨタモーター マニュファクチャリング ケンタッキー株式会社出向、07年1月トヨタ自動車株式会社衣浦工場工務部部長、09年6月常務役員就任(現任)。10年6月衣浦工場長。11年4月技術管理本部副本部長(現任)。現在に至る。


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これは人事の指南書ではなく、企業人事の第一線で活躍する人事パーソンからの、等身大のメッセージです。
人事担当者一人ひとりに元気と勇気を届ける魂の伝承。それが「NIPPON JINJI」です。

登場する人事パーソン(会社名50音順)
[アサヒビール株式会社 執行役員人事部長]丸山高見氏、[株式会社資生堂 人事部部長]高野幸洋氏、[東洋エンジニアリング株式会社 元人事部長]遠藤勝己氏、[トヨタ自動車株式会社 常務役員]吉貴寛良氏、[株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ 取締役]桐山大介氏、[株式会社良品計画 代表取締役会長]松井忠三氏 ほか


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