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日本人事 ~プロが語る 人事魂~
トヨタ自動車 常務役員 吉貴寛良さん
[2011.07.13]

【日本人事】「人事は経営」~一体意識を常に持ち続ける~ トヨタ自動車株式会社 常務役員 吉貴 寛良さん(1/4)


フリーペーパー7号連動企画
日本人事 ~人事のプロから働く人たちへ~(5)

トヨタ自動車株式会社 常務役員 吉貴 寛良 さん

取材・文:溝上憲文(ジャーナリスト)
撮影:トリニティ

企業において、一人ひとりの社員の力を引き出す役割を担い、企業競争力のカギを握るのが人事部です。 人事の“魂”を次世代につなぐ「日本人事─NIPPON JINJI」では、経験豊富な人事パーソンに、仕事を通じて味わった「つらさ」「喜び」「やりがい」など、 人事として働くことの原点・本質を語ってもらいました。
第2回は、トヨタ自動車株式会社 常務役員 吉貴 寛良 さん にお話をうかがいました。入社後、吉貴さんが最初に配属されたのは、人事部の住宅課。当時は従業員の持ち家施策を推進していたこともあり、住宅物件の開発から融資まで担当することにより、経営に与える人事の仕事の重要性を体感してきたといいます。

スタートは、住宅融資で現場を実感

人事と経営の境界はあるのだろうか。経営が数字(利益)をひたすら追うものだとすれば、明らかに境界は存在する。しかし、ポスト産業資本主義の時代に入り、利益獲得の手段である設備の大きさや資金力だけで競争力を維持できなくなり、改めてヒトの重要性が叫ばれている。

吉貴 寛良さん(トヨタ自動車株式会社 常務役員)

優良企業の生存と飛躍の法則を見いだした『ビジョナリーカンパニー』の著者であるジェームズ・C・コリンズ氏も「偉大な企業であり続けるには、その企業にふさわしい優れた人材を絶えず吸い寄せる必要がある。マネーはコモディティー(日用品)化し、多くの企業にとって資金集めはもはや大きな問題ではなくなった。真の戦いは人材の獲得にこそある」(『日本経済新聞』朝刊、2007年8月11日)と指摘している。

そうであるならば、人事は経営に極めて近い存在だということができる。トヨタ自動車の吉貴寛良氏は、「人事を考えるということは、会社の経営を考えることとほぼイコールだと思います。したがって、人事に携わる人は、自分の会社が一体何をやっているのか、現場の第一線で何が起きているのか、よく知らないといけないし、常に経営を見ていなくてはなりません」と語る。

こうした認識を持つに至ったのは、吉貴氏自身が常に人事と経営の接点に身を置き、経営に与える人事の仕事の重要性を体感してきたからにほかならない。

それというのも、人事での最初の業務が、経営とは無縁ではないことによる。1980年にトヨタ自動車工業に入社した吉貴氏は、研修後の11月に人事部の住宅課に配属された。主な業務は、寮や社宅の管理やプランニングの仕事である。また、当時は従業員の持ち家施策を推進していたこともあり、住宅物件の開発から融資も担当した。「そこでの経験は貴重だった」と語る。

「持ち家を建設するための社内融資や提携銀行ローンの審査と貸付も担当しました。また、トヨタ住宅という子会社があり、そこでデベロッパーと組んで宅地開発を行い、従業員向けに物件を斡旋(あっせん)し、融資を実行して売るという仕事もしました。最初に人事に配属されたときは、『こんなことも人事がやるのか』と驚きましたね。しかし、お金や不動産も扱えば、債権が焦げついた従業員の対応もしなくてはならない。そうしたどろどろした話も含めて、従業員とダイレクトに関わる非常におもしろい仕事でした。

トヨタ住宅の経営についても、『資金繰りなども一部見なさい』と言われていました。お金の勘定が苦手な人事担当者が多いのですが、この経験で金勘定も苦ではなくなりました。福利厚生系の仕事は、人事のなかでは、どちらかと言えば周辺業務ととらえられているかもしれません。しかし、会社はなんのために福利厚生に力を注ぐのかを知ることもできましたし、そこから入ったことが結果的によかったと思います」

当時のトヨタ自動車の人事部は本社フロアに約150人、施設管理など現業系の従業員も含めて500人の大所帯であった。吉貴氏の住宅課は、いわば現業部門の最前線だった。ところが、住宅課に勤務して1年半経過した頃、突然、未経験の分野に放り込まれることになる。

“工販合併”作業に放り込まれる

1982年1月、トヨタ自動車工業とトヨタ自動車販売が、7月1日に合併することが発表された。吉貴氏は、住宅課に所属したまま人事の合併チームに入ることを命じられたのである。

