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日本人事 ~プロが語る 人事魂~
アサヒビール 執行役員人事部長 丸山高見さん
[2011.07.08]

【日本人事】「研修というのは、会社の期待感。会社が期待しているのだということを感じれば、若い社員は喜ぶ」 アサヒビール株式会社 丸山 高見さん(3/4)


日本人事 ~人事のプロから働く人たちへ~(3)
第1回 アサヒビール 株式会社 執行役員人事部長 丸山 高見さん

取材・文:溝上憲文(ジャーナリスト)
撮影:トリニティ

企業において、一人ひとりの社員の力を引き出す役割を担い、企業競争力のカギを握るのが人事部です。 人事の“魂”を次世代につなぐ「日本人事─NIPPON JINJI」では、経験豊富な人事パーソンに、仕事を通じて味わった「つらさ」「喜び」「やりがい」など、 人事として働くことの原点・本質を語ってもらいました。
第3回となる今回は、アサヒビール 株式会社 執行役員人事部長 丸山高見さんがアサヒ飲料株式会社への出向時代に手掛けた、朝専用の缶コーヒー「ワンダモーニングショット」の全社運動について、語っていただきました。

新製品「ワンダモーニングショット」と全社運動

着任当初の丸山氏が抱いた感想は、「やり方さえ間違えなければ、絶対に勝てる」という確信だった。

「(企画部に)行った瞬間に感じたのは、従業員は素直で、個々の能力も高い。やり方を間違えずに、社員のモチベーションを上げて、皆の力を結集すれば、必ず勝てるだろうと思いました」

では、そのやり方とは何か。仕掛けたのは大きく、(1)営業現場などへのヒヤリング調査の実施、(2)研修とブレーンストーミング、(3)全社運動の展開――である。調査は、各部門の社員が経営、戦略、商品など会社の現状に対してどういう思いを抱いているかを知ることで、具体的な行動計画を策定するヒントになる。

丸山 高見さん(アサヒビール 株式会社 執行役員人事部長)

「企画部の全員が手分けしてヒヤリング調査をやってくれました。実際に、営業車に乗って営業マンと同行し、共に得意先を回りながら『現場で何に困っているか』などを営業マンからヒヤリングし、それをまとめて調査レポートを提出してくれました。そのようにして、業績を向上させるために、様々な情報を集めました。調査結果を見ると、やはりというべきか、本社運営や商品開発に対する現場の不信感がうかがえました。現場への情報が少ないとか、商品開発に対する不満、気合だけではなく、もっと合理的にならないのかといった意見もありました。

特に、商品については、がんばってもなかなか売れないというあきらめのようなものが漂っていました。広報も担当していましたが、内部だけではなく、社外の人はもっと厳しい見方をしていました。『アサヒさんの新商品は売れませんね』などと直接言われていました。何よりも、全従業員が力を合わせてブランドを立ち上げるのだという意識を強く持つべきだと思いました」

一方では、従業員のやる気を喚起するために、最初に実施したのが研修制度の充実である。売上げ不振の続く同社は、利益確保のために各部門に対するコストダウンの要請が続き、研修費用もほとんど使えないという状態だった。目に見える形で従業員を元気にするには、多少予算がかかっても全社的な研修が重要と考えた丸山氏は、多彩な研修企画案を社長に提案、了解を得て、実行に移した。

本社では外部の様々な講師を招いて、5回ないし6回連続の研修を毎月実施した。経営幹部を含む本社メンバーを元気づけたいと考えた。また、本社に限らず、各拠点での研修も行った。なかでも、丸山氏が研修の必要性を感じていたのは、商品を車に積み込んで、自動販売機の商品の入替えを行うルートセールス部門の従業員だった。肉体的にもきつい仕事であるため、若い従業員が多いが、当時は離職率が高かった。

「この部隊は、これまでほとんど研修がなかったのです。私としては、若い彼らを社会人として一人前にしたいという思いがありました。そのことが、彼らのモチベーションを上げ、営業活動を活き活きさせると考えました。最初は、出前講師によるビジネスマナーの研修を全拠点で行いました。それから、財務会計の基礎知識を学ぶビジネスゲーム形式の研修です。業務に直接結びつかない内容もあるかもしれませんが、研修を受講している皆の目がきらきらと輝いているのです。結果的にものすごく喜んでくれました。
それでは、なぜ喜んでくれたのか――。研修というのは、会社の期待感なんです。自分たち一人ひとりに会社が期待しているのだということを、彼らが感じているからです」

会社が自分に期待していると感じられれば、当然それに応えたいと思うだろう。研修が、会社と従業員の一体感を醸成するという副次的効果を生んだのである。

研修と並んで行ったのが、ブレーンストーミングである。会社をよくするためにはどうしたらいいのか、何が一番の問題なのか、を洗い出すために各部門のプロジェクトで実施した。

「まず、(1)自部門のリーダークラス、(2)ナンバー2クラス、(3)全員参加の三つに分けたブレーンストーミングを徹底してやりました。皆からアイデアを引き出すためには、このやり方が一番有効だと思いました」

また、会社をよくするために、全社的にアイデアを募るコンテストも実施している。優秀提案者には賞金を授与し、社長から表彰を受けるというものだ。

こうした蓄積のうえに全社的に展開したのが、新商品の発売に合わせた「全社運動」である。その白眉が朝専用の缶コーヒー「ワンダモーニングショット」の全社運動である。

全社運動の展開に当たっては、各部門の部長が連携し、部門横断的なプロジェクトチームを結成。チームには各部門から若い従業員を出してもらい、そこで企画・立案作業を行った。そして、チームは、丸山氏が期待する以上の働きをしてくれたという。

