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グローバルトレンドの誤謬【堀越由紀】 [2011.03.28]

外国人が応援するフクシマ原発の代理戦争


グローバルトレンドの誤謬(4)
堀越由紀 ほりこしゆき

大震災発生! 花見を計画してウキウキしていた日々は突然終わりを告げ、被災地の状況や福島第一原発事故に心を痛めながら、退社後に水やガソリンを求めてさまよう東京のビジネスパーソン。桜の開花予測の代わりに、気になるのは放射能の数値。そんな中、外国人は次々と日本を離れ、そのすばやさには呆れるばかり。なぜ彼らはそんなに慌てて逃げたのか? その答えの1つがここに。

■東京から逃げろ!

まさか、こんな言葉を聞くとは思わなかった。

東日本大震災発生後、私のところに外国から大量の安否確認の連絡が届いた。Facebookなどの簡易「おともだち」システムが発達した今、その半分は、本当に私の安否を心配してくれるのかが怪しげな「ともだち」からだが、残りの半分は、東京を直ちに離れるよう真剣に迫る電話やメールだった。

「東京はフクシマから200kmしか離れていないのに、どうして安穏としていられるのか。【あの災害】を思い出せ!」

あの災害...?

冷静な彼らを電話口で激昂させるのは、遠い昔の「あの災害」の記憶だ。
「あの災害」とは、ヨーロッパ人はチェルノブイリ、アメリカ人はスリーマイル島も指す。
そしていまや、グローバル原発事故史に名を残す3番目の地名に、フクシマが加わってしまったようだ。

※よく分かる! 原子力施設の事故例
チェルノブイリ原子力発電所事故
スリーマイル島原子力発電所事故

特にチェルノブイリの記憶は、当時子どもだった友人たちの「絶対忘れない悪夢」らしい。だからと言って、私の友人たちが、チェルノブイリ周辺(現ウクライナ。当時ソ連)に住んでいたわけでも、放射能由来の疾患に悩んでいるわけでもない。

■友人が語るチェルノブイリの記憶

1986年4月当時、ウィーンに在住していた親友Xによるチェルノブイリ原発事故の記憶。

「突然テレビやラジオから窓を閉めろとか、子どもは外に出てはいけないって言われたの。訳が分かんなくてさ。よく晴れた暖かい日で、結局よく分かんないまま、私たち子どもは外で遊んだ。大人も当初はよく分かってなかったんだと思う。ソ連(当時)の原発の情報が、(冷戦下で)まともに入るわけないし、チェルノブイリなんて、『どこそれ?』って感じだった」

ウィーンはチェルノブイリから800km以上離れており、その後、ウィーンで白血病や甲状腺がんの子どもが続出したかというと、そうではないらしい。生活への影響は、「市が後で公園の砂場の砂を取り替えていたっけ」と、子どもだった彼女が覚えているのはその程度。しかし、見えない放射能に対する怒りと恐怖だけは忘れない。

海外の友人たちは「一般市民の原発事故対策」に対して、私などよりはるかに先を行った知識を持っていた。例えば、地震によって原子力発電所の設備が大きな被害を受けた報道を知った時点で「水道水はやがて飲めなくなるから、水を買い込め!」と指示を出し、福島―東京の降雨予想や風向きを仕事中にわざわざ調べてくれて、「今夜はフクシマから太平洋側に風が吹くから、明朝東京を離れればOK。パスポートを忘れずに!」とやかましい。

今回の震災で、特に疎開を熱心に勧めたのは、海外の政府機関に勤めるインテリの友人たちだ。たまたまなのかもしれない。または、開示された情報に対する見方が、一般市民より少し異なるのだろう。

チェルノブイリやスリーマイル島で、友人たちは実質的な被害を受けなかった。なのに、仕事で忙しい中、頼まれもしないのに日本の原発関連ニュースを随時チェックして、遠く離れた私にいちいち指示を出す彼らの本当のねらいは何なのか?

■チェルノブイリを経て、世界がサポートするフクシマ代理戦争

友人たちも私も、原子力発電そのものに対しては否定的ではない。海外報道のフォーカスや、日本在住外国人の早急な退避は「原発事故に関する海外の意識の高さ」といった高尚な表現に総括されがちだが、突き詰めれば、実に庶民的で、一種ドロドロした「過去のくやしい記憶」にたどり着くのだと思う。

それは、遠いウクライナでの原子力発電所事故のとき、見えない放射能や、限定的な情報のために、怖い思いをすることになった幼少期の忸怩(じくじ)たる記憶。そのくやしさの原因は、「原発や被ばくに関する知識がなかったから」と、子ども心に解釈したのだろう。だって、あのときだけは、頼りになるはずの大人でさえ、経験したことのない一大事にうろたえ、どうしたらよいか分からなかったのだから。だから、対策として「原発事故抵抗力」(=原発に関する知識)を知らず知らずに身につけて大人になった。そんな大人が海外には多数いる。

そして、四半世紀後―福島第一原発の報道に接し、わずか200kmの距離に住みながら、私に代表されるように、日本国民はのんびりしすぎているように彼らの目には映り、まるで子ども時代の自分を見ているようでイライラしてくるのだ。子どもだったころ、チェルノブイリ原発事故では“惨敗した”が、対フクシマ戦では負けないという思いだ。

「それじゃまるで外国人のトラウマのための代理戦争じゃないの」と私が言うと、友人はそれまでの深刻なトーンを解除し、笑って言った。

「そうよ、『放射能漏れ事故 vs 人類』の代理戦争。で、今回は勝つってワケよ!」

子どものころのトラウマがあったからこそ、日本人には同じ苦労をしてほしくない―そんな市民レベルのやさしい思いを込めて、原発事故に対する海外からの熱いサポートは、今後も続くことだろう。


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