「人事部内にプロジェクトチームを立ち上げたのですが、『そのなかにお前も入れ』と言われ、2月から専任になったのです。しかし、合併完了までわずか5カ月しかありませんから、その間に賃金や賞与の水準を合わせる賃金体系の統合作業など、人事・労務のすべての制度を一緒にしなくてはなりません。そのための全体像を描いて、両社が交渉・合意し、7月1日以降は新たな体系のもとに給料を出すところまで持っていかなくてはなりません」

といっても、吉貴氏は人事課の仕事の経験はない。賃金制度や資格体系の知識はもちろん、人事制度に関してはまったくの素人である。上から『早く来い』と言われ、とりあえず補助のつもりで手伝いに来たという程度の認識だった。ところが、チームに出向いた翌日に、先輩と一緒に相手との交渉に連れていかれた。

そして、相手のオフィスに着くなり、先輩からいきなり、「俺はこれについて交渉するから、お前はこっちをやってくれ」と言われ、書類をポンと渡されたという。

「交渉では、人事制度の考え方と制度内容について、こちらと相手の実態の擦り合わせをしながら、一つずつ合意していかなくてはなりません。先輩は、自分で調整資料を作っているから分かるのは当然としても、私は渡された資料を見ても内容が理解できません。結局、こちらは1人で相手の2人と交渉をするはめになりましたが、もう背中は冷や汗でびっしょりでした」

相手は、当然ながら素人とは思っていない。先輩が作った原案を見て、渋い表情を浮かべ、「私どもが提示した案と違います。どうしてこうしなければいけないのですか」と突っ込んでくる。吉貴氏には何を言っているのか、内容はさっぱり分からない。進退窮まった吉貴氏は、何か言わなければいけないと思い、「うちはこういう方針でずっとやってきていますので、この形でなければ統合は難しいと思います」と言うのがやっとだった。

後日談であるが、相手からは相当のハードネゴシエイターだと思われたらしい。吉貴氏は「内容が分かっていないから、引くに引けなかっただけなんです」と言って、笑う。

このことを契機に、統合作業の傍らトヨタ自動車の人事制度について猛勉強したという。それこそ独学に等しいものだった。

「先輩はものすごく忙しいので、懇切丁寧に教える時間もありません。そもそもどうしてこんな制度になっているのかを知るために、古い資料を引っ張り出して、読んで勉強するしかありません。でも、知らないと前に進めないので、先輩をつかまえて聞くしかない。7月1日が統合完了のリミットですから、それこそ徹夜もしながらの悪戦苦闘の日々でした」

いかに仕事を通じて学ぶといっても、壮烈なOJTである。制度の統合作業はなんとか間に合わせたが、最も苦労したのがコンピュータシステムの統合だった。個人データベースや資格管理、給与支払いなどのシステムを統合しなければ、7月以降の給与の支払いがストップする。7月25日支給の給料だけではない。当時は、夏の賞与を7月1日と15日の2回に分けて支給していたこともあり、最後までハラハラさせられたという。

もちろん、合併作業はそれで終わりではない。両社の融合を図るという作業も残っていた。同じグループとはいえ「何十年も分かれていたこともあり、それにメーカーと商社という事業特性の違いもあり、社風や文化もかなり違っていました」と振り返る。

入社後の2年余りの期間は、吉貴氏にとってまさに疾風怒濤(しっぷうどとう)の日々であったが、普通の人事の新人が会得する経験の数倍にも匹敵する濃密な経験だったろう。

Profile
吉貴 寛良(よしき ひろよし)トヨタ自動車 株式会社 常務役員
1957年1月4日生まれ。1980年京都大学法学部卒業。同年4月トヨタ自動車工業株式会社入社(82年7月トヨタ自動車株式会社に社名変更)。2001年1月トヨタモーター マニュファクチャリング ケンタッキー株式会社出向、07年1月トヨタ自動車株式会社衣浦工場工務部部長、09年6月常務役員就任(現任)。10年6月衣浦工場長。11年4月技術管理本部副本部長(現任)。現在に至る。


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これは人事の指南書ではなく、企業人事の第一線で活躍する人事パーソンからの、等身大のメッセージです。
人事担当者一人ひとりに元気と勇気を届ける魂の伝承。それが「NIPPON JINJI」です。

■登場する人事パーソン(会社名50音順)
[アサヒビール株式会社 執行役員人事部長]丸山高見氏、[株式会社資生堂 人事部部長]高野幸洋氏、[東洋エンジニアリング株式会社 元人事部長]遠藤勝己氏、[トヨタ自動車株式会社 常務役員]吉貴寛良氏、[株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ 取締役]桐山大介氏、[株式会社良品計画 代表取締役会長]松井忠三氏 ほか


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