「朝のサンプリング(試供品の提供)をはじめ、いろいろな仕掛けを打つためのアイデアをプロジェクトで議論しました。若く優秀な従業員たちが見事にリードしてくれました。彼らが考えた全社運動のテーマの名前は、『グッドモーニング作戦』です。私は思わず笑ってしまいました。名前が実にすばらしい。会社は危機的状況にあっても、ネーミングが実に伸び伸びとしている。朝専用の缶コーヒー、ワンダモーニングショットの商品コンセプトを見事に表現しており、それまでの会社の惨憺たる雰囲気を吹き飛ばすようなすがすがしい名前だと思いました。私はそのとき、この作戦は必ず成功すると確信したのです」

グッドモーニング作戦のメインは、朝の通勤時の全国各地の駅頭や街頭で、本社、工場、研究所、内勤者も含め全部門総出でサンプリングを行うというものだ。当日は、丸山氏はもちろん、会長や社長など経営陣も各地に飛んで全員参加した。経営陣と社員が一緒になって、駅から出てくる通勤客に向かって頭を下げる。そして、「おはようございます。朝専用の缶コーヒー、アサヒの缶コーヒー、ワンダモーニングショットです。よろしくお願いします」と言って、一人ひとりに缶コーヒーを手渡した。

「私は渋谷の東急ハンズの前でやりました。全社運動は、ビール時代に度々やっていましたから、恥ずかしいなんてことはありません。『お願いします』と言って渡すと、大概の人が受け取ってくれます。また、駅での活動だけではなく、私のアサヒビールの人脈や労組時代の仲間に電話をかけまくり、飲料以外のグループでも仕掛けました。
例えば、トラックの運転手はコーヒーのヘビーユーザーですから、物流事務所や工場の入口で『ワンダモーニングショットです』と言って渡してもらうようにお願いしました」

全社運動というからには、部署の例外もなく参加することを意味する。研究所や工場の従業員はもちろん、本社の管理部門の従業員440人が営業部隊と一緒に営業車であるルートカーに乗って、各地を回る活動も展開した。現場の営業担当者は、このような全部門の活動を目の当たりにして、「会社は本気になっていると感じた」との感想を持った。

アサヒ飲料乾坤一擲(けんこんいってき:運命をかけた、のるかそるかの大勝負)の大作戦が効を奏し、ワンダモーニングショットの売行きに火がついた。その後、全国から発注が殺到し、空前の大ヒットを記録したのである。もちろん、これだけに甘んじているわけではない。続いて、十六茶、三ツ矢サイダーでも全社運動を展開し、これも奏効した。翌年の2003年度決算では、28億円の営業利益を出し、黒字化を達成。そして、05年度決算では、ついに96億円を達成し、見事にV字回復を果たしたのである。成功の要因は従業員の力を結集したことにある、と丸山氏は振り返る。

「事業戦略も大事だと思いますが、従業員一人ひとりの力を合わせたら勝てるのです。一人ひとりの意識や気持ちをかきたて、連帯感を持って力を結集すれば、ものすごい集中力を発揮することを実感しました」

そしてもう一つ、丸山氏は重要な指摘をする。

「メーカーですから、商品が先にあります。売上げシェアが上がることで、ものすごくモチベーションが上がります。そこを抜きにしてはあり得ない。ワンダモーニングショットが売れたことで、従業員も自信を持ったと思います」

一般的に、業績を上げるには、従業員のモチベーションを上げることだと思いがちであるが、実はそうではない。ある大手企業の人事担当役員は、「人事管理の最大のポイントは、まず業績を上げることだ。業績が悪くては、従業員の高いモチベーションなど期待できない。業績を上げるには、いかにして組織の勢いをつけるかにかかっている」と言う。

アサヒ飲料の場合、組織の勢いを象徴するのが、「全社運動」だ。売上げ、利益を伸ばすこと、何かで勝利することがモチベーションを上げることだと身をもって知る丸山氏は、まさにそれを実践したのである。

Profile
丸山 高見(まるやま たかみ)アサヒビール 株式会社 執行役員人事部長
1977年4月アサヒビール株式会社入社。営業(九州)、労働組合専従、営業課長(横浜)、3カ月研修(ビジネススクール)を経て、92年12月人事部福祉課長。98年9月首都圏本部総務部部長。2002年4月アサヒ飲料株式会社出向(企画部長)を経て、人事総務部長。05年1月アサヒビール株式会社に復職(人事部長)。08年4月執行役員人事部長。現在に至る。


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これは人事の指南書ではなく、企業人事の第一線で活躍する人事パーソンからの、等身大のメッセージです。
人事担当者一人ひとりに元気と勇気を届ける魂の伝承。それが「NIPPON JINJI」です。

■登場する人事パーソン(会社名50音順)
[アサヒビール株式会社 執行役員人事部長]丸山高見氏、[株式会社資生堂 人事部部長]高野幸洋氏、[東洋エンジニアリング株式会社 元人事部長]遠藤勝己氏、[トヨタ自動車株式会社 常務役員]吉貴寛良氏、[株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ 取締役]桐山大介氏、[株式会社良品計画 代表取締役会長]松井忠三氏ほか


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