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BOOK REVIEW 【編集部】 [2010.12.17]

BOOK REVIEW(14)目には見えない「希望」を、正面から考えてみること


『希望のつくり方』
玄田有史著 岩波書店
新書版・240ページ
798円(税込み)

希望のつくり方 (岩波新書)

希望のつくり方

社会科学的考察にもとづく希望学
希望は、与えられるものではなく、自らつくるものである。
読みやすいけれど、深い!

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◆気がつけばいつも目の前にあった、「希望」の欠如、というキーワード

雇用環境がなかなか好転しません。完全失業者数が減少し、有効求人倍率も改善に転じているなど、ここにきて明るい兆しも出てきましたが、長期失業者の数は2008年秋以来、増え続けているなど、厳しい状況は続いています。
こうした際に出てくるのが、「企業と求職者の希望が一致しないことが背景にある」といった分析です。

村上 龍さんの小説『希望の国のエクソダス』では、登場人物の少年が以下のように話します。
「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」
90年代末から2000年にかけて書かれたこの小説は、2002年という近未来を舞台としていました。現実世界の時間は、小説に描かれた時代をずいぶん越えてしまいましたが、少年のフレーズはいまだに生々しく胸を突きます。

社会学者の山田昌弘さんは、『希望格差社会』(2004年)で、将来に「希望が持てる人」と「絶望する人」との格差が拡大しつつあることを指摘していました。
“希望の格差”という視点は、年収や生活水準、勤務先の短期業績を比較して「勝ち組」「負け組」を安易に判断する風潮が盛り上がっていた当時、非常に重要な問題提起だと感じられました。

このように見ていくと、思うことがあります。今も長く続く、日本社会の閉塞感を語るうえでの重要なキーワードは「希望」なのではないか。それでは、多くの人が「希望はない」と感じるようになった理由はなんなのか――そんな根本的な問いに対し、正面からアプローチしてきた研究が「希望学」です。希望をめぐってさまざまな人の声を聞き、フィールドワークを続けることで積み重ねられた研究成果は、全4巻の『希望学』という本にまとめられています。

◆「希望」を学ぶことは、ビジネスパーソンにとってものっぴきならない問題

『希望学1希望を語る』

本書は、「希望学」の中心メンバーの一人である労働経済学者の玄田有史さんが、研究のさなかで得たさまざまな気づきを、若年の読者に向けて語り直した本です。

「希望についての学問」というと、「希望というのは個人の内面の問題じゃないか」と早合点する人もいるのではないでしょうか。

しかし、希望学では、「希望は、個人の内面にかかわることもあるけど、それ以上に個人を取り巻く社会との関係によって左右されることも多いはず」(p27)と考え、社会の問題として希望を考えていきます。

また、「希望」と聞き、日々会社に通い忙しく働いている自分にはあまり関係がない、と考えるビジネスパーソンもいると思います。

しかし、実は日本において希望を尋ねると、圧倒的に多くの人が仕事にまつわる希望を挙げているのです。家族健康遊びに関する希望と、大きな開きがあるといいます。筆者はこれを、「おそらく日本のきわだった特徴」と言います。

「仕事は単に収入を得るための手段というだけでなく、自己実現のために不可欠のものと考えることが多いのも日本社会の特徴です」(p62)

◆希望が失われつつあることの背景とは?

かつて、日本社会に希望が“前提”としてあった。それはいったいどうしてだったのか。希望が失われつつあるのは、どんな背景によるのか。本書では、多くの事例を取り上げながら、柔らかな語り口でたどっていきます。

例えば、職場における希望はどうでしょうか。

日本企業で職能資格制度(各人の職務遂行能力に応じて賃金を払う制度)が全盛だったころ、いわば働く「人」自身が評価の対象でした。たとえ成果がすぐに出なかったとしても、給料は下がらない、それは「あなたを信頼して評価しているからだ」という仕組みです。

「働くことが自分自身の評価となる。そんな考え方が、働くことに希望を感じやすい社会をつくってきたのです」(p65)

しかし、バブル崩壊後、多くの日本企業で成果主義賃金制度が導入されました。成果が出ないと賃金が下がる仕組みは、確かに一部の人のやる気を高めました。一方、「給料は自分自身の評価そのもの」という意識が抜けきれない多くの人にとっては、「給料が下がったことは、自分の評価が下がったのだと思い込んで」、希望や働くことへの自信を失ったり、心身の調子を崩してしまうことにもつながりました。

◆目には見えない「希望」を、正面から考えてみる

また、働くことと希望との関係を示すエピソードとしてこんな話が紹介されています。

あるIT系企業では、優秀な女性社員が次々と辞めていくことに危惧を覚え、退職者の女性たちに辞めた理由を改めて聞いてみたそうです。その理由は、大きく二つに集約されました。

「このまま会社で働いても、先がまったく見えないから辞めた」

「このまま会社で働くことに、先が見えてしまったから辞めた」(p146)

一見すると対照的に見える二つの理由ですが、どちらも、その会社で働く希望そのものを失ってしまったから、という意味で共通しています。将来への豊かな想像力をその会社で持つことができないことが、希望を失わせたのです。

多くのビジネスパーソンにとって、なんとなく実感として「わかる」エピソードではないでしょうか。

若手社員も、中堅社員も、管理職も、疲弊している様子ばかりがクローズアップされる現代の日本の職場。自殺率が先進国中で最も高いといわれる日本社会。働くヒト、働きたくても働けないヒトのさまざまな問題――これらを考えていくうえで、本書はさまざまなヒントを与えてくれます。
「希望」という目には見えないものを、正面から考えていくきっかけとなる本だと思います。

■目次
第1章 希望とは何か
第2章 希望はなぜ失われたのか
第3章 希望という物語
第4章 希望を取り戻せ
おわりに―希望をつくる八つのヒント

■著者profile
玄田有史(げんだ・ゆうじ)
1964年島根県生まれ。1992年東京大学大学院経済学研究科博士課程退学。学習院大学経済学部教授などを経て、東京大学社会科学研究所教授。専攻は労働経済学。主な著書に、『仕事の中の曖昧な不安――揺れる若者の現在』『ジョブ・クリエイション』『ニート――フリーターでも失業者でもなく(共著)』『14歳からの仕事道』『働く過剰――大人のための若者読本』『仕事とセックスのあいだ(共著)』『人間に格はない――石川経夫と2000年代の労働市場』、編著に『希望学』(1~4)ほか。